ヒロインとの裏話   作:やなや

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二回目の投稿になります。拙いのは優しい目で見ていただきたい。

今回もRIDDLE JOKER在原七海の過去編になります。
時系列的には前回「兄の呼び方」の一年後くらいを想定しています。
未読の方はぜひそちらも併せてお読みください。

少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。


七海ちゃん初めてのお菓子作り(在原七海2)

 「今度、家庭科の時間にクッキーを作ります。みんなどんなクッキー作りたいか考えてきてね」

 

 クッキー!

 小学校の帰りの会で先生が全体に向かって言う。みんながはーいと返事をする中、わたしは衝撃で声が出なかった。

 お菓子を〝自分で作る〟なんて発想なかった‼お菓子はお店で買うものだと思い込んでたし、去年は誕生日やバレンタインなんかのそういったイベントも初めてのことで手作りする余裕はなかった。なんでもない日にお菓子なんて作っていいのか!

 手作りする=ご飯の等式が根底にあったわたしは自分でお菓子を作るという未知の体験に期待で胸を膨らませる。

 

 「上手にできたら持って帰っておうちの人に食べてもらってもいいですからね」

 

 なんだと!持って帰ってもいいのか!お父さんとお兄ちゃん食べてくれるかな。食べてもらうなら絶対に〝おいしい〟って言ってもらいたい。

 

 先生がさようならを言ってクラスが解散する。わたしが一人黙々とクッキー作りについて考えながら帰り支度をしているとクラスで一番仲良くしてくれている女の子、千華ちゃんが近づいてくる。

「七海ちゃーん。クッキー作り一緒の班になろうね」

「うん!おいしいの作ろうね」

「もっちろん!七海ちゃんはおうちでご飯作ってるからね。その腕前には期待してるよ~」

「うーん、確かにご飯は作ってるけどお菓子作りはしたことないからなあ。ちょっと自信ない…」

「七海ちゃんなら大丈夫だって!」

 帰り支度を終えて昇降口に向かおうとすると千華ちゃんが声のトーンを抑え内緒話をするように片手で口元を隠し話題を切り込んでくる。

「そ・れ・よ・り~クッキーおいしく焼けたら誰かにあげたりするの?」

「うん!お父さんとお兄ちゃんに食べてもらうんだ!」

わたしは満面の笑みで答える。すると、反対に千華ちゃんはちょっと遠い目をして

「…うん。だよね。知ってた」

とややテンションを下げてしまった。

「本当、七海ちゃんは家族大好きだよね。お父さんはともかく、私一人っ子だからお兄さんの感覚はわからないなあ」

「お兄ちゃんはとっても優しいよ」

「うん、七海ちゃんの話を聞いてるとそうらしいね。それなら、その二人のためになおさらおいしいの作らなきゃだね。二人とも好きな味とかあるの?」

「…味?」

 

 

 

 

 

 校門で千華ちゃんとは別れ暁君と合流した。

 帰り道、二人きりの時間。もうだいぶこの道にも慣れた。歩幅の大きさも、歩く速さも、繋ぐ会話も、この一年足らずで心地の良いものに変わっていた。

 そんな緊張感とは無縁の空間でわたしはただじっと暁君の横顔を見つめる。

 

 味。味の好み。ご飯を作り慣れ、〝おいしい〟と言ってもらえることは多くなった。しかし、そうなったらそうなったでなんでも〝おいしい〟だから味の好みについては実はあんまり把握できていない。野菜や魚よりは肉類の方が好き、とかその程度である。

 さらに甘いものとなるとまたやっかいだ。わたし自身は甘いものが好きだし、お父さんが何か買ってきてくれると喜んで食べるけど、お父さんや暁君がお菓子やデザート類を食べてるところをあまり見たことがない。暁君とはたまに一緒にお菓子を食べるけど何が好きとかは全然わからない。

 つまりはリサーチあるのみ。

 せっかくだからクッキーはサプライズにしたい。二人に気づかれることなく二人の好みを調べるにはどうしたらいいのか…。

 

 「…み。七海?」

「あ、なに、お兄ちゃん」

必死に考え込んでいたせいで呼ばれていたことに気が付かなかった。

「いやなんかずっと俺のこと睨んでるから…。俺、何か怒らせることでもしたか?」

「ううん、別にそんなことしてないよ。ちょっと考え事してただけ」

「それならいいけど」

 

