この世界に来て一年が経った。最初は言葉も文字もわからないという状況だったが、母親のネイラとミュケというお手伝いの人が読み書きを教えてくれたおかげである程度の理解ができるようになった。
しかし……この世界の人はみんな美人だぁ……。ネイラの程よい胸も、ミュケの巨乳も素晴らしい。昨日は俺の一歳の誕生日で里のみんなが祝ってくれたが、俺がまだ可愛いこどもということで多くの女性陣が寄ってたかってきてくれた。これはあれだ、ハーレムだ。前世の俺にはまずあり得ないこと。
つい、女性の前では鼻を伸ばしてしまうが、父親のクレオス譲りということらしい。まあ、俺の場合は元からそうなのだが。見た目が子供!中身は中年!ってな。
ちなみに俺が産まれたこの里はデメテールというらしく、皆この里で産まれた者にはデメテールという姓がつけられるようだ。所謂種族を表す名前だ。よく物語の設定であることだ。
だが、みんなデメテールだと他所から見たらあんたら何人家族!?って感じになりそうな気もする。現に俺も誰がどの家庭の人なのかまったく分からん。みんなデメテールだもの。
「ふぁ……」
大きな欠伸をしつつ、体を起こす。既にネイラとクレオスは起床しているらしく俺一人が取り残されていた。
ああ、そうだ、今日から剣術と魔術を教えて貰うんだ。ここは剣と魔法の異世界だ。俺自身、魔法が使えることにかなり興奮した。いや、まだ使えるかは知らんけど。
なんでも俺の種族は竜人という厨二心をくすぐるもので、魔術に長けた種族らしい。俺の前世の影響があるかはわからんがこっちの世界の体ならきっと大丈夫だろう。大丈夫だと、思いたい。
だが、やる気は十分だ。ピョンと身軽に飛び起きて寝室を出る。ドアを開けるとリビングといえる空間だ。里の家ということで二階は無いが、十分の広さだ。土の魔術で作られているためレンガのようなものでできている。いやあ、魔法っていいね!この世界では魔術で統一されているみたいだが。
「おはよう、アーデ。顔を洗って着替えたら外でお父さんが待ってるわよ」
「はーい」
ここには洗面所はないので、ネイラが水の魔術でタオルを濡らしたものを使って顔を拭く。
食卓として使う机の上には昨日ミュケに貰った動きやすい拭くが置いてある。今日からの稽古のために三着ほどプレゼントしてくれたのだ。
布の上着に革のズボンさながら初心者冒険家のような格好だ。
「わぁ!似合ってるわよアーデ!」
ネイラが嬉しそうにパチパチと拍手をする。うん、この異世界って感じの服装は心躍るものがあるな。
「ありがとうお母さん、それじゃ稽古行ってきます」
なんか普通の受け答えをしているが、実は俺、この世界ではまだ一歳なのだ。もう一度言おうと俺はまだ一歳だ。
前世じゃ普通にありえない。一歳で流暢に喋り、剣を振るのだ。
まあ、竜人族が成長がクソ早いってのは聞いたんだがな。それにしても早いだろ。一歳だぞ。中身は中年だが。まあ、俺としては変に一歳児を演じる必要がないため楽ではあるがな。
玄関から出ると既にクレオスは上裸で剣を振っていた。鍛え上げられた肉体は男の俺でも見惚れるものだ。剣を振るたびに浮き出る腕の筋肉のライン、でかい胸筋、引き締まった腹筋、どれも素晴らしい筋肉だ。俺もぜひあの筋肉が欲しいものだ。
「おっ、来たなアーデ」
『よ、よろしくお願いします!」
45度の礼をするとそんな畏まらなくていいと笑われた。最もこの世界での礼儀作法は知らん。そこんところは今はまだいいだろう。
「よし、じゃあまずは基本の基本、剣を持ったステップだ。これは魔術でもそうだが一回一回のステップでの移動をすることで隙を減らすことができる。敵と戦うときは如何に素早く動けるかで生存確率はだいぶ変わるぞ」
無言で頷く。
所謂チュートリアルみたいなもんだな。右も左も分からん状態で実戦に入っても瞬殺されるのがオチ。よく漫画の主人公なんかはこの時の教えが九死に一生を得ることもある。
「よし、じゃあまずは俺が手本を見せるからよく見てるんだぞ」
お、まずは指導者がやってみせる教育か。なかなか良い指導じゃないか。
クレオスは前、後、横、斜めとステップを入れる。が、速い、速すぎる。目で追うのがやっとで具体的な動きがわからん。てか、その動きちょっと慣性の法則無視してない?大丈夫?俺にできんの?
