エレウシスの盃   作:通りすがりのアンパン

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白雷麒麟(ジラ・ツァガコニス)

 詠唱魔術の特訓が始まって1ヶ月。首尾は上場。

 

 現在俺は全ての属性を扱うことができその中で自分と相性が良い属性魔術を厳選中だ。

 

「どうですか?私的には火と光と闇の魔術が適していると思います。個人的には師弟関係である以上水魔術は受け継いでほしいところですが……」

 

 この1ヶ月で俺は正式にニコラに弟子入りすることになった。そのこともありニコラは俺のことを君付けでは呼ばなくなった。俺的には距離が近付いたようで嬉しい。

 あと、今ニコラが特訓している賢者級水魔術が習得できたら、ニコラは王都から水帝魔術士という称号が貰えるようだ。賢者級魔術が使える者にはこうした称号が与えられ優遇されるという仕組みがあるらしい。

 

「もちろんですよ師匠!水はどんな状況でも対応できる柔軟さがあります。それに水は生活でも必需品ですからね」

 

 ニコラは感心したように頷く。アーデが水魔術を受け継いでくれることが嬉しいようだ。

 

「それに俺自身も火と光と闇の魔術が使いやすいって思ってました。無詠唱でコントロールしやすいので水も合わせてこの4つの属性に縛って特訓していきたいと思います」

 

「わかりました。私もその4つが得意ですので教えられることは全て教えましょう」

 

 現在火、水、光、闇は全て中級を扱えるようになった。ここからはこの4つを上級、超級へと上げていく。ニコラは超級を扱えるようになるまでに五年かかったらしいが俺なら1年でいけるだろうと計画を練っているらしい。師匠が五年かかったものを一年で習得なんて少々過大評価だと思うが。

 

「やるっきゃないな!」

 

 師匠の期待に応えたい。そのためにもまずは上級を習得する。

 

「私も無詠唱まではいかなくても短縮詠唱を使いこなせるように頑張ります」

 

 お互いに目標がある。いいことだ。

 

 今日はひたすら中級水魔術の無詠唱特訓だ。無詠唱の何がいいかと言うと相手が対応できないことだ。詠唱をすれば相手にどの属性の魔術を使うかがバレてしまうため多少の猶予を与えてしまう。だが、基本は短縮詠唱がいいだろう。威力とコントロールが安定するため無詠唱にこだわる必要はない。

 まあ、強力な魔術で力尽くでねじ伏せればいいのだ。

 

「よし」

 

 手に意識を集中、込み上げてくる魔力を手のひらから放出するイメージで……

 

「ふん!」

 

 魔法陣が展開、魔力が解き放たれ螺旋水瀑(ウォーター・ハイドロボム)が発動する。

 

 よし、いい感じだ。

 

『水のマナよ、我に集え!『螺旋水瀑(ウォーター・ハイドロボム)!』

 

 ニコラも短縮詠唱に慣れてきたようだ。よしっと小さくガッツポーズをしているのがまた可愛い。これは今日も水浴びを拝まなければ。

 

 次は先日習得した水魔術『水牢獄(ウォーター・プリズン)』だ。

 

 字の通り相手を水の中に閉じ込め窒息させる恐ろしい技だ。

 

 対象は対魔術人形。ニコラが持って来た魔術の練習用魔道具だ。

 魔道具についてはまた今度説明しよう。

 

 相手を水の中に閉じ込めるイメージを描きつつ、手に水の魔力を込める。

 

「……ふっ!」

 

 魔法陣が展開されたと同時に人形が水の中に閉じ込められる。この展開スピードは実戦でも使えるだろう。

 

『水の精霊よ、集え』

 

 途端、ニコラが詠唱を始めた。水の精霊から始まる詠唱ということは超級魔術だ。

 

『超級たる我が命じる。凍てつく千の氷柱似て敵を貫け!‘氷柱千針(アイシクルニードル)’!!』

 

 両手に水色の冷気を纏った魔法陣がニコラの足元に出現したと同時に無数の針の様な氷が周囲に浮かび上がった。

 

「す、すげぇ……!」

 

「はっ!」

 

 ニコラが手を振り抜くとつられるように氷の針か人形へと襲いかかる。

 俺のウォーター・プリズンは一瞬で破壊され無惨に人形に突き刺さる。あんなものを人間が食らったら酷いでは済まないだろう。

 

 しかし惜しい。魔術の勢いでスカートが捲られパンツが拝めると思ったがギリギリ見えなかった。

 いや、むしろいい……!