 危ない危ない。いきなり勘づかれるところだった。とりあえず、家に帰ったらクッキーの作り方を確認しておこう。

 

 

 

 

 

 家についたわたしはさっそくパソコンを立ち上げ、いつもの料理関連のウェブページを開く。

 なになに、今週のおすすめは〝ストレス発散!鬱憤晴らしておいしくいただく叩きつけ餃子〟か。よくわからないけど後で見ておこう。今はクッキークッキー。

 えーと、材料を混ぜて寝かせて型で抜いて焼く。言ってしまえば簡単そうだけど作ったことがないからいまいち怖いなあ。

 お菓子作りのポイントは、分量をしっかり量ること、か。そこはしっかり気をつけよう。

 

 クッキーの好みって何があるだろう。ふわふわ柔らかめのものか、歯ごたえのある固めのものかな、混ぜる分量や焼き時間で調節できるのかな。でも、一回目で調整しきるのはちょっと無理があるから今回はレシピ通りのやり方でにしておこう。

 それで、肝心要の味は…プレーン、チョコ、ココア、コーヒー、紅茶、抹茶、いちご、キャラメル、黒ゴマ、エトセトラエトセトラ…。

 …いっぱいあるな。しかもチョコはチップで入れる方法なんかもあるのか。きりがない。

 仕方がない。こうなったら家庭科のクッキー作りの日までお菓子を置いてみて観察してみようかな…

 

 わたしはそうやって決戦の日までクッキー作り方のポイントやターゲット二人の情報収集をこなしていった。

 

 

 

 

 

 そして決戦の日。わたしたちは戦闘服(エプロン)を身にまとい。戦場(調理室)に赴く。

「気合入ってるねー七海ちゃん。エプロン似合ってる、可愛いよ」

「うん、千華ちゃんもすごく可愛いよ」

「ありがとー。おいしいクッキー作ろうね」

 

 わたしは改めて班を見渡す。メンバーは四人。わたしと千華ちゃん、そして。

「あ、在原よろしくな」

「おいしいの作ろうな」

〝例の〟二人だった。

 わたしに出していたちょっかいも〝お願い〟が功を奏したのかなくなっている。わたしもあれからはせめてクラスの人くらいには、と決意し目を見て会話するようにしていた。

 しかし、かわりにこの二人の方がわたしから目線を外すようになっていた。他の子とはちゃんとお喋りしてるみたいなのに…。よっぽど暁君が怖かったのかな?

 

 「ところで七海ちゃん、味のリサーチはできたの?」

「うん…。完璧とは言えないんだけど、とりあえずお父さんには紅茶、お兄ちゃんにはチョコを作ろうかなって。材料もそれ用に持ってきたし」

「お、いいねー!私は特に味のこだわりはないけどどっちもおいしそう」

 

 本当はお父さんには毎朝飲んでいるコーヒーを作ろうと思っていたんだけど、試しにそのコーヒーを味見してみたらわたしには苦すぎてちょっと無理だった。さすがに自分で食べられないものを作って人に食べさせようとは思わない。

 お兄ちゃんについては一緒にお菓子食べるときによく観察したけど、あったものを食べただけ、という感じでよくわからない。でもたぶんチョコ自体は好きだし、ミルクよりブラック派なのかな。

 

 「はい、じゃあ皆さん、黒板に書いてある材料と道具を班で手分けして集めてください。準備ができた班からクッキー作りを始めていいですよ」

 先生の号令で戦いが始まる…。

 わたしは一目散に道具を取りに向かった。

 

 

 

 「…なあ、在原の兄貴覚えてるか」

「当たり前だろ、めちゃくちゃ怖かったんだから」

「だよな。この前も学年対抗ドッジボール大会で俺らすごく狙われたよな、しかも顔面狙い」

「ああ、明らかに顔面狙ってきてるから最初のうちはギリギリ避けられるんだけど、終盤になると勝つために普通に狙ってくるからな。そこからはもう避けられない…」

「しかも俺らが当てられた時の在原見たか?満面の笑み浮かべてすっごく喜んでんの。同じチームなの兄貴じゃなくて俺達なんだぜ?」

「だよな、あれはちょっとショックだった…」

 

