受難の魔王 -転生しても忌子だった件-   作:たっさそ

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第11話 吐露

 

 

 ゾンビドラゴン討伐、5日目

 

 僕が住んでいた村まであと少し。

 

 《ブースト》をようやく覚えた。

 

 体内に循環する魔力を必要な個所で膨張させて筋肉を刺激すると、一瞬だけパワーが膨れ上がるようだ。

 

 試行錯誤の末、やり方も覚えたからすぐさまルスカにも教える。

 ルスカは一発で使えるようになった

 

 なんだこの子、化け物か

 

 

「りおー!」

 

―――ひゅん!

 

「――――りお!」

 

「おかえり。」

 

「ただいまなの♪」

 

 いいや違う、天使だった。

 

 しかも僕よりも慣れてしまっているようだ。

 ドップラー効果を残して行ったり来たり。

 

 ワンジャンプで木に登り、Bランク(イエロー)パーティの人たちに怒られたりした。

 どうやって登ったんだ降りてきなさい!

 ってね。

 

 どうやらルスカは魔法を使うよりも体を動かすのが好きらしい。

 

「にゃんにゃんにゃん、ぴゅー! やー!」

 

 いきなり《ブースト》で茂みに飛び込んだと思ったら、灰色のウサギを捕まえてきた

 僕のように糸魔法で周囲を警戒しているわけではないにもかかわらず、索敵能力も高い。

 気になるところには顔を突っ込みたくなる性格なのはわかる。幼いから好奇心が強いもんね。

 

「おお、えらいぞ、るー!」

「にへへ~♪ にゃー」

 

 まるで捕まえた獲物を自慢しにくる猫のようだ

 

「お? フラビットじゃないか」

「ふらびっと?」

 

 Cランクの猿顔、ルパンがルスカの捕まえたウサギを解説する。

 なんかフラフラしてそうな名前だね

 

「どういうウサギなの?」

「そいつはな。意外と美味い。」

 

「ほう?」

 

 

 今夜の晩御飯、いただきました

 

 

 フラビットはルスカの頭に乗っけて、ルスカは上機嫌で歩いていた

 

「きょうのばんごはんなの♪」

 

 ペットにする気はないらしい

 

 思考が僕に似てきてないだろうか

 僕は虫や動物を見つけたらまず肉と考えるし。

 

 ちなみにフラビットはFランク(パープル)ですらない。ただのウサギだ。

 ただ、結構素早いので、捕まえることは難しいんだそうな。

 罠を張ったら簡単に捕まるけど。

 

 村にいた時よりも、肉が付いた。脂はないが、筋力もついた。

 

 頬はこけているし、肌色も悪い。だけど生前よりはマシ。

 村にいるよりもマシ。

 

 野生さまさま。

 

「ふーちゃーん♪」

 

 どうやらルスカはウサギに情が移ったようだ

 本当に食えるのか?

 

 

 そんなこんなでまた移動を開始する

 

 Bランク(イエロー)のゴーレムが現れた

 

「レムゴーレム。火魔法に耐性が合って、剣も通りにくい。」

 

 ルパンの解説、ありがたい。

 ポ●モン図鑑が近くにあるみたいだ。

 

「チッ、おいゼニス! 何とかなんねぇか!」

「うむ? 貴様らはAランク(オレンジ)なのであろう? Bランク(イエロー)くらい、軽く討伐してやれ」

「相性ってもんがあるだろうが!」

「ふん、小物よの。」

 

 ゼニスはリュックからいくつもの棒を取り出し、組み立てた。

 

「ゼニス、それは?」

「これか? 私の武器だ。」

「ただの棍棒?」

「ふん、斧槍(ハルバード)(ツカ)だ。」

 

 つまりただの棍棒じゃん

 

 剣が通りにくく、魔法も効きにくいなら打撃か。

 

 

「では、参る。」

 

『ゴアアアアアア!!』

 

 

―――バァアアアアン!!

 

 

「「「 え? 」」」

 

 

 

 何が起こったのかわからなかった。

 だからなにも描写できなかった。

 棍棒が触れたらゴーレムが爆発した。

 

 爆発させた本人は、ドリルロールを揺らしながら優雅にたたずむ。

 くるくると棒を回して地面にダスンと突き刺した。

 

「ふむ。チョロイのう。」

 

 いやゼニス。あんたほんとに何者なんですか。

 

 Aランク(オレンジ)の『グレイ』たちも口をあんぐりしているよ。

 

 Bランク(イエロー)の魔物を一瞬で破壊するなんて………

 そういや、同じくBランク(イエロー)の白熊はただの蹴りで仏になったっけ。

 

「ぜにす、なにしたのー?」

 

