タグを付けるなら[弱化][減速]のデバフ特化型。
戦場において最も危険な場所とはどこだろうか。
どこでも危険と言われれば、それはそうなのだが。
ともかく、常に先頭に立ち、戦線を押し上げ、防衛線を作り上げる先鋒オペレーターは危険と隣り合わせだ。
ロドスには多くの先鋒オペレーターがいるが、テンニンカは他とは少し違う。
身の丈以上の旗を掲げ、風にたなびく旗は陽光を浴び、真珠のような七色の不思議な光沢をもつ。
「みんな!こっちに来て!」
小さいながら、威風堂々とした佇まいは、大将軍と言ってもよいほど絵になるものだった。
作戦の序盤は味方も敵も状況が分からないため、手探りで、攻撃よりも偵察に重きを置いた編成だ。
しかし、中盤から終盤ともなれば互いの状況は分かっているため、戦力の本格的な衝突となる。
賢い戦略としては、戦闘が大規模になる前に布石を打つべき、ということになるだろう。
そして、それが私が今回戦場に来ている理由となっている。
「荒事は苦手なのだけれどね。」
ボヤきながら事前に伝えられた地点に陣取る。
少し高い場所なだけあって、敵が見えやすいものだ。
……敵からも見えやすいということなので少々恐ろしいものだが。
まぁいい。私は私の仕事をするべきだろう。
懐からアーツユニットを4つ取り出し、自身の周囲に浮かべる。
これらと、髪飾りとして着けている木の葉型のアーツユニットが同調することで効果を増幅しているらしい。
自分で使っているものだが、詳しいことは知らない。使えればいいのだ。
「まずはのんびりしましょう?」
そういいながら敵に向かって空を薙ぐように腕を振るう。
すると、その敵は大きくバランスを崩し、よろめく。
同じことを何度か繰り返し、敵の歩みを遅らせる。
そう。これが私のアーツの一端だ。
私のアーツは高温も、極低温も、電撃も生み出すことはない。
ただ、『相手の知覚を操作する』というものだ。
まぁ、離れている上に、抵抗の意思があると微妙な効果しか及ぼせないのだが。
平衡感覚を揺さぶり、進行を妨害する。脚に幻痛を与えて歩みを遅らせる。視界を塞いで進軍を不能にする。
どれも1秒と保たないのだが、足止めする分には十分だ。
殺傷能力が欠片も無いのが玉に瑕といったところだが。
「ん、連絡ね。……はいはい、了解っと。」
オペレーターはそれぞれ、各個人のアーツや知識、技術、技能などを駆使して他者には模倣の難しい芸当を持っていたりする。
ロドスでは、それらを『スキル』と呼んでおり、ドクターの指示や、その場の判断で使用することになっている。
先ほどの連絡も、敵の中規模部隊による
「さて、と……夢幻の森に迷いなさい!『夢幻常緑:白昼夢』」
懐から更にアーツユニットを2つ取り出して浮かべ、気合と共にスキルを使う。
すると、私の
「真実隠れる夢幻の森林。無事でいられるとは思わないことね。」
……とはいったものの、あまり大したものではない。
というのも、
せいぜいが、『視界が霧がかったように見えづらい』『酷い耳鳴りがする』『地面が根の絡まった大地のようで動きにくい』『地味な頭痛で集中できない』くらいか。
1つ1つは地味な嫌がらせだが、いくつも積み重なれば敵は実力を発揮できないだろう。
ただ、
その辺りは他の人のお仕事だ。私は私のやることをやって、あとは
楽な仕事だ。
「勝てたんだったら過程なんて気にするべきでもないと思うけど。」
作戦の結果としては、多少防衛線を抜かれたが許容範囲内。
つまり、あんまりよろしくない。
何が問題って、この戦場を完全に制圧できていない、敵と出くわす可能性があるというところだ。
そんな中、周囲の調査とか確認をしなければならないのは普通に危険だ。
「はぁ。早く帰りたい。」
「どうしたの?お腹空いた?まぁお昼だしね~」
「違うけど……」
流石に自衛すら怪しい私一人で調査をするわけにもいかないので、二人体制で回ることになっている。
そして、この小さいドゥリン族、テンニンカが私の護衛のようなものだ。
自分よりも小さい子供に護衛されるのは何とも言えない気分になるが、そうでもしないと危ないので仕方がない。
「それにしても、さっきは大活躍だったわね。」
「でしょでしょ?あたしはすごいんだから。」
自慢げに笑い、胸を張るテンニンカ。
やはりなんというか……非常に子供っぽい。
撫でやすい高さにあるテンニンカの頭を撫でようとするが、あまり快く思ってないらしいことを思い出し、手を引っ込める。
行動隊A4のドゥリンは撫でたりしても機嫌を損ねない……少なくとも文句を言ってこないのだが。
あ、そうだ。
「そういえば、ロドスに戻ったらパイでも焼こうと思ってるんだけど、どうかしら?」
「え、いいの?」
「あー、あんまり期待しないでね?お菓子を作るのは慣れてないから。」
「え?ドゥリンから『よくおいしいお菓子を作ってくれる』って聞いたけど。」
それはお菓子作りの練習の度に餌付け……もとい他者の意見を聞くためにドゥリンに振舞ってはいるけど。
まぁ、期待されるのは悪くない。少々頑張るとしよう。
確認が必要な場所はあと1ブロック。
逃げた敵がどこにいるのやら……多分戦場から逃げているだろうが、隠れ潜んでいたら厄介だ。
「いないならいない、いるならいるでさっさと出てくればいいのに。」