 

「今のが超級魔術、アイシクルニードルです。前に六大属性の他に派生属性があることを言いましたね。今のは水魔術系統の氷属性魔術。超級以上の魔術士が使えるものです」

 

「流石です。やっぱり超級にもなると周囲への影響が出るみたいですね。ちょっと肌寒いですもん」

 

 超級ほどになると環境への影響が若干出る。これが賢者級、賢王級となれば天災とも言える影響を与えるのだろう。

 

「おーい!二人とも!」

 

 声のする方を見ると今日朝から出かけていたクレオスが嬉しそうに手を振りながらこちらに歩いて来ている。その隣にはネイラもなんだか嬉しそうにクレオスと腕を組んでいる。

 

「なんだろう。めっちゃニヤけてる」

 

 ニコラと目を合わせると彼女もさあ?という表情をしている。

 

「二人とも、心して聞いてくれ。ネイラに新たな命ができた」

 

 一瞬思考が停止したが、すぐに理解した。

 

「もしかして、赤ちゃんですか!?」

 

 俺が答えるよりも先にニコラが叫んだ。それ俺のセリフな。師匠だから許すけど。

 

 ニコラの言葉にネイラが頷く。

 

「アーデはお兄ちゃんになるのよ」

 

 お兄ちゃん……俺が……お兄ちゃん……

 

「うぉぉぉおおお!!」

 

 俺は叫んだ。何故なら前世において俺は末っ子だった。友人が妹や弟の話をしているのを羨ましく聞いて俺にも下の子がほしいとどれほど願っただろう。ついにその願いが叶うのだ。

 

「はははっ!アーデがそこまで喜ぶなんてなかなかないな!今日は宴だ!既に里長に話はしてある。夕方になったらいつもの広場に行こう」

 

「俺が兄になるなら立派でないとな。よっし!やる気出てきた!今日は四属性無詠唱制覇するぞ!」

 

「アーデ、あんまり無理したらダメですよ」

 

 ニコラの忠告はあったものの、ハイになった俺を止めることができる者はいなかった。結果三時間後に俺は魔力を使い果たしぶっ倒れた。

 ニコラからはお叱りを受けたのと、三時間も魔力を放出し続けるなんてどんな魔力タンクなんですか……と驚愕された。魔力量だけは俺の自慢だからな。

 

 

 夕方。

 

「ガハハ!今日はめでたいぞ!二人の妊娠だ!」

 

 おや、どうやらネイラだけでなく他にもいるらしい。

 

「ネイラさん!レアさん!おめでとうございます!」

 

「ありがとうコレー!」

 

 妊娠したのはレアという人らしい。これまた美人な人だ。ショートな髪に里の民族衣装である黒を基調としたポンチョに似た服を着ている。俺は毎日訓練をきているため動きやすい服装であるが、ネイラは基本この民族衣装を着ている時が多い。

 

 そして二人を祝福しているのはコレー。俺の4つ上の竜人で来年から旅に出る予定だ。たまに一緒に訓練をすることがあり、その度に俺に魔術を教えてほしいとせがまれる。彼女は剣術の方が好みらしく、逆に俺は彼女に剣術を教えてもらっている。これでも毎日素振りと基本の動きは続けてやっているのだ。剣術の動きは戦場においてかなり重宝する。詠唱中も機敏に動き回ることで隙を減らせるからな。

 

 祭りはいつも馬鹿騒ぎだが、妊娠している二人を気遣ってか酒はほどほどにネイラとレアとの会話を楽しんでいるようだ。

 

