本二次創作は「ゆずソフト」様の姉妹ブランド「ゆずソフトSOUR」様新作「PARQUET」の二次創作になります。
未プレイの方はプレイ後の閲覧を推奨いたします。
プレイ済みの方は楽しんでいただければ嬉しい!
※注意
再三申し上げますが、「PARQUET」未プレイの方はプレイ後の閲覧を推奨いたします。
⭐︎PARQUET AFTER AFTER
「おはようございます」
「おう。おはよう。今日もよろしくな」
「おはようございます」
「おはようございます」
ツバサの挨拶にマスターが気さくに返事したのを聞いてから、リノと俺が挨拶を続けた。
「なんだ。お前らまた来たのか」
「もう一端にこの店の常連ですからね。マスターに『最近見ないな』と思われない程度には通いますよ」
「まあ客である分にはいいんだがな。それで? 今日はどうなさいますか?」
「そうですね、今日は——」
マスターの皮肉を軽く受け流し、俺とリノはそれぞれの注文を伝える。
普段ならツバサが注文を取りに来てくれるが、彼女と一緒に入店すると、どうしても着替えや準備で一回バックヤードに下がらなくてはならない。だから、こうしてマスターが聞いてくれるのが常だ。
「畏まりました。少々お待ちください」
既に馴染んだやり取りを終え、一息つく。
そうしていると制服に身を包んだツバサがフロアに出てきた。
「カナトとリノ君はもう注文は済ませたかい?」
「ああ。楽しみに待ってるよ」
「ほら、ツバサさんは私たちに構わなくていいから、早くお仕事しなって。他のお客さん来てるから」
「はいはい。それじゃあ二人とも、ごゆっくりー」
ツバサが俺たちに背を向け、新しく来店したお客のもとへ向かう。
その顔はやる気と希望、幸せに満ちていて……。
「ツバサさん、本当に楽しそうだよね。この店に来るの、マスターの料理がおいしいのも本当だけどツバサさんのあの顔を見たいっていうのも大きいんだ」
「それはあるかもな。またいつものようにあの笑顔が見れてよかった。……いや、違うか」
俺はツバサがまだリノと一緒だった時のことを思い出していた。
「? 違うって? もしかして昔の方が楽しそうだった?」
「そうじゃなくって」
俺はツバサから視線を外し、リノに向き直る。
「ツバサは変わってないさ。変わったのは俺たちの方」
「どういうこと?」
「だから、俺とリノ、二人で一緒にツバサに会えるってこと。改めてそのことが嬉しくて」
「……そっか。そうだね。私もちゃんとツバサさんと会って、触れて、話せるんだ。前よりもずっといい」
そう、二人で微笑みあったとき。
「何のはーなし?」
また、新しい来客。
しかもこの来客は勝手知ったる我が家のように、接客のツバサを待たず見知った顔があるテーブルへと突き進んできたようだ。
「あ、仁香ちゃん。こんにちは」
「こんにちは」
「うん。こんにちは、リノさん。オニーサンも」
実際、勝手知ったる我が家も同然なんだろう。なにせ仁香さんはマスターの娘さんなのだから。
「いらっしゃいませ、仁香君。ご注文をお伺いいたします」
「あ、ツバサさん。今日は……ココアをお願いします」
「はーい。ココア、承りました。少々お待ちください」
仁香さんの存在に気が付いたツバサがオーダーを取りにやってきた。つつがなく注文を終えると足早に去ってしまう。
見ると、店内は珍しく盛況の様子。ツバサもマスターもいつもより忙しくしていることだろう。
それでもツバサは笑顔を絶やすことがない。
「それでそれで? 何の話だったの? やけに楽しそうに話してたけど」
「大したことじゃない。ツバサは楽しそうに働くな、と」
「そうそう、あの顔を見るのもお店に通う理由の一つだよねって」
「…………ほー」
仁香さんに聞かれたから話の内容を答えたのに、なぜ仁香さんはキョトンとしているのか。
かと思ったら、リノの方に向き直り、小さくかつ高速に手招きする。
「(リノさんリノさん!)」
「? なに、どうしたの?」
「(どうしたの、はこっちのセリフですよ! オニーサンのアレ、なんですか⁉)
「カナトの、アレ?」
「(こっちも⁉ え? あれ? みんな名前呼びなの? 進展してるの?)」
仁香さんは内緒話をしているようだけど、残念ながら丸聞こえだ。
ショックのあまり、声を抑えきれていない。そもそもリノの方は小声ですらないし。
「あー、それね。……まあ、そういうことになったから」
「そういう……えっ? どういう?」
「お待たせしました、ご注文の——」
「うひゃあ!」
