雷門のサブキーパー、親友と共に   作:iRa@作家になりたい

3 / 7
特訓

 

 

 

 タイトルどおりの特訓パート。

 

―――― ―――― ――――

 

 

 

 

 

 翌日。今日は土曜日、わたしにとっては中学生初の休日である。起きたわたしは、お年玉の残りを引張りだして体操着に着替える。近所のスポーツ用品店が開き次第家を飛び出し、あまり悩むことなくグローブとスパイクとボールを一つずつ購入、鉄塔広場に繰り出した。

 そこからは昨日帰り際に円堂先輩に教えてもらったように、基礎体力を鍛えるランニング、タイヤ特訓、ボールのリフティングやドリブルなどを交互に繰り返している。

 一人だと孤独でかなり地味な訓練だけど、目標が身近だからなのか、自分でも驚くほど集中できた。今日と明日は、円堂先輩も昼からこっちに来るらしい。今のうちにスパイクを足に慣らしておかないと。

 

 昨日タイヤを身に受けて、分かったことが二つある。一つ目は円堂先輩だからあの特訓があの程度で済んでいるということ。

 まだまだわたしには筋肉も体幹もガッツも、()()()が足りない。あのときは安物のスニーカーも悪かったけど、スパイクを履いても止められるものではないともわかっている。足りないものが分かっていて、それが対策できるならへこたれている暇なんてないのだ。

 もう一つは端的にいえば、あのタイヤを止めるにはわたしは()()()()ということだ。事実タイヤを背負ってあの特訓をすると、全身が重くしんどいものの幾分か吹っ飛びにくくなった。さらにはタイヤのおかげで頭を打つこともない。円堂先輩に無理してると思われてしまうかもしれないが今日からはこれで行こう。確かにキツイことはキツイのだが、特訓のたびに一々受け身をとるよりはマシだと思う。

 

 昼になり家で作ったおにぎりをベンチで食べたあと、タイヤを背負い例の特訓をしていると、見覚えのあるユニフォームが視界に映る。円堂先輩だ。

 

 

「赤井!いきなりソレ背負って大丈夫なのか!?」

 

「大丈夫です。といいますか、コレがないとタイヤにむしろ吹っ飛ばされちゃうんですよ」

 

「すげー気合いだな!オレも負けてらんねぇ!コレ背負って特訓だ!」

 

 

 タイヤを背負っている理由を説明すれば、感極まったのか彼はタイヤを背負ってドリブルやリフティングをするという。()()()()()()()やることにした。存外わたしは負けず嫌いだったらしく、数時間もたてば慣れぬ苦痛に身体が音をあげるが、それで倒れることはわたしの精神が許さなかった。日々成長する憧れの人を前に、先に折れることなどあってはならない。そんな虚勢が、わたしの実力を跳ね上げる。

 

 

「なあ、赤井」

 

「はい、なんですか?」

 

「ポジションの希望ってあるか?」

 

 

 休憩中、円堂先輩に話を振られる。本音で言えばゴールキーパー一択なのだが、あいにく今の雷門中サッカー部にはサブキーパーよりも、フィールドプレイヤーの方が必要だろう。さすがに国民的スポーツなのだから、素人のわたしにもそれぐらいはわかる。だからこそわたしの答えは、もう決まっていた。

 

 

「ディフェンダー、部員が増えたらサブキーパーに転向しようと思ってます」

 

「そっか。なら同じ特訓を続けて大丈夫だな」

 

「はい。改めてしばらくよろしくお願いしますね、センパイ」

 

 

――――ああ、まだだ、まだ足りない。

 

 

 

 *

 

 

 

 月曜になってからは、サッカー部に初めて顔を出した。挨拶の際に部員が何人かいたが、彼らの目にはやる気などない。もはや諦めているかのような様子は、前から話を聞いていたにも関わらず、わたしの癪にさわる。一触即発の状態になり、染岡先輩とやらとドリブル勝負の決闘が勃発。ここ二日の特訓でものすごい筋肉痛に苛まれているわたしでは、仮にもサッカーの経験者である彼には敵うはずもなくボコボコにされる。いつか目に物見せてやらねば。覚えてなよ、染岡先輩。

 

