狸とロドスとオペレーター   作:cod fish

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イトザクラ:狸の特徴を持つ女性の先人。
酒は好きだし、煙草もごく稀に吸っている。
自室で煙管をふかしていたところ、火災報知機が鳴ってショウのお世話になったことがある。


事務と抱き枕と酒

ロドスの事務室は常に動いている。

常に、というのは文字通り24時間、休みなし、という意味である。

ただの書類仕事、連絡作業と侮ってはいけない。

『何が』『いつ』『どれだけ』『どこに』存在するか。それを管理する手っ取り早い方法が書類なのだ。

『いつの間にか薬の在庫が切れていた』『実は納入が2週間後』とかでは話にならない。

面倒だからと怠っていれば、先に待つのは確定した崩壊である。

それを理解しているからこそ、事務室のスタッフは死んだような目をして、色濃く隈を作りながら書類と格闘するのだ。

 

そうそう。制御中枢についても話しておこう。

制御中枢では職員が効率的に仕事ができるように指揮をしており、無駄な労力が減ったと評判だ。

負担を軽減することによって、集中力が落ちた時に事故が起きる、というのも防いでいるとか。

では、その制御中枢は何をもたらしたか。

そう。狂気の32時間カン詰めである。

制御中枢の存在によって生まれたリソースを全て人員を酷使することに費やした結果がこれである。

医療機関が過労死者を出しかねない労働現場を作り出していることに関しては不満の声も大きい。

かくいう私も労働時間分の給料(各種手当込み)が無ければ暴動を起こしていたかもしれない。

 

何が言いたいかというと、過労による多少の事故は致し方ないと言いたいのだ。

 

 

 

 

ぺしぺしと頬を叩かれる感覚で目を覚ます。

うっすらと目を開くと、ドゥリンが袖余りの手で私を叩いているのが見えた。

そして、自分がドゥリンを抱きしめて寝ていることに気づく。

 

 

「イトザクラー、起きてるんでしょー?」

 

 

私は寝るときに何かを抱きしめて寝ないと寝つきが非常に悪くなる。

いつもは枕や丸めた毛布、屋外では荷物などを抱いて寝るのだが、今回はドゥリンを抱き枕にしてしまったらしい。

柔らかく、温かく、小さいドゥリンは抱き枕に最適なのだ。

チラリと時計を見ると、起きる時間までまだまだ余裕があった。

 

 

「あと30分寝かせてちょうだい……」

 

 

そういいながら再び寝る姿勢に戻る。

ドゥリンも諦めたのか、何も言ってこなかった。

よく眠れそうだ。

 

 

 

 

「イトザクラ。どうしてくれるのさ。」

 

「……眠かったし、寝ぼけてたのよ。」

 

 

結局1時間ほど眠り、起きた私に待っていたのは少々お怒りだろうドゥリンだった。

『だろう』、というのは、眼鏡がドゥリンの手に人質よろしく握られているからだ。

それが無いとドゥリンの表情もぼんやりとしか見えないし、そもそも生活が非常に不便になる。

なんとか許してもらおうと絞り出した弁明(言い訳)は、何ともつまらないものだった。

大体こうなったのはドクターのせいだ。と内心で呪詛を飛ばす(八つ当たりする)

 

 

「大体、どうして私を抱いて寝るのさ。」

 

「いや、ホントに覚えてないのよ。ただ、いつの間にかって感じで。」

 

 

同じことが起きた時も、かなり疲れていた時だったと思う。

となれば、原因は注意散漫によるうっかりと言えるのではないか。

それとも、私が人肌恋しいと(無意識に)思ってるのだろうか。

……結構あり得るかもしれない。

 

 

「私が悪かったから、許してもらえないかしら。」

 

「む~、じゃあ今夜はイトザクラの奢りね。」

 

「うっ、まぁそうなるわよね。分かったわ。」

 

 

今回()そこに落ち着くか。ちなみに、今回で3回目である。

何もかもドゥリンが抱き枕として最高なのがいけないのだ。

眼鏡を返してもらい、はっきりした視界でドゥリンを見ると、不機嫌を装っているが上機嫌な可愛らしい顔が見える。

それもそうだろう。彼女はその名の通りドゥリン族。

ドゥリン族に酒と食事を奢るということは、概ね自身の財布を空にするというのと同義なのだから。

 

 

 

 

酒というのは良いものだ。

まず、酒は安価で手ごろな娯楽である。

打ち解けるために1杯飲むのもよし。気心の知れた仲で飲むのもよし。

円滑なコミュニケーションをするのに効果的な潤滑油と言えるだろう。(望まぬ者に飲ませるのは論外だが)