 ルスカの動体視力をもってしても、ゼニスが何をしたのかわからなかったようで興味津々にゼニスに問う

 

「うむ。ちょっと魔力の乱れに棒を突っ込んで魔力を押し流してやっただけだ」

 

 ふむ。意味が分からん。

 僕の目には魔力の乱れなんて見えなかった。

 

「む? ああ、私は魔眼持ちだからな。」

 

 さらにゼニスはふんぞり返って爆弾を投下した。

 魔眼ってなんぞや。

 

 ゼニスの目は紫色じゃないか。

 なにが魔眼やねん

 

 聞けば、他人より詳しく魔力の流れを見ることができるらしい。

 僕もよく見える方だけど、さすがに纏う魔力の乱れなんてわからない。

 

 実際、普通の人が僕の身体をみても、ほとんどの魔力を感じないだろうけど、ゼニスの魔眼なら僕の潜在的な魔力量も見えているらしい。

 

 そういや、ゼニスはぼくの頭の髪じゃなくて、魔力量で神子だと思ったって言ってたっけ。僕の魔力は隠しているからなんでわかったのか不思議だったんだよね。

 

 見えないように練っている僕の糸魔法も、ゼニスには見えているようだ。

 

 ちなみに、糸魔法は実体化と非実体化の二つができる。非実体化の場合は物理的な干渉はできないけど、今までは僕以外の視界には映らなかった。

 

 つまり、ゼニスに糸魔法は通用しないということか。

 

「では、先に進むとしよう。」

 

 ここまでレベルが違うんだ。

 頼りになる。

 

 

 フラビットは今日の晩御飯としておいしくいただきました。

 草食系なだけあって、胃は野菜みたいな味がした。ポン酢が合うかもしれない。

 

 

 

 

 ゾンビドラゴン討伐。6日目。

 

 僕が住んでいた村にたどり着いた

 

 

 ヒドイ惨状だった。

 

 目の当たりにしていたけど、村は壊滅。

 あたりには血が黒く変色してへばりついていた

 

 村人たちの血だ

 

 

「なんだこれは………」

 

 

 Aランク(オレンジ)のソールが呟くのは、ドラゴンの首が落ちている場所。

 

 土魔法による鉄塊で潰された頭。

 もちろん鉄塊は塵に戻してある

 

 そこは、僕がドラゴンを解体した場所でもある

 

 あたりは真っ黒だ。

 

 20mに渡り、ドラゴンの流した血で真っ黒に染まっている

 プールが一面赤黒くなると言ったら血の多さのほどがわかるだろう

 

 近くには左足。

 僕が解体したやつだ

 

 

「誰が、ここまでしたんだ………ドラゴンだぞ。Sランクだぞ………。」

 

 呆然と呟くソール。

 ごめん僕ですとは名乗り出られるわけがない

 

「あ、ぴくしー!」

 

 ルスカが声を上げ、僕はビクリと反応する

 僕に執拗に暴力を振るってきた叔母の名前だ

 

 ピクシーは確か死んだはずじゃ………

 僕はこの目で………いや、あの時は糸魔法で音だけを聞いていたっけ。

 

「りおー! ぴくしー!」

 

 僕を引っ張ってどこかを指差すルスカ。

 

 その様子を、冒険者たちは静かに見守った

 そして、そこを見て冒険者たちはギョッとする

 

 人の、生首が落ちていた――――

 

 腐食が始まり、ハエが飛んでいる。

 

 あたりは腐臭が渦巻いている

 

 その顔は、ピクシーだった。

 

 長い銀髪。絶望の表情

 

 

 ルスカはその生首を両手で持ち上げた

 

「ぴくしー!」

 

「るー」

 

「ぴくしー!」

 

「ルスカッ!!」

 

「うゅ? りお? ぴくし」

 

「………わかってる。それを置いてこっちにおいで。」

「うん♪」

 

 ルスカはピクシーの首を置いて、こちらに走ってきた。

 

 この子も、親が死んで、どこか精神を病んでしまっているのかもしれない。

 この年でこの光景を見て平然としているのは、異常だ。

 

 ピクシーのほかにも、誰かの腕や胴体。

 子供の服の切れ端などが落ちていた。

 

 ドラゴンに蹂躙されたあと、復興されていないんだ。

 

 

「お、お前たちは………」

 

 

 Aランク(オレンジ)のソールが聞いてきた。声にいつもみたいなウザさがない。

 あるのは、困惑。

 

 それに答えたのは僕やルスカではなく、ゼニスだ。

 

「うむ。………この村の生き残りだ。私が保護した。」

 

「「「……………」」」

 

 Aランクだけでなく、クロ―リーやルパンも、息をのむのが伝わった。

 

