受難の魔王 -転生しても忌子だった件-   作:たっさそ

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第12話 私には二人も子供ができた。リオルとルスカだ。

 

 ゾンビドラゴンは一体どこにいるんだろう。

 

 まったっく見当もつかないので、適当に散策する。

 適当といっても、痕跡を辿ってゾンビドラゴンに追いつこうとしているだけだ。

 

「ゾンビドラゴンが見つかったって報告を受けてから、何日たったの?」

 

「そうだな………10日くらいだな。」

 

「首も翼も左足も無いドラゴンが、どうやって移動しているの?」

 

「腕と右足だろう。ただただ破壊活動を行いながら動いてるだけの、ただの屍だ。」

 

 

 クロ―リーに話しかけるけど、言葉がすこし硬い。

 やっぱり、僕の髪のせいか。剃ろうかな………

 

「10日も前だったら、ここから10日分くらい離れた場所に居るんじゃないの?」

 

「いや、そうでもない。

 ゾンビドラゴンやゾンビ系は、死んでから一定の範囲しか移動しないんだ。

 おそらく、今日中には見つかる。」

 

 ゾンビの習性とか、そんなものは知らない。

 この世界の常識なんだろうか。

 

 なんだっていいやと思い直し、

 僕はルスカと手を繋いで、冒険者のみんなを追った

 その時。

 

 

―――ズズゥゥゥゥゥゥン!!

 

 

 この音は………

 

「いたぞ! 討伐対象だ!」

 

 

 やっぱり、ゾンビドラゴンが見つかったようだ。

 

 

Cランク(ガーディ)は後退! 神子を守れ! Bランクは散開! 魔法使いは遠距離射撃! 俺たち剣士で直接叩く!」

 

 

 Aランク(オレンジ)パーティ『グレイ』のリーダー。ソールが指示を飛ばしてゾンビを素早く囲んだ

 同時に、『グレイ』の皆さんにかけていた闇魔法を打ち切る。

 

 急に体が軽く感じて動きにキレが増してしまった。

 ドラゴン討伐がしやすくなるならそれでいっか。

 

「お? 調子出てきたぜ!」

「いつもより急に体が軽くなったわ!」

「やったるぜぇ!」

 

 やるなら早くしてくれ。

 

「《土槍(アースランサー)!》」

 

 『グレイ』の土魔法使いの土槍がゾンビの腹へと向かうが、腐っても竜。

 鱗に弾かれた。

 

「《水弾(ウォーターバレット)!》」

「《氷河期(アイスエイジ)!》」

 

 

 今度はBランク『モモルモン』の水魔法使いがゾンビに水を浴びせ、Cランク『ガーディ』の水魔法使いがその水を凍らせた

 

 あの連携なら、ルスカもできるかもしれないな

 

 左足が無いから動きも鈍い。

 頭がないから何も見えず、暴れることしかできない。

 体を凍らされて、暴れることすら許してもらえない

 

 あれじゃあSランクのゾンビだとしても、ただの的だろう。

 

 チラリとゼニスの方を窺ってみる。

 

「っ………!」

 

 

 少し離れた場所で斧槍(ハルバード)を握り締めて、歯を食いしばっていた。

 自分の息子のなれの果てを見て

 

 さらに自分の子を攻撃されて、いい気分ではないだろう

 

 

 

 ―――パキパキ! ドゴォォォォォン!!!

 

 

 どうやら氷は破ったようだ。

 首があったら咆哮でもしていそうだ。

 ゾンビなのに。

 

 動けるようになったゾンビドラゴンは、無作為に暴れまわる

 動きを止めても刃が通らず、魔法も通らない。通ったとしても痛みを感じないため、動きが変わらない。

 厄介だ。

 

 Bランクのモモルモンの(タンク)の前衛が吹き飛ばされた。

 肩から血が吹き出す。

 

 素早くポーチから回復薬を取り出して傷口に塗りたくる。

 血が止まった。

 

 治癒術師(ヒーラー)が少ないこの世界では回復薬の存在は貴重だ。

 効力も高い。すごいな。

 

 ゾンビドラゴンが暴れながら走り出した。

 でも、暴れる方向は、ゼニスが立っていた場所。

 

 

「ルーン………許せ。」

 

 

 ゼニスは右手に斧槍(ハルバード)を構え、ゾンビドラゴンの突進に迎え撃った

 

 ゾンビのタックルを躱し、懐に潜り込むと

 

「ふっ!」

 

 

 斧槍(ハルバード)の斧部分でも槍部分でもなく、斧部分の反対側のただのトゲを、ゾンビドラゴンに深く突き刺した

 そのトゲには『返し』が付いているため、簡単には抜けない

 

「ぅおらァ!」

 

 バゴォォオオオン!!!

