話は変わりますが、赤のラグナルを聞きながらプロットを書いていたらこの話ができあがりました。ショールの血にかけて、後悔はしていません。
もちろん戦闘描写を誤魔化すためではありません。ありませんよ?
ヴィランロボットを2体無力化した俺は、分岐路を左へ抜けた。
もう一度旋風の疾走を使いたいところだが我慢。シャウトの連続使用のリスクを多少軽減できるマル秘ポーションの効果は切れた。この状態でシャウトを連続使用したら体がもたないだろう。
ここからは地力と頭脳で勝負だ。
30メートルほど通りを進むと、脇道の陰から緑色の巨体が躍り出てきた。
2ポイントか。
ロボットが尻尾のようなものを捻ってこちらに叩きつけてくる。
地面が抉れた。
そのまま足元をスライディング。
「Iiss……!」
抜け切ると同時に体を反転させ、氷晶のシャウトを地面に向けて放つ。
拘束成功。ロボットは身動きが取れていない。あとは……。
魔力の剣を両手に召喚しつつ、吶喊。威力が足りてくれればいいが。
弱点と思われる頭部目掛けて剣を突き立てる。同時に拘束が外れ、ロボットがもがき始めた。
振り落とされないようにしがみつくこと数秒。ロボットの動きが止まった。
これで8ポイントか……今は比較的上位にいると思いたい。
まだ時間は残っている。次の標的を探すため、俺は表通りに向かって走ることにした。
==========
市街地から広い表通りに移動する途中、受験生がロボットに攻撃を受けている所に遭遇した。……ライバルと言えど設定上は友軍である。放っておくというのは後味が悪い。
「Wuld!」
今にも銃撃されそうな受験生に体の軸を合わせ、一気に加速する。
すれ違いざまに体を抱きかかえて離脱した。彼が立っていた地面は蜂の巣だ。間に合ってよかった。
「スマン!誰だか知らんが助かった!」
「気にするな!それと君、よければこれ使って。マズいけど。」
ポーチからポーションを一つ進呈。増強薬は多めに持って来ている。渡しても問題ないだろう。
「なんだこれ、薬か?」
「スタミナが減りにくくなる薬だよ。効果時間は短いから、ピンチになったら使ってね。それじゃ、そいつは任せた。」
それだけ伝えると、俺は表通りに向かって走りつつ索敵を再開した。気前が良すぎると言われるかもしれないが、これは殺し合いではないのだ。これくらいが丁度いいに決まっている。
==========
表通りに出てからしばらくの間、俺はヴィランロボットを探しつつ着実にポイントを稼いでいた……と思う。多分。
自分の得点が良く分かっていない原因は二つあり、一つは途中で数えるのを忘れてしまった事、そしてもう一つは受験生の援護をしながらの共同撃破が多かった事だ。予想はしていたが、シャウトを抜きにして魔力の剣と雷撃だけでは一人で倒すのにどうしても時間がかかる。そこで常に誰かと一緒に攻撃を加えるようにしてみたのだが、よくよく考えるとこれって大丈夫なのか?とちょっと不安になった。
まぁいくら入試とは言えヴィランを想定したロボットだ。共同撃破であっても何かしらの評価はされるだろう。そう自分に言い聞かせて、この作戦を継続する事にした。
「残り時間3分!」
もう少しで終了か。それじゃあラストスパートでシャウトは解禁。そう思った刹那──
「うぉ?!なんだよアレ、デけぇな!」
声の主の目線の先を見てみると、高層ビルかと見紛う巨体が町を破壊しながらこちらに向かってきていた。
確かに“巨人”だな、これ。棍棒は持ってないけど。こいつには触れるな、逃げろ……だったか。
「アレを避けてターゲットを探さないといけないのか!クソッ!」
受験生達は一目散に反対方向へと駆け出していく。うん、まぁそれが普通だよね。戦っても何にもならないしね。
さて俺も……と思った矢先、一人だけ人混みを逆走する受験生の姿が目に入った。
アレを倒すのか。一筋縄ではいかない気がするが、もし倒すとすればどうするか、と考えを巡らせる。俺のシャウトと魔法で戦おうとした場合、正面からでは決定打は与えられない可能性がある。複数人で持久戦に縺れ込めばポーションと地の利を活かして行動不能にできるかもしれないが、時間が足りないだろう。却下。
あ、気づいたらここにいるの俺とあのチャレンジャー君だけになってるじゃん。……よし!乗り掛かった舟だ、この受験生に付き合う事にしよう。
チャレンジャー君はどんどん巨人との距離を詰めている。
彼はこちらを意に介さず、一人で立ち向かう事を決意したのだ。そうなると彼の個性は一発逆転型の単純大火力である可能性が高い。すると俺の役目は──
「スタァァァップ!!!」
チャレンジャー君が一瞬止まってこちらを見た。魔法やシャウトなど使わずとも人を一瞬で足止めするにはこの言葉が一番だ。
「あそこに人が!行かなきゃダメだ!」
受験生が瓦礫に挟まって突っ伏している。アレを助ければいいのか。
「そっちは俺がやるから、5秒後にありったけの一撃を頼む!……Wuld!」
倒れている受験生の傍に駆け寄り、上を見ると巨人の足がこちらを踏みつけようとしていた。シャウトの連続使用はかなりキツイだろうが、ここは無理をするべき所だ。明日はまともに動けないだろうな、これ。
「耳塞いで、口を開けて!Fus……RoDah!」
指示を聞いた茶髪の女の子が慌てて耳を塞いで口を開ける。
刹那、空気が震え揺るぎなき力が発動し、0点の巨人が大きく体勢を崩した。急所と思われる部分がガラ空きだ、これでもうガードも反撃もできない!
