アークナイツRTA 『境界無き方舟』獲得ルート 作:ゲルゲルググ
龍門のスラム街の一角にて、二人の男が遠くにある砂まみれになったビルの屋上を睨んでいた。
「どうじゃ?」
「いやぁ駄目だな。当たったが手応えがこれっぽっちしか無いわ。矢張りあの類いのは至近距離でブッ飛ばすに限るな!」
「……フン、相変わらず生き汚い」
一人はザラックの老人。立派な黒コートを羽織り、地面に杖をついている。だが、その体から放たれるオーラは、見る者を圧倒させるには充分だろう。
そしてもう一人は、身長2m近くであろう巨体と、その巨体に負けない程の大きさをした赤くて分厚く、大砲の様な大穴と所々に中位の穴が空いた盾……否、甲羅を担いでいる。デッかく都市の名前が書かれた白シャツを破れる寸前まで圧迫する程の質量を持つ体は皮膚では無く甲殻に覆われており、一つの鎧と見間違ってしまうだろう。それと厳つい亀の様な顔は厳つ過ぎて子供に見せたら絶対に駄目だ。絶対に。
「そんで、お前さんはこれからどうする?」
「先ずはごっこ遊びをするバカ共を一箇所に集めねばならぬ。玩具があればある程奴は面倒になるからな」
「ん〜それもそうだな。オイ!そこの蜘蛛坊主!お前さんも手を貸してはくれんか!」
突然裏路地に向かってそう叫ぶと、その裏路地から赤と黒の全身ピッチリタイツを着て、覆面で顔を完全に隠した不審者が出て来る。
「凄いねお爺さん達、完全に気配も体も消してた筈なんだけど?」
「ハッ、それで完全とは…お主もまだまだ青いの」
「マジですかぁ……」
ザラックの老人からそう言われ、圧倒的不審者は頭を抱えて唸る。
「で、どうする?儂は手伝って欲しいがなぁ。お前さん、そこら辺の奴らと頭が繋がってるのであろう?」
「だいたいあってるけど言い方!僕の頭に他の人の頭はくっついて無いでしょ!?僕達の想像図がクリーチャーになっちゃうじゃないか!」
「そうだっけか?まぁどちらでも良いではないか!フハハハッ!」
「良くないって……ハァ、まぁ手伝うよ。僕達もそのつもりだし。で、何をすれば良いの?」
「奴の玩具にならぬ様、レユニオンとダラーズの連中を無力化し、奴の手の届かぬ所へ押し込むだけじゃ。やり方はお主らに任せるとしよう」
「なる程了解!そうだ、あの境界無き方舟って所の人達にも呼びかけよう。あそこには僕と同じ人がいるから、すぐ了承してくれる筈さ。じゃ、早速行ってくるよ!」
「………最近の若者は困ったもんじゃの」
2人に向けてサムズアップした親愛なる隣人として生まれた男は、手首からウェーブを出して建物に引っ着け、その糸を使って混沌な状況にある都市部へと跳躍し姿を消した。
そしてこの2人、貧民窟の鼠王と砂上の楼閣はまた別方向へと向かって砂と共に歩み出した。
「クッソ………!一体なにが――」
『おはよう青年、実に数分の失神だ』
目を覚ましたエレキは、自分が青くて狭い空間に座り込んでいる事に気がつく。そして遅れて、自分の直ぐ隣にシュラフが気を失っている事にも気がついた。
『悪いが起こしてくんね?私今猫の手を借りたい状況でな』
「わかってるよ。ホラ、シュラフ起きろ」
「あピャァァァァ?!」
イモータルの意図を汲み取ったエレキは、シュラフの脳に特殊な波形の振動を与え、直ぐに起こした。正直シュラフには刺激が強すぎた様だが。
「あ゛た゛ま゛か゛く゛ら゛く゛ら゛す゛る゛ぅぅぅぅ」
「イモータル、一体なにがあった?あのガキは?」
『ソレは見たほうが早かろうて。さぁ立て、服が汚れる準備をしろ』
その言葉に嫌な予感をしながらも、シュラフを支えながら立ち上がる。そして彼らを閉じ込めている青色のシールドが解除され……
「ヴッ――?!」
「―――」
流れ込んで来たのは赤だった。赤色の液体が靴を赤く染め、鉄の匂いが鼻と口を埋め尽くす。喉から何かが込み上げる感触がして、必死に口を抑える。
二人は理解したく無かった。でも理解せざるを得ない。あの状況は数秒前の事だ。衝撃を受けて気絶する瞬間まで、その光景は思い出せる程に鮮明だ。