「まあこんなもんだ。まずはやってるのが一番だ」
まじか……理論とか論理とか一切皆苦、体で覚えろってやつかぁ。
とりあえず剣を構える。今持っているのは昨日クレオスから貰った木刀だ。さほど重さは感じず結構しっくりきている。
「ハハハっ、力が入り過ぎてるぞ。もっと肩の力を抜いて、まだ始めたばっかなんだし失敗なんか当たり前だろ?」
うん、いい父親だ。
「スー……ハー」
深呼吸をして肩の力を抜く。クレオスは小さく頷いて広角を少しあげる。どうやら余計な力は入ってない状態にできたみたいだ。
足に力を込める。前屈みに上体を倒し直線に突っ込むイメージで思い切り地面を蹴った。
「っ!うおぉ!?」
「……!」
想像以上に勢いが強くロケット頭突きのように飛び出した。当然ここまでとは想定しておらずコントロールができるわけもなく……
「……ぁぎゃっ!!」
庭にある木に頭からぶつかった。あ、首が変な方向に曲がった……
これ、首の骨逝ったな。うそ、死ぬやん。
「……あ……がっ……」
首を押さえこれから迫ってくる死からなんとか逃れようともがく。しかし、たかが一歳にできることなど何もない。意識どんどん薄れ……
「…………ん?」
押さえていた手を話す。上体を起こし首周りに異常がないか確認する。
「なんともない……」
普通なら明らかに死んでた。なるほど、これがこの世界の体の耐久力か。
「アーデ!大丈夫か!?」
遅れてクレオスはハッと我に帰り駆け寄る。今のは流石に反応できないよな。なんともないのに余計な心配をさせてしまった。
「ははは……失敗しちゃった。でも大丈夫。なんともないよ」
「ほ……本当か?いや、母さんに診てもらおう」
一旦家に戻りネイラに回復魔術『ヒール』をかけてもらう。少しネイラはご立腹のようだ。
「もう!だから無茶は駄目って言ったじゃない!」
「申し訳ない……」
「申し訳ない……」
父と息子は揃って母親に頭を下げる。その様子が可笑しかったのかそんなに怒られることはなかった。
うーん、どうやらこの世界の基準を見誤っていたようだ。この世界の人は化け物なんだ。一歳がこれほどの力を持ち、言葉を話し、理解し、五歳には中学生のような扱いになり十歳じゃもう大人の扱いで一人旅だ。こりゃ呑気に気ままに生きていくのは無理なんだろうな。
訓練を始めて三日が経った。
「ハッ!フッ!よっと!」
ある程度ステップの制御ができるようになり、今はステップと斬り払いを組み合わせた動きを習っている。
「いいぞ!次は前ステップ斬り払いの直後にバックステップだ!」
「はい!」
これはヒット&アウェイの戦法だ。相手に肉薄した後すぐさま敵の間合いかは離脱することで安全にかつ、一方的に攻める。基本の立ち回りだ。
この立ち回りを何度も何度も繰り返して体に染み込ませる。同時にバックステップ後に受け身の練習もする。
「そこまで!」
「はぁ……はぁ……!」
汗だくにあった頬を腕で拭う。
「いい動きだなアーデ。我が子ながらここまで出来ると逆に怖くなるほどだよ……」
クレオスは苦笑しながら俺の頭を撫でる。
そうなのだろうか?周りの人なんて岩をダンベル代わりにトレーニングする人なんているっていうに。あ、そうか、俺まだ一歳だわ。
鍛錬は終わり家に帰るとネイラは台所で朝食の準備をしていた。
「あ、お疲れ様二人とも。今ご飯作ってるから水浴び済ましちゃって」