「……行け!チャレンジャー!」
そして聞こえたのは激しい跳躍と空気が歪む音。チャレンジャー君の渾身の一撃!
お邪魔虫巨人の緑顔は、永遠にその体とおさらば……はしなかったが、大きく凹みができ、そのまま地面へとめり込んでいった。
アシストしたとは言え、あの巨人を一撃で撃破してしまった。やっぱりいたよ化け物じみた奴。
「すごいな、彼は。」
会心の一撃を放ってまだ空中にいる彼を見ながら、素直にそう思った。こちらに来た衝撃を考えれば、ドラゴンにも匹敵する力である。あの力を使いこなすとは、さぞかし優秀な個性か若しくは鍛錬をしたに違──
あれ?チャレンジャー君、こっちに戻ってくるというより自由落下してないか?……まさか失神してる?ここからだと様子まではよく見えないが、助けなければ。
と思ったのだが、体が動かない。それどころか一歩も進む事ができず地面に突っ伏してしまった。シャウトの連続使用による弊害だ、これは治癒の魔法でも解除することができない。まだまだ鍛錬が足りなかったか……。すまん、チャレンジャー君。君が骨折で済むことを祈る。そして願わくば共に合格しているように。
意識を失う寸前に背中に何か暖かいものを感じたが、茶髪の女の子が治癒の手……もとい個性でも使ってくれたのだろうか。申し訳ない。
==========
謝られた。
めっちゃ謝られた。
意識を取り戻すとチャレンジャー君は既にその場におらず、代わりにチャレンジャー君と一緒に助けた茶髪の女の子が土下座していた。なんで?
「ポイントを稼ぐ試験であったとは言え、俺とあの……彼は自分の意志であの巨人を倒そうとしたんだ。謝られるようなことは君にされてないよ。助けたのも俺の意志だ。だから気にしないで。」
御礼を言われて始まるただならぬ縁、というのであれば百歩譲ってまだわかる。だが土下座されるってどういう事なの。時代劇の見過ぎじゃないんだろうか。
「ちっ……違うの!その、服……ごめんなさい!」
「……は?服?別に何も……。」
「その子、戻しちまったんだよ。あんたの真上でね。まぁそんな気にしなさんな、洗濯機が使いたきゃ貸してやるよ。」
不意に背中から声をかけられて振り向くと、白衣のようなものを着た教員のような人がいた。保険の先生か?
「あぁ……。そういう事だったんですか。では洗濯機、お借りします。」
そう伝えて立とうとしたが……あれ?立てるぞ。喉は多少痛むがこれくらいはどうという事はない。
「それは私の能力。体の治癒力を活性化させたのさ。アンタ、外傷は無いのに身体の内側がボロボロだったからね。治しておいたよ。」
ひとまず御礼を言い、ランドリールームの場所を聞いた。ここからそれほど遠くもなさそうだ。
「あの、服……!弁償するからっ!」
「良いよ、気にしないで。それよりもあの……巨人を倒した彼、よく無事だったね。俺が気絶した後何が起こったのか、教えてくれないかな。」
茶髪の子の話をまとめるとこうだ。
彼女の個性は触れたものを無重力にする力があるそうで、それを落ちてきた彼にすんでの所で使うことに成功、大怪我は免れたそうだ。尤も彼自身腕と足が折れた状態だったらしく、さっきの保健の先生──リカバリーガールと言うらしいが、その力を以てしてもその場で完治とはいかなかったらしい。反動で身を滅ぼす個性とか、怖っ。むき身で火薬を満載したロケットに乗って戦うようなものだ。
「ありがとう、色々教えてくれて。それじゃあ。」
そう言ってランドリールームに向かおうとすると、
「あのっ……こんな事言うのも虫が良すぎるっていうか、違うかもしれないけど……。」
また呼び止められた。いやだから服の事は全然気にしてないからね?大丈夫──え?違う?