「うわあ! なんだい仁香君、突然奇声をあげて」
「ツツ、ツバサさん……!」
「なにに驚いているのかわからないけど。はい、ご注文のココア。それとリノ君と、カナトも」
「ありがとう、ツバサさん」
「ありがとう、ツバサ」
仁香さんのと一緒に俺とリノの注文をそれぞれに置いていく。
「それよりカナト。仁香君はどうしたんだい?」
「俺にもよくわからないが。リノと何か話していたところだったな」
ツバサの問いに俺が答えると。
「やっぱり。ツバサさんもリノさんもオニーサンも。みんな呼び方変えたんですか、いつの間に!」
「ああ、そういうことか。ついこの間ね、ちょっとしたキッカケがあってね」
「……私は……このままツバサさんに負けたくないから?」
「え? え? 負けたく……? つまりお二人は今……」
「つい先日、宣戦布告をしあった中だね」
「大変なことにね」
仁香さんの疑問にツバサとリノが答えていく。
どうやら、俺が口をはさむ隙はないらしい。
「ええーー! つまり三角関係。しかも三人は一つ屋根の下で……」
「まあ、そういうことだね」
「大変なことにね」
「オニーサン! なにノホホンと自分は関係ないような顔してるの⁉ 状況わかってるの⁉」
舞台の外で状況を静観していた俺にも矛先が向いた。
「わかっているさ。……多分」
「多分って。不安だなぁ」
「大丈夫だよ仁香君。カナトはちゃんとわかっている。ボクもリノ君もそう行動した」
「……大変なことにね」
「え⁉ ええーー‼」
やっぱり俺が盤上に建てたのは一瞬だけだったようですぐに盤面から追い出されてしまった。
というかリノ、さっきから同じ言葉しか言ってなくないか?
「おーい、ツバサ。いつまでも喋ってないで仕事に戻ってくれ。こっちは今手が離せなくて」
「あ、はーい。そういうわけだけど、これからもボクたちのことをよろしく」
マスターに呼ばれたツバサはそう言い残して席を離れた。
あとに残されたのは目を見開き口をパクパクさせている仁香さんと、頬を染めて明後日の方向を見ているリノと、事の成り行きを見守っていた俺だけだった。
そんなこんなで食事を終えた俺たちは会計を終えて店を出た。
珍しく繁盛しているときに、追加注文もしないのに席を占領していてはマスターも困るだろう。
「それじゃねー、オニーサン。リノさんは頑張って!」
「ああ、また」
「ばいばい……」
店の前で仁香さんとは別れた。
去り際のリノに向けた言葉が気になる。
「頑張るって?」
「なんでもない! それよりカナト。今日これからの予定は? なにか用事ある?」
「……? いや、夜にバイトに行くまでは特に何もないが」
「そう。それならよかった。ちょっと付き合って」
「ここは?」
「ショッピングモールよ。この辺で一番大きめの」
「それは見ればわかるが。何か目的のものがあるのか?」
「服よ」
「服?」
「そ。ほら、私今まで日中は行動できなかったから、あまり自分でいろんなお店を見て服を選んだりできなかったのよ。だから、今日は服を見たい」
「なるほどな。俺は荷物持ちってわけか」
「は? ……いや、伝わるわけないか」
「リノ?」
「なんでもない。ほら、行こ」
そう言うとリノは俺の腕を掴み、モールの入口へと歩き始めた。
「……どう?」
「いいと思う」
「……これは?」
「似合ってる」
「……こっちは?」
「アリだな」
「………………」
「………………」
……この男。言ってる台詞こそ変えているけど中身が全部同じなんだけど⁉
シャッ、シャッ、シャッ、と。
次々とカーテンを閉め、着替え、カーテンを開ける、を繰り返す。
現状はまさに一人ファッションショー状態。
モールに入ってから目についた店に入るなり、ぱっと見で気に入った商品を次々に抱きかかえ、試着室に入った。
そしてそれぞれを着て、カナトに見せる。
作戦としては単純それだけだ。
カナトの好みを探るためと、……私自身の女の子アピール。
一挙両得だと作戦立案時は震えもしたのに。
私とツバサさんとカナト。
この関係の名前が三角関係だとはっきり意識したのがついさっき。
今までわかってなかったわけではないし、三角関係だって初めて聞く単語でもない。
でも、ツバサさんやカナト以外の人の口から私たちの関係を示されて焦りがよぎった。
ツバサさん相手でも絶対に引かない。
そう決めていたし、今でもそれは変わらない。
でも、今このままで私はツバサさんに勝てるのか。
カナトはツバサさんの笑顔をほめていた。
あの笑顔は私も魅力的だと思う。
じゃあ、私は?
