その者は、如何なる存在か。
―――― ―――― ――――
「ほぅ……」
鬼道有人は、驚いていた。豪炎寺修也のデータを集めるためだけに、わざわざ訪れた雷門中。ここで相対した目の前の選手が、あまりに異質だったからである。
キック力は素人同然、ボールコントロールは極端なミスをしない程度。まだボールに触れてそんなに日もたっていないだろう。
にもかかわらず、
タックルの威力は男子と錯覚し、スライディングの鋭さは下手をすれば帝国の二軍に匹敵するレベルだ。
それに何より凄まじいのは、その気迫。我々を前にして微塵も心が折れていないどころか、
寺門はコーナーを狙うか、“百烈ショット”ならあの守りを破れただろう。
今も、バックパスか、“イリュージョンボール”を出せば対応できないだろう。
だが、そのような問題ではない。並の選手なら反応する間もなく抜き去り、必殺技を使わずとも点を入れられる、この帝国の一軍に食らいつけていることが問題だ。
おもしろい相手だ。鬼道は思う。フットボールフロンティアが
しかし、こちらも無名の相手にいつまでも遅れはとっていない。
一瞬のフェイント。
彼女の非凡たる対応力。それゆえに反応してしまい、わずかな隙を作り上げる。――――そしてその隙は、この鬼道にとっては致命的であった。
「しまっ……!」
そんな声が聞こえる。
サッカーは一人でするものではない。ならば、他の連中の心を折ってしまえば――――あの男を引きずり出すことが出来る。ならば、やることは決まっている。
鬼道は、佐久間にパスを出す。繰り出すのはもちろん絶望の象徴。帝国の旗印。
「――――“デスゾーン”だ!」
*
これで五点差。凡人では、心が折れ始める領域。
しかしながらなかなか骨のある奴も多いようで、あの女をはじめ、いたぶるようなボールにもめげることなく立ち向かって来る。
特に、あの女の後にゴールを託された、雷門中の正ゴールキーパーかつキャプテン、円堂守。
今は、“デスゾーン”の球速に対応できていないようだが……
――――ヤツの目は、死んでいない。
――――――――
これで五点目。わたしは苦しい現状を前に、思わず歯噛みした。
シュートこそある程度本気だが、完全になめられている。特に、目の前でやりあっていた鬼道というキャプテン。こちらの土俵でわざと戦っているようだが、底が見える様子もない。
でもいまだ雷門のゴール前に立つ、あの人の目から闘志は消えていない。なら、せめて一矢報いる。彼ならきっと、あのボールも止めてみせるだろうから。
そう思っているとプレー再開。コート中央から帝国の選手がとんでもない勢いであがってくる。これはきっとまた、“デスゾーン”狙い。
わたしは、まだあの人にはまだまだ届かないけど、せめて「心」だけは……彼にも帝国相手にも、絶対に負けない――――負けるわけにはいかないのだ。
――――――――
瞬間。
ボールをキープして、敵陣に上がる鬼道有人の目の前に、何かが現れた。
彼女の背に浮かび脈動するそれは、まさに魂のよう。メルヘンさの欠片もない深紅の色をした、鋭く巨大なハート。迫力は「神の手」に決して劣らず、逆らう者に圧をかけては、同志を率いる旗印となる。
彼がわずかに気圧されたとき、すでにボールはそれを具現化した彼女のもとに。そして彼女は叫ぶ。ここに成った
「“レッドハート”ッ!!!」
彼女の叫びに応えるがごとく、空間が震え、「心」は輝く。そのうみだす力は人を容易く跳ね飛ばす程。
このときフィールドにいる全員が、“レッドハート”なる技により吹っ飛んだ鬼道の姿を見て、理解した。
あの雷門のサブキーパーが、天才ゲームメーカーである鬼道有人から、ボールを奪ったのだと。