それに、好物としている人も多い。1人で飲むにしても、良い心理的効果を望める。

更に、『酒は百薬の長』という言葉が示す通り、健康にもよい影響がある。

無論、薬も過ぎれば毒となるように、鯨飲すれば話は別だが。

というわけで、酒は良いものなのである。

 

 

「……って言ったらものすごく怒られちゃってね。」

 

「誰に言ったの?」

 

「フォリニック。」

 

「なんであの人にわざわざ言ったの?」

 

「健康診断の結果を返してもらう時に、酒と煙草を止めろって言われてつい。」

 

 

場所はロドス内に設けられているバー。

大体の人にとって夜の自由時間というのもあって、そこそこの人数がいる。

とりあえず1杯飲めば口は滑らかに動き、ちょっとした失敗談がこぼれる。

ちなみに、フォリニックとの問答は『過度な飲酒をしない』という制約に着地した。

私だって酒は好きだが、肝臓を壊したいわけじゃないし、酒を飲まないと手が震えるようになりたいわけでもない。

止めるつもりもないのだが。

 

 

「なんでもいいけどさ~。あ、これとこれとこのお酒お願いね。瓶で丸ごと。」

 

「よくそんなに飲めるわよね。私は1瓶も飲めないわよ。」

 

「今日はイトザクラの奢りだからね。あ、あとこれも。」

 

 

ドゥリンは本当に酒を飲む、というか飲める。

ドゥリンを抱き枕にしたときは毎回奢りということになっているが、初めての時は目を疑ったものだ。

何とか出費を減らそうと、度数の高い酒ばかり注文して飲ませたが、普通にケロリとしていた。

なら満腹になれば止まるかとも思ったが、肴として美味しく腹におさまるだけだった。

とはいえ、ドゥリンもそこまで毟り取る気は無いのか、ある程度満足したら止めてくれる。

そして、ドゥリンは一緒に飲む人が楽しんでいる方が好きらしい。

私とは違って、財布の心配をして青い顔をしている人を肴にするほど性格が悪いわけではないのだ。

なので、私も酒を飲み、話を楽しむ。半分くらいヤケ酒かもしれないが。

 

 

「そういえばテンニンカも酒を飲むのかしら。」

 

「んー?そういえば知らないね。奢りだって言って飲みに誘ったら?その時は私もよろしく。」

 

「ドゥリン族2人に奢ったらどれだけ龍門幣があっても足りないわよ。」

 

 

話に出てきたテンニンカもドゥリン族だ。

種族柄低い身長と、愛らしい見た目をしているので、よくロドス職員に子ども扱いをされているらしい。

そして、それに対する反応が『背伸びしている子供っぽい』らしい。

そういうことらしいので、結局子ども扱いされ続けているとか。

あまり話したことが無いので仲良くなりたいものだ。

『どうして食堂は24時間やってないの?』などと真面目に言ってたらしいので、お菓子か何かで釣れないだろうか。

見た目が完全に未成年略取(誘拐)か何かである。

 

 

「テンニンカで思い出したけど、イトザクラと同じ種族の人っていないよね。」

 

「いや、患者に1人いるらしいわよ。」

 

「そうなんだ。あんまり見ないからさ。」

 

「みたいね。極東にはそこそこいるんだけど。」

 

 

どうにもこの辺りの地域には私の同類は少ないらしく、見たことが無い。

逆に、私の苦手な種族(ヴァルポ)はロドスに多いので、関わりを避けるのが非常に面倒だ。

パフューマーに書類を渡す時は大抵ポデンコに頼んでいるし、ジュナー教官の訓練の時は精神的ストレスが非常に強い。

ここにいる(ヴァルポ)は悪人じゃないと分かっていても、どうしても攻撃的になってしまう。

そんな悩みをため息と共に吐き出す前に、酒で押し流す。

いくら口が軽くなるとはいえ、楽しい酒盛りの最中には口に出さない方がいいこともある。

 

 

「ま、細かいことは気にせず、のんびり飲みましょう。」

 

「あ、これとこれを1本ずつお願い。」

 

 

ドゥリンはいつの間にか酒瓶を4本空にして、さらに注文しようとしている。

まぁ、たまにはこんな日も悪くはない、と思わないでもない。

この後に見るであろう請求書のことを考えないように、一気に酒を飲み干した。




イトザクラ「オーキッドとは偶に一緒に飲む仲。」
オーキッド「A6はいい子達だけど、気苦労が絶えないわ。」
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