ゆらぎ荘にて、コガラシたちは意識を取り戻した狭霧たちに状況説明を行っていた。
アークが地獄の帝王と呼ばれる存在だということ、そして敵の目標は果たされ、破壊神が降臨しアークと戦っているということを。
「話が壮大になってきたな…」
「アークさん…大丈夫なのでしょうか……」
困惑と心配。幸いアークへの嫌疑は無く、しかし言い様のない不安はあった。
「アークちゃんは強いから……きっと大丈夫よぉ」
「ウス、あの破壊神とかいうヤツも倒してくれるはず……っ!?」
その瞬間、突如地震が彼らを襲った。地面……いや、大気までもが震えているのか、宙に浮かぶ幽奈までバランスを崩している。
「な、なんですかこれは!?」
「うわぁぁああっ!?」
「壁か柱にしがみつくんだ!」
振動はしばらく続いていたが、しだいに収まった。なんとか一安心と息を吐いた。しかし、次にこゆずが発した言葉に凍りつくことになる。
「ねえみんな!空が鏡みたいに割れてるよ!」
『!?』
視線が外へ向くと、空に割れ目があり紫色の光が零れていた。その光に見覚えのあるコガラシと呑子が顔を強ばらせると同時に、ズルリと巨大な指が這い出てくる。
「あれは…!」
「まさか、破壊神!?」
6本の指が割れ目を広げ、凶悪な相貌が顕になる。『破壊』そのものである破壊神は存在するだけで本能的な恐怖を生み出す。咆哮のみで対象の魂を崩壊させるほどだ。
空から辺りを見回す破壊神を前にして、ゆらぎ荘の面々は金縛りにあったように動けなくなる。そんな中、彼らの背後に青い渦が吹き出し始めた。
「〜〜っぶはあ!ここは…ゆらぎ荘か!?どうやら当たりみてぇだな!」
「っ!アンタは…カンダタさん!?」
渦から転がり出たのはカンダタ。彼は手を軽く上げ挨拶すると、早口で現状を説明し始めた。
「さっき帝王様から念話があってな!破壊神がなぜあの姿になったのかを調べろと言われた!」
「念話…っ、アークさんは生きているんですか!?」
「おう!今は再生に時間がかかってるが、死んじゃいねえぜ!っと、それよりもだ。お前らに頼みたい事があるんだ!」
「な、なんですか!?なんでも言ってください!」
悪霊の神々との戦闘でも、彼らは自らの無力感にやるせなさを感じていた。しかし、自分たちでも役に立てる。そのことが彼らをはやらせた。
「まずはオレと一緒に城に来てくれ!」
「え、城…?」
「裏山に拠点として城を築いたのさ。全然わからなかっただろ?」
「裏山に!?」
皆が驚愕に染まる中、カンダタはキメラのつばさを取り出すと握り砕く。その場にいた全員が青い光に包まれ、次の瞬間には姿を消していたのだった。
「ォォォオオオオッ」
破壊神が穴へ顔を捩じ込み、外界へ進出しようとする。空間が軋み、割れてはその穴を広げていく。
しかし、そうは問屋が卸さない。ここで行かせれば……。
「大魔王の沽券、そして地獄の帝王の名が廃るわ!」
━━進化の結末ッ!
進化を促す無限に等しきエネルギーが破壊神の龍首を絡めとった。鬱陶しそうに破壊神の顔が不快に歪み、龍首のアギトが大きく開く。
━━カオスフレイム
禍々しい紫炎が吐き出される。対し、私は口を開けると同時に腕にも魔力を送り、放つ。
━━じごくのごうかッ!
━━地獄の竜巻ッ!
━━ジゴスパークッ!