「ん?あんな感じに?」
テンニンカが旗で指し示す方向には、フードを目深に被り、マスクで顔を隠し、ライターと火炎瓶を持った暴徒。
「出てこいとは言ったけど出てくるとは思わないじゃない!」
慌てて通信機で報告しようとするが、焦りから操作が上手くできない。
その間に暴徒は火炎瓶に火を点け、こちらに投げる。
回避?いや、割れた瞬間に広範囲に炎が広がるから無理だ。
幸い、この服は難燃性の素材らしいので、肌の露出部分さえ守れば……
そんなことを考えているとき、テンニンカが一歩前に出る。
「本気で行くよ!」
そう言いながら、旗を大きく振るう。
すると、火炎瓶が旗の白く、広い布地に絡めとられるようにして勢いを失う。
更に旗を振るうと、スリングのように火炎瓶は投げ飛ばされ、明後日の方向で割れ、炎をまき散らした。
目の前で繰り広げられた妙技に、思わず呆然とする。
それは暴徒も同じだったようで、攻撃をするでも逃げるでもなく佇んでいた。
そんな火炎瓶暴徒にテンニンカが突撃していき、旗でボコボコに殴って、捕らえていた。
「だいしょーり!イトザクラ、ちゃんと見てた?」
ロドスに戻り、作戦終了後の雑務を適当に済ませて、パイの作成に手を付ける。
今回のアップルパイの作り方はエクシアから教えてもらったものだ。
対価として彼女の用事をいくらか引き受けることになったが、それも珍しい経験でそこそこ楽しめたものだ。
レシピの出所はさておき、やはり彼女のようにスムーズにはいかないものだ。
慣れない作業で少々手が覚束ないし、工程を確認するのに時間がかかるし……と割と散々だ。
「……まぁ、いいでしょう。」
形が崩れているし、色々不格好ではあるが形にはなっているのでいいだろう。
一応レシピ通りに作ったのでおかしなことにはなっていないはずだ。
お菓子作りは難しい。と呟きながら、テンニンカが待っている自室へと向かった。
「遅かったね。イトザクラ。」
「えへへ~、ドゥリンも来るって言って断れなかったんだ。」
自室で待っていたのはテンニンカと、畳の上でゴロゴロしているドゥリン。
テンニンカはともかく、ドゥリンはくつろぎすぎではないだろうか。
別にいいけども。
「別に誰を呼んでもくつろいでもいいけど。」
ヴァルポ以外なら。という言葉は口内にとどめる。
「まぁいいわ。ドゥリンも食べるでしょ?」
「うん。それが目的だしね。」
「もはや隠す気すらないのね……」
まぁ、それだけ打ち解けたと見ることにしよう。
それはそれとして、流石にドゥリン族2人は想定していない事態だ。主にパイの分量的に。
……テンニンカとドゥリンで半分にするか。あまり間食を摂るのも良くないし。
「というわけで、2人で分けなさい。」
「え、それはちょっと悪いよ……」
「別にいいと思うよ?イトザクラはお菓子を振舞うことを楽しんでるんだし。」
「そういうことよ。感想を聞かせてくれればなおよし、ってね。」
そう言いながらパイを半分にし、2人に差し出す。
ドゥリンは迷うことなく食べ始め、テンニンカは少し迷うようにこちらを見てから食べ始めた。
……それにしても、やはりドゥリン族は子供にしか見えない。
そんな2人がパイを食べている光景は非常に微笑ましく、可愛らしいものだった。
「そういえば、いつも『荒事は苦手』って言ってるけど、どうして前線に出てるの?」
パイがあらかた無くなった頃にテンニンカが訊いてくる。
まぁ当然の疑問だろう。正直私もなんでだろうと思ってる。
「一応言っておくと、私の【戦闘技術】の能力測定結果は『標準』よ。言うほど苦手でもないわ。」
「え、そうだったの!?」
「ギリギリだったけどね。……何年も武器を握ってないからちょっとマズいかもしれないわね。」
流石に、今日のように守られ続けるわけにもいかないので、武器を振るう感覚を取り戻す必要があるかもしれない。
直剣や短槍など、いろいろ扱えるように姐さんに教えられたが、一番身体に馴染んだのは薙刀だ。
正直、今は扱える気がしないが。
「で、前線に出る理由だっけ……お金とか惰性とかかしら?」
「えー?そんな理由だったの?」
「いや、『自分より小さい子供が戦場に出てるのに、何もしないのが耐えられない』とか言ってなかった?」
「……さて、そんなことを言ったかしら?」
適当な理由で誤魔化そうとしたら、ドゥリンがあっさりネタバラシをする。
シラフでは言わないことなので、酒の席でしか言ってないはずだが、覚えていたらしい。
ちなみに、前線に出る理由としては全部正解ではある。
なんだかんだ手当はいいし、今更やめるとも言えないのだ。
「私のことはいいのよ。それより、テンニンカは『大将軍』だったって聞いたけど。」
「そうだよ。あたしの故郷では子分がたくさんいてね?それで……」
少々雑だがテンニンカに話を振ると、自慢げな顔で話し始めた。
……なんというか、子供の自慢話にしか聞こえないのだが。
そんな可愛らしい小さな大将軍の話を聞いて、時間が過ぎていったのだった。
イトザクラ「そういえば、あの旗、燃えないどころか焦げすらしなかったわね」
テンニンカ「うん。あたしも初めて知ったよ。」
イトザクラ「え。」
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