雷門のサブキーパー、親友と共に   作:iRa@作家になりたい

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原作前から一期終了まで
出会い


 

 

 

 過去編、というか導入

 

―――― ―――― ――――

 

 

 

 

退屈だった。

 

いつだって何を為すべきか分からず、まわりに流されてきた。

 

流行りのマンガも。

憧れの俳優も。

洋服の好みだって、そう。

 

真面目に物事に取り組むのも、

空っぽな自分が敵となって、情けなくなって。

なんとなく身が入らない。

 

そんな自分が嫌になって、

いつものように河川敷に繰り出したのも、

あの人に出会えたのも、

全ては、まったくの偶然。

 

それでもわたしは、あの人の様に、

純粋に、心から、楽しんでみたかった。

 

 

 

 *

 

 

 

 ここは東京有数のマンモス校、雷門中。もう入学式から一週間もたとうという頃の昼休み。

 わたしの名前は、赤井(あかい) (しん)。この学校に通い始めたばかりの一年生だ。

 

 

「シン、部活決まった~?」

 

 

 そんなわたしに声をかけてきたのは、幼馴染の()() ()()。日ごろから仲良くしてもらってる、苗字に似合わずいつも明るくて、わたしの支えになってくれる優しい子だ。わたしがこの学校に入ってくるきっかけを作ったのも彼女だ。二人でこんなことを話しているのには、とあるワケがある。

 

 部活動。別にすぐに所属しなきゃいけないわけではない。しかし、とある期限を過ぎるとわざわざ担当の顧問に持っていかなければ、入部することが出来なくなり手続きが面倒になってしまう。その期限は来週の金曜、つまりあと一週間しか残っていないのだ。話を聞いてると、どうやら春奈のほうは部活を決めたらしい。

 

 

「でも、わたしまだやりたいことが無くてさ」

 

「じゃあ、心も一緒に新聞部入らない?心が入ってくれるなら百人力だし!お試しでもいいから!」

 

 

 春奈がそんなことをいってくれる。そのセリフはきっと打算も、余分な気遣いもない純粋な思い。だからこそわたしにとっては断る理由もなかったので、

じゃあ、そうしようかな。――――そんなふうに答えてしまった。

 

 

 

 *

 

 

 

 自宅に帰ってきて、リビングで入部届をにらみつけながら、ふと思う。

――――これで良いのだろうか。

 改めて考えるとわたしは、新聞なんかたまに読むだけで、それ自体に興味はないばかりか、新聞部には足も運ばず、話を聞いただけで入ろうとしている。

 

 でも、反対するほど高尚な趣味はわたしにはなく、しいて言うなら散歩くらい。

 結局周りの人に引っ張られるのがイヤなんじゃないかとか、単純にやる気が足りないんじゃないかとか、自分の器の小ささに、ひどく不安になり、モヤモヤする。

 

 

「どうせ、一人で何かできるわけでもないのにね……」

 

 

 部屋の隅の姿見に映る自分の姿は、母に言われて伸ばし続けてるロングヘア、友人とおそろいで買ったTシャツに、アウトレットで買ったありきたりのジーパン。とてもとても、「個性」なんてものはあるように思えない。

 それに比べて春奈は――――わたしなんかより、ずっと大人だ。

 

 窓の外を見ると、だんだんと赤っぽくなった太陽が目に入る。この陰鬱な気分をリセットするには、数少ない趣味の出番だろう。――――思い立ったら、わたしの用意は早い。名前だけ書いた入部届をファイルにしまい、上着を羽織る。

 

 

「お母さん、ちょっと散歩いってくる」

 

 

 そうリビングでくつろぐ母さんに一声かけて、わたしは家を出た。

 

 

 

 *

 

 

 

 今日は何となく広々とした場所に出たかった。そんなわたしは、河川敷の方へと向かう。あの開けた土手の上で、街よりも強い風をうけて、ボーっとしたかった。そして、訪れた河川敷は、

 

 

「くしゅんっ」

 

 

 いつにもまして寒く、冬に戻ったかと思うほど。ちょっと来たことを後悔するレベルだった。

 

 

「もう少し厚着してくるべきだったかなぁっ……」

 

 

 そんなことをつぶやいて、帰るかどうか迷っていると、ふと、サッカーをしている小学生たちが目に入った。

 

 

「子供は風の子、ってヤツなのかな」

 

 