 染岡先輩に洗礼を受けてからは学校や河川敷ではキック力やコントロールの訓練、鉄塔ではタックル、スライディング、キャッチなどの訓練と、やることを分けていく。なんだかんだ特訓の時間が圧倒的に長いからか、ボールのカットやスライディングのキレばかりが良くなっていった。

 

 そんな充実した日々にも問題があった。二週間ほど経って――――日々の生活に特訓の影響が出始めていたのだ。

 普通にしてるつもりでも、気を遣えないことが増えているのがわかる。髪のまとめ方は雑になったし、気を抜くとご飯の食べ方・水の飲み方が()()()()ようになってしまっていたし、特訓で身体のあちこちに絆創膏がくっついている。腕白な小学生にでも近づいてしまったかのようだ……まあそのおかげで稲妻KFCのみんなが馴染んでくれたのは嬉しかったけど。

 まあ、ケガの件はこの時期なら長袖を着たり、ご飯の件は敢えて春奈たちとご飯食べたりと対策が出来るのが救いだ。特に春奈にはサッカー部に入ると言ってから、かなり心配されているからその憂いを取ってあげなきゃいけない……

 いっそのこと特訓のこととかを春奈に伝えようかな、とも思ったけど。頭を心配されるのがオチだろうからはぐらかすことにした。わたしも普通の女子がこんなこと(タイヤ特訓)を日ごろしていないのはわかってるし……わたしも半月前まではそうだったし……ゴメン春奈。心配してくれて申し訳ないんだけど、練習を止められるわけにはいかないんだよね。

 

 そんなことをぼんやりと考える六時間目。こうでもしないと起きていられなくなってしまっている。なんとか頑張って授業を聞くけど、すごく眠たい…………zzz……………………いたっ。……ああなんだ、春奈が起こしてくれたのか。先生だったらヤバかったから助かった。

 

 

「ありがと春奈、助かったよ」

 

「いいけど……ホントに大丈夫?無理してない?」

 

「んーん、無理はしてないよ……ホントにやりたいことやりすぎて疲れてるだけだからさ」

 

「そう……ならいいけど」

 

 

 チャイムが鳴る。授業が終われば今日も今日とて、鉄塔広場で特訓だ。

 わたしは新聞部に向かう春奈に別れを告げ、鉄塔広場に着く。いつものとくタイを背負い、目前のタイヤに繰り出すのは、

 

 

「ふっッッッ!!!!」

 

 

――――()()()()

 一応ディフェンダー志望であるわたしは、タイヤの特訓はキャッチだけでなく、タックルでもやっている。初めこそスパイクを履いていても、アッパーのクリーンヒットを食らったボクサーのように、芸術的な吹っ飛びを披露したり、5秒くらい気絶したりしていたわたしだったが、人間とは存外慣れるものらしい。今ではたまに尻餅をつく程度にとどまっている。

 

 

「はあっッッッ!!!!」

 

 

――――これで()()()。まだだ、まだ彼には追いつけない。

 

 

 

 

 

 

 

「必殺ワザですか?」

 

「ああ、そうだ!」

 

 

 特訓開始から、三週間も経とう頃。わたしは初めて聞く単語に首を傾げる。円堂先輩がいうには、サッカーにはそんなものがあるらしい。なんでも四十年ほどまえに雷門中は伝説のサッカー部、イナズマイレブンがあったらしく、所属部員は必殺ワザなるものをそれぞれが持っていたとのこと。

 円堂先輩が持っているノートは、かつてのイナズマイレブンキャプテンである亡き彼のおじいちゃんが記したそのワザの一部が載っているのだとか。先輩が練習しているという、“ゴッドハンド”というワザの書かれているページを見せてもらった。のだが、わたしには何を書いているのだかサッパリ理解できない……

 一時間ほど習得しようと取り組んだが、“ゴッドハンド”の片鱗すら見られないので、一旦習得は中断して、いつものメニューをすることにした。先輩によれば必殺ワザは、実力もそうだがイメージが大切らしい。気合が足りないのやら、向いていないのやら。タイヤを背負ってランニングをしながら考え込む。すると先輩からこんな助言が。

 

 

「……自分らしさを出した方が、いいんじゃないか」

 

「自分らしさ、ですか」

 

 

 円堂先輩を尊敬しているわたしだが、何も円堂先輩そのものになりたいわけではない。あくまで彼のように、皆にサッカーを楽しいと思わせられるような選手になりたい、それだけのこと。性別をはじめ、違うことも多いのだから、今の特訓こそ同じでも最終的な立ち位置は違うかも、とは考えていた。しからば、同じ必殺ワザにこだわる必要もないのかもしれない。

