ところで話は変わりますが、シセロってヴィラン連合にしれっと混ざっていても違和感なさそうですよね。あの姿のままで。
戦いの激昂のシャウトを響香ちゃんに伝授した後、コツさえ掴めば他のシャウトも習得できるのではないか?と思い色々試してみたものの、いずれもうまくいく事は無かった。残念。
……とは言っても、生粋のノルド族であり、厳しい修行をしたウルフリック・ストームクロークですら揺るぎなき力のシャウトしか発声できなかったのだ。なんの鍛錬もしていなかった幼稚園児が、努力と情熱だけで一つのシャウトを習得した事は奇跡と言って良いだろう。
というわけでシャウト習得の特訓はこれで一旦おしまいにして、先生と弟子……俺と響香ちゃんでシャウトに関するいくつかの約束事をした。
まず一つ目は、むやみやたらとシャウトを使わない事。これは周りに対する配慮はもちろんのこと、必要以上の負担を体にかけないため。ドヴァーキン、それも大人の体の時でさえ連発はしんどかったのだ。子供の体で使い続けたら何が起こるかわかったものではない。基本的には大きくなるまでは練習の時だけにしよう、という事にした。
次に二つ目。シャウトの事は他人に話さない事。まだこの世界のことにそこまで詳しい訳ではないが、どうやら個性は親から子へ遺伝する……というのが普通らしい。つまり、この世界では個性──と思われているシャウトを他人に伝授させるというのは、異様な光景に映るはずだ。幸いな事に響香ちゃんの両親はシャウトを習得した事に気づいていない。瀬奈も含めて三人だけの内緒にしよう、と伝えるとすんなり納得してくれた。
そして三つ目。たまにでいいので、一緒にシャウトの特訓をする事。ヒーローを目指す事になった時、いざ使ったら使い物にならないという状況に陥らないため、また発声時の負担を体に理解させコントロールを容易にするために特訓は続けていく事にした。やりすぎも良くないのでたまにでいいよ、と伝えたが響香ちゃん曰く沢山……なんなら毎日がいいとの事。それはダメだと言うと、少しむくれていた。
最後に四つ目。シャウトに頼らず、自分の個性も勉強する事。今習得している“戦いの激昂”は戦闘をサポートするシャウトだ。これに頼り切ってしまうというのは、仲間に戦闘面で依存をしてしまうという事につながる。ヒーローになるというのであれば、自分の個性と向き合った上で、有効な使い方を学んでいく必要も出てくるだろう。更に個性と組み合わせて使うことができれば、大きな武器になることは間違いない筈だ。
小学校に上がっても約束はしっかり守ってねと響香ちゃんに伝えると、ご機嫌ななめな顔と低めのテンションではいと返事が返ってきた。
耳郎さんどうしたのと瀬奈が聞いても、首を振るだけで返答なし。
シャウトに限らず、練習とか特訓はやりすぎは良くないんだよと伝えても、わかったからもういい、と会話をシャットアウトされてしまった。……見えない地雷を踏んでしまったようだ。
それから俺達が家に帰るまで、響香ちゃんは一言も会話をしようとせずむくれていた。そんな響香ちゃんを見ておばさんは、また一人で勝手に不機嫌になって……と苦笑いしていたが、そんなに気にしていないようだ。機嫌が上下に振り切れるのはいつもの事、なのだろうか。
ちょっぴり気まずい状態で母さんに連れられて響香ちゃんの家を出る時、ドアの奥から響香ちゃんがひょこっと顔を出した。
うわ、めっちゃ睨んでる。なんでなんだ……と思っていたら、彼女から急に言葉が飛び出してきた。
「あのさ、もうさ、勤と瀬奈はさ、しゅぎょーできたからウチとは遊ばない?」
えっどうしてそうなるの。というか、むくれてた理由ってそれ……?
