T-800(守護者)になった俺の前線生活   作:automata

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12月に入ってクソ忙しくなるわ、体調は崩すわ、モチベーションは下がるわで、でもどうにか年末にはと書きました。


今日は厄日だな

ポドヴィリン9.2mmオートマチック

 

イジェフスク造兵廠に勤めていたニコライ・レオノヴィッチ・ポドヴィリンが開発した大口径拳銃。変わり者のポドヴィリンは西側のデザートイーグルMk.Iをベースにして、P38風に組み直し、357マグナム弾を参考に9.2mm専用弾も設計した。ただ、ソ連軍は拳銃はあくまでも副次的な装備と考えていた為、開発当時は誰も見向きもしなかった。

冷戦末期、開放政策の中でソビエト連邦内でも麻薬、犯罪組織が急増しつつあった。麻薬で稼いだ資金を用いて最新のボディアーマーや銃器を揃え、更に麻薬により極度の興奮状態の犯罪者に警察で支給されていたマカロフでは威力不足だった。現場の警察官からは携行が容易でボディアーマーを貫通し、麻薬で興奮状態の犯罪者を一撃でノックアウトできるポドヴィリンは人気を集めた。

ソ連崩壊後は設計者のポドヴィリンは失踪し、大半の個体と設計図は紛失した。

現在ではガンコレクターに高値で取引されている。

 

W◯K◯より

 

────────

 

 

(この世界ではあるのかポドヴィリン…)

 

 

ポドヴィリンと出会ってすぐに自室に戻って、ネットでググった。そしたら、実在した銃になっていた。

コンコンとノックが聞こえた。入っていいぞ、と言うとドアが開いた。入ってきたのはレナだった。

 

 

「どうした?」

 

「いや…ちょっとやって貰いたい事があって…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで合ってますね?」

 

「ああ…ピザは頼んだぞ」

 

 

連れて来られたのは何時ものキッチン。何でも訓練に来た人形達の歓迎会という事で色々と料理を作っているのだが、レナから頼まれたのはそういう事では無く一緒に作ってる人形達の監視だ。

 

スプリングフィールド、SAT8、G36、P30。

P30以外は料理や家事が得意そうな面々。一見、監視する必要が無さそうに見えるが、問題は彼女達の経歴だ。

 

 

何と全員つい最近までプロの殺し屋だった。それも裏社会ではかなり有名な。

銃剣でマフィアを壊滅したスプリングフィールド、様々な毒物を料理に混ぜて要人を暗殺してきたSAT8、ナイフ一本で重武装した数十人の正規軍兵士達を斬り殺してきたG36、鉛筆一本で3人の大男を瞬殺した事があるP30。

 

 

そう言った経歴からグリフィンの指揮官達は殺されるのでは、と怖がって、着任させたく無かった。つまり、クルーガーはこの問題児4人組をうちに押し付けた訳だ。

 

 

俺が居ない間は彼女達が家事などを買って出てくれたらしいが何でグリフィンに来たのだろうか。誰かからの依頼なのか、それとも深い理由もなくグリフィンに流れて来たのか、それを見極めるのも俺の仕事だ。とは言え、究極の人造人間として作られたレナに毒物なんて効く訳もないし、昨日の模擬戦で4人ともコテンパンにやられたらしく今すぐ奇襲を仕掛けた所で殺せる訳がない。とりあえず今は毒殺に手慣れているSAT8に気を配りながら、俺はケーキ用の生クリームをかき混ぜる。

 

 

 

「カールさ〜ん、ケーキ焼き上がりました」

 

「ケーキは置いといてくれ、後でクリームを塗る」

 

「分かりました」

 

 

スプリングフィールドが焼き上がったスポンジケーキを持ってくる。ケーキを俺の側に置かせて、スプリングフィールドは他の料理を作る為に離れた。

よし、後はG36が切ってるフルーツを持って来なくては。

 

 

「G36、ケーキ用のフルーツ切ってくれ…た…か?」

 

俺は絶句した。G36が明らかに料理用には向かないであろうカランビットナイフでりんごの皮を剥いていた。しかもその周りには大小様々な戦闘用ナイフがズラリと並べられていた。

 

 

 

「なぁ、包丁ならいくらでもあるが?」

 

「? こっちの方が使いやすいじゃないですか?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 

心底不思議そうな顔で言ってきた。同じ言語で喋ってる筈なのに言語の壁のようなものを感じる。

 

 

「…フルーツ持っていくぞ」

 

「はい」

 

 

少し気まずい空気になったのでカットされたフルーツがたっぷり入ったボウルを持って、急いで戻った。

 

 

「カールさん、ピザが焼けました!」

 

「じゃあ、ピザはそっちに置いといてくれ」

 

「はぁ〜い」

 

 

SAT8がピザを食堂のテーブルに持っていくとSATが料理をしていた所に3つの茶色の瓶が。俺は見られてないか確認して、瓶の中を見る。中には謎の白い粉が詰まっていた。

 

 

(いざ!)