無理。あんな屈託のない100%のスマイルなんてできない。
もっと、もっとアピールしなきゃ。
女の子として、魅力的な女の子として。
なのに現状はどうだろう。一人突っ走って、空回りしているだけのような気がする。
私は試着室に積まれた洋服の山を見て、自虐に浸る。
というか、試着ってこんなに一度に持ち込んでいいものだっけ?
覚えがなさ過ぎて全然わからない。
えっと、えっと。
とりあえず持ち込んでしまったものは仕方がない。
ここにある分は試してみよう。
えっと、次は……。
洋服の山を崩していた私の手がピタリと止まった。
さっきまで試していたのは、ラフなパーカーとか、タイトなショートパンツとか。
言ってしまえば「いつも通りの私」だった。
でも、無意識につかんでいたこの服は……。
「リノ? なにか問題でもあったか? 店員さん、呼んでこようか?」
矢継ぎ早に着替えては見せ、着替えては見せ、を繰り返していたリノが今度はなかなか出てこない。
なにかあったのだろうか。
しかし、着替えにてこずっているだけなら勝手に店の人を呼ぶのも迷惑か。いや、そういう場合は逆に呼んだ方がいいのか?
返事がない今、俺はとりあえず待つしかない。
その間に今度リノが着替えた時のコメントでも考えておこう。
俺は、考える。リノが喜ぶ感想を。
彼女たちとの関係が変わろうとしていく中で、俺は思った。
この伊吹カナト、企業の立て直しはできても、女性の扱い方はわからない!
今まで一番近くにいたモデルケースとして三吉さんを思い返す。
彼女とある程度友好な関係を築いてからのこと、彼女がいつもと異なるヘアセットで出社してきたことがあった。
それに対し俺は、『いつもと違う雰囲気も、素敵だ』と女性のいつもと違うことはほめるべし、といういつ学んだのかすら忘れた技を放った。そうしたら彼女は。
『はあ。すみません、今日は朝時間がなくって簡単にまとめただけなんです。……まさかとは思いますが皮肉だったりしませんよね?』
と。
とかく、女性をほめることは難しい。
最大限の、しかし柔軟に対応できる言葉を贈るべきなのだ。
だから俺はあらかじめ何パターンか言葉を用意し、
「ごめん、待たせた。……これはどう?」
次にカーテンを開けたリノの姿に言葉を失った。
ブーツを脱いだ足元は変わらなかったが、その雰囲気は先ほどまでと大きく違っていた。
ショートパンツはふわりと広がったスカートに。
ショートだった髪はロングに。
そう、まるでツバサのように。
「髪は、試着室になぜかウィッグがあって。どう、かな?」
俺は驚きのあまり声が出なかった。
髪と服の雰囲気を合わせ、顔は瓜二つの少女。
このまま人に会えば、なにも疑われずにツバサだと認識されるだろう。
「お、今までで一番いい反応だね。カナトはこういうのが——」
「似合ってない」
「え?」
「全然似合ってない。そんな恰好はやめろ」
「え、でも」
「カーテンを閉めて元の服に着替えるんだ」
俺はそれだけ言うと、こちら側から勝手にカーテンを閉めて待つ。
しばらくすると、ごそごそと服がこすれる音が聞こえてきた。
「……怒ってる?」
「別に怒ってない」
「……悲しんで、る?」
「……わからない」
俺とリノはあの後すぐに店を出て、モール内をさまよっていた。
俺が先を歩き、リノが様子を窺いながら後をついてくる。
「なんで、あんな格好を?」
「……別に本当にツバサさんになろうと思ったわけじゃない。でも女の子らしくて可愛いかなって」
「そうか」
「もうしないからそんなに怒んないで」
「だから怒ってないって。それに別にああいう格好をしてもいいと思うぞ。リノが本心からしたいなら」
「え?」
「出てきた時のリノ、すごく暗い顔をしていた。それまでの少し照れたような笑い顔じゃなくて、……人形のような暗い顔」