 

 そしてゾンビドラゴンが刺さった斧槍(ハルバード)を振り回し、持ち上げ、反対側に叩きつけた。

 爆音が響く。

 

 突進する勢いを利用して逆に叩き伏せたんだな

 勢いを利用したとはいっても、ドラゴンを持ち上げる筋力は自前の物だ。バカ力すぎでしょ、ゼニス!

 

 地面に叩きつけたゾンビドラゴンの腹に向かって二度三度、斧槍(ハルバード)を振るって肉を裂く

 

「っ………楽になってくれ。」

 

 

―――バキィン!

 

 

 という何かが砕ける音が聞こえた。

 

 糸魔法による空間把握で状況を確認する。

 

 斧槍(ハルバード)がゾンビの腹に食い込んでいた

 

 

 Aランクの連中すら鱗に傷をつけるのがやっとだったのに、腹を抉って竜核を破壊したようだ

 おそらく、《ブースト》を使っている。

 

 

「ふっ!」

 

 

 力を込めて斧槍(ハルバード)を抜き取ると、ゾンビドラゴンは力を無くし、倒れた。

 

 完全に斧槍(ハルバード)がゾンビドラゴンの竜核を破壊したんだ。

 斧槍(ハルバード)の槍部分に砕けた水晶の欠片みたいなものが付いている。

 

 あれが竜核なのだろう。

 

 

 ゾンビドラゴンが動かなくなったことを確認した冒険者たちが声を張り上げて喜んでいた。

 

 その中で、ゼニスだけは顔色が暗い。

 仕方のない事だろう。

 

「ゼニス………ごめんね。僕が煽ったりしたから、こんなことさせちゃって。」

 

「………よい。気にするな。それに、ゾンビドラゴンにまでなった私の息子を、見ておれんのだ。これが最善手であろう。」

 

 

 ゼニスは竜核の欠片をそっとリュックに入れた。

 

 

「後の素材は好きにするがいい。持ちきれない分は放置せずに焼いておけ。私達は先に帰る。行くぞ、リオル、ルスカ。」

 

「うん」

「は~い」

 

 

 Aランク(オレンジ)たちの、ゼニス気前いいな! という声を無視して歩く。

 

 ゼニスは涙目だった。

 

 

 

 冒険者たちが見えなくなると、ゼニスは僕たちを抱えてから翼を広げ、人型のまま飛行した。

 

 僕たちが住んでいた村を通り過ぎ、一直線にアルノー山脈のふもとの人里へと向かった。

 

 3時間程度で人里に着いた。

 僕たちの1週間の旅はいったいなんだったのか。

 

 

「おかえりゼニス。ゾンビドラゴンの討伐は成功したのか?」

 

「………ああ。ほら、竜核だ。」

 

 

 冒険者ギルドに着くと、討伐窓口へと向かい、依頼の完了を知らせる。

 

「あいよ。本物みたいだが、一応ギルドカードも確認させてもらうぜ」

 

 窓口の兄ちゃんは慣れた手つきでゼニスからカードを受け取り、水晶にかざした。

 

「たしかに、依頼の腐竜を討伐したようだな。さすがだな、ゼニス」

「もう二度と紫竜の討伐をさせないでくれ」

「そうならないように祈ってるよ。ほらよ、ドラゴン討伐にしちゃちと少な目だが、金貨10枚。依頼達成の報酬だ。受け取っておけ。素材があるなら、まだまだ金は貰えるが………まぁいいや。」

「ああ………」

「今回の討伐のおかげで、Bランク(イエロー)の『モモルモン』とCランク(グリーン)の『ガーディ』はランクアップ試験の資格を得た。お前のおかげか?」

「知らん。私はもう帰る。ではな。」

 

 

 ゼニスは金貨を受け取ると、すぐに踵を返した。

 

 

 また僕たちを抱え、人里から離れるとすぐに飛翔して4時間くらいで紫竜の里に戻った

 

 

「すまない、リオル。しばらく一人にしてくれ。」

 

 

 腐竜の討伐は、ゼニスにとって苦痛だったんだろう。

 

 僕はゼニスに、とんでもないことをしてしまったのではないかと考える。

 

 なぜ、僕はドラゴンの核を壊さなかったのか。

 しっかりと解体していれば竜核だって見つかったはずなのに

 なぜ僕はゼニスを煽って腐竜討伐に参加させたのか。

 

 その時に何を考えていたのかもわからない。

 たぶん、何も考えていない。

 

 今はゼニスをそっとしておいてあげよう。

 

 出てきたら謝ろう。

 許してもらえるかわからないけど。

 

 

「りお………ぜにす、どこかわるいの? いたいいたい?」

 