つまりこの液体は、この鉄の匂いは。
『そう、なるべくオブラートに包むと、さっきまで命だったものが当たり一面に転がってんだわ。あぁ吐いてどうぞ。溜めても辛いだルルォ?』
シュラフは地面に膝をつき、喉を決壊させる。その時、膝が何かを押し潰した様な感触を感じ、ソレが何かを無駄に想像してしまい、更に酷く吐き出した。
『………おや、エレキ君は吐かないのかい?流石だな』
「巫山戯るな……!俺だって吐きてぇよ!」
『ま、やるならシュラフが落ち着く前にな。落ち着いたら一旦外に出るぞ。近衛局の皆さんと今後の展開について相談会だ』
「……なんで、お前はそんな…冷静になれるんだよ」
顔を青くしながらも、エレキはもこもこしたアームでシュラフの背中を擦っているドローンを睨みながら質問する。が、目の前の相手が人間では無いと思い返し、あ〜そうだったわと呟きながら顔をそらした。
『………』
「………いや、愚問だったな。変な事聞いちまった」
エレキ達が初めて救助活動を始めた時にも、同じ様な状況で同じ様な対応をしたイモータルを思い出す。そしてちょっといざこざしたが……ソレは別の話。
『いやぁ勿論君の想像通りだとも。私は機械、心無き道具だ。例え人が死のうが、悲しいとは感じないんだなコレが』
「ハァ……お前のそういう所、結構羨ましいな。いや、別に人が死ぬ事がいつもの事と感じたいって訳じゃ無いが」
『ハッハッハ!死を割り切るってのはそう簡単にやらない方がいい。可愛げが無くなる。特にアレを見て嫌悪しない奴なぞ……な。見てて不愉快だ(小声)』
「可愛げって……お前なぁ」
『いやいや、実際感情ってのは大事よ?どんな感情であれ、ソレは体を突き動かす力になり得る。怒りとか悲しみとか、忌避されがちだが立派な原動力だ。まぁ忌避されがちなのはわかるけどネ。そういう奴ってだいたい碌な事しないバカだし』
「だな。レユニオンがいい例だ」
『その通り。だが感情が無いよりかマシだよ。感情無い奴らってだいたい直ぐ人殺すし、身勝手だし、足引っ張るし、余計な事しか言わないし、直ぐに人を殺す』
「レッテル酷すぎないか?」
『おまけに人を直ぐ殺すから、見ててすっごいムカつくから殴り倒したくなるのよね。だから君たちは遠慮無く、今の現状に対して大いに感情を曝け出してくれたまえ!そしてソレを原動力に感染者を救おうじゃねぇか』
「ハァ……そんな声を大にして言える訳ねぇだろ恥ずかしい。つか今の俺は、あの女みたいな奴らを止めなきゃならねぇって事以外ねぇっての」
吐瀉物を白い泡々で埋めながら突然発音速度が早くなったイモータルに向かって、エレキは呆れ半分安心半分で答える。イモータルの話を聞いてる内に、彼の吐き気は殆ど治まっていた。
『で、本題に戻るけど、私あのメスガキ許せんのよね』
「その口調どうした急に」
『いや別にキレてないよ?ただあのメスガキもレユニオンに関わってるだろうし、それに無実の人々をブッ殺したオトシマエはつけさせて貰わねぇとなぁ!ちょっとわからせなきゃ(使命感)』
怒ってる奴はだいたい怒ってる事を否定するよな、と思ったが、彼は口にしないで留めた。
「あの女が……?確かに出現のタイミング腑には落ちるが……」
『まだ憶測の域だがな。まぁ安心しろ、奴は私が殴る。エレキ君たちは近衛局の奪還を優先してくれ。あそこにはあのメスガキと同系統のアーツを使う奴がいる。放っておいたらコレの二の舞いだ』
「…わかった。でもシュラフはどうする?この調子じゃ――」
「……大、丈夫………!オレっちだって…まだまだやれるかんな!」
出すもん全部出して多少スッキリしたのか、シュラフは勢い良く体を起こす。
「ホントに大丈夫か?ホラ、お前怪我もしてるんだろ?」
「その辺はモーマンタイだ!運がいい事に、傷は開いて無いんだわ」
そう言って胸をポンッと叩いてドヤ顔すると、急に真面目な顔をし、続きを口にする。
「それに、オレっちはもうあんなもの……もうこれ以上、同じ人達をあんな酷過ぎる目に合わせたく無いからな!」