「…………」
「それが嫌だったんだ」
「…………」
「リノ?」
「あーあ、うまくいかないなー」
口を閉ざしていたリノが、ため息とともにそうつぶやいた。
「考えてみたらさ、この状況って三人で考えると確かに仁香ちゃんが言ってたような関係だけどさ。私とツバサさんだけで考えると、『初めての姉妹喧嘩』って状況なんだよね」
「姉妹喧嘩?」
「そ。だから私、ツバサさんのこと意識しすぎちゃった。私は私なのにね。ツバサさんになろうとしたわけでもなく、ツバサさんに体を譲るわけでもない。私は私。そんなことがちょっとわからなくなっちゃってた」
「リノ」
「だーかーら。この話はここでお終い。今日のも区切りなおさせて。また今度、デートのリベンジさせてよ」
「デート?」
「そ。デート。まさか本気で分かってなかったの? こんなところでさんざん服見せて。ただの荷物持ちなわけないでしょ」
「それはなんとなくわかっていたけど」
「わかってたんだ。鈍感のクセに。というかわかってたのに服の感想がアレなの?」
「な! 何を言ったらいいのかわからなかったんだよ」
「とにかく、次回はちゃんと覚悟しとくように。わかった?」
「OK。了解だ」
「そ。じゃあ気を取り直して何か見ようか。デートではないけどデートの予習に」
家に帰ると、先にツバサが帰ってきていた。
「おかえり、二人とも。一緒だったの」
「ああ、まあ」
「うん。ショッピングモール行ってた。二人で」
リノがやけに「二人」を強調して言う。
「二人で洋服見たり、その後に二人でちょっとお茶したり、二人でウインドウショッピングしたり。二人で」
「な、な、な……」
どうしてそこまで二人を強調するのか。一度言えば二人だったことなんてわかるだろうに。
しかし、言われたツバサの方も「二人」という単語が出るたびに何かダメージを受けているようにも見える。
「じゃ、私たちこれからバイトに行くから。二人で。行こ、カナト」
「少し時間が早くないか? もう少しゆっくりしてからでも……。ああ、ちょっと待って。じゃあツバサ、いってきま——」
「ちょーっと待った! ボクもいく! 一緒に連れていけー!」
「いらっしゃいませー」
接待飲食店街の一画、フラワーショップ熊童で聞きなれた挨拶が飛ぶ。
「いらっしゃいませー」
「いらっしゃいませー」
「いらっしゃいませー」
……今日一日で聞き慣れそうなほどに飛ぶ。
「え? 今日めちゃくちゃ忙しくないですか」
「そうなの、なんかいきなり忙しくなっちゃってさ。今日は早めに来てくれて助かったよ」
「それは……たまたまです。でもよかったです。早く着いて」
接客をリノ一人に任せて、俺と亜弥さんは花を整えたり、フラワーアレンジメントを製作したり、裏方作業に回っていた。
「あ、あの、リノ君。ボクも何かてつだ——」
「ごめんツバサさん。ちょっとどいて」
このタイミングでついてきてしまったツバサが若干気の毒である。
大勢の客と忙しく動くリノの邪魔にならないように気を配りながら、手伝いを進言するもリノにそれを聞く余裕がない。
っと。こっちもツバサを気にしている場合じゃなかった。
「亜弥さん、こっちの花、支度終わりました」
「ありがと! じゃあ早速配達行ってくれる? これ住所」
「はい。ん?」
配達先の住所を記した紙をもらって俺は首をかしげる。
この住所、わからないぞ。
「あ、もしかして場所わからない? 仕方ない、リノちゃんと交代して——」
「あ、ここならボクがわかるよ」
「ツバサ?」
「着いてきたはいいけど、カナトもリノ君もすごく忙しそうだからね。ボクにも何か手伝いたい。案内するよ」
「じゃあ、頼んでいいか?」
「ボクにおまかせ!」
