ドヴァーキンのヒーローアカデミア   作:Ghetto

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4歳児トークは、娘の保育園での会話を参考にしています。
していますが……子供の話し言葉ってむずかしいですね。
また、耳郎ちゃんの呼び名が統一されていなかった点や、おかいしなと思った所を修正しました。もしも大幅な修正箇所が出た場合は、TOPに記載します。

※しっかり確認しているつもりなのですが……微妙なサイレント修正はお許しください。


3話:ドヴァーキン、フォロワーを得て、そして悟る。

 やらかした……!

 

 なんの問題もなくシャウトが出た満足感よりも、頭をよぎった感情はクラスメイトを吹き飛ばしてしまった事による“後悔”だった。

 朝の魔法の一件もあったし、更に4歳の子供の体だ。そこまで威力が出ないと思ってしまった。

 ドヴァーキンと呼ばれていた頃と比べれば明らかに威力は落ちている。それは間違いない。

 だが子供とは言え、人間を軽々と数メートル吹き飛ばしてしまう威力があるとは。

 とにかくケガの具合を見なければ。

 まず先生を呼ぶべきか……?とも一瞬思ったが、体が砂場の方へ勝手に動いていた。

 響香ちゃんは砂場の真ん中で、仰向けになって目を閉じたままだ。

 

「響香ちゃん!大丈夫?!」

 顔を近づけて呼び掛けると、彼女はぱちりと目を見開いてこっちを見た。無表情だが、とりあえずは大丈夫そうだ。

「ごめん!強くしすぎた!こんなに飛ぶとは思わなかったんだ。まさかこの体でうまくできるとも思……じゃないや、ええと……。」

 このややこしい状況をどうやって伝えようか。4歳児の頭をフル稼働させていると、

「すごーい!ウチも音の個性なんだけど、土羽の方がドーンってしてつよくていいね!」

 がばっと起き上がったと思ったら、満面の笑みで手をたたいて喜んでいた。

 さすがソブンガルデの勇士。……だがシャウトを知らないのか?

 

「え?あ、あー。ありが、とう?」

 とりあえず全力で褒められているようなので御礼を言ったが、直後に彼女の口から驚愕の言葉が飛び出してきた。

「そのドーン!ってやつ、ウチにも教えて!きっとウチも音の個性だから、できると思う!」

 なんと。シャウトを教えて欲しいとは。

 スカイリムにいた時には恐れられこそすれ、教えてくれと言ってくる人間は誰一人としていなかったと思う。

 修行するとなるとハイフロスガーで下界とお別れしなきゃだったし。

「いや、これは教えるとかそういうのじゃ……」

「えー!なんで!教えてくれないの?ウチが嫌いなの?」

 さっきまで笑っていたと思ったら涙目になったぞ。くそ、ちょっとかわいいと思ったじゃないか。

「そうじゃなくて。うーんとね……。これを使えるようになるには……弟子入り。そう、それだ!……俺に弟子入りして修行しなきゃダメなんだ。そんなの嫌でしょ?だから諦──」

「する!弟子入りする!しゅぎょー?もする!」

 えぇなんでそうなるんですかね。痛い思いして普通怖がるでしょうに。

 ……まぁでも少しばかり付き合ってもいいか。グレイビアードの真似事をしてみるのも楽しいかも知れない。ここはソブンガルデ。今はドラゴンも野盗にも追われていないのだから。

 

「わかった、じゃあ響香ちゃんは今日から俺のフォロワーだ。明日から教えてあげるよ!」

「はい!土羽先生!」

 響香ちゃんがぴんと右手と耳のコードを上に挙げている後ろで、街中でシャウトを聞いた衛兵さながら、先生が慌てて走ってくる姿が見えた。

 

 ……これは怒られるパターンかな?

 

 

 ==========

 

 

 結果的に、土羽家と耳郎家がちょっと仲良くなった。

 

 まず母さんが俺と先生から事情を聞いた上で、あやうく怪我をさせる所だったのは事実だから謝りに行こうという話になり、瀬奈を連れて響香ちゃんの家へ。

 向こうのご両親からは擦り傷もたんこぶもなかったので、特にお咎めもなく。むしろ個性を無理矢理使わせてしまったようで申し訳ない、と逆に謝られてしまった。

 

「おじさん、おばさんごめんなさい。もう響香ちゃんの前では──」

「やだ。土羽はウチの先生だから、明日から見せないのはやだ!」

「響香。あんまりわがままを言うんじゃありません。」

「だってウチドーンってやつうるさくないし!怖くないし!」

「あぁぁ響香ちゃん落ち着いて……。」

「お父さんとお母さんは心配しすぎなの!ウチはドーンっていうのやーるーのー!」

 4歳児の興味なんて一過性のものだろう。と考えていたが、どうやらそういう訳でもないようだ。

 もう響香ちゃんの前ではシャウトは使わない。それで終わる話だと思ったが、当の被害者が頑強に抵抗している。

 