 「ほら、そこのばか二人。お兄さんの悪口言ってるの七海ちゃんに聞かれたら確実に嫌われるよ。あんたたちがどうしても、って頼みこむから班に入れてあげたんだからきりきり働きな。好感度稼ぎたいならコツコツアピールしないとね」

 

 と千華に言われ二人は慌てて材料を取りに向かった。

 

 

 

 「千華ちゃん!お砂糖ちょっと多い!減らして!」

 「薄力粉、もっと丁寧に振るって!だまが残ってるよ!」

 「そこもっとしっかり混ぜて」

 等々と七海ちゃんの檄が飛ぶ。普段のおとなしい姿からは考えられない光景に目撃者全員が動揺する。七海ちゃんの目がマジすぎる。

 というか、私も若干ビビってる。ばか二人も張り切っていいところを見せようとしていたようだけど全然レベルが足りてない。

 当然、七海ちゃん自身も私たちに指示を出しながら作業している。しかも私たちは三人で紅茶クッキーを作っているが、七海ちゃんは一人でチョコクッキーを担当している。

 

 「あの、七海ちゃん。すごく気合入ってるね?」

と私が話しかけると、

「当然だよ千華ちゃん。絶対においしいって言ってもらうんだから!」

 本当にすごい。背後と瞳の中に熱い熱い炎が見えるようだ。

「これだけ頑張って作ったら、絶対おいしくなるよね。これだけ真心こめて作ってれば愛情たっぷりで完璧だよ」

少しでも熱を下げられるように、既に十分だという意味を込めて伝える。

 

 しかし。

「何言ってるの千華ちゃん。心をこめるのは当然だけど、愛情はそれだけじゃないよ。料理における愛情は『好みの分析把握と手間のかけ方』だよ!」

「え」

 想定外の切り返しの頭が追い付かない。なにかさらに過熱ボタンを押してしまった気がする。

「好みの分析は十分じゃない。もともとあまりお菓子に興味ない二人だし、わたしが作るものは大体おいしいって言ってくれるから分析が本当に難しい…。そして今回は授業時間内に終えなくちゃいけない関係でゆっくり手間がかけられない。だからそれぞれの作業を精一杯丁寧にやるんだよ!」

 目的のために完全やる気モードに入ってしまった七海ちゃんを前に、もうひたすらにおいしいクッキーを完成させなくてはならないと今更ながらにようやく悟る。

 「というわけで、残りの作業も頑張ろう!」

「い、いえっさー」

ま、そんなところも私の友達はかわいいんだけどね。

 

 

 

 

 

 帰り道、二人きりの時間。ちょっとだけ緊張する。でもそれは学校に転入した当初のようなお腹のあたりをきゅーと締め付けるような苦しいものではなく、心臓がバクバクしてなんだか落ち着かない感じ。

 

 ご飯はいつも作っているし、今日だってこれから食べてもらう。ただ、初めてクッキーを作ったというだけでそれの渡し方がわからない。

 味見はした。好みについては不明確だけど、クッキーとしては十分おいしくできてると思う。だから、きっと言ってくれる。

 

 「七海?浮かない顔してるけどなにかあったか?」

暁くんから声をかけられた。ついビクッと肩をあげてしまう。

「いや、なんでもないよ」

 我ながら嘘くさい。そもそも普段から黙って歩くことはあるけど、校門で合流してからわたしから一言も喋らない事なんて滅多にないからそりゃ怪しまれる。

 話を変えようと、今度はこちらから口を開く。

「今日、お父さんは遅くなるんだっけ?」

「ああ、そういってたな。夕飯の時間を過ぎるときには連絡するとも言ってたからどのくらいになるかはよくわからないけど」

 そうなると、もしお父さんが夜中とかに帰ってきた場合このクッキーは今日中には渡せなくなる。無理だ。もうすでに限界なのにこれ以上は心臓がもたない。早く楽になりたい。

 幸い、千華ちゃんのアイデアでお父さんとお兄ちゃん用にそれぞれでラッピングしてある。今ここで片方渡してしまっても問題なくもう片方にも渡せる。

 