ソレは決定事項だと言わんばかりに、シュラフは勢い良くそう言った。矢張り彼も大人であり、この超偽善集団である境界無き方舟にいる者の一人だと感じさせる程の強い言葉だ。さっきまでゲロっていたとは思えない程の立ち直りである。
『……女の子をイチコロ出来るいい顔だ。惚れたわ』
「流石に無いからやめろポンコツ」
『ヨシ!(確認猫)取り敢えず行くぞ。チェン隊長にこの意志を伝えねばな』
ボロボロになった大古プラザを出ると、そこには医療テントと、その下に引かれた簡易ベッドに横たわる大勢のオペレーター、それらの治療を行うドローンとロドスと方舟のオペレーターが忙しなく動いていた。
「チェン隊長!」
「……!お前達、無事だったか」
「あぁ。それよりコレは……」
「……あの爆発に巻き込まれた者達だ。そこのドローンが出来る限りを尽くした様だが、それ以外の者は……」
『意識不明に重症多数。そしてその殆どが愉快に感染者の仲間入り――おっとスンマセン。続きをどうぞ?』
「……幸いにも、お前達方舟とロドスの尽力により、一命は取り留めている。そこは感謝する」
「………あの鬼の女は?」
「…………」
「いや、すまん」
暗い顔をしたチェンを見て、エレキは色々と察した。
「安心しろ、ホシグマは爆弾程度で屈する程軟じゃない。それに謝る必要も無い。コレは私の責任だ」
「そ、そうか……」
『さてチェン隊長。君は周りの残存部隊と集合し、再び近衛局の奪還へ向かうんだろう?コイツら二人と手の空いてるオペレーターを貸してやる』
ソレを聞いたチェンは、矢張りと言った表情で目の前のドローンを見つめる。
「毎度思うのだが、君のソレは些か――」
『チェン隊長、会話を遮って悪いが言わせてくれ。君が言おうとしたソレは、この効率厨の私が手放しで信頼してるって証拠なのだよ。勿論、君が彼らを絶対に死なせないと言う意味合いも兼ねてね』
自分でも不躾な質問だとは理解していたが、その質問を遮られた挙げ句、このAIは自分を信頼していると言ってきた事に、チェン隊長は目を丸くする。
「……なる程、理解した。そこまで私を評価してるとは思ってもいなかったが、出来るだけその信頼に応えてみせよう」
正直複雑な心境である。だって彼女はこの組織をまだ信じ切っていないのだ。まぁ自分が守ると誓った都市になんのアポも協力関係も無しにズカズカ入って来たのが第一印象だから仕方ないのだが……因みにロドスと協力関係だからと言う言い訳は通じない。
だが、奴の言葉には不思議と力が籠もっているのを感じるのだ。ロドスの所有するロボットとは違う、その姿さえ無ければ、本当に人が喋っているかの様な。
不意に、彼女の口からその言葉が漏れる。
「イムホテップ・イモータル……」
『フルネームじゃ無くていいよ?正直恥ずかしいし』
「……キミは、実は人間なのか?」
『いんや違う。私には人体を構成する材料と言われている水35リットル、炭素20kg、アンモニア4リットル、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素、そして細胞66%、細胞外液24%、細胞外固形物10%を持っていないからな。そう言う期待はよしてくれ』
「………そうだな。私ながら変な事を聞いた、この事は忘れてくれ」
矢張り自分の思い過ごしだと彼女は結論づけた。
『さて、私はまだやる事が残っている。ここでしばしのお別れだ!グットラック!』
そう発音しながらアームで親指を立てる様な仕草をすると、ドローンは喧しい音声を発さなくなった。
『さてと……あ、ハイゼンさん?義体の方は……OK間に合うな。んじゃ追加で量産型のトラックに試作機をブチ込んどいてくれ。いやなに、割とチャート外な事が起こってね。データを集めるには丁度良いと。それと、スポーツカー型ドローンと、三次元狙撃型、彗速走行型のALケーブルに何しでかしたか詳しく話してな』
駆け足気味な失速気味ですまない(すまないさん)それに話もそんなに進んで無いって言うかなんと言うか。因みに次回で快刀乱麻は終わりです。
ではまた次回、サラダバー!