「……ねぇ、勤君?響香が言ってる、その、大声の個性。優しく出すことはできるのかな?」

 おばさんがしゃがんで尋ねてきた。

「はい。たぶん大丈夫です。」

「それじゃあ、勤君には悪いんだけど。響香がもういいってなるまで、教えながら遊んでくれるかな。」

 えぇ……それでいいんですかおばさん。俺が親だったらストームコールの一つでもお見舞いしてやろうかと思いますが。

「わかりました。でも、うまくできるか……。」

 これは事実。それなりの数の力の言葉を習得してはきたが、俺はそれを教えた事なんてない。今度からやろうと思っていることもグレイビアードの真似事ってだけだ。

「いいのいいの。あの子、派手な個性に憧れてるだけだから。大変だと思うけど、よろしくね。勤君。」

 響香ちゃんに聞こえないようにこっそりと耳打ちした後で、おばさんは響香ちゃんにこう伝えた。

「響香。勤君は小さい音から少しずつ教えてくれるって。だから響香も、無理やり勤君にやらせちゃダメよ?」

「わかった!じゃあ土羽、音が出せる部屋みせてあげる!こっちきて!」

 言うや否や、俺の手を引いて居間を抜けて二階へ走り出した。

 元気だなぁ。

 

 

 ==========

 

 

「ねぇ響香ちゃん。この部屋は……?」

「ここはね、ぼーおんしつって言うの。音がしーんってなって聞こえないんだよ。だから夜でもおうたを歌えるの。」

 ソブンガルデ驚異の技術力だ。遮音ができる魔法を全方位に展開し続けるとは。

 ドワーフの遺跡でもこんなのは無かったぞ。

「凄いね……。」

「じゃあ先生!さっそくウチに教えて!ここならドーンってやっても大丈夫だよ!」

「いや、それは駄目だよ響香ちゃん。あの声……シャウトっていうんだけどね。音がうるさいんじゃなくて、体とかものが飛んでっちゃうからダメなんだ。」

 吹っ飛んだことは無かったことになっているのだろうか。

「へぇ。シャウトって個性なの?」

「うーん……どうなんだろう。そうなのかな、よくわからないや。」

 

 ソブンガルデに来てから何度も聞く単語、「個性」。

 あらゆる魔法の事を個性と言っているようだが、実際の所どういう意味なんだろうか。

「ねぇ響香ちゃん、個性って何か知ってる?」

「えっとね。個性って言うのはね、あのね、ヒーローになるのに必要なやつ。」

 ヒーロー。ああ、オールマイトみたいなやつか。

 ……とするとあれか。魔法やシャウト、武技の素質をひっくるめて“個性”と呼んでいるのか?ワカラヌ。

 

「ねぇねぇ、シャウトのやつできないなら何してあそぶ?」

 あ、諦めて帰してくれる訳ではないんですね。

 何してと言われても……。

 

 ざっとあたりを見渡すと、形こそ異なれ、用途がなんとなくわかるものがあった。

 これは楽器だ。吟遊詩人が持っていたものに似ている。

 歌や音楽を楽しむ部屋なのか……それならば……。

「じゃあ、なんか歌ってあげるよ。」

「ほんとう!じゃあウチ聞くね!」

 ……まぁソラで歌える曲なんて酒場で覚えたあの曲しかないんですけどね。

 自分の伝承を歌うというのも中々シュールではあるが、仕方ない。

 

 

 

 Our hero, our hero claims a warrior's heart.

(我らがヒーローは戦士の心を求む。)

 I tell you, I tell you the Dragonborn comes.

(私は伝える、ドラゴンボーンが来る事を。)

 

 With a Voice wielding power of the ancient Nord art.

(古きノルドの芸術、勇猛な声と共に。)

 Believe, believe the Dragonborn comes.

(信じよ、ドラゴンボーンが来る事を。)

 

 It's an end to the evil of all Skyrim's foes.

(スカイリム全ての仇敵に終止符を打つ)

 Beware, beware The Dragonborn comes.

(警戒せよ、ドラゴンボーンは来る。)

 

 For the darkness has passed and the legend yet grows.

(闇は去り、そして伝説は生まれ育つ。)

 You'll know, you'll know the Dragonborn's come

(汝は知るだろう、ドラゴンボーンが来る事を。)

 

 Dovahkiin, Dovahkiin, naal ok zin los vahriin

(ドラゴンボーンよ、ドラゴンボーン。汝の名誉にかけて誓おう。)

 Wah dein vokul mahfaeraak ahst vaal!

(永遠に邪悪を寄せ付けぬと!)

 Ahrk fin norok paal graan fod nust hon zindro zaan

(その勝利の雄叫びを聞いた時、獰猛な敵は逃げ惑う)

 Dovahkiin, fah hin kogaan mu draal!

(ドラゴンボーンよ、汝の祝福を祈ろう!)

 

 

 

 遠くない昔……吟遊詩人のリセッテが歌ってくれた時よりも、おおよそへたくそな歌ではあったが、響香ちゃんは最後までちゃんと聞いてくれていた。

 

「しらないけど、かっこいい歌だね。」

 ニコニコしながらほめてくれた彼女の言葉と横顔を見ながら、俺はなんとなく察した。根拠なんてものはないが。おそらくそうなんだと思う。

 

 

 

 ここはソブンガルデじゃない。




【今日の魔法】

今日は休講だよ。ジェイザルゴが言うんだ、間違いない。

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