 横目で見ながら感心していると、やけに大きな二人が混じっていることに気づく。一人はバンダナを頭に巻いて、見たこともないユニフォームを着てるゴールキーパーの男子。もう一人の女子は、マネージャーかな?意図せず冷えた身体に対する、ちょっとした運動がてら彼らに近づく。その男子のユニフォームには見覚えのある、予期せぬ文字が記してあった。

 

 

「雷門中……?」

 

 

 兄弟の面倒でも見ているのか、なにかの部活の一環なのか。わたしは思わず、声をかけに行ってしまっていた。

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ちょっとすみませーん」

 

 

 死角から聞こえる、聞きなれない凛とした声。雷門中サッカー部キャプテンである、円堂 守は少し嫌な予感がしていた。だいたいこういう声のかけられ方は、グラウンドを使わせてほしいとかだったり、トラブルの対応だったりするのだろうと思ったからだ。だが声をかけられた以上、対応するのが筋だろう。稲妻KFCのみんなに一旦練習中止を指示して、円堂は木野と話している女子のところに向かう。

 

 円堂の抱いた彼女の第一印象は、「怖そう」であった。身長こそ円堂とほぼ同じように思われるが、吸い込まれるような黒髪と鋭い目つき、笑顔を浮かべずに真剣な様子は、クールな顔と大人びた所作もあって、自分たちが何かとんでもないことをしでかしたんじゃないかと()()させるほど。実際に木野は少しおびえていた。あわてて円堂は二人の仲裁に入ろうとする。そこで件の彼女は、こちらの懐を探るかのように、

 

 

「あなたたちは、何部なんですか?」

 

 

 ハッキリした声で聞いてきた。円堂は一瞬木野とアイコンタクトし、正直にこう答える。

 

 

「雷門中サッカー部です!」

 

 

 すると彼女はなにやら考えている様子で、サッカー部?そんなの、あったっけ……などといいながら頭をひねっていた。思っていたような叱責がとんでこないことに、首をかしげる雷門中サッカー部の二人。二人は考えた末に、彼女にこう声をかける。

 

 

「「あのっ!」」

 

「「良ければ見ていきませんか?サッカー」」

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 雷門中サッカー部とやらに引き留められ、サッカー(練習だけど)を観戦することになった。

 寒さが堪えるが、実際どんなことをするのか気になってはいたので我慢して見続ける。彼らのプレイは年の割にかなり上手にみえた。少なくとも、素人の中学生よりはよっぽど。ときおり魅せる華麗な足技に驚いていると、わたしはこの練習に違和感を覚えた。

 

 みんな凄く真面目なのに、気負っていない。

 普通なら、彼ら全員が皆元気いっぱいに動きつづけることは難しい。プロの卵みたいなエリートなら分からないが、子供ってちょっとしたことで集中が切れるものだと思う。それをわたしが来る前から、適宜休憩しているとはいえ集中し続けているのは、きっと並大抵のことではない。

 

 それもこれも、あの男子が慕われているおかげなのだろうか。ふと彼を見てみると、――――()()()()()

 とても相手にレベルを合わせようとか、過剰に気にしている様子はない。ただ素直に、まっすぐボール・相対する選手と向き合っている。それはたぶん、本当にサッカーが好きなだけだから、出来る芸当だ。

 

――――そこで気づいた。

ああ、彼らは皆サッカーを心から楽しんでいるのだと。

きっと誰よりも楽しんでいる、彼がいるからだろう。

 あのフィールドでは、いったいどれほど――――悩むことなく、晴れやかになれるのだろうか。他の人の悩みを晴らしてくれるようなプレイを、わたしも出来るようになれるのだろうか。

 

その疑問は、わたしのココロに、確かに火をつけた。

皆の先頭を行く、あの男子のようになりたいと。

 

 

 

 *

 

 

 

 あっという間に日も暮れかかり、練習は解散。わたしたちは土手沿いを三人で歩きながら、改めて自己紹介に至る。

 

 

「「えええぇぇぇぇぇぇっ!!後輩だったの!!!」」

 

 

 そんなに驚くことなのだろうか。まあ、わたしも少なくともゴールキーパーの先輩のことは同級生と思ってたから、違和感あるけど。というか、先輩方に敬語使わせたことになるんじゃ……

 

 

「それは気にしないでいいって。俺は円堂 守!雷門中サッカー部のキャプテンだ。よろしくな!」

 

「私は木野 秋っていうの。さっきの件はホントに気にしてないから、これからよろしくね」

 

「一年の赤井 心といいます。これからもよろしくお願いします。」

 

 

 優しい二人で助かった。

 

 

 

 *

 

 

 

 

「そういえば、今日のサッカーはどうだった?みんな凄かったろ!」

 

