お荷物勇者のおんがえし 作:《主人公を選択してください》
2021/3/2追記
意図しない動作により、PC版では『もう一つのEND』が表示されない不具合を修正しました。
またそれに伴い、『特殊タグ』要素がわかりにくいとの声がありましたので、後書きに『攻略の助言』を追加しました。
加えて、本文中に一文だけ加筆しました。
お荷物勇者と、全ての国民から呼ばれている。
俺には何も『神の加護』が宿っていないと王宮が公表して以来の事だ。
……いや。実際にはそれ以前、王宮就きの騎士が戦いの手解きを付けてくれていた頃には、他の勇者二人と比べられて影でそう呼ばれていた。
魔王が居て、魔族や魔物が跳梁跋扈し、魔法が実際に存在する。高校二年生の夏、そんな世界に幼馴染み二人と共に無理矢理召喚され、かれこれ五年ほどが経つだろうか。
万魔を切り伏せ、全ての魔族に対して常勝不敗。僅かなら空間すらも断ち切ってみせる聖剣の勇者。品行方正を地で行き、まさに勇者と呼ぶに相応しい男。
全ての傷を癒し、戦場の最前線で臆せず半死人を復活させ続ける神聖術の勇者。時の神にすら愛される美貌を持ち、王族から民草にまで慕われる聖女然りの女。
そして、怪物の様な膂力も、神の如き異能もなく、民兵程度の戦力しかない、荷物持ちくらいしか出来ない勇者。特別な才覚もなく、勇者二人と旅を続ける男。
……成程、お荷物勇者と呼ばれても仕方の無い体たらくだろう。
俺が第三者でもお荷物と呼ぶし、何なら離脱すら勧める。或いは二人の足でまといとして暗殺すら計画するかもしれない。この国の王がそうしたように。
だが、俺は生き延びたし、幼馴染み達に寄生虫の様に付き纏った。優しい二人も俺がついて行く事を心から歓迎してくれていた。
正直、喜び十割の笑顔を見て、罪悪感が湧かなかった事も無い。まるでヒモになった気分であった。情けなかったし、何なら元の世界……この世界から見た異世界では、お兄さん風吹かせてあれやこれやと世話焼きをしていたくらいだ。何度舌を噛み切って死のうと思ったことか。
だが、俺は離れなかった。
魔王を倒し、凱旋式で二人へと惜しみない称賛が送られ、俺には冷ややかな視線が向けられ、それを二人が俺の代わりにキレ散らかし。
王宮主催の国を上げての祝賀会を経て、神の奇跡を以て勇者送還の奇跡を成すこの瞬間まで。
何が起きても、決して。
絶対に二人から離れる訳にはいかなかったのだ。自分の保身の為に……では、なく。
俺だけが知っている、厄ネタがあったが故に。
「さあ、勇者様方。遂に皆様を元の世界へとお返し出来る。我等が世界の不始末を無関係な勇者様方に押し付けた事、改めて謝らせて頂きたい。申し訳なかった。……そして、全ての人類に変わって、深い感謝を捧げさせて頂く。我等をお救い頂き、感謝の言葉が尽きませぬ」
ぼんやりとこの世界に来てからの事を思い出していた俺は、現実へと意識の焦点を合わせた。
壮年の王が俺達へと頭を下げている。俺はそれを冷ややかに見つめた。この狸爺の親玉には何度も煮え湯を飲まされたのだ。俺だけだが。
どれだけ慇懃な態度で来られても、俺個人としては「死ね」としか感じない。
だが善人二人はそうではなく──そもそも俺と狸爺の水面下の攻防を知らない事もあり──少し慌てた様子を浮かべた。そして王へと頭を上げるように声を掛けた。
「王様、頭をお上げください。確かに最初は困りましたけど、皆さんの手助けのお陰で三人とも無事にここまで来れたんです。終わり良ければ全て良し、ですよ!」
「私も同意見。それに、地球に戻る時には元の姿で、元の時間に帰らせて貰えるんでしょう? なら何の問題もないかな。むしろ精神的に成長する良い機会になったかなって。ね、マー君もそう思うでしょ?」
勇者──聖也と、聖女──聖也との対比でそう呼ばれている──明日香が、それぞれがそれぞれの成長を思わせる台詞と共に、此方へと話を振る。
二人が並んで立つと絵になるな。こういう如何にもファンタジーな世界の中だと、特に。