火炎、竜巻、雷は混ざり合い、魔力砲となる。紫炎と魔砲はしばし拮抗するも、やがて紫炎が押され突破された。
「ッ!?」
突破されたことに少々驚いた破壊神の顔に魔咆が直撃する。多少怯みはすれど、やはり目立った外傷は無い。それでも、外界よりも注意を引くことはできた。
「グゴゴゴゴゴ……頼んだぞ、お前たち」
「ォォォオオオオッ!!」
破壊神はこの世界に留めておく。その間に、きっと成し遂げておくれよ。
「うし、着いた!」
「とと、これは転送術か!?」
「うわ〜、すごいすごい!」
一行がたどり着いたのは裏山の中、城の目の前だった。各自立派な城にあっけに取られていたものの、カンダタの声で我に返る。
「ここの宝物庫に、とあるアイテムがある。まずはそれを探すのを手伝ってくれ!」
「アイテム?どんなヤツなんだそれ」
「へへへ、それは世にまたとない秘宝。しかしあまたの世界を束ねるオレ様たちには幾つもあるものなんだがな?」
カンダタが1枚の紙を見せる。そこには砂時計の絵が描かれていた。
「時を自在に操ることのできる奇跡のアイテム、人呼んで『ときのすな』」
「時間を…操るだと!?」
「驚きの連続で何が何だかわからなくなってきました…」
「さあ行くぜ!帝王様が破壊神を食い止めてる間に見つけねえとな!」
カンダタが駆ける。次いでコガラシたちも走り始めた。目指すは宝物庫、そこにある『ときのすな』を求めて。
道中、コガラシは幾つかカンダタに質問をしていた。
「なあ、あの破壊神ってのはどんぐらい強いんだ?オレも師匠と一緒に異世界の邪神と戦ったことはあるけどよ、あそこまでの霊力は生まれて初めて見た」
「お前が戦った邪神とは、あれは別物だ。邪神にも種類があってな、その中でもあの邪神は一線を画す存在なのさ。『破壊』の概念を司る邪神、シドー。信心深い教徒の祈りの他に、魔法陣を用いることで比較的簡単に呼び出すことができる。その目で『破壊』するか否かを見定め、眼鏡にかなえば『破壊の創造』をもたらすという、世界全体で見ればありがたい神様だ」
「破壊の神様がどうしてありがたいんだよ」
「創造と破壊は表裏一体にして同一の現象だ。世界を破壊することはすなわち、さらに上位の世界を作り出す下準備。その輪廻があるおかげで全ての世界は調和を保っているのさ」
「なんか……難しい話だな」
「ま、すでに住んでるヤツらからしたらたまったもんじゃないが、それでも必要な事なのさ……っと、着いたぜ!」
緊急時だからと、カンダタは着くなり宝物庫の扉へタックルをかまして入った。続いてゆらぎ荘の面々が入室すると、あらゆる魔法の武具やアイテムが出迎えた。
「おお……」
「す、スゴいですぅ……」
「ちょ、お前ら!早く探さなきゃマズイんだって!?」
「う、ウス!」
手分けして砂時計を探し始めた一行。しかし大量のアイテムの中から一つを探し出すのは一苦労だ。
「え〜と、これじゃない」
「これでもないな」
「お、多すぎんだろ…」
カンダタが言うには、砂時計のサイズは小さめらしい。それがさらに見つけ出すことを難しくしていた。そこで、仲居がふと思いつく。
「み、皆さん!運勢操作を使います!反動に気をつけて探してくださいね!」
「おお!その手があったか!」
「さっすが仲居さん!頼りになるぜ!」
━━運勢操作・招福!
「えーと、えーと……あ、これじゃないかな!?」
アイテム群の中に顔を突っ込んでいたこゆずが手に持った物を掲げる。緑色の不思議な砂が詰まった砂時計だ。
「でかした!それが『ときのすな』だぜ!」
「えへへ〜」
カンダタはこゆずから『ときのすな』を受け取る。と同時に、こゆずが何かを踏んだ。見ると、岩の欠片のようなもの。瞬間、宝物庫が輝いた。
『え?』
こゆずの踏んだ『ばくだんいわ』は大爆発を起こし、宝物庫を吹き飛ばした。煙が収まったとき、そこにカンダタたちの姿は無くなっていたのだった。