 

 学校の話を一通りおしゃべりした後、円堂先輩がそんな話を振ってくる。

 

 

「あっ、はい。とても心を動かされました」

 

「だろ?いやー、やっぱりサッカーっていいよな!」

 

 

 入部の意志を伝えるならここかな。ちょっと気合をいれて、本題を切り込む。

 

 

「それで、わたしもサッカー部に入りたいんです」

 

「……マネージャー志望?」

 

「選手志望です、……未経験だとマズいですか?」

 

 

 二人はちょっと難しい顔をして話し合ったのち、こちらに問題点をいくつか伝えてきた。

 

 まず一つ目が、女子部員が木野先輩以外にいないこと。つまり女子サッカー部なんてものはないので、女子更衣室などもなく、男子に交じることになるらしい。まあわたしは円堂先輩に追いつきたいだけで、女子サッカー部に入ったら先輩にいつまでたっても追いつけない可能性もあったので、むしろありがたい。着替えは……トイレや空き教室ですればいいだろうし。

 

 二つ目は、目標としているフットボールフロンティアに、女子の参戦ができないこと。これは痛い点だが、定められたルールと持って生まれた性別だから仕方ないことだ。

 

 最後に三つ目、そもそも人数が足りなくて人員募集中・基本グラウンド使用不可。さすがに円堂先輩といえども、その状態では部員を河川敷に引っ張り出すことも難しかったのか、更には部員のやる気がないらしい。まあしばらくマンツーマン指導をうけられると思えばいいのかも。

 

 わたしがそのリスクを承諾して、無事入部の許可をもらった後、せっかくだからキーパーの特訓を見せてくれるというので、鉄塔広場までついて行くことに。木野先輩も普段はついてこないけど、今日はついていくとのこと。

 

 会話を交えつつ、鉄塔広場につく。見渡すと、やや暗くなった空と稲妻町が一望できた。さすがに心配されるだろうから、特訓を少し見たら帰らないと。うちは、門限はそんなに厳しくないけどさすがに心配されてしまう。

 そんなことを先輩方に伝えて、メールをお母さんに打って戻ると、視界に入った木にぶら下がっていたのは、サッカーに馴染みのない、古タイヤだった。目を離したすきに円堂先輩も同じものを背負ってる。彼がいうには、

 

 

「コイツを使って、相手のシュートに耐えられるようになるんだ!」

 

「えっと……つまり?」

 

 

 聞き返してしまったわたしはきっと悪くないはずだ。

 見るとその二つのタイヤと、タイヤを縛り付けている縄はどんな使い方をしたのやら、ボロボロにすり減ってしまっていた。

 使い方は見た方が早いとばかりに、円堂先輩が吊り下がっている方のタイヤを押し出すと、それは振り子の要領でとんでもない勢いで戻ってくる。すると彼は、そのタイヤに向かってなんとキャッチを敢行する。耐えきれなかったようで、尻餅をついていたけれど。

 

 要領はわかった。きっとどの部活の新人いびりですらきっとやらない、もはやイジメの類いと疑わしき訓練。

 

 それを彼は非常に真面目にやっている。なんだったら何回もやって吹っ飛んでいる。きっとそれはサッカーにつながるから、それだけで彼はここまでできるのだ。

 その事実があまりにもおかしくて、わたしは思わず笑ってしまった。

 

 先輩二人がキョトンとした顔でこちらを見てくる。わたしが笑うのは珍しいのかな?たしかに二人の前で笑ったのはこれが初めてかも?少しばかり気恥ずかしいのをこらえて、二人に自分の意志を伝える。その特訓を、やらせてほしいと。

 

 わたしの初めての憧れは、彼だから。

 近づく参考になるヒトは、他ならぬ彼しかいない。

 ならば、憧れたわたしには必要なことだろう。

 たとえどんなに突飛なことでも、

 それがサッカーのためならば。

 やってみようじゃないか。

 

 円堂先輩にグローブを借りて、タイヤと対峙する。

 覚悟を決めて思いっきりタイヤに勢いをつけて、見よう見まねでキャッチの構え。

 迫ってくるタイヤは、いざ対峙してみると予想外の大きさで、眼前に迫る様子は恐怖すら引き起こす。――――次の瞬間、今まで受けたことのない衝撃を感じたと同時にわたしは()()()()()()()

 