「アーデ!魔術の調子はどうだ!」

 

 ガハハと軽快に笑う里長こと、(オリオント)につかまった。

 

「師匠のおかげで随分マシになったと思いますよ。明日は上級魔術を教えてもらう予定です」

 

「そうかそうか!お前はニコラの弟子になったのだったな!彼女は優秀な魔術士だ。きっとお前を成長させてくれるだろう」

 

「はい。俺もそう信じて彼女についていきます」

 

 ニコラはいい先生だ。まずは自分がお手本を見せて一つ一つ丁寧に教えてくれている。最近は魔術の他にこの世界の知識についていろいろと教えてもらっている。里の外のことを知らない俺のために簡単な計算などの勉強や、冒険者としての心構えなど、毎日俺のために夜遅くまで授業の準備をしてくれている。こっそり寝顔を拝もうとして部屋に入ろうとした時、ウトウトしながら教科書のようなものを作っているニコラを見た時は感謝で思わず涙が出そうになったものだ。

 

 ちなみにニコラは酒にあまり強くないのか、さほど飲んでいる印象は無かったものの既に酔い潰れてダウンしている。

 一応回復魔術で酔いも治せるのだが、こういう時は酔いを感じていた方がいいものだ。

 

「ああそうだアーデよ。そろそろ竜化で使える魔術を教えようと思うのだが」

 

 そういえばそのうち教えるって言ってたな。

 

「だいぶ竜化のコントロールにも慣れてきたので俺は大丈夫ですよ」

 

 夜に里を飛び回りある程度竜化に馴染んでおいたのだ。

 別に空を飛べるのが嬉しくて毎日やっていたとかではないぞ?嘘です。空飛ぶの夢でした。

 

「よし、ならば明日伝授しよう。彼女は明日は二日酔いで動けまい」

 

 なるほど意図的ってわけか。

 

「わかりました。では、明日よろしくお願いします」

 

 うむ!と頷いたオリオントは再び盛り上がっている輪の中に戻って行った。

 

 それからしばらくして宴は終わり各々が片付けを済ませ家に帰った。

 

 家に戻り毛布に包まる。しかし、俺に下の子ができるのか。俺は十歳でこの里を一度出るが、それまでに良い信頼関係を築いておきたいものだ。やはり長男としていい格好を見せたい。そのためにも魔術は超級まで扱えるようにしたい。

 

 明日も早い。今日はもう寝て体を休めよう。

 

 そう思いアーデは目を閉じ意識を手放した。

 

 

 翌日。

 

 俺は朝早くから里からかなり離れた草原に来ていた。もちろんオトモはオリオントだ。

 

「よし!さっそく始めるぞ!まず竜化しろ!」

 

「は、はい!我、竜の化身!」

 

 ささっと竜の姿になる。竜化はもうお手の物だ。

 

「ガハハ!随分と慣れたようだな!我、竜の化身!!」

 

 続いて野太い声と共にオリオントも竜化する。

 

「古来より竜は天災をもたらすと言い伝えられている。竜の現れし所、すなわち天災の訪れとな!」

 

 おお、そういう伝承的なやつ結構好きだぞ。

 

「実際、竜の扱う魔術は天候の操作、周囲の環境に影響を与えるものばかりだ。それは使用する魔力量が絶大であることが理由だ。この世の全て、森羅万象には魔力が宿っている。竜はそれらの魔力を利用し、人では扱えないほどの魔力量を従え、魔術を使用する」

 

 なるほど、元○玉みたいなもんだな。

 

「環境に影響を与えるということは、賢者級魔術ですか?」

 

 ニコラが習得しようとしている賢者級魔術は雨の水を一点に集めて超高圧力の水砲弾を地上に叩き落とすという壊れ技だ。大きさは汎用が効き、この一撃をくらった者はプレスにかけられたように潰れるそうだ。ちょっと想像したくはないな。

 

「ガハハ!賢者級のさらに上、賢王級だ!」

 

「ははは!そりゃ凄いですね!…………えぇえ!?」

 

 まだ俺上級すら習得してないんですが……

 