==========
「そっちもダメだったか。残念だけど仕方ないね。俺も彼の勇気に触発されて巨人退治に協力したクチだから君の話に乗ってみたけど……。まぁ、二人の受験生が同じ意見を審査員側である先生に通したんだ。何かしらのアクションはしてくれるんじゃないかな?」
“私、自分のポイントを分けられないか聞いてみる。”
最初この子は何を言ってるんだと思ったが、話を聞いてみて納得した。チャレンジャー君はどうやら1ポイントも取れていなかったというのだ。なるほど、1度きりの大火力だからか。しかも俺と同じように、アシストしてポイントを譲ることもしていたらしい。もしそれが陣地転換や体力の温存から来る作戦ではなく“完全な善意”であるとすれば、最もヒーローらしいのは彼ではないか。
「確かに試験の結果をふいにできる勇気と決断力、そしてあの力は見事だった。そういう事なら俺も頼んでみる事にするよ。」
……という訳でそれぞれが別々の審査員(と思われる)の先生に直談判を申し出てみたのだが、ポイントの譲渡は認められないと言われてしまったのだ。まぁそりゃそうか。
でもこんなのって……!と憤る彼女を宥め、
「そもそも俺達だって受かってるかどうかわからない訳だし。とにかく、今はやれるだけのことはやった、って事でいいんじゃないかな。後は彼に一言声をかけたかったけど……。」
周りを見たが、その姿は無かった。行き違いか、あるいはもう帰ってしまったのか。
「いない、か。……じゃあ、俺はこれで。」
「うん、こっちこそありがとう。じゃあ、また。」
また、か。彼女は確かにそう言った。また会えるだろうか。
チャレンジャー君と茶髪の子はどうか受かっていて欲しいと思いつつ、スマートフォンを開いた。
とりあえず瀬奈と響香に何から話そう。待ち合わせの時間は大幅に超えており、メールの通知がえらいことになっている。
“私土羽勤は、実技試験で他の受験生に敵を譲り、ポーションを無償で差し出し、巨人に立ち向かい、あまつさえポイントを他人に渡せないかと直談判しました。でも後悔はしてないよ!という訳で今からそっちに行くね。遅れたお詫びに、夕飯は俺が何か奢るよ。何食べるか決めておいてね。”
こうして俺の雄英高校受験は幕を閉じた。
瀬奈と響香に烈火のごとく怒られるのだろうか。合格発表もそうだが、今は目先のイベントが怖い。
???「パンとシチューにゃもう飽きた? 魚と鶏はもうたくさん? だったら魔法や分かりやすいシャウトの解説はどうだい?」
⇒ このペースで魔法とシャウト出していくと、このコーナーはいずれ枯渇してしまうだろう。
???「なんならこぼれ話でも書いてみるかい?ホワイトランの外の平野にはネタがたくさんある。」
【今日のシャウト】
・氷晶
①Iiss(氷)②Slen(氷の体)③Nus(像)で構成されるシャウト。
スゥームは対象の個体を凍らせる。
フロストブレスと似ているが、こちらは“凍らせて拘束”する事を目的として用いられる。性質は麻痺毒のそれに近いかもしれないが、このシャウトは拘束中も継続してダメージを与える事ができる。
欠点は、麻痺毒と異なり一度でも外部から攻撃を加えると拘束が解除されるという点と、連続使用が不可能という点が挙げられる。
【今日の魔法】
・治癒の手
見習いランクの回復魔法。対象の体力を少しずつ回復していく。
パーティプレイをするドヴァーキン御用達の回復魔法。市民に使うと感謝されたり、驚かれたりする事もある。どうやら暖かいらしい。
この魔法でフォロワーを攻撃から守りつつ前線に立つことができれば、仲間と共に戦っている充足感を得られるだろう。但し燃費はそれなりに悪いので注意されたし。
尚今作ではドヴァーキンの勘違いでこの魔法は発動しておらず、その正体はゲr(この文章は帝国兵により検閲されています)。