等と感慨深くなっていたせいで、一瞬詰まりつつも、返答をした。
「あー……そうだなぁ。取り敢えず、毎朝聖也の家まで寝坊助を叩き起しに行く必要はなくなったな。な、元寝坊助」
「なっ、ちょっ真生!? 恥ずかしいって! 今から最後のお別れなのにそんな事言わなくても!」
「ふふーん、なら自分で起きれば良かったじゃん? こっちに来た時、メイドさん困ってたよ〜? 『聖女様! 勇者様がお目覚めになられません! 何かの呪いを受けられたのやもしれません!』って!」
「そうだな。あの時のメイドさんの表情たるや、『大人になんてなりたくない!』って理由で進路相談の紙を目の前で破り捨てられた、中二の時の明日香の担任と瓜二つだったなぁ」
「ちょっ、マー君!?」
「え、明日香そんな事してたの……?」
血生臭くない場所で、何の憂いもない三人での馬鹿話。何時以来だろうか。少なくとも、ここ三年ほどは一切記憶にない。
心底から楽しいじゃれ合い。懐かしさも相まって
周りを囲んでいる糞の塊みたいな神官共ですら、俺達のやり取りを見て楽しんでいるようだった。
──そうでなくてはならない。最後の瞬間まで、俺は皮肉屋な、
王城地下にある、巨大な魔法陣が刻まれた大広間。勇者召喚の間と呼ばれる、この世界でも数少ない、神の奇跡がそのままの形で残る場所。
この国にとって最も歴史的価値のある場所であり、
そこに俺達は居た。
緊張の汗が流れた。それはきっと、俺だけだろう。
「さて、勇者様方。思い残した事は御座いませんな?」
王の後ろに控えていた法衣の老人が問いを発する。この国の神官で一番地位の高い人物だ。
その目は『後悔はないか?』と語っているようだった。
今から行う大魔法は神の奇跡。異世界の門を開き、世界を渡る神話の再現。或いは、五年前の逆バージョン。人と神との契約に則り行われる、人類だけでは再現出来ない魔法。
当然、魔法のない世界から勇者がこちらへ渡って来る手段はないのだ。
そう。だから、例えば──もし、三人の内の誰かが取り残されたら、それは今生の別れとなる。
「……はい。寂しいですが、もう皆とのお別れも済ませました。思い残す事はありません」
「こっちの世界も楽しかったですが、やっぱり元居た世界が一番ですからね。……それに、最近は貴族の跡取りさん達のアプローチが過激になり始めてますしね!ね、マー君!」
「……」
「マー君……? どうしたの、凄い目が怖いけど。何かやり残しとかあった?」
「──んっ、あっ……いや。あれだよ、あれ……元の世界に戻って暫くは、学校の勉強困るだろうなー……と」
「急に怖い顔してたから何事かと思ったら……帰る前に現実突き付けるのやめてよね……あー……でもテスト、本当にやだなぁ……」
「あはは……まあ、戦争と違って死にはしないから、頑張ろうよ。それにこの世界で身に付けた力は向こうでも残ったままらしいし、何とかなるよ、うん。真生も、戻れても暫くは好きなゲームやってる暇ないね?」
「まあ……そうだけど、ゲームはもう良いさ。この世界で
「そういうものなの?」
「ああ。そういうものさ」
だって──現実がゲームを超える瞬間を、何度もこの目で見たのだから。
「……それでは、勇者様方。魔法陣を起動致します。皆様に我等が神の祝福を」
神官共が一斉に魔法陣へと魔力を流す。神の偉業を成すには到底足りないが、これらはあくまで呼び水のようなものだ。
この巨大な魔法陣は世界から魔力を吸い上げ、一つの道筋を作る為のものだ。
それは異世界へと続く道──ではなく、神がこの世界へと降り立つ為の
世界が凍りついた──そう、錯覚した。
神官共も狸爺も、他の誰も彼もが動かない。動けない。
この場に居る事を許された
何かの気配が、目の前に
《──人の子よ。愛しき我が子達よ。よくぞ我が前に戻って来てくれた》
声がする。体全てが春風に包まれた様な感覚がする。
そして、それは当然の様に、目の前に居た。