 

 

意を決して、3つの瓶から粉を手に乗せて舐める。さて、どんな毒物を持ってきたんだ?

 

 

─解析完了

 

─塩、砂糖、片栗粉

 

 

(…紛らわしい)

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから特に毒物が仕込まれる事なく歓迎会の準備が終わった。

食堂にはここに来た人形達でごった返していた。訓練でクッタクタになった人形達はスプリングフィールド達が作った料理を美味しそうに食べていた。

俺は食堂の端っこに座って、コーヒーを飲んでいるとレナが隣に座った。

 

 

「それであの4人はどうだった?」

 

「特に何も仕掛けては来なかった。料理には毒物らしき物は検知されてない」

 

「なら、もう少し様子を見る感じだね」

 

「そうだな」

 

 

 

話終わるとレナは席を立って、楽しく談笑している人形達の輪に入っていった。さて、来年から蝶事件か。アーロンも死ぬのか。蝶事件を未然に防ぎたいなぁ、そんな事を考えながら俺はコーヒーを飲み干して、料理を取りに行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォォォォーン!!

 

 

 

 

突然の爆発音。急いで窓から外の様子を見ると正面の門が破壊されていた。立ち込める土煙の中から旧式の戦車に装甲車、私服にAKを抱えた連中が現れた。リーダー格と思われる男が戦車の上に立ってメガホンを手に取った。

 

 

〈我らはロボット人権団体である! これより人形を酷使するグリフィンに天罰を下す!〉

 

 

それを言った後、戦車の砲塔が動いて、食堂の方向に狙いを定めた。

 

 

「戦車がこっちを狙ってるぜ!」

 

「よっこらほい!」

 

 

俺が叫ぶと人形達は食堂から退避した。

俺が最後に食堂が出ると戦車の砲弾が食堂を吹き飛ばされた。ああ…せっかくの料理がぐちゃぐちゃだ。

 

 

「みんな戦闘準備よ!」

 

 

レナの一声で人形達は戦いの準備の為に武器庫へと走っていった。

 

 

「おじさん、スプリングフィールドとG36とSAT8とP30は?」

 

「え? 他の人形達と一緒に武器庫に行ったんじゃないのか?」

 

「いえ、居なかったわ」

 

 

困惑していると外から銃声が聞こえた。外を見るとロボット人権団体を自称する連中が何かと戦っていた。俺は一瞬で察した。あの4人はもう既に戦っているのだと。

 

 

「レナ! あいつら銃も持たずに交戦してるぞ!」

 

「えっ!? 」

 

 

 

 

 

 

銃を用意して駆けつけた時には既に敵は全滅していた。しかし、死者は居らず、全員縄で拘束されてるだけで生きてる。

 

 

「クソがぁ!ぶっ殺してやるクソガキィ!」

 

「クソガキって誰? あたしのこと? ふぅん、あたしがせっかく作った料理をぐちゃぐちゃにして…絶対に許さない!」

 

「そこまでしなさいP30」

 

激昂したP30は捕らえたリーダー格の男を殴りかかろうとするがG36がたしなめる。

それを尻目にSAT8は懐から何かの薬剤が入った注射器を取り出して、連中の首筋に注射する。するとさっきまで暴れていた彼らはスッと眠った。多分、鎮静剤か何かだ。

 

 

「SAT、注射するなら消毒くらいして下さい。私達を襲ってきたとは言え、バイ菌が入ったら大変でしょう?」

 

「大丈夫ですよ、ちゃんと注射針は消毒してますから」

 

 

そっちじゃないのに、とスプリングフィールドは頭を抱えて言う。

 

 

「指揮官、敵は全員無力化しました! 後は営倉にでも入れて、色々と喋ってもらいましょう」

 

「うっ、うん。ソダネ」

 

 

そう言って、SAT8は男達を引きずって営倉に運んでいった。単純な作業をしているように手慣れている。俺達はただ唖然とその光景を見ることしか出来なかった。

 

 

「おじさん…」

 

「なんだ?」

 

「食堂っていつ直るんだろうね」

 

「早くても2週間だろうな。キッチンもやられてるからしばらくはレーション生活だ」

 

「今日は厄日だわ」

 

「ああ、全くだ」

 

面倒な仕事が増えたなぁ、と思いながら俺はため息を吐いた。

 


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