黒龍神が唸り声を上げながら、コガラシただ一人を睨みつけている。呪いの霧が体から吹き出す度に、その眼光は鋭くなり、雨風は強くなっていった。
「げ…玄士郎さま……」
変わり果てた主人の姿に、朧は膝をついた。もはや龍雅家を護るどころの話ではない。他ならぬ玄士郎の手によってソレは壊されようとしていた。
「ギルルルルル……」
「……話は通じそうにねーな。もう一度ぶん殴るしかねーか」
「冬空コガラシ!奴からは得体の知れない力を感じるぞ!くれぐれも……」
「無理はしねえ……とは言えねーな。あんな龍神さま、ほっといたらそれこそヤバいぞ」
「そうねぇ……それに、どうやらコガラシちゃんにご執心みたいだしぃ?」
「仕方ねえ。みんな下がっててくれ」
「アタシはみんなを守ってるからぁ……存分にやっちゃってえ〜!」
「サンキュっす呑子さん!」
コガラシが拳を握り、黒龍神を見上げる。それに呼応するかのように、黒龍神も雷を鳴らした。
両者睨み合い……先に動いたのは黒龍神だった。
━━アクアブレス
黒龍神の口から大量の水が溢れ出し、光線のようにまっすぐコガラシへと放たれる。それをコガラシは、右の拳を振るうことで発生した拳圧を利用しかき消した。
━━しゃくねつ火球
しかし黒龍神は攻撃の手を緩めない。灼熱の火球を連続で吐き出しながらコガラシへと向かっていく。
「シッ!」
コガラシも拳圧を放ちながら、黒龍神へと走った。
互いに攻撃を相殺しながら近づき……ついに激突。一人と一体を中心に凄まじい衝撃波が庭を吹き飛ばしていった。
人の姿だった玄士郎を一撃で沈めた拳撃。それが再び叩き込まれるも、今度は硬い鱗と結界で防いでみせた。今度は黒龍神がコガラシの肩へと噛みつくも、多重の防御結界と霊力によって強化された頑強さで傷一つつかない。
「これは……互いの攻撃力が、相手の防御を突き破れる程ではないのか!?」
「コガラシさん…!」
打撃が効かないのであれば、打撃以外で攻撃すればいい。黒龍神はいったん尾を振るいコガラシを引き剥がすと、高く舞い上がった。
━━ボイドブレス
完全なる真空空間。それを球状に形成し吐き出した。コガラシは他のブレスと同じように相殺しようとするも、拳撃と衝突したボイドブレスは大きく膨れ上がり、凄まじい空気の大爆発を引き起こした。
「がっ…!?」
「コガラシさあああん!!」
その威力にコガラシは吹き飛ばされ、岩に激突。ボイドブレスの衝撃によって一瞬だけ身体全体の力みを緩めてしまい、結界や霊力強化が弱体化。岩との衝突でコガラシは気を失ってしまった。
黒龍神はトドメをさすために『呪い』によって与えられた魔力と自身の霊力をかき集めた。それは口内に蓄積され、禍々しい闇となって溢れ出していく。
「まずい!このままでは冬空コガラシが…!」
「呑子さん!わたしたちは大丈夫ですから、コガラシさんを助けてあげてください…!」
「そうねぇ……そうしたいのはやまやまなんだけどぉ……」
「させると思う?」
黒い光線が呑子へと放たれた。すぐさま横へ跳ぶことで躱した呑子は、鬼の霊力をツノの先端へ集め、『鬼火砲』と呼ばれる霊撃を放つ。しかし鬼火砲は突如出現した氷の壁に阻まれ、相手に届くことはなかった。
「ククク……大人しく当たっていれば、私のとびっきりの呪いで楽にしてあげたのに…」
「反撃を防いであげたのは私なのですが…?」
「いちいちうるさい娘だこと……」
そこにいたのは、いにしえの魔神の後ろに控えていた二人の妖魔だった。
「あらぁ……突然攻撃してくるなんて、ひどいんじゃなぁ〜い?」
「こんな辺境に生息している小鬼ごときに、わざわざ正々堂々なんて馬鹿らしいわ」
「そうやってすぐ調子に乗るのはいけないって、魔神さまからも言われてるはずなのに……ごきげんよう、この世界の強者。私はヘルヴィーナス、そしてこの高飛車な女はイシュダルよ。短い間だろうけど、よろしくお願いしますね」
「こんなヤツらに自己紹介なんて、アンタは礼儀正しすぎるのよ」
「だって、元人間ですもの?魔物になろうとも、女性としての気品は損なわないつもりよ」
敵を前にして、余裕を見せるイシュダルとヘルヴィーナス。しかし隙は見当たらず、呑子は攻めようにも攻めれないでいた。朧は魔神の攻撃によるダメージで、狭霧は朧との戦いで受けたダメージで動けず、幽奈と夜々は戦闘に向いていない。一人で強者二人を相手するには、皆を守りつつ勝ち、コガラシを助けに行くのはとても無茶なことだった。
「はあ……そもそも私はこんなジメジメした所来たくなかったのよ……はやくお肉に会いたいわぁ……」
「まさかアナタ、あの黒騎士をまだ追ってるの?あんなのお肉の足しにもならないわよ」
「……あらぁ〜?」
話の内容がおかしくなっていく二人。その表情はだんだんと蕩けていき、その綺麗な口からはヨダレが垂れ始めている。
「そうだねぇ……二人ともお肉が欲しいよねぇ」
『!?』
第三者の声が響いた。いつの間にやら、青髪の男が立っており、その両手には見るからに上質な肉を握っていた。
「ほらほら、キミたち魔物が大好きな『しもふりにく』だよ。キミたちが本能で求めてしまう、最高級の肉だ」
「あ……うう…」
「は…はあぁ…」
うっとりとした顔は、先程の余裕など露ほども見られない。その妖艶さで数々の者たちを虜にしてきた妖魔の姿などない、そこには本能に忠実な本来の魔物の姿しかなかった。
「欲しい?欲しいよねキミたちぃ」
「はいぃ……」
「ください…」
「なら誓えるかい?今の主を捨てて、ボクの主、地獄の帝王に仕えるって」
「「あ…あぁ……」」
危ない。あまりにも危ない状況ではあるが、敵である妖魔たちが手玉に取られてしまっていることに呑子たちはあっけに取られ何も出来ずにいた。
「あとは力を見せるだけでスカウトは完了だねぇ……ささ、あちらをご覧よ。キミたちの新たな主人のお出ましだ」
「グルアァァアアアッッ!!?」
『!?』
黒龍神の悲鳴が響く。全員がその悲鳴に驚くと、巨大な物が落ちてきた。それは身を焼かれた黒龍神、そしてその近くに降り立った者こそ……遅れて到着していたアークだった。
初めてこんな風に書いてみました。
もう恥ずかしいのでこんな展開は作りません。
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