「ううん。るー。ゼニスはどこも悪くないよ。悪いのは………たぶん僕だ。」

 

「りおが? んー、んー? わかんない。」

 

「そうだね。僕にもわかんないよ。今はゼニスを一人にしてあげよう。明日か明後日に、もう一度ゼニスと話してみようよ」

 

 

 ゼニスが買ってくれた暖かい服に身を包み、ルスカと手を繋いでゼニスの住処(すみか)のすぐ近くに鎌倉を作成して、そこで寝ることにする。

 

 糸魔法で周囲を警戒したまま、目を閉じた。

 

 ルスカは僕に抱き着いて暖を取る。暖かいから僕もそれを拒まない。

 

 

 ゼニス、大丈夫かな

 

 

 

 

                  ☆

 

 

 

 腐竜討伐の翌日。

 

 ゼニスは吹っ切れた様子で自分の住処から出てきた。

 

 竜型だ。

 

 

『うむ。心配をかけたようだな。』

「うん………何度も言うようだけど、ごめんね」

『いや。私も言ったであろう。あれが最善手だと。気にかける必要はない。』

 

 

 やっぱり、ゼニスはやさしい。

 

『私とて、いずれは死する。ルーンはそれが早かっただけなのだ。』

 

 ゼニスの息子の名前はルーンというらしい。

 たべちゃったけどね

 

『それに、私には二人も子供ができた。これは喜ばしい事だろう』

「それって僕たちの事?」

『うむ。それ以外に何があるというのだ。』

 

 ゼニスは、僕たちの事を自分の子供のように思ってくれているらしい

 

『いざとなったら私の名を出すと言い。いろいろ融通してもらえる場面が来るだろう。』

 

 ならお言葉に甘えさせてもらおう。

 

 僕たちは幼い。

 若くして両親を失った。

 

 親代わりに育ててくれるゼニスの存在は大きい。

 

 それに、ゼニスは僕たち二人を差別なく平等に接してくれる唯一の存在だ。

 それはすごくありがたいことだ。

 

 

「りおー。あっちいこー?」

「ん? うん。ゼニス。僕たちはちょっと遊んでくるね」

『うむ。心配いらぬとは思うが、気をつけるんだぞ』

 

 

 ちょいちょいと腕を引くルスカに連れられ、ゼニスを残し、ルスカと一緒にアルノーが生(な)る林に向かった。

 

 ゼニスは、息子に手を下したが、決して無感情というわけではなかった。

 僕の居た村の人たちよりも人間らしい反応に、僕の方が戸惑ってしまうくらいだ。

 

 さらには息子の敵である僕が煽り、息子を屠らせるという、鬼畜の所業ともいえることを、(ゆる)した。

 そのうえで僕たちのことを『自分の子供』だと認めてくれた。

 

 なんだよ、それ。

 ずるいよ。優しすぎだよ、ゼニス………。

 

「りお、ないてるの? いたい?」

「ううん。うれしいんだ。ゼニスが………こんな忌子である僕を受け入れてくれたことが………」

 

 ずっと嫌われ続きて来た。

 前世でも、 現世でも。

 絶望の先にあるのは、いつもさらなる絶望だった。

 

 ゼニスは、僕に一筋の光を見せてくれた。

 まぶしすぎるくらいに。

 

「ふーん。るーはずっとりおのことだいすきだよ?」

「ありがと、るー。僕もるーのことは大好きだよ」

「にへへ~♪」

 

 

 花咲く笑顔とともに、好意を寄せてくれる妹をもって、忌子のくせに、村にいたころよりも恵まれているな、と苦笑した。

 悲観してひねくれてばっかりじゃ先には進めない。

 前を向こう。ゼニスを信用して、僕らのすべてをゼニスに預けよう。

 

 

 

                ☆

 

 

 

 

 

「るー。ここで遊ぶの?」

「うん♪」

 

 

 そういうとルスカは《ブースト》を使って跳びあがった。

 

「にゃー!」

「おー………じゃあ僕も!」

 

《ブースト》を使って跳びあがる。

 

 

 ちょっと慣れてきた。

 まだ連続使用とかはできないけど、一瞬力をためればタイミングよく跳びあがるくらいならできる

 

 ルスカに至っては、効率よく《ブースト》を発動して時速50kmで30秒くらい走り続けることができるようになっている

 本気を出したらもっといけそうだが。

 

 右足に《ブースト》をかけて地面を踏み、左足で地面を踏む瞬間に左足に《ブースト》を掛けることによって、《ブースト》の速度で走り続けることができる

 

 目を離すとkm単位でどこかに行ってしまうことがある

 