「だったら、ドラゴンを倒したのはゼニス、お前なのか?」

 

「………いや」

 

 ゼニスはチラリと僕を見た。

 いいよ。この状況じゃ仕方ない。

 

 僕はルスカの頭のバンダナをずらして白髪をあらわにする

 

 息をのむ声が聞こえた

 

「神子様………」

 

 

 僕もバンダナをずらして漆黒の髪を見せる。

 

「っ! 魔王の子!」

 

 

 やっぱりこれか。

 

 クロ―リーは知っていたけど、ルパンは僕の髪を見て、剣を抜いた。

 仲良くなれたと思ったのに、忌子ってのはこれだから………

 

 はぁ、ルパン。がっかりだよ。

 

 僕はもうルパンを信用できなくなった。

 

「聞いたことがある、たしかに、この付近の村で、神子が産まれたって………」

「俺もだ、冗談の類だと思っていたが」

「俺はどっかでドラゴンの生贄になったと聞いたぞ。まあ、魔王の子なんてのが実在するなんて思わなかったが、これは………」

 

 黒髪を見た途端、抜剣するルパンと警戒を顕にする面々。

 Aランク(オレンジ)の『グレイ』も、いつでも剣を抜けるようにこちらを睨みつけていた。

 

 なんなんだよ、これ………。

 

「村を襲った紫竜を撃退したのはこの子たちだ。悪いのは竜であってこの子たちは自分を守っただけだ。責めてやらないでくれ。」

 

「………じゃあ、この落ちている左足は………」

 

「………僕が解体して食べた。1歳の時から2年くらい、ほとんど食べていなかったから、おなかすいてた。」

 

「1歳から? なんで」

 

「闇属性だったから、親にもほっとかれた。」

 

「「「………………」」」

 

 

 本当のことを話しているのに、同情されていない。

 むしろ気味悪がられている

 

 それどころか『なぜ始末していなかったのだ』とひそひそと会話しているのが、僕の糸魔法から伝わってくる。

 結局はこれだ。

 

 僕の性格うんぬんなんかより、勝手な意識の押し付けと差別意識だけで、この扱い。

 ふざけるな、ふざけるなよ!

 

 闇属性っていうのは悪魔が持つ属性。

 どこに行っても忌嫌われるんだろう。

 

 もうわかった。闇属性については絶対誰にも言わないぞ。

 

 髪の色は真っ黒だし、はあ。嫌になるな。

 

「その首の女の人は………?」

 

 絞り出すように聞いたのは、やはりルパン。

 

「生まれたての僕を執拗にいじめて、ルスカを異常にかわいがってきた、僕の叔母さん。」

 

 思い出したら腹が立ってきた

 僕は土魔法で鉄塊を作り出して、首だけになったピクシーの頭を潰した。

 

「っ………」

 

「言っとくけど、この村に関しては僕は何もしていないよ。

 外に出たら石を投げられて………食べ物を探して虫をたべたら気味悪がられて………。土砂崩れが起きたら僕のせいになって………。日照りが続いたら僕のせい、ッ………魔物が出たら………僕のせい! 作物が不作だったら僕のせい!! 僕を感情の捌け口にして、なんでもかんでも僕のせいにしたがる村なんか、ない方がいい!!」

 

 途中から感情を押さえられなくなって、大声で泣きながら叫んでしまった

 視界が歪む、とめどなく涙が溢れてくる

 

 叫んで、泣いて、スッキリすることもない。

 不完全に燻ったまま、僕の心の中で煙を上げ続ける害悪。

 そんな村なのだ、ここは………

 

 思い出すだけで、暴力を受け続けた日々を思い出し、身体が震える。

 喉の奥からすっぱいものがこみ上げてくる

 

「りお、どこかいたいの?」

 

 ぺたりと膝をついて座り込む。前世でのこと、現世での暴力。それらがフラッシュバックして身体を縛り付け、力が入らない。

 そんな僕をルスカが心配して光魔法を使おうとするけど、それを拒否。

 

「紫竜が村を滅ぼしてくれて、本当によかったよ………。」

 

 目元を服の袖でこすりながら力無くそう言う僕を、ゼニスが抱きしめてくれた。

 

「………そういうわけだ。この子を嫌わないでやってくれ。」

 

 僕とルスカはバンダナを頭に巻く。

 

 やっぱり、この髪がトリガーになっているんだ。

 外すわけにはいかない。

 

「さあ、例のゾンビドラゴンを探そう!」

 

 

 暗い雰囲気を吹き飛ばすために、ゼニスが声を張り上げる。

 自分の息子だというのに、強いな、ゼニスは。

 

 この村でゾンビになったんだ。近くにいるはずだ。

 

 

「………。」

 

 

 


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