それは中性的な何か、と呼ぶしかない存在だった。男のようで、女のよう。年老いてそうでもあるが、年若くも見える。そもそも人であるか獣であるかすら区別がつかない。そんな何か。
そいつこそが俺達をこの世界へと連れて来た神であった。
「お久しぶりです、神様。約束通り、魔王を倒して来ました」
聖也が俺達を代表して神と対話する。こういう時、俺達の代表を聖也がよく務めてくれる。
《ああ、我が勇ましき子よ。見ていたとも。聞いていたとも。この世界の全ては我が内にある。我が勇ましき子達の奮闘のお陰で、汝が兄弟達は救われた》
「……じゃあ、ちゃんと約束通り、私達を元の場所に元の姿で戻してくれるのよね?」
《ああ、我が麗しき子よ。勿論だとも。我は約束を守るとも。貫くとも。全ては我が子達の願うがままに。そして我が麗しき子達の願いを何でも一つずつ、叶えよう》
明日香がほっとした表情を浮かべた。
いざとなったら約束を反故にされるのではないかと疑っていたらしい。多くの人に慕われつつも失われないその慎重さは、彼女の美徳だ。
魔王を倒した暁には、俺達の願いを何でもひとつずつ叶え、元の時間の元の場所へ、元の姿で戻す。
その為にも先払いとして、俺達一人ひとりに見合った『神の祝福』を、神が俺達に授ける。
それが俺達と神との間の取り決めだった。
人間目線では途方もない報酬で、明日香は神が本当に叶えられるのかが心配になったのだろう。成程、道理だ。聖也も何処かほっとした雰囲気を纏っている。
だが、こいつは嘘を吐かない……というより、吐けない。そういう存在なのだ。何かしら、異常が起きてさえいなければ。
だから、それよりも本当に確認するべきは。
「神よ。約束の履行の前に、少しお尋ねしたいのですが、宜しいですか?」
《ああ、我が優しき子よ。何でも答えよう。幾つでも教えよう。最後まで
「神よ、感謝します。では──貴方は人の心が分かりますか?」
聖也と明日香が不思議そうな顔を浮かべ、神からこちらへと顔を向けた。
何故今そんなことを?と幻聴がしそうだ。
だが、俺は確認しなければならないのだ。この神が、元々は異世界人やら転生者やらの類から神へと至った
《我が優しき子よ。我は神、我は全。人という個を知れど、人に在らず。個に在らず。理解はするが、
「感謝を。……それでは、神は生まれ落ちた時から神であったのですね?」
《我が優しき子よ。惜しくも否である。私は生まれ落ちた事はなく、初めから
「そうでしたか。失礼な事をお尋ねしました。どうも神話の類には目がない性分、我等が居た世界の神とどれ程異なるのかと思いまして」
勿論、嘘である。そして嘘であると、神にはばれているが、問題ない。こいつはそれでも動かない。
それにこの嘘は、幼馴染み二人の疑心を少しでも薄くする為のものだ。この二人に確信を持って疑われさえしなければ、何も問題はない。
そして、俺が抱えていた懸念事項は、神の反応から恐らくは白だと判断した。あまりにも俺が
俺は改めて、口を開く。
「では質問をもう一つ。……異世界の人間と私達は、また出会いますか?」
「……マー君?」
明日香から、きょとんとした顔を向けて来る気配。質問の意図に疑問を覚えたのだろう。声にこそ出していないが、聖也からも同様の気配。
今度こそ、二人とも怪訝な顔をしているだろう。
さもありなん。異世界の奴等と俺が険悪だったのは、二人とも知っていた。険悪な理由こそ二人とも知らないが、それでも色々と案じてくれていた。
一週間にも渡って行われた祝賀会でも、俺と異世界人との間で騒動が起きなかったのは、二人が積極的に矢面に立ってくれていたからだった。
二人が俺に隠れてそのような打ち合わせをしていたと知っている。……たまたま立ち聞きしたどこぞの貴族のボンボンが、俺へ嫌味を言う際に漏らして来たから。
俺の質問の意図を計りかねている二人を置いてけぼりにしつつ、話は進む。
《我が優しき子よ。我が子達は再び汝が兄弟達と巡り会う》
「……わかりました。ありがとうございます」