 でも帰省本能があるとでもいうのか、30秒以上僕のそばを離れることがない

 すぐに戻ってくる

 

「よっと」

 

 ルスカが乗っている木につかまってぶら下がる。《ブースト》のおかげで、僕も充分人間離れしているな

 

 もともとの筋力が少ないから、この《ブースト》はかなり重宝されるよ。

 

 僕はルスカと違って普通より栄養の足りない貧弱な体だから、木にぶら下がっても自分の体重を支えられる握力がない

 闇魔法で体を少し浮かせて木に座る

 

 重力の魔法って本当に便利だな。

 

 

 おなかがすいたので果物を取るんだけど、木の上で行動しようと思ったら危険すぎる。

 だからルスカにも木の上ではあまり動かないように言いつけてある。

 僕の言いつけは守ってくれるから、素直ないい子だ。

 

「ちょっと待ってね」

 

 僕は糸魔法で果物を捕えると、それを引き寄せる。

 

 糸魔法も便利だ。

 なんだかんだで魔法は生活に使う方が有用だ

 

 ルスカと二人でアルノーをかじる

 

 おいしくない。

 

 おいしくないが、まずくはない。

 何も食べないよりはいい。

 

「えへへ、おなかいっぱいなの」

「僕もだよ。次、どこに行く?」

「んっとねー。こっちー!」

 

 またも《ブースト》を使って木々を猿のように伝っていく。

 ヒュンヒュンという音を残して姿が見えなくなる

 

 途中で余裕をみせて空中で後ろ宙返りをしたように見えたのは気のせいかな。

 危ないからやめてほしい

 

 僕はそこまで無尽蔵に体力があるわけではないので、糸魔法でゆっくりと地面に降りてから地を走ってルスカを追った

 

 

 アルノー山脈。標高8000mの過酷な土地。

 

 薄い酸素。低い気温。

 そこを自分の庭のように走ることができるルスカ。

 

 本当にすごい

 

 僕もがんばって肉を食べて筋力が付いてきた。

 でもまだ痩せこけている。

 

 しかしながら《ブースト》を使える時点で、普通の子供よりは素早く移動できるだろう

 

 《ブースト》を使わなかったら僕はただの栄養失調の忌子なんだし。

 

「りーおー! おそいのー!」

「もう、るーがはやいんだよ」

「むー!」

 

 僕はルスカほど上手に《ブースト》を使いこなせていない。

 基本スペックも違う。

 

 なんせルスカは3歳児でありながらDランクのガウルフを一人で倒せる才能を持っているんだから。

 

 アルノー山脈の頂上へと向かっているようだ。

 

 ある程度進むと、林を抜けて崖になっていた。

 

 絶壁。10mほどの壁がある。

 

「るー。さすがにここは危ないからやめよう。」

「うん」

 

 物わかりがいい。

 

 上りたそうにもじもじしていたけど、メリットがない。

 

 

 さらにその辺を適当に見て回る。

 

 

 逆に落ちたら危ない崖があった

 

 下を見ると、雲が浮いていた

 

「りお! わたわた! わたわたがあるの!」

 

「るー。それは雲だよ。」

「くも?」

「そう。」

 

 

 ルスカは雲が崖に当たり、形を変えて散らされる様子を見守った

 

 標高が高いと、下に雲があるんだよな

 

 今日の気温は5度くらい。

 ちょっと寒い。

 

 

 今度は僕たちが居る高さに雲がやって来た

 

「きゃあ~~~♪」

 

 視界が真っ白に塗りつぶされる

 

 こういうのってロマンがある。

 一度は雲の中に入ってみたかった。

 

 でもあまり感動がない

 

 感触がないからだろう

 

 実際、濃い霧の中にいるくらいの感想しかない。

 うっとおしい

 

 

 でもルスカは気に入ったみたいだ

 

 

 

 紫竜の里がある場所は、地上から5000mほどの場所。

 

 頂上へ行けば気温はさらに下がるだろう

 

 

 

 林に入ると追いかけっこが始まる

 

 ルールは《ブースト》禁止

 

 ブーストが有りでも無しでも、結局は基本スペックで負けている僕が不利なんだけどね

 でも、勝てない相手を追いかけ続けるのは、僕の訓練になっていい。

 

 ちなみにだけど、闇魔法の1.1倍は常に自分に掛け続けているよ

 

 1.1倍になれたら、今度は1.2倍にするつもりだ

 

 

 こうして訓練を続けていたら、普通の子供くらいにはなれるだろう

 ガリガリではダメなのだ。

 よく食べてよく寝て、筋肉をつけないとこの世界では生きていけない

 

 

 がんばれ、僕!

 

「きゃあきゃあ~~♪」

「つーっかまーえった♪」

 

 

 

 


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