「え?なんで?遊ぶよ?」
「ほんとに?」
「うん。」
「じゃあちゃんと遊ぶって言って。」
なるほど──つまるところこうだ。響香ちゃんは特訓があったからこそ、俺と瀬奈が家に遊びに来ているのだと思った。シャウトを習得したら家に来ないと思った。そこにさっきの“約束”だ。
彼女からしてみれば、友達と一緒に遊べる時間があからさまに目減りすると考えたんだろう。
「ごめん、言い方がいけなかった。これからも俺と瀬奈と、一緒に遊ぼう。かくれんぼでも、鬼ごっこでも。歌でも。なんでもいいよ。」
「ん。いいよ。……ばいばい。」
最後だけはにかむように笑って、小さく手を振ったと思ったら、すぐに家に引っ込んでしまった。うん……うん?今のは許されたの?よくわかんない。何故か瀬奈はホラ吹きカジートを見るような目で俺の事を見てるし。
「ほぉー?つとむくんも隅に置けないなぁ?」
母さんがにやにやしながら俺の頭を突っついてくる。
「あ痛。母さん!なんだよもう……。」
「お兄様、あの場では私の名前は出さなくてもよかったのではなくって?」
「いやなんでそうなるの?三人で一緒に遊ぶんでしょ?ああわかった、特訓してた時ほったらかしにしてるのに怒ってるんだろ。今度からは一緒に遊んでやるから、な?」
なだめるように言うと、
「お兄様って……“しょーもない”ですわね。」
「うんうん、瀬奈はわかってるねぇ。さすがは私の娘だ!」
両翼から総攻撃を受けた。なぜだ。
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家に帰った後、俺は庭の茂みで遊んでいた。
スカイリムの世界で行っていたフィールドワーク。例えば未知の植物や素材、鉱石を見つけてそれを鑑定する。空を飛んでいる虫を探して捕る……そういった行動が習慣になっており、この世界に来てからも定期的に行っている。これが中々面白いのだ。
以前はドヴァーキンとしてスカイリムを渡っていくための大事な活動だったが、今はそれを“遊び”として行う事ができるので、気分転換にちょうどいい。殊更この世界の事はまだまだ未知の領域が多いので、個人的な知的好奇心を満たすためにもうってつけの遊びだった。
特に興味深いのがスカイリムにはいなかった“ダンゴムシ”という生物である。
このダンゴムシは歩いていて壁にぶつかり、左に曲がって比較的短い距離を進み次の壁にぶつかった場合、今度は右に曲がり、その後にまた壁にぶつかるとその次は左に曲がるのだ。つまり、左に行ってダメなら右、またダメなら左……と交互に壁のない所を探そうとするのである。
この世界では生物学者にでもなるのもいいかもしれないな。そうなったら“動物の忠誠”のシャウトが役に立つだろう。
そんな事を考えながらダンゴムシと戯れていると、後ろに人の気配。
「本当にシャウトを教えてしまうなんて、驚きましたわ。お兄様。」
瀬奈が茂みで屈んでいる俺を見下ろして話しかけてきた。
「あれは響香ちゃんの努力の賜物だよ。俺は背中を押しただけだ。」
「そういうところ、やっぱり変わっていませんわね。お兄様……いえ、ドヴァーキン。」
ドヴァーキン。他人の口から久しぶりに聞いた、俺のもう一つの名前。
……いや待て、何で瀬奈がその名前を知っている?瀬奈にスカイリムの事は一切話していないぞ。
「戦局を見る眼は飛び抜けていますのに、こういう所は察しが悪いのも……変わりませんわね。なんというかそう……しょーもないですわ、ドヴァーキン。」
まさかとは思うがアルドゥインの配下か?だとすれば恐ろしいほど用意周到だ。しかも警戒をさせないために子供の姿を使うとは。……いや、これは服従のシャウトか?もしそうなら、敵はとても長い時間対象を使役できている事になる。かなりのやり手だ。
体を動かさず周りを見る。
武器になりそうなものは……ない。ならば。
「ひどい言われようだ。兄貴に向かってそれはないだろう。」
「それは失礼しましたわ。でも私、思った事をそのまま言ってしま──」
しゃべっている隙をつき、体を反転。
首と鎖骨の間に右腕を当てがい、体重を乗せながら素早く拘束。体格は互角だが、体の軸は抑えた。そのまま壁に押さえつけながら、質問する。
「お前は誰だ。どうして俺がドヴァーキンだと知っている。」
数秒の沈黙の後、瀬奈──妹だと思っていた少女は目を細めて笑った。
「私はセラーナ。どうぞよしなに。」
……は?
余談ですが、ダンゴムシのくだりはマジです。
学生時代に図鑑で見たのを覚えていて、子供と一緒に遊んでみたのですが確かにその通りでした。
ちなみに壁と壁との距離を大きく離すと、壁にぶつかったことをダンゴムシは忘れるそうです。かわいい。
【今日のシャウト】
???「バトル・ボーン! 今日のシャウトを書きなさい!」
???「やめて!お願い!本当に今日はネタがないんだよ。ブレイス!明日はきっと10個書くから。叩かないで。」
???「今すぐ今日のシャウトを書かないと、鼻血を出すことになるわよ……。」
・動物の忠誠
①Raan(動物)②Mir(忠誠)③Tah(集団)で構成されるシャウト。
野生の獣に助けを求めるシャウト。野生の獣が助けに来てくれる。
周りの動物を60秒間味方に付けるコントロール型シャウト。
シャウラスやマンモスといった厄介な動物も味方にできるのが最大の魅力。
その場にいる敵を一瞬で蹴散らしてくれるのを、ドヴァーキンはわくわくしながら見守ることができる。
ただし効果時間は60秒と短いので、余裕をかましていたら洗脳が解けた動物たちがこっちに突っ込んでくる……!という事が無いように注意が必要。
・服従
① Gol(大地)② Har(精神)③ Dov(ドラゴン)で構成されるシャウト。
声によって意思に従わせる。動物、人間、ドラゴンさえも命令に従う。
動物の忠誠と異なり、こちらはドラゴンや人間までもが対象となるコントロール型シャウト。ただし時間が短い。
このシャウトの一番の有効活用方法は、ドラゴンを洗脳して味方につける事……と思いがちだが、実は「ドラゴンをそばに着地させて殺す」のに非常に有効。
村や街を襲う敵であるとは言え、服従のシャウトをかけられ「御用は何ですか」とドヴァーキンのそばに降り立ったが最後、寄ってたかってボコボコにされるドラゴンの気持ちは如何ばかりか。