 そこでわたしは一旦“ゴッドハンド”のことを頭から追い出して、目の前にぶら下がるすっかりおなじみのタイヤに向けて、自分だけの必殺ワザを出そうとしてみる。

 目の前に迫るボールに、思いっきり自分の感情をぶつけるイメージ……わたしが選択したのは、全力を入れやすいパンチング。足の踏み込み方も自分のやりやすいように。目の前のタイヤに穴を開けるようなイメージで。インパクトの瞬間、一段と気合を込める。

 

 

「せいっ!!!!」

 

 

 その瞬間、拳は()()()()()()()()ように見えた。

 ぶつかったタイヤがバチーン!とすごい音をたてて激しく吹っ飛ぶ。そこに円堂先輩が駆け寄ってきたものだから……ああ、ロープのせいで戻ってきたタイヤで先輩が吹っ飛ばされる。大丈夫ですか、と声をかけに行こうとしたら、肝心の先輩は何も気にしていない様子で飛び起きるとこう言う。

 

 

「すっげー!すっげーよ赤井!これはれっきとした必殺ワザだ!」

 

「必殺ワザ……これが……」

 

「そうだな……気持ちを込めた全力のパンチだから――――“熱血パンチ”っていうのはどうだ!?」

 

「……“熱血パンチ”。じゃあそれでいきます」

 

 

 いい名前だった。その名前を改めて心の中でつぶやいたとき感じたのは――――しっかりとした達成感と、この上ない喜びだった。

 

 

 

 *

 

 

 

 気づけば五月。最近やっと練習にも慣れて、絆創膏を新しく貼ることも少なくなってきた。絆創膏を買いに薬局へ通わずに済むし、成長をこうして感じられるのは嬉しい。熱血パンチも実際のプレイで使えるようになってきた。並のシュートなら、もはや通さなくなったね。

 円堂先輩も無事“ゴッドハンド”を習得。大きな手のオーラが随分とカッコいい印象だった。本人いわく、安定しないうえにタイムラグがあるらしく、わたしの“熱血パンチ”を練習中だ。

 

 それとこの間、春奈にサッカーを見てもらうことになった。プレイを見せると物凄い驚かれたけど、「ファン第一号になってあげる」とのこと。

 それならばとタイヤ特訓も見せたところ、さすがにたしなめられこそはしたものの、無事彼女公認となり、わたしの親にも隠してくれるらしい。わたしはいい親友を持ったよ……

 

 今日は久しぶりにグラウンドを借りられたので、染岡先輩と再戦する運びとなった。内容は同じくドリブル勝負。彼の動きは――――前の対戦時とそう変わらない。ならば、こっちにもやりようはある。こちらのスライディングは、前とは違うよ!

 

 

「はあっ!」

 

「うおっ!?」

 

 

 我ながら上出来。呆気にとられた様子の染岡先輩を、前の仕返しも兼ねてちょっと挑発する。やる気になってくれて何よりだ。わたしもドリブルはまだまだだから、本気で戦ってきてくれると、良い練習になるからね。

 シュート練習では、この間習得した“熱血パンチ”の出番。みんな驚いていたけど、うん。わたしも仕組みなんてわからないけど、きっとみんなにも出来るんじゃないかな……文献(わたしには解読不能)もあるし。

 

 他のメンツとも盛り上がったその日の対戦は、必殺ワザの練習も兼ねて、日が暮れるまで続いた。やっぱり練習相手が増えると楽しいね、サッカーって。

 

 それにしても、円堂先輩はなんか“熱血パンチ”を習得できそうだし、わたしも自分だけの必殺ワザを生み出さないとマズいかなあ……

……明日は許可貰って、鉄塔広場にこもろうかな。わたしの、わたし()()の持ち味を探すために。

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで特訓を重ねて、一ヶ月が経過。

彼女たちはここから、数奇な運命へと巻き込まれていく。

その切っ掛けとなる少年に円堂が出会うまで、あと一日。

 

 

 

 

 

―――― ―――― ――――

 

 この世界線では、主人公が開発した“熱血パンチ”。

 ゲーム的に言えば、レベル1で習得していた、みたいな感じ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。