ああ、やっぱり。俺がそう思うと同時に、聖也からは、少し期待を含んだ声が上がる。
「……横からすいません、神様。それはつまり、この世界と僕達の世界の交流が始まると?」
聖也は生来の人たらしを異世界でも遺憾なく発揮し、それなりに仲の良い奴が何人か居た。明日香も同様だが。
《その通りだとも。他ならぬ我が子達がそれを望んだのだ。我が子達は、我が力を以て汝らの元へと駆け付けよう》
当然の様にとんでもない発言をする神へと、聖也が驚いた声を上げた。
「神様、そんな事が可能なのですか? 僕達が帰るだけでもかなりの魔力を必要とすると聞きましたが……」
「あれじゃない? 選ばれた者だけが〜とか。それにほら、私達って一応勇者だったから、転移するのにも普通の何百倍と魔力が必要だったし、神様の力を借りればそんなに魔力使わずにいけるんじゃない?」
聖也の疑問へと、明日香が自身の経験を元に意見を述べる。明日香はこいつとは別の神にストーカー紛いな事をされた影響もあり、神への態度はなかなか不遜だった。聖也と神の会話にも普通に割り込んでいた。
そしてこの神も、それを許容する。
……まるで旧来の友人だけが集まったかのような世界が繰り広げられている。
だがそれはそれとして、明日香の意見はある意味正解で、ある意味外れでもあった。
《我が勇ましき子よ。我が麗しき子よ。我が世界の理を身に付けてくれたことを嬉しく思う。だが、我が権能へはいまだ届かず。我が力、全ての愛しき命を我が勇ましき子達の世界へと送る事が叶う。戻す事すらも容易となる。我が寵愛を受けし勇者以外ではあるが》
「……」
俺は静かに腹を括った。
良い奴を極めた幼馴染み二人は純粋に、今生の別れと覚悟していた異邦の仲間達と再会出来る可能性に喜んでいたが、違うのだ。
こいつに悪意がない為、二人は気付かない。下手に異世界で五年の時を人類という奪われる側で戦い続けたせいで、気付かない。
──その宣言は、即ち。奪われる側が奪う側となり得るということ。
そして、
ここから先は、一切のミスが許されなくなった。
呼吸が浅くなった気がした。
「神よ……感謝、します。世界と世界が繋がる……まるで
《我が優しき子よ。我が愛は全てを包む。そのように怯えずとも良いのだ、我が子よ。我は、我が目が届かぬ地に我が優しき子が居ても、愛している》
ちらりと、横を向く。幼馴染み二人と偶然に目が合う。微笑みが返ってきた。しかしその中に、戸惑いや、こちらを心配する感情が宿っている。しかし、俺が話したくない何かを抱えていると察して、それ以上は触れてこない。どこまで行っても良い奴らだった。
……こいつらを今から曇らせるのかと思うと、本当に罪悪感まで湧いてくる。
緊張感、罪悪感、恐怖、様々な感情が混ざって頭が可笑しくなりそうだった。だが、俺は。
《それでは我が子らよ。名残惜しいが時間である。願いを叶えよう》
降臨に使えるこの地の魔力があと僅かなのだろう。元居た世界へ帰れる時が来た。
俺達三人は真剣な顔をして、お互いを見合せた。
一歩、聖也が前へ出る。
「僕は妹の病気の完治を」
妹の生まれ持っての難病を治す。それが聖也の悲願だった。
「私は、私の周りの人達が少しでも幸せに暮らせますように」
七夕では世界平和と書くのが恒例だった明日香らしい、実に誰かの為の願いだった。
そして、俺は──。
「──この世界に、残ること」
そんな最愛の二人の為に、やり残した事を全うする道を望んだ。
《──願いを受け取った》
神の声に弾かれたように、二人が掴みかかってくる。こうやって詰め寄られるのはいつ以来だろう。ここ十年ほどは記憶にない。
光が二人を包み込み始めた。
「ちょっと、どうして! なんでそんな事を、マー君!」
「真生! 直ぐに取り消すんだ、早く!」
俺は何も答えない。涙声になってしまうから、答えられない。鼻の奥がつんと痛い。
不本意な別れだと思われるのは嫌だ。この二人に残す憂いは少ない方がいい。だから何も答えない。