 「ねえ、お兄ちゃん」

わたしの声にお兄ちゃんはこっちを向いてくれる。

「渡したいものが、あるんだけど」

わわわ、今更ながらになんかすごく恥ずかしい。今すっごく顔が赤くなってる自信がある。暁君は挙動不審なわたしに首をかしげる。

 落ち着け落ち着け、相手はお兄ちゃん。相手はお兄ちゃん。よし。

 

 心構えを終え、きれいにラッピングされた包みを渡す。

「はい、これ」

 お兄ちゃんは中身を確かめるように軽く握った後、壊さないように丁寧に包みの口を開けていく。

「これは、クッキー?」

「うん、授業で作ったの。持って帰ってもいいって言われたからお父さんと…、お兄ちゃんに。食べてもらいたいな、って」

「へえ、上手だな」

まずは見た目をほめてくれた。嬉しい。それだけでちょっとにやけてしまう。でも一番欲しいのはその言葉じゃない。

 「いいから、ほら食べて食べて」

「じゃあ、頂きます」

と言って包みから一つをつまみ、一回じっくり見た後にパクっと一口で食べてしまう。

 お兄ちゃんがその一口を味わっている中、わたしの緊張は最高潮に達していた。次にその口が開くのをまだかまだかと待つ期待と、そのままずっと口を開かないでほしいという不安が胸の中で混ざり合う。

 そしてついに口が開き、こちらの気なんてきっと知りもしないで気楽に言い放つ。

 

 「おいしい」

 

 ふっ、と胸の内にまぜこぜになって詰まっていたものすべてが消えてなくなったように軽くなる。

 そして顔中の筋肉がゆるみ、にやけるのが抑えられない。

 やったやったやったやったやったーーー‼

 

 「へへ、えへへ。よかった」

「これ、入ってるのチョコチップか?ビター系の」

「うん、お兄ちゃんチョコは甘いやつよりそっちの方が好きでしょ?」

「あー、最近やけに菓子勧めてきたのはそれを調べるためか」

「苦労したんだよ。お兄ちゃん、あんまり好み言ってくれないから」

「聞いてくれればよかったのに」

「ちょっとしたサプライズってね。それに、好きなご飯とか聞いても〝おいしいもの〟とか答える人にそんなの聞けないよ」

「それを言われると困るが…。七海の料理はなんでもうまいからなんでも好きだぞ、本当に。それに、このクッキーもすごくうまい。また作ってくれ」

「本当?」

「本当本当」

「わかった!また作るね!…クッキー以外のも作っていい?食べてくれる?」

「当たり前だろ、なんでも食べるよ」

 

 ついさっきまでの緊張が嘘のように次々に口が動き会話が弾む。

 欲しかった言葉がもらえ、また食べてくれるという約束までしてくれた。

 そのことが嬉しくて堪らない。

 

 「そうだ、今度お兄ちゃんも一緒に作ろうよ」

「ええ、俺料理とかしたことないぞ」

「わたしが教えてあげるから大丈夫だよ!きっと楽しいよ!」

「わかったよ今度な」

「うん!」

「クッキー、これで全部なのか?」

「ううん、あとお父さん用にもう一つあるよ。そっちは紅茶味なの」

「へえ違う味なのか、親父にちょっと分けてもらおうかな」

「それなら暁君もちょっと残しておかなきゃね」

「うーん、それももったいない…」

「また、作るから」

「うーん」

「―――――――――」

「――――――」

「――――――」

 

 夕日に照らされながら小さな二つの影は仲良く並んで兄妹の家へと帰っていった。




今回は七海ちゃんが父と兄を喜ばせたい!という内容を書きました。
暁との絡みが少なめになっちゃいましたが次にはもっといちゃついてもらいたいです。

ちなみにやなやの中では現時点で七海ちゃんは「暁君大好き!」でなく「お兄ちゃん大好き!」の認識です。

あと作中出したお友達の設定はそんなにないですが、イメージ的には赤髪ショートヘアのコミュ力お化けです。

Twitter(@11yanaya)でも七海ちゃんや他のキャラについて1ページ載せてますのでよろしければ是非…!
ちなみにやなやお気に入りは 在原七海/借り物競走 と 汐山涼音/私を呼ぶ声 です。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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