エレウシスの盃   作:通りすがりのアンパン

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最近異世界ものをよく見ることが多く、書いてみたいと思い勢いで始めました。

異世界転生とか、冒険とか、なんか憧れるよね


第一章少年期:デメテール編
アーデ、誕生


 その日、新たなる生命が誕生した。

 

「ネイラさん!産まれましたよ!元気な男の子です!」

 

 オギャア!オギャア!と産声を上げた小さな、小さな命をネイラは割れ物に触れるかのように抱きしめた。

 妻は疲労した顔で目の下にはクマができている。だが、頬は緩み安堵と、嬉しさが込み上げているようだ。

 

「……あなた」

 

 妻は俺の顔を見て微笑んだ。スッと横からこの家の手伝いとして来てくれたミュケがハンカチを渡してきた。気付けば俺は大粒の涙を流し肩を震わせていた。

 ありがとうとミュケに礼をいい涙を拭くと、妻が我が子を渡してくれた。俺がおどおどと我が子を抱き抱えるのが面白かったのか、ネイラとミュケはクスクスと笑った。

 

「ネイラさんの目に、顔立ちはクレオスさん譲りですね」

 

 ミュケの言葉通りその目は母親譲りの金色の目だ。そう、竜人族の特徴と言える目だ。ついでに髪も竜人のもので赤黒い。黒に近いが少し赤みのある髪だ。顔立ちは俺に似ているそうだ。だが、俺の顔譲りだと少々強面になってしまうのではと気が引けてしまう。

 

「よく頑張った、ネイラ。ミュケもありがとう」

 

 未だ涙が止まらない俺は嗚咽混じりの声で感謝を伝えると二人は幸せそうに微笑み、頷いた。

 

 こうして、俺たちに新たなる家族、『アーデ・デメテール』が加わったのだった。

 

 ────────────

 

 子育てとは実に大変。何をするかわからない以上気が抜けない毎日だ。

 

「いないいなぁい……バァ!」

「うぇっ……」

 

 息子は妙な顔をして引いたような態度をとる。既に俺は心が折れかけている。これまでどんな困難も乗り越えてきたが息子に早々に嫌われてしまったのではないかと思うと泣きそうだ。いや、もう何回か泣いて妻に励まされている。

 

「あなた、そう気を落とさないで。今だけよ、きっとそのうち甘えてくるようになるわ」

 

 がっくしと肩を落とした俺をネイラは眉を八の字にして励ます。今日は休日だが、基本毎日里の警備のため家にいる時間は少ない。そうなると息子と関わる時間も少なくなるため、必然的に懐いてくれないのは仕方がないことなのかもしれない。だが、俺とネイラにとってはじめての赤子、こう、なんていうかもっと触れ合いたいのだ。

 

「アーデ、パパは怖くないですよぉ〜」

 

 ネイラが息子を抱き上げると待ってましたとばかりに、にへぇと笑う。なんだろうか、息子の笑顔はどうも下心に溢れたように見えてしまう。いや、元は俺もそういう笑みを浮かべることが多いため似てしまったのだろう。ネイラもミュケも俺の下品な笑みが受け継がれたのだと苦笑していた。今はいいとして大きくなったときに無意識にこの笑みをすると周りの人に引かれてしまうのではと心配になる。いや、俺のせいなんだろうけど。かくなる上は自然な笑みを俺も意識してこの子にスマートな笑みができるように教育しよう。うん、絶対しよう。

 

 ──────────

 

 アーデが産まれて5ヶ月が経った。乳離れはあっという間に過ぎ、簡単な言葉を話すようになり、まだ不安定ではあるが一人で歩けるようになった。竜人族は成長が速いのも特徴だ。ミュケは役目を終え自分の家に帰っていった。もとよりまだ里に滞在するためいつでも会えるわけだが。

 

 この里では十歳になると里全体で祝い、一人前として認めるために儀式を行うのだ。儀式というよりはしきたりみたいなもんで、十歳になった竜人には里長が直々に剣と杖を授けるのだ。

 竜人族は古来より魔術に長けた種族であると同時に剣術においても他の種族と引けを取らない強さを誇ると言われている。そのため、三歳になると子どもに剣術と魔術を教えるのが風習だ。五歳には中級魔術と初級剣術を扱えるように育てる。なかなか骨が折れそうだ。

 

 ──────────

 

 今日はアーデの一歳の誕生日だ。里のみんなが祝いに来てくれて家では人数が収まらないということで広場で行うことにした。

 

「いやぁ!やはり子どもというのは可愛いものだな!ハッハッハ!」

 

 里長のオリオントは髭を撫でながら愉快に笑う。しかし声がでかい。アーデはビクリと体を震わせるとネイラの後ろに隠れてしまった。

 

「す、すいません、オリオント様……」

 

 里長には失礼がないようにと言っているが、こんなに大勢に囲まれるのは初めてであるため恥ずかしいのだろう。

 

「ガハハ!気にするな!この大人数だ、仕方あるまい!」

 

 軽快に笑う里長に胸を撫で下ろす。元より里長は愉快なお方だ。祭り事が好きで、よくこういう宴会を開く。ただそれは里内の全員との交流を図るものであるのと同時に子供の面倒は里民全員で見るという里長の図らないでもある。

 

「ほら、アーデ。オリオント様にご挨拶を」

「……うん」

 

 ネイラが優しくアーデの頭を撫でて挨拶を促すとネイラの服を掴んだまま前に出た。

 

「こんにちは!オリオントさま!きょうはありがとうございます!」

 

 と、元気よく挨拶をした。

 よく頑張った!さすがだ!ああ、こんな立派に育ってくれて俺は嬉しいぞ!