「そ、そうだ! 神様! 私の願いを変更します! 三人で、三人で日本に返してください!」
「! 僕からもお願いします! 三人で帰らせて下さい!」
《……もう願いを変える事は叶わず》
「そんなっ!?」
「……おいおい。明日香はともかく聖也は駄目だろ。優里ちゃんを早く歩けるようにしてあげないと」
咄嗟に声が出た。やっぱり、少し声が震えている。失敗だった。
「うるさい! 優里の事は時間を掛ければ何とかなるかもしれないんだ! でも、でも真生は……勇者はもう、世界を渡れないんだぞ……!」
「そうだよ! もう、会えなく……なんで、そんな事を……」
話してる最中で、明日香が限界を迎えた。ぺたりと座り込む。
最近は明日香の泣き癖も収まってたのにな。聖也もなんだその面は、勇者らしくもない。なんて、薄情にも思う。
その上で、俺なんかの為に泣いてくれるのは、罪悪感とともに薄らと喜びが湧いた。俺は、異世界のクソッタレ共が言ったように、やっぱり糞野郎なのだろう。
二人の想像以上の狼狽振りに申し訳なさが込み上げてくる。が、俺は揺らがない。二人の為に。
二人の未来を守る為に。最後の
《……我が優しき子よ……本当にそれで良かったのだな?》
想像していなかった神からの問いかけに、思わず驚いた。俺のしようとしている事に気付いてるだろう癖に、どうやらまだ目に掛けてくれるらしい。こいつは、人の行い全てを肯定する。そんな
「……はい。二人を宜しくお願いします」
《勿論だとも、我が子よ……どのような結末になろうとも、我が愛している事を、覚えていておくれ》
「ありがとうございます。じゃあ、俺からも一言……神様、貴方は神の癖にやっぱり歪だ」
全知全能を謳う癖に、人に便利に利用される。人を案じる癖に、人の破滅を見逃す。嘘を吐けず、天罰の類も行わず。
だから、それを今ぶつけた。この神は、その程度で怒り狂ったり、約束を反故にしないとこの五年を通して確信したから。
《我が優しき子よ。やはり汝は優しい子だ。我が神であることを心配してくれたのだろう。人々の為に、そして我の為に》
「……貴方の力は強大ですからね」
《優しい子よ。嬉しく思う。汝が我が子である事を。そして知っていて欲しい。神とは、神として純粋であればある程、我が子の行い全てを受け入れる》
何故だか、神が笑った気がした。
ずっと幼馴染み二人にへばりつかれて喚かれながらも、平然と会話してた俺が面白かったからか。それとも、一世一代の大馬鹿をやらかす愚か者が、滑稽だったのか。
表情は変わらないから、分からないが。何故だが、真実を知るのが恥ずかしかった。
《そして、時間だ。また逢おう》
「駄目だ、駄目だ駄目だやめろ──」
「やめてっ、嫌、やだ……駄目──」
──さようなら。俺の最高の親友達。
何処か悲しげな気配の神と共に、二人は光へと包まれた。
《我が愛しき子らよ。それではあまりに酷だろう。我が勇ましき子にも、我が麗しき子にも。そして、我が優しき子にも。我が愛もそれを望まず》
聖也と明日香が、俺が大好きだったゲームの主人公とよく似た立ち位置だと気付いたのは、この世界に来て割りかし直ぐの事だった。
そのゲームでは、男の主人公と女の主人公が同時に存在する事はなく、ステータスも両極端。
どんな武器でも万魔を切り裂く聖剣と化す、空間の神に見初められた近接特化の男主人公。
完全に死んでない限りは必ず回復させる桁外れな神聖術を操り、時間の神に見惚れさせた回復特化の女主人公。
……容姿や名前こそ違えども、能力が完全に合致した主人公にハマり役の奴が居て、出て来る国名や技術の名称までが完全に一致。
なんならフレーバーテキストに載っていた人類と魔王軍の戦歴までもが一致しているとくれば、確信を持つには十分だった。
──この世界は、ゲームの世界だ。
それも、とびきりクソッタレなバッドエンドゲーの。
そのクソゲーの特徴は、理不尽に死ぬ難易度とかではない。普通にプレイする上では単なるRPGだ。
だが、特定の条件が揃った時、クソゲーが牙を剥く。