「フンフンフーン♪」
軽快な鼻歌と共に、軽い足取りで先行するツバサ。
その後ろを商品である花を落とさないように気をつけながら俺が歩く。
ツバサの手にはちゃっかり店長のリードが握られていた。
「ツバサ、それ」
「ふふーん。いいだろ、亜弥さんにはちゃんと許可を取って来たよ」
「別に文句を言いたいわけではないんだが」
「今日のお店の様子だと、この子の散歩は無理そうだろう? たとえ一日であっても外を自由に歩けないっていうのはとても不自由に感じると思うんだ」
「…………」
それはわかる。その不自由を感じたからこそ、外に出たいと思ったからこそ俺はあの部屋を出たのだから。
「だからこうして手の空いているボクが散歩を申し出たのさ」
「……本音は?」
「犬のお散歩、やってみたかったんだ。たまにリノ君からの申し送りにあってすごく羨ましかった」
「よかったな、夢が一つ叶って」
「夢だなんて大げさな。……いや、そうだね。また夢を一つ叶えられた」
その後もツバサの鼻歌は留まることを知らず、ついに配達地に辿り着くまでご機嫌なままだった。
「ありがとうございました。フラワーショップ熊童のまたのご利用をお待ちしています」
ツバサの案内のおかげで無事に花を届けることができた。
「どうだい? 僕は役に立ったろう?」
「誰も疑ってないよ。ありがとうツバサ、助かった」
「ふふん。いいってことさ」
手が空いた俺はツバサから店長を預かろうとしたが、ツバサは頑としてそのリードを譲らなかった。
まあ、重い荷物というわけでもないし、このまま任せてしまっていいだろう。
「そういえばツバサ。一つ聞きたいんだが」
「なんだい?」
「なんで今日はついてきたんだ?」
「……キミはそれを本気で言っているんだろうなぁ。本当、鈍感だよ」
「……?」
「はあ、まったく。前からカナトたちが働いているところは見てみたかったのさ。いつもボクの働いている姿は見せているわけだからね。それは本当。でも今日の理由は違う。あんなにリノ君に二人で二人でと煽られて、黙っていられるわけないだろう? なのにまた二人でバイトに行くだなんて。そんなの我慢できるわけないじゃないか!」
「なるほど」
「そうだ、ボクの方こそそのことで聞きたいことがあったんだ」
「なんだ?」
「今日、二人で出かけたと言ったね。なにを話したんだい?」
何を。
難しい質問だ。ありのまま話すにはリノの許可が欲しいところだ。
俺の判断で話せるところは……。
「『初めての姉妹喧嘩』と言っていたな」
「姉妹喧嘩?」
「ああ。ツバサとリノの初めての喧嘩」
「……ああ、なるほど。納得がいったよ」
「何に」
「リノ君の言動にだよ。リノ君は元来とても優しい子だ。それなのに今日はカナトと二人で二人でと、ボクにわざとダメージを与えるようなことを言っていただろ」
「そうだったな。それが?」
「そのままだよ。『私は動いた。何もしなければこのまま自分が持って行ってしまうぞ』と。そう忠告したんだ」
「回りくどいな」
「そういう子だ」
「確かに」
「情けない。容赦はしないと言われて、それに応じたはずなのに。気を使われてしまった。『まさか昔のことを引きづって遠慮なんてしないだろうな』と」
「優しい妹だな」
「妹……。やっぱりそうなるのかな? ボクが姉?」
「リノがいつか言っていたぞ。姉のようだと」
「それは、嬉しいね。本当に自慢の妹だ。そして初めての姉妹喧嘩がとんだ大勝負になってしまったな」
「今まで喧嘩とかはなかったのか?」
「……ないね、多分。そもそもボクはリノ君と直接顔を合わせることができなかったからね。せいぜいがカロリーの取りすぎをたしなめられる程度さ」
「ひどい姉だ」
「悪かったとは思っているよ。でもあの味がやめられなくて……」