 

「わぁー!よく言えたね!えらいえらい!んーチュ!」

 

 ネイラは息子を抱きしめて頬にキスをする。俺もよくやったとわしゃわしゃと息子の髪を撫でる。

 

「ガハハ!良い挨拶だ!ネイラとクレオスよ、よく育てているな!」

 

 オリオントは上機嫌にガハハと笑い酒を飲む。

 

「きゃあ──!可愛い!」

「ネイラ!私にも抱かせて!」

 

 気付けば女性陣が集まりアーデに群がる。まさにハーレムというやつだ。まあ、アーデはまだ一歳だ。ハーレムなんてもんはわからないだろうが……

 

 と、アーデ見るとニヤニヤとあの笑みを浮かべ鼻を伸ばしている。どうやら、女癖は俺のが強く遺伝してしまったようだ……

 

 里全体でのアーデの誕生日会は里長が飲み潰れ倒れたのをきっかけにお開きとなった。

 

「はぁー」

 

 息子は家に帰ると疲れたようにソファーに身を投げた。息子も息子なりに立ち振る舞っていたのだろう。まだ一歳だというのに大したものだ。やはりネイラとミュケの教育の賜物だろう。それに対して俺は息子のために何かできているだろうか……

 

「アーデ!こっちきて!」

 

 ネイラは片手を後ろにちょちょいとアーデを子招きしている。それを見て俺も台所に隠していたものを取り出す。

 

「んー?なにー?」

 

 とことことネイラに歩く姿が微笑ましい。

 

「じゃーん!改めて、誕生日おめでとう!アーデ!」

 

 アーデはうおっと低い声を出して差し出されたものを見ると、興奮したように飛び跳ねた。

 

「これって……!魔術書!?」

「ふふ、アーデずっと欲しがっていたでしょ?」

「うわぁ!やったぁ!ありがとうお母さん!」

 

 アーデは俺やネイラが魔術を使った日から目を輝かせて魔術を教えてほしいとねだってきた。しかし、子どもの魔力は一歳になるまでは安定しないため、一歳を迎えるまでは魔術を教えるのはご法度となっている。また、文字を読めなければ魔術書を読むこともできない。アーデはこの日までにミュケの指導の下毎日勉強し、ある程度の読み書きができるようになった。

 それもあってか今日のアーデは朝からずっとソワソワしていた。あいにく今日は誕生日会の準備と警備の仕事で教えることはできなかったが、明日からは早速魔術に触れさせていこと思う。

 

 本を抱いてはしゃぐアーデは俺と目が合うと姿勢を正した。俺からのプレゼントを期待しているようだ。

 

「アーデ、父さんからはこれを贈ろう」

 

 俺はアーデに木刀をプレゼントした。三歳から剣術と魔術を教えるというのはあくまで基準だ。この子の成長具合を見て、里長からも早めに教えるに越したことはないと助言をもらったため、明日からは剣術の基礎にも触れさせていこうと思う。

 

「おぉ……!」

 

 アーデは両手木刀を受け取るとこれまた目を輝かせた。

 とりあえずよかった。本を貰ったあの喜びようからしたら木刀じゃ嬉しくないかと思ったが、本と木刀を持って礼を言う息子を見て杞憂に終わった。

 

 さて、明日からは朝の時間に剣術を教えていこう。

 この里は十歳になった子どもは里を出て冒険者になることになる。世界を見て、己を高め、またいつか里に戻るもよし、何処かに住居を持ち一人暮らしをするもよし、竜人族は十歳になれば一度里離れをするのだ。

 その時に備え、親は子供を鍛える義務がある。だから俺はしばらく仕事の量を減らしてもらい家にいる時間を多くすることにしている。この一年、息子に構ってあげる時間があまりなかった分、しっかりと付き合っていこう。

 

 こうして一日は終わり、家族三人で川の字になってベッドに入る。アーデはなんだかんだ疲れていたのだろう。ベッドに入るとすぐに寝息を立て始めた。

 

「一年もあっという間ね……」

「……ああ、そうだな」

 

 ネイラは優しくアーデの頭を撫でる。

 

「明日から剣術を教えるのよね。あまり……無理をさせちゃだめよ?」

「わかってるさ。アーデはまだ一歳だ。他種族と比べると成長はかなり速いが、産まれて一年でできることなんてあまりないだろう。気長にやっていくよ」

「うん……そうね。それにお仕事もあるけど今まであまり一緒にいてやらなかったでしょう?明日からはたくさんかまってあげてね」

「もちろん」

 

 それとなくいいムードになってきたところでネイラにキスをする。いつもならここから夜の戯れが始まるのだが、今回は息子がいる。またの機会にしよう。

 

 互いにそれはわかっており、長い口づけを終えるとふと、下から視線を感じた。

 

「…げへへへ……」

 

 胸元からは下品な笑みを浮かべた息子がニヤニヤとしていた。

 

 

 




今回の登場人物
アーデ・デメテール…本作の主人公。転生者。父親譲りの女好き
ネイラ・デメテール…アーデの母親。回復魔術系統が得意。息子大好き
クレオス・デメテール…アーデの父親。剣術に長けている。警備隊隊長
ミュケ・デメテール…里の元住民。ネイラの出産とその後の面倒を見た。今は世界を旅をしており、たまたまネイラの出産に立ち会うことになった。
オリオント・デメテール…里長。髭。声がでかい。
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