紬と二人で出かけたとある休日。
目的は既に終え、なんてことない内容の会話を交わしながら、帰路についていた時のこと。
「あ、公園があるね。ねえ、せっかくいい天気だし、もう少しお喋りしていこうよ」
という彼女の希望で、休憩を兼ねて寄り道をすることにした。
オレ自身、この辺りには何度か来たことはあったが、こんな公園があるなんて知らなかった。
遊具の数は少ないが、敷地面積が大きくて子どもたちが元気に遊ぶにはちょうどよさそうな場所だった。
現に、小学校高学年くらいだと思われる子たちが集団でボール遊びをしている。
投げたり蹴ったりでルールはよくわからないが、それでも全員が笑いながら楽しそうに遊んでいた。
「元気で可愛くて、子どもっていいよね」
「そうだね。見ていて楽しいよ」
「柊史くんの子どもの頃ってどんなだったの?」
「オレの子どもの頃……オレは友達自体いなかったからあんな風に元気に遊んで、っていう覚えはないなぁ」
「う、なんかごめんね」
「別にいいよ。今は楽しくつるめる友達もできたし。そういう紬は?」
子どもたちの様子を見ながら話が弾む。
……いや、弾んでいたかはともかく、オレたちはそうやってのどかな休日を堪能していた。
それからしばらくしてからのこと。
ボールが子どもたちの輪から飛び出して、てんてんと転がってくる。
それを見た紬がボールを拾い上げると、
「おねーちゃん、蹴って!」
とリクエストが飛んでくる。
「え? け、蹴るって……どうしよ、ワタシ、サッカーなんてちゃんとやったことないよ」
とオロオロする紬も可愛らしい。
「おねーちゃん、早く早く!」
しかし子どもたちは待ってはくれない。手を振り声を張り紬を急かす。
「とりあえず思いっきり蹴ってみたら? 外れちゃっても自分たちで取りに行けるでしょ」
「うん……。そうだね。——えいっ」
紬が意を決して蹴ったボールは、綺麗な放物線を描いて飛んでいき——
——一人の少年の顔面にヒットした。
「うわあああああああ! ちょっ、大丈夫⁉ ごめんね!」
その時の紬の慌てっぷりといったらもう、顔面ヒットの少年にも紬本人にも申し訳ないけれど、笑えてしまった。
結局、ボールだけでなく紬自身も駆け寄って少年の様子を見る。
少年も大した怪我はしなかったようで、慌てて駆け寄ってくる紬に笑いながら答えていた。
……そしてオレのデートの相手は子どもたちに取られてしまった……。
「バイバーイおねーちゃん」
手を振りながら去っていく子どもたちに同じように「バイバイ」と彼女は手を振り返す。
「元気な子たちだったね」
「そうだね、一緒になってはしゃいじゃった」
彼女はそう言って笑うが、はしゃぐと言ってもそばのベンチに腰掛けながら見ていた限り、子どもたちが一緒に遊んでほしくて彼女の周りをぐるぐる回っていただけだ。
その様子はまるで、
「お母さんみたいだった」
思ったことを漏らしてしまった。
丁度隣に座った彼女は「なっ」と再び立ち上がり目の前に回り込み文句を言ってくる。
……座っている俺に目線を合わせるように腰を曲げながら。
「ワタシはまだお母さんなんて年じゃないよ! いいとこ近所のお姉さんでしょ!」
「ふ、ははは」
腰に手を当て、ぷりぷり怒っている姿はまさに子どもを叱る母親そのものに思えて笑ってしまう。
「ごめんごめん。紬はほんと、子ども好きなんだね」
「もう、悪いなんて思ってないでしょ。うん、子どもは大好きだよ、ほんと可愛い」
「なんていうか……紬はいいお母さんになりそうだ。もう子ども大好きな紬お母さんが想像できる」
「だからお母さんとか考える年じゃないから。それに子どもにはいいお父さんも必要なんだよ?」
と再び横に座りながら、こちらの顔をじっと覗き込むように囁いてくる。
その顔と言外の圧に耐え兼ねそっぽを見ながらほんの少し、あまり考えることのなかったことをつぶやく。
「子どもなら……父親よりも母親の方が嬉しいんじゃないかな。オレはあまり記憶がないからよくわからないけど」
早くに母親を亡くしたオレは母親との記憶が乏しい。
でも父親は一人でも立派に俺を育ててくれたし、人よりも不幸だったとか、そんな気は全くしていない。本当に。
そんなオレの心にもない反抗を聞いた紬はちょっと考えるそぶりを見せ、そして、
「あーわかった。柊史くん寂しいんでしょ。自分もめいっぱい甘えてみたいんだー。かーわいい」
と声高に言う。
心の奥底からは否定できないその言葉に、目をむき振り返ると彼女は優しい声音で、
「いいよ、今だけね。今だけは柊史くんのお母さんになってあげる。おいで?」
そう言って、オレの後頭部を抱き寄せるように自分の太ももに導く。
「これは…」
「ほら、存分に甘えちゃっていいからね。いい子だね、柊史くん」
後頭部から伝わる柔らかさと、頭をそっと撫でる手の感触に、恥ずかしがるそぶりや抵抗よりも心地よさの方が勝ってしまった。
穏やかな時間の中、次第に意識は薄れていき……。
どれだけかの間そうしていると、夢心地の耳にかすかに声が聞こえた気がした。
「でもワタシがなりたいのはあなたのお母さんじゃなくて、あなたの隣でなるお母さんなんだからね」
母の日って言ったら紬ですよね。
というわけで母の日投稿です。
ちなみに紬√で一番好きなイベントは看病シーンです。
献身的にお世話してくれる子可愛い。
これは実はTwitterにSS投稿し始める2週間くらい前に書いたものですね。
その時はまだ投稿する踏ん切りがついてなかった。
それで一回眠らせちゃうと投稿するタイミング失って試合終了……。
となっていたものを「ちょうどいいから」という安直な理由で母の日に投稿しました。
ちなみにこれを書いた当初の目的は膝枕してもらいたかったからです。
他意はありません。ただ純粋に膝枕してもらいたかった。
同日投稿の「ヒロインとの1ページSS」の方で更新した「椎葉紬/ご挨拶」の帰り道という設定ですので是非ともそちらもお読みいただきたい。
特に気のきいたことは言えないですが、直接でも電話でもお母様に「ありがとう」だとか言うチャンスの日だとは思っています。
そんなこと、普段は照れくさくてなかなか言えなかったりしますからね。