「心配はいらんぞ!何せ我らは竜化してるからな!ガハハ!」

 

 やっぱ竜化って凄いんだな……俺てっきり移動が便利になるくらいだと思ってた。許してちょ。

 

「よし、頭を貸せ!」

 

「え、あ、はい」

 

 突如頭を鷲掴みにされた。頭皮には優しくしてね?禿げは勘弁。

 

「我が手本を見せてもいいが、2回もこの魔術を使うと地形が持たんからな!」

 

「え、えげつないですね……うぉぉお!!?」

 

 少し鷲掴みしているオリオントの手に力が入ると全身に衝撃が走った。なんというか頭の中に記憶を直接叩き込まれる感じだ。

 

「魔術の名は『白雷麒麟(ジラ・ツァガコニス)』」

 

 脳内に詠唱が流れ込んでくる。

 

「さあ、使ってみろ!対象は草原の遠くの方だ!」

 

 オリオントは自身に防御魔術を使い俺から離れる。

 

 賢王級がどれほどの規模なのかはわからない。だが、きっと想像を遥かに凌駕するものなんだろうとは思う。そんな魔術を自分が使うわけだからか、少し怖い反面楽しみでもある。

 

 大きく深呼吸をして、詠唱を開始する。

 

『我が龍神の盟約に従い、森羅万象、全ての在るもののマナよ、集え。竜の名のもとに、雷を司る神よ我の望みを叶え給え。天より轟く豪雷よ、一閃の光となりて大地に降り注げ。奏でるは鳴神、大いなる曇天よ全てを覆いて、竪琴を奏でん!』

 

 詠唱と共に空がドス黒くなりバチバチと稲妻が走っている。これは、やばいやつだな。

 

『‘ 白雷麒麟(ジラ・ツァガコニス)’!!!』

 

 刹那、世界が瞬いた。

 

「「カァァァァアアッッ!!!!」」

 

 視界が白く包まれた数秒後耳を突き刺す轟音が響き渡る。地震が起き、空は荒れ狂い、ジラ・ツァガニコスが落ちたであろう場所は巨大なクレーターになった。

 

「…………」

 

 アーデは唖然としていた。本当に自分がこの魔術を使ったのかと。天災だ。まさしくこれは理を外したものだ。

 

「ガッハッハッハ!!さすがだ!アーデよ!」

 

 オリオントは愉快に笑いながら俺の肩を叩いた。

 

「今まで龍神の加護を受けた者にはこれを教えたが、誰一人として扱うことができなかった。ジラ・ツァガニコスを正式に受け継いだのはお前が初めてだな!」

 

「そう……ですか」

 

 果たして喜んでいいのだろうか。なんか世界征服を企んでいる魔王にでもなったような感じなんですけど。

 

「この魔術をお前に教えたのはちゃんと意味があるぞ」

 

 俺の考えを察したのかオリオントは竜化を解き竜人の姿に戻る。俺も続いて竜化を解いた。

 

「この魔術は味方を護り、敵を滅する魔術だ。今回は初めてってのもあって防御魔術を使ったが、見ての通りお前も我も傷一つない」

 

 確かに俺はあの閃光を直視してしまったが失明はしてない。

 

「つまり、これは仲間を守る力だ。むしろもっと誇れ!」

 

 そう言われるとジラ・ツァガニコスを使う恐怖が少し無くなった気がする。

 

「あ、そういえば明日ニコラ先生に上級魔術を教わるんです」

 

「ほう」

 

「賢王級魔術覚えたこと知ったらどうなるんでしょう」

 

「…………黙っとけ」

「はい」

 

 こうして俺とオリオントの男の約束が成立した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




プチ情報コーナー
白雷麒麟(ジラ・ツァガコニス)は古来龍族が扱っていたとされる超大型魔術。龍の形をした雷を落すというシンプルなものであるがその威力、範囲は賢者級魔術も比にならない。また、味方には一切影響が無く、使用者が敵と定めた対象にのみ効力を発揮するという効果を持つ。
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