「……本当にひどい姉だ」
「ところでカナト。質問が増えた。もう一つ答えてくれ」
「何だ?」
「カナトは姉萌えとか、妹萌えとかはあるかい? 姉萌えだったら嬉しいが、妹萌えだと弱ってしまうよ」
「…………」
「あ、くだらないと思ったね? これは重要なことだ。すごく」
「ないよ。どっちも。そもそも俺には兄妹がいないからその感覚がよくわからな……。いや、姉のような人ならいるのか」
「何! それはどこの誰だい⁉ 僕の知ってる人!」
「やけに食いつくな。姉、というか俺の後見人のような人だ。保護者っていう年でもないしな。たまに連絡とってるのを見たことがあるだろう」
「ああ、あの人か。そうか。それあらひとまず、保留にしておこう。問題はカナトに姉萌えの素質があるかどうか……」
「だからないって」
そんなくだらない話が続く。
「はあー楽しい。すごく楽しいよカナト。夜空の下を歩くのも。カナトと笑いあうのも。それもこれも全部カナトのおかげだ。ありがとう」
「礼を言われる程じゃない。俺が俺の意思を持ってやったことだ」
「それでも言わせてほしいんだよ。カナトがボクを支えてくれた。道を照らしてくれた。背中を押してくれた。だから今のボクがここにいる」
「それが俺の願いでもあったからだ」
「うん。そしてボクの願いでもあった。きっとリノ君もそうだ。カナトはボクたちの願いを見事かなえてくれた。キミの名前の通りだ」
「俺の名前?」
「カナト、でしょ。ボクたちの、そしてキミの。願いを叶えた人、カナト。うん、キミにぴったりだ」
願いを叶えた人、カナト。
それは素敵だった。
この名前をもらったときに意味は聞かなかったけど、そうだったらいいと思った。
「うん、俺は俺の、そしてキミたちのカナトだ」
ツバサが俺の目をまっすぐに見つめている。
夜道の中でも、月明かりに照らされてそれがはっきりと分かった。
「キミたち、か。今くらいはキミの、と言ってもらいたかったけどまあいいか。うん、キミはボクたちのカナトだ」
そう言って笑う彼女の笑顔は夜の中で太陽のように輝いて。
「カナト。もう一つお願いがあるんだけど」
ツバサが言う。
「なんだ」
俺が応じる。
「今夜は、帰りたくないんだ」
その言葉に、俺は。
「えっ、今の流れのどこで気を悪くしたんだ。一緒に帰りたくないほど致命的な何かをやらかしたのか俺は」
「…………」
「帰らないと危ないぞ。今はだいぶ暖かくもなって来たが、それでも野宿はやめたほうがいい、らしい。それにカプセルホテルは熟睡できないぞ」
「……はあ。本当、カナトは鈍感で世界を知らないよ。行こう、店長」
「あ、ツバサ? 帰るのか? ちょっと、ツバサ?」
俺は店長を連れて先に歩き出してしまうツバサを追いかけ歩き出した。
部屋の電気は既に消え、布団の上で寝る二人の息遣いだけが聞こえる。
「……ツバサさん。もう寝た?」
「……寝たね」
「起きてるじゃん」
「バレたか」
「……私さ、負けないから」
「望むところさ、ボクだって負けない」
「どっちが勝っても恨みっこなしだからね」
「恨めるもんか、家族のことを」
「そっか」
「そうだよ」
「おやすみ、ツバサさん」
「おやすみ、リノ君」
二つの影はしっかりと寄り添ったまま、夜が更け明けていく。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
新作「PARQUET」面白かったです。
今回「AFTER AFTER」と銘打ったにもかかわらずあまりお話は進んでいません。
なんかこう、対等な二人の勝負という構図の三角関係が好きです。
次回PARQUETで何か書くなら多分ヒロインをどちらかに絞って書きます。
いちゃつかせたいです。
ありがとうございました。