裏山に構えられた城の中で、魔物たちは宴を催していた。
久しい大戦を終え、存分に力を振るった魔物たち。戦闘衝動が三大欲求に匹敵する彼らは、満たされた気持ちで酒を酌み交わす。やがてヒートアップすれば殴り合いも起きるが、それもまた宴会の花というものだろう。
そんな魔物たちを見下ろせる上階にて、軍団長らは宴を楽しんでいた。
「ハーッハッハッハッ!我ら帝王軍、あのような邪教団など恐るるに足らず!負けることなど万に一つもないが、やはり勝利の美酒は美味いものだ!」
「……実は全滅していたかもって話はしないでおくか」
「む?カンダタ、何か言ったか!」
「なんにも言ってないぜ。それ、もう一杯いこう」
「ハッハッハッ!そうだな、我らの勝利に今一度、乾杯!」
笑いながら豪快に飲み進めていくクロウ。カンダタは微妙な気持ちになりながらも、酒に罪は無いと一気に呷った。
「シカシ魔王クラスノ敵ガ来レバ我ラガ出ネバナラン。少シハ足止メ程度ノ力ヲ持タセルノモ良イカモナ」
「それでは俺たちの出番が無くなるだろう!」
「足止メ程度ト言ッタダロウ。我ラガ行クマデニ部下ヲ失ウツモリカ」
酒も入れば道理も通じなくなる。だんだんと熱が入ったキングリザードは顎で外を示し、オムド・ロレスも歯車を高速回転させ応えた。
「にゃははははは!」
「はぁ……静かに酒も飲めんのかアレらは」
「にゃははははは!」
「……カルマッソ。いい加減煩いぞ。今の発言はお前にも当てはまっているのだが」
「にゃははははは!」
「……ロザリーを呼ぼう。でなければやってられん」
カルマッソ、酒が入ると笑い上戸であった。いつまでも笑い続けるカルマッソにげんなりしたピサロは、腰を上げ婚約者の元へと向かうのであった。
「さあもう一杯、かんぱーい!ははは!」
「にゃははははは!」
『死に腐れオムライスがっ!』
『オムライス…?オムライスダトォォオオオッ!?』
「ピサロさま、この唐揚げはお酒に良く合いますよ」
「ん……ああ、美味い。ありがとうロザリー」
「……もうやだコイツら」
カンダタは一人ガブガブと飲む。そういえば、帝王様はゆらぎ荘で楽しくやっているのだろうか?と一瞬だけ考え、その場にぶっ倒れたのだった。
「この度は、本当に……申し訳なかった」
ゆらぎ荘にて、私は皆と食卓を囲んでいた。どうやらカンダタが私の正体を知らせていたようなのだが、改めて私は己の正体を明かした。
私は地獄の帝王と呼ばれる大魔王であり、数多の世界を力で支配した存在である。命を数え切れぬほどに踏みにじってきた怪物であると。
しばらく沈黙があり、その空気は容赦なく私を打ち据えた。せっかくの喜びの場であるというのに、このような空気にさせたのは申し訳なく思う。しかし、このまま宴に参加することはできない。こればかりは伝えておかねばならなかった。
私は彼らを巻き込んだ。私が接触したがゆえに魔力を辿られ発見、そして襲われたのだ。私が関わらなければ、邪教団はゆらぎ荘を襲うことはほぼありえなかったはずなのだ。
そんな事をしでかした私が、はたしてこの宴に参加して良いものか?たとえ追い出されることになろうと仕方が無いとピサロには言った。しかし、路頭に迷っていた私に幸福な時間をもたらしてくれた彼らにそう言われるのは、恐らく私の想像以上に辛いものとなるのだろう。
そう思いながら俯いていると、ふと頭に何かが載った。驚いて少し頭を上げると、なんと仲居さんが私の頭に手を載せていたのだ。
「アークさん。私たちは、あなたが普通の人間でない事はわかっていました」
「……………」
「そして今回、大変なことになってはしまいましたが……そんなに自分を卑下しなくてもいいんです。アークさんは何も悪くありません」
「そっすよアークさん!何度もオレたちを助けようとしてくれたじゃないっすか!」
「コガラシさんの言う通りです!アークさんが気に病む必要はありません!」
「誅魔忍として監視はしていましたが、特に怪しいこともありませんでしたしね」
「う。あの時の報告?も合点がいったの。ずっと前から頑張ってた、アークは偉い」
「むしろあたしたちこそ、色々と邪魔しちゃったみたいだしぃ、お互い様ってことで割り切りましょぉ〜」
「うむ。改めてアークの力を確かめることができた故、気にしていない。玄士郎さまを救ってくれた恩もある」
「そうだよ!アークさんは優しい人だってことボクたち知ってるんだから!」
罵倒でもなく、怒声でもない。覚悟していたものとはあまりにも優しく温かい言葉に思考が止まる。その間に彼らは土下座の体勢だった私を席に着かせると、準備していたコップを掲げた。
「それでは!皆さんの無事と平和、そして私たちを守ってくださったアークさんに!乾杯!」
『カンパーイッ‼』
仲居さんの音頭によって宴が始まった。未だに固まる私に、料理や酒を笑顔で進めてくる皆。私は震える手でそれらを頂いた。料理はとても暖かくて美味だった。ほんのちょっぴりしょっぱいような気もしたが、きっと塩を効かせ過ぎてしまったのだろう。私はぼやけた視界のままに、そのひと時をじっくりと楽しむのだった。
これにて第一章 狂乱の破壊神は終わりです。次回からは原作第三巻に突入します。
ここまで見てくださった皆さん。今までご高覧ありがとうございました。これからも『ゆらぎ荘の帝王様』をどうぞよろしくお願いします。