例えば、魔王に唆された人類陣営全体が裏切ってバッドエンドを迎えたり。
例えば、グッドエンドとは名ばかりの、傀儡化され飼い慣らされた主人公が死ぬまで魔王軍と戦うエンドがあったり。
……そして、人類陣営に余力を多く残して魔王を倒してしまった際に起こる、トゥルーエンド。主人公の送還を切っ掛けとして、異世界と地球を繋ぎ続け、異世界が侵略戦争を仕掛けてきて地球が敗北する……なんてエンドもある。
エンドは多岐にわたって用意してある癖に、とにかく救いがひとつもないのだ。
主人公個人で全ての不幸を背負い込まないのはトゥルーエンドだけ、と言えば如何にクソッタレかがよく分かる。
……そんなクソゲーに俺がハマっていた理由は、とても簡単な話だった。この多岐に渡る理不尽に一矢報いる手段が一つだけあったからだ。そして、その手段がギャグじみていて、いっそ清々しかったのだ。
「ハードモード用には別主人公が用意されてたんだけどさ、結局アイツって性別どっちなんだろうな? 俺は勿論、見ての通り男だが。王様、どう思う?」
消えている筈の勇者が一人、残っている。その事実に動揺が拡がっている。この後の手筈では、この広間へと兵士達や元勇者パーティーが詰め寄せ、集団で異世界転移。電撃的に勇者を討ち取る。そうなっているのだから。
元の世界へ戻っても強大な力を持ち続ける勇者を殺すには、無理な異世界転移によって力が大きく弱まる転移後を狙うしかない。ゲームでも、何だかんだそんな理由で結局主人公は殺され、世界が蹂躙される様はエピローグで誰かの視点から語られた。
だから、知っているのだ、俺は。魔王を倒せなくても死、倒しても死。
狸爺が直ぐに手で神官共を制した。下手な発言等をさせない為に。警戒しているのだろう……俺ではなく、姿が見えない二人を。
「ふむ、友人殿。友人殿の世界の話でしょうかな。我々ではわかりませんな。……御二方はどちらに?」
「さて。どうだろうな。勇者さんは山へ雉撃ちに、聖女さんは川へ花摘みに……とかどうよ?」
狸爺の目が据わった。
「勇者の中でも、御二方と違い、貴方だけは何もなさなかった。勇者様方の友人という立ち位置として丁重に饗してきましたが、その態度は些か目に余りますな?」
「ああ、それは申し訳ありませんな狸の王さん。あんたが何度も何度も毒やら暗殺者やら差し向けるせいで、何も出来ず、その反動で頭が可笑しくなったんだわ。きっとな」
「……話にならんな。無能者は頭まで無能だったか」
不快感を滲ませてこちらを睨む王へと、控えていた法衣の老人が耳打ちをした。
「ほう……もう本物の勇者様方は戻られたらしいな。虚勢を張って喚くとは落ちる所まで落ちたな?」
「おう。もうこれ以上は落ちないだろうぜ。何せ今からお前ら如きと心中してやろうってんだ。これ以上の罰はないだろうさ」
狸爺はいよいよもって理解出来ないものを見る目を向けて来る。気狂いが喚いている……とでも思っているのだろう。
と、部屋の周りがにわかに騒がしい。どうやら勇者にばれないように別の場所で控えさせていた
腹芸だけで生きている愚王にしては珍しく、分かりやすく表情を顕にした。にたり、と気持ち悪く笑う。
「話にならんな。まあ、良い。貴様は忌々しいが、死骸には使い道がある。気狂いとはいえ勇者にとっては友だったのだ。勇者を殺すのに利用させて貰おう」
「おお、王よ! 死んでしまうとは情けない! 冒険の書は消えました!」
「……本当に話にならんな」
話をする気はないのだから当たり前だ。
俺がやっているのは時間稼ぎだ。何かの準備の、では無い。臆病な俺が、腹を括る為の時間稼ぎ。
──もう二度と、二人とは会えない。だから、思い残すことはないだろう? いい加減腹を括れ。
もう十分だろう。二人のお陰で、十分に楽しく生きれたのだから。
その証拠に、体だって震えていない。口はからからだが、これは緊張感由来のもののはずだ。
今こそ、