もちろんこの世界にも風呂が……というわけにはいかず、この里には風呂なるものが存在しない。そのためネイラが水魔術で作った水球に飛び込み体をさっぱりさせる。いやぁ、魔術ってやっぱ有能だね。
水浴びを終えた後家族揃って朝食を食べる。その後クレオスは里の警備の仕事に向かうため俺は念願の魔術をネイラから教えてもらう予定だ。
「アーデは逸材だな。父として鼻が高いな」
俺の噂は既に里全体に広がっており一目浴びている。
「アーデの将来が楽しみね!きっとお父さんみたいにカッコいい男になるわ〜」
「そうだな、そして母さんみたいに素敵な女性を見つけるんだぞ」
「素敵な女性だなんて……クレオスったら……フフっ」
「ネイラはこの世界で一番の女性さ。俺は死ぬまで……いや、死んでもお前を愛すよ」
「クレオス……」
「ネイラ……」
俺は一体何を見せられてるんだろうか。まあ夫婦円満なのはいいことだ。だが、一歳の息子を目の前にイチャイチャするんじゃない。ちくしょう、羨ましい……
「クレオス、今日の夜は?」
「ああ、やろう」
どうやら今晩二人はヤルらしい。夜な夜なネイラの喘ぎ声が聞こえるのはいつものことだ。こんなに美しい女性の喘ぎ声となると俺もそそられるものがある。しかし、この体が一歳だからか俺の股にぶら下がる聖剣は反応しない。俺の脳内はフィーバーを起こしているんだがな。
「アーデ、今日の夜は一人でも寝れる?」
「うん、大丈夫だよ」
ここではそれらしい振る舞いをしておこう。夜になったらドアからこっそり覗いてやろう。ゲヘヘ……
朝食を終えクレオスが出かけた後、俺はネイラと一緒に魔術書を読んだ。
いろいろと複雑な内容であったが、それなりに理解できた。とりあえず、この世界の魔術についてまとめるとざっとこんな感じだ。
○この世界に存在する魔術の基本属性
火、水、風、土、光、闇の六大属性が存在する。この属性の他にも派生で氷などが存在するが、それらは超級魔術にあたるため扱える者はそう多くはないとのことだ。
超級魔術と説明したが、魔術には等級が存在する。一番下から順に説明しよう。
下級魔術、中級魔術、上級魔術、超級魔術、賢者級、賢神級、彗星級がある。彗星級なんて神の名がつく賢神級より上とかどんだけ凄い魔術なのだろう。
ちなみに1つでも各級の魔術を習得するとその級の肩書きを名乗ることができる。例えば、上級魔術を扱えると上級魔術士といった感じだ。
基本的に魔術は他者に教えてもらうことで習得することができる。また魔術書に記載されている呪文を唱えることでも可能だ。
剣術も同じように等級がある。
下級剣術、中級剣術、上級剣術、超級剣術、剣王級、剣神級だ。剣術の方が等級の数が少ないが一つ一つの等級の差が大きいのが特徴である。あと、剣術に置いては師から認められなければ下級でも肩書きを名乗ることはできない。
魔術は上級を扱うことができればパーティに引っ張りだことはネイラの話である。
聞いたところ、クレオスは剣術が超級、ネイラは魔術が上級を操ることができるそうだ。
兎に角、千里の道も一歩からだ。何事も地道な努力の積み重ねが成長につながる。そう信じて日々頑張っていこう。
プチ情報
クレオス……超級剣士。大剣を駆使するデメテールの警備隊隊長。彼からから放たれる一撃は巨大な魔物も一刀両断する。
ネイラ……上級魔術士。扱える属性は火、風、闇、光と治癒系統の補助魔術を使える。二年前まではクレオスと同じく警備隊であったが、妊娠してからは休隊している。クレオスとは幼馴染。