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皆さんありがとうございます!これからも続けていくので、よろしくお願いします!
夜々は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の新人にご飯を作らせねばならぬと決意した。
「あの…伏黒さん」
「…………」
やあみんな。地獄の帝王ことエスターク改めエスト・アークだよ。今は伏黒さんに正座をさせられています。
「そ、そんなに怒ることですか?私は別に言う必要も無いだろうと思っていたので……その…」
「夜々にとって、美味しいご飯は大切なことなの」
「でも、わざわざ言う必要あります?」
話をしよう。あれは今から36万…いや、数分前だったか。まあ、いい。
忙しかった昨日を乗り越え、いざ起きてみると昼を過ぎ、仲居さんは留守だったので、私は久しぶりに自炊しようと、買ってきた魚を焼き、ご飯パックをレンジで温め、お茶を飲みながらゆっくりと食べていた。
ちょうど焼き魚を食べ終わった頃に、玄関が開き、出かけていたらしい伏黒さんが駆け込んできたのだ。ヨダレを垂らしながら、空になったお皿を見てションボリ。そして、今に至る。
なんで、私は正座をさせられているのだろう?
「…………」
「美味しい食事は仲居さんが作ってくれるでしょう。私はやむを得ずこうやって自分でやりましたが、伏黒さんは寝坊なんてしないでしょう?」
「……いい匂いだった」
「へ、匂い……ですか?」
「う」
こくりと頷きながら、匂いを思い出したのか少しニヨニヨしている。
匂い……へ?どういうことだ?美味しそうな匂いがしたからバタバタと駆け込んできたってことかな。
「仲居さんのお魚でも、あそこまでの美味しそうな匂いは出ない。夜々が今まで嗅いだことも無い、いい匂い」
「…………ぁっ」
そうだった、すっかり忘れていた。
さて諸君!突然ながら私は料理が得意だ。何言ってやがんだおめぇ、と思っただろうが、我々魔物と人間の言う得意には差がある。
天才と呼ばれる人間が人生の全てをかけて編み出した神業と言われる手法。そんなもの、永く生きる研鑽を重ねた魔物からしたら児戯に等しい。
食材の鮮度から余熱の取り方まで、呪文と何百何千年の経験によって全てが完璧。僅かなズレも許されないその緊迫した工程は、もはや戦いと言ってもいい。
さて、この帝王ボディだが、そういった技術などに非常に敏感だ。特に戦いの技術は、より顕著に現れる。
見て模倣する、聞いて模倣する、こんなものは当たり前。時間はほぼ無限にある、そんな一介の魔物ができることを大魔王クラスである私が出来ないか、答えは否である。
帝王として猛威をふるっていた私は、最高峰の呪文と技術を用いて作られた料理の品々を口にした。栄養豊富な素晴らしい料理によってもたらされたのは、健康や舌の肥えだけでは無い。
口にした際の感じた魔力の波形により呪文を特定、舌触りからどのような工程があったのかを呪文によって映像として見ることも可能。ここまでくれば、もうおわかりだろう。
積み上げられてきた超技術を、私は全てものにした。
それによって、私が料理を作ればそれは、繊細な味付けと万人に優しい口当たりの極上料理ができるわけだ。
どこのト○コだよ。
「…………食べるかい?」
「っ!いいの?」
「お望みならね。仲居さんにちゃんと伝えておくんだよ」
「うん!」
目をキラキラさせながら、伏黒さんは走っていった。あれ、仲居さんのいる場所知ってるのかな。
「……まあいいか。とりあえず、まずは買い物だな……ははは、他の人の食事を作る余裕がある。懐にちゃんとした収入があるのはいいものだな」
こういった気軽に買い物ができるという当たり前が、私にはとても幸せに思えてしまう。この感覚は少し薄めておかねば、後の帝王業に支障が出てしまうかもな……。
「出来ましたよ。熱いうちにおあがりなさい」
「いただきますなの!」
「あーこらこら。料理は逃げないからもっとゆっくり、味わって食べなさい」
「ムグムグムグムグ」
ものすごい勢いで食べる食べる。猫っぽい人だとは思ったけど、これはハムスターと言ってもいいのでは、というぐらいに詰め込んでいる。
美味しそうにしているということは、ちゃんと味わってくれているのだろう。
「アーク、おかわりなの」
「わかりました……はい」
おーおー、いい食べっぷりだ。料理を作った側としては嬉しいねぇ。
「伏黒さんは食べるのが好きなんだね」
「う。ご飯は夜々の大きな楽しみ」
「そうか。なら、おなかいっぱいになるまでお食べ。まだおかわりはあるから」
「う!」
本当に美味しそうに食べるな。思えば、誰かにこうやってご飯を作るのは初めてか。なんだか娘ができたような感じだ。
「う……アークは食べないの?」
「ああいや、食べるよ。いただきます」
ああ、まただ。私としたことが、また考えにふけってしまった。風呂で反省したというのに、癖というものはなかなか治らんな。
「ふむ、なかなかいい出来になった……そういえば、伏黒さんは学生かい?」
「う。今は春休み」
「そうか。なら目一杯楽しんでおくといい。だんだん時が経つと、長期休暇も忙しくなるからね」
「う」
特に受験とかは大変だから……うっ、頭が。
「ごちそうさまなの」
「はい、お粗末さまでした」
す、すごい量を食べたな。炊いた米も空っぽだ。
「アーク、またご飯を作って欲しい」
「んー、まあ機会があればね。仲居さんがいつも作ってくれるから、そこまでないとは思うけど」
「う。それと、夜々のことは夜々でいい。苗字だと長いし、アークだけそう呼ばれると違和感」
「ふむ、そうか。なら、次からは名前で呼ぶよ」
「う」
よし、ファーストコンタクトは散々だったが、なんとか友好関係は築けたようだ。餌付けとも言うが……まあいいだろう。
まあ、だいたいここの住人とも会話出来たし、成果は上々。さて、いつ私が人間では無いとバラすか……。
しかし、そう考えるまでもない。やがて帝王はその正体を知られることになる。
とうとう物語が始動していく。その行く末は、誰にも分からない。
新たに評価をくださりありがとうございます!低評価でも高評価でも嬉しいので、お賽銭感覚で感想とともにください……お賽銭感覚だとあまり来なさそう。
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