「でさ、さっきの話なんだけどさ。ハードモードの主人公っていわゆるバグキャラ……というかギャグキャラでさ。何時でも即ゲームオーバーに出来るんだよ。凄く頭の悪い方法でさ」
魔力を充填させる。瞬きの間すら必要ない。
急に現れた膨大な魔力に、誰も彼もが反応出来ないでいるようだった。
──勇者召喚の間に、人がなだれ込んできた。
「近接と空間の勇者、聖也。回復と時間の勇者、明日香。そして俺は──魔術と仮定の勇者、真生だ」
主人公にハマり役の奴がいて、と俺は言ったが、実はこれは俺も例外ではない。
それぞれがそれぞれの特徴に合致する中で、このハードモード用とは名ばかりのギャグキャラに、俺以上の適役はそうは居ないだろう。そう思えるだけの、ハマり役。
何故なら、俺は全ての
「なんだ、その魔力は……貴様! まさかあの役立たずに化けた魔王か!?」
「何たる事だ! 神は契約すら守れぬ勇者を生かして帰すのみならず、あまつさえ魔王を見逃したのか!」
「……いや、阿呆だとは思ってたけど、まさかそこまで阿呆だとは思ってなかったわ。あんたら。まあいいや、阿呆と馬鹿で、仲良く逝こうぜ。ちょっとは寂しいんだ、俺も」
魔力を解き放つ。詠唱とかは要らない。生まれて初めての魔法だが、失敗への不安や心配も、ない。
だって、俺がこれを使えるのは、三人目の勇者として
この世界で最もシンプルな魔法。魔力を弾として撃ち出すだけの魔術の基礎。そしてその照準は、何処でもいいのだ。何処に向けても結果は同じ。だって、使えば最後。
「さあ、お前らが軽んじ、あまつさえ飼い慣らせるとさえ思っていた勇者の力。特とご覧あれ──」
「くっ……誰ぞ、奴を殺──」
遅い。
──これは俺の、最愛の親友二人への恩返し。
──俺の親友二人を弄んだ、異世界への怨返し。
これを以て、根っからの善人を苦しめたこの世界の罪は清算されるだろう。それこそ、綺麗さっぱり。これもひとつの異世界救済かもしれない。なんて、考えながら。
俺はこの星諸共、異世界に残った全人類を消し飛ばした。
──手が消えて。足が消えて。俺の残りも全部、消えてなくなる瞬間。
最後に見た白い光の中に、何となく。本当に、何故だか、何となく。聖也と、明日香が、居た気がした。
……居た気が、したんだ。
〜エピローグ〜
これは、その後のお話。
一人の勇者の顛末は、管理する世界が消えて勇者達の世界へ渡った神から、悲しみに昏れる勇者達へと伝えられた。
遺された勇者達は真実を知り、いっそ狂気的とも言える時間を過ごす事となる。
世界の壁を断ち切る力を得る為に。異なる時間軸の世界と繋がる力を得る為に。……世界よりも大切なものを取り返す力を得る為に。
果たして、彼等の悲願は成就する。
五年の時を経て、更に凛々しく、愛深くなった二人の勇者。管理する世界の消滅で力を失い、幼い姿になる事と引き替えで自由を得た一柱の神。──そして、四肢を失うこととなるも、世界へと至上の愛と勇気を示した勇者。
最期の時を覆して再び巡り会った彼等は、今度こそ二度と離れる事はなく、幸せに過ごしたのであった。
【√No.□□ 病的な勇者達】〜*HAPPY END*〜
能力:【星を破壊出来る規模のエネルギー弾を放つ能力(威力調整不可)】
◆◇◆
──幸福な結末は、貴方だけが選択出来る。
──彼等の物語に空白の時間は殆どなく、何もないはずの空間で、彼等は未来に辿り着く。
──見えないのは、彼等が世界を覆したから。ならばもう一度、世界を反転すれば良い。
──或いは世界を修正するか、朋友の愛を探してみるか。
──陳腐でも、貴方が彼等の幸福を望むなら。
◆◇◆
※
2021/2/28追記
きちんとした感想返信はランダム能力杯終了後の2021/3/11以降に行わせて頂きたく思います。
それまでは簡易的な返信のみとなりますが、何卒ご容赦の程、宜しくお願い致します。
2021/3/11追記
ランダム能力杯投稿期間が終了したため、作者名を変更しました。
またそれに伴い、きちんとした感想返しを行わせて頂きます。感謝!