 頭は打たないように身を守ったけど、全身はすっかり砂だらけ。本当にひどい特訓だ。だけれども、まるで身体が宙を舞った時に、悩みまで飛んでいってしまったかのように――――今のわたしには心地よくすら感じられた。あれほど探していた自分の目標、それがこんなにも分かりやすい形で、こうして目の前に存在するのだから。思わず頬が緩む。――――明日から、頑張らなきゃね。

 

 心配して駆け寄ってきた先輩二人に、どこも怪我していないことを伝える。円堂先輩に明日からの練習メニューを受け取って、体験入部はお終い。明日からは、円堂先輩も本気だろう。ならば、言うべきことは決まっている――――教えを乞うものとして最大限の尊敬と、忠義だ。

 

 

「明日から、よろしくお願いします、センパイ!」

 

 

 わたしはこのとき久しぶりに心から、笑うことが出来たと思う。

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 

「どう思った? アイツのこと」

 

「……うん。いい子だと思うよ」

 

 

 円堂君がそんな声をかけてくる。返答する木野(わたし)は、そんな上辺だけの感想とは裏腹に――――()()していた。

 

 ファーストコンタクトの感想は「高嶺の花」だった。年に似合わぬ、凍てつくような目に、スレンダーな身体。同性から見ても羨ましいと言えるだけの美人。しかしどこか、何かを執拗に探しているような、焦燥感が伝わってきた。その様子は、とても凡人とは程遠い。

 自己紹介前後の感想は「親しみがある」だった。彼女も私と同じように学校に通い、他人と共有するような趣味を持っていた。彼女の目は人並みに輝き、年相応の思いを話していた。

 そしてあの特訓のとき感じた思いは、――――()()

 ナニカがカチリと(はま)り合い、出来てしまった。

 (わず)か十二にして、――――貪欲に限界を求める求道者が。

 あの時漏れた笑い声も浮かべた笑みも、その美しさの裏に、底の知れない覚悟を感じさせた。多分それは隣にいる彼の原動力とは、()()()()()

 そしてなにより出会ったときから変わっていたのは、彼女の目。めらめらと燃える思いがあふれ出している、そんな瞳を持つ者に私は今まで出会ったことはない。

 

 ああ、私の胸がこんなにも痛いのは、

――――そんな彼女に隣の彼が、のまれてしまうと考えたからか。

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 もう太陽が沈みかけたころ、わたしは家についた。そして緊張とともに、母にサッカーをやりたいと伝える。

 実のところ、少なからず反対されると思っていた。理由を説明しようにも、あまりに短絡的だとか言われると思っていたのだ。――――けれど、母は怪我にだけは気をつけなさいと、それだけ言って認めてくれた。どうして受け入れてくれたのか気になった。なんでも、熱意があるように見えたからだとか。

 

 一世一代のお願いを案外すんなりと受け入れてもらったわたしは、軽くシャワーを浴びたのち春奈に部活の断りの件を手短にメールして、明日買うサッカー用具をメモにまとめるとすぐベッドに入るのであった。

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

――――音無春奈は、驚いていた。彼女の親友、赤井心ことシンからのメールの内容が予想外だったのである。

 この家にやってきてまだ日も浅かったころ、友達になったシン。彼女は昔からクールで遠慮がちで、パッと見て愛想のない感じはあったが、興味を惹くものに対しては存外ノリが良く、友達になってからは二人で色々なことをしたものだ。今では平気で軽口を叩き合えると、自他共に認めている仲である。

 そんな彼女は最近やけに退屈そうで、どこか焦っているようだった。理由は分からないが、なにかの助けになればと、同じ部活を勧めたのがつい半日前のこと。

 

 

「サッカー部……」

 

 

 そんなシンが所属すると言っているのが、情報通を自負する春奈ですら存在を知らなかった、――――サッカー部。今までやっていたわけでもないのにシンがサッカーを始めるとは、ここに彼女の興味を惹くナニカがあるのか。はたまた恋でもしたの(オトコ)か――――いずれにせよ、コレは春奈にとっては特ダネに違いない。

 

 

「……雷門中サッカー部、調べてみるかな」

 

 

 彼女はおもむろに、手帳にメモを取り始めた。

 

 

 

 

―――― ―――― ――――

 

円堂 → 主人公

 サッカーが好きなヤツが増えてスゲーワクワクする!

主人公 → 円堂

 あの人のようになりたい!

 

木野 → 主人公

 えっ……何この子、怖い……

主人公 → 木野

 優しい先輩だったな

 

 

 

木野の「円堂と主人公が全くの別物」とはあながち外れた指摘ではありません

円堂はあくまで「サッカーが好き」なのであり、

主人公は「円堂先輩のような人になりたい」だけなのです

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