こんな予定じゃ無かったんだけど……
―――― ―――― ――――
わたしの“熱血パンチ”と“レッドハート”、円堂先輩の“熱血パンチ”と“ゴッドハンド”をもってしても、戦局は好転しなかった。
理由は「スタミナ切れ」である。
ハッキリ言って場数が違ったのだ。体力やガッツこそ同等でも、試合にかかるプレッシャーへの対応の仕方や、全力の発揮時間の違い、動ける人数の差、ボールにより受けたダメージ……などなどがここに来て如実に表れたのだ。
こちらのメンバーは一人、また一人と倒れていき。目金先輩は逃亡。壁山が戻ってきてくれたものの、今や動けるのは円堂先輩・染岡先輩・壁山・
試合は現在後半20分で、10-0の構図。
雷門中は、本気の帝国を前にもはや屈するのを待つのみであった。
*
わたしも円堂先輩も染岡先輩も、もう立つので精一杯。
ひざは笑い、腰は震え、口内に血の味がにじむ。ドリブルなんてもう拙いものだ。
壁山も頑張ってこそくれたものの、本気の帝国を前にもはやピクリとも動かず、その場で倒れ伏している。
「あの男を出せ」
「……何、いって……るのよ」
「しらばっくれるなら、何度でも“デスゾーン”を打ち込むのみ」
「ふざっけ……」
男三人がまるで当たり前のように、必殺の体勢に入る。
「「「“デスゾーン”」」」
「……染岡先輩!!」
「……わかって、るよ! くそったれがぁぁ!!!」
もう円堂先輩は“ゴッドハンド”の余力がない。だから三人合わせて、シュートを曲げる。
こんなことをもう、キーパーを交代して損耗を抑えながら、幾度となく繰り返してきた。
染岡先輩のキック。
円堂先輩かわたしのヘディング。
わたしか円堂先輩の――――“熱血パンチ”。
全てを同じ方向から叩き込み――そんな繰り返しも限界を超えて――吹っ飛ばされた。無残にも、三人まとめて。
無慈悲にも十一点目のボールと、わたしたちがゴールに突き刺さった……
*
立てない。
意識が、朦朧としてきた。
さすがに、もう、ダメかも。
春奈がファンに、なってくれるって、言ってたのに。
わたしはこんなところで、
サッカー部も、こんなところで、お終い……?
――――そんなことを思い浮かべた瞬間。
「もうやめてっ!」
――――
――――――――
「春奈……」
「もうやめてよ、お兄ちゃん! 雷門中の負けでいいじゃないっ! どうしてこんな……こんなっ! 血も涙もないことをっ!」
「しかしっ……俺には役目があるんだ」
「これ以上私の親友(トモダチ)を、傷つけないでっ!!!」
「無理だと言っているだろう!」
「これ以上必殺ワザを撃つというなら――――わたしに撃ちなさいっ!」
「そんなことは出来ん!」
「……出来ないってことは、内心ひどいことをしている自覚があったってことじゃない」
「……それはっ! 部外者は下がれっ! 洞面、“デスゾーン”を入れろ! ヤツをとっとと、引きずり出せぇ!」
鬼道がそう指示をすると、いつものごとく“デスゾーン”が装填される。
黒き球が雷門中にトドメを刺さんと、襲い掛かる。
――――それを静観するような、
「ぐふっ」
ボールにタックルを決めて、肩に思いっきり衝撃を受けたわたしは、情けない悲鳴をあげると同時に宙を舞っていた。
運よく弾かれたボールは、ゴールから逸れていく。
「……シンっ!」
春奈からの悲痛な叫びが聞こえるが、口を開くことさえ出来やしない。駆け寄ってきた彼女は、わたしの無事を確認して、ホッと胸を撫でおろしたかに見えた。しかし振り返って鬼道を見つめる表情は、もはや兄にものを懇願する妹のものではなく、耐え難い屈辱を受けた怒りを表すものとなっていた。
「……最低」
それっきり敵キャプテンの顔すら見なくなった彼女は、すたすたと歩いて円堂先輩の前に立つ。そして思いっきり、制服を脱いだ。観客席にどよめきが起こる。
すると、そこに立っていたのは、サッカーウェアを身に着けた彼女。
「部外者じゃなければ、いいんでしょ?――――音無春奈。今日を持って雷門中サッカー部に、入部します」
「……ああ! よろしく頼む!」
「なぜだ……なぜこうなる……!」
彼女の着ているウェアは
雷門中サッカー部ファンとして、先日ぜひとも欲しいと貰っていった一着だ。
いつの間に下に着ていたのやら。それとも試合の始めからこうしてくれるつもりだったのかな。
ありがとう、春奈。
帝国の方でもどよめきが起こっている。春奈が鬼道の妹であることとか、新たなプレイヤーが入ってきたことに対してだろう。
冬海先生はどうでもいいとして、わたしたちも驚いているくらいなのだから、彼らは――――
――――――――
「構わん、ヤツごと“デスゾーン”で叩き潰せ……勝負の間に入ってくる無粋な素人なぞ、まとめて再起不能にしてしまえばいい」
審議の果て、総帥から入った指示。それは鬼道にとって、無慈悲極まるものだった。
「総帥ッ!」
「やれ、佐久間、洞面、寺門」
「鬼道……恨むなら、帝国に逆らう馬鹿な妹を恨むんだな」
「クソッ……」
試合は再開。敵はある一人を除き満身創痍、あるいは逃亡。だが残りの一人は、自分が悪鬼になれるほど愛していた、他ならぬ妹なのであった。
今“デスゾーン”の始動を止められる人間なぞ、どこにもいない。そして帝国の旗印は……誰にだって、牙を剥くことが出来るのだ。
「「「“デスゾーン”」」」
「やめろっ――――!!!」
暴虐とすら言える勢いのボールが、目の前の
――――なぜこんなことになってしまったのか……?鬼道はもはや、当惑することと、喚くことしかできなかった。
――――――――
「すまない夕香。一度だけでいい――――サッカーに戻る俺を許してくれ……!」
とある男が、脱ぎ棄てられたウェアに袖を通す。
――――彼には静観できないだけの理由が、
――――――――
まさか、いくら何でも本気!? 素人に対して、ノーマルシュートならまだしも、“デスゾーン”を放つだなんて、とても正気じゃない!
あんなの受けてしまえば春奈はっ……下手したら骨折してもおかしくないのに!
――――だが、疲弊した身体は、もうわたしのいうことを聞かなかった。残る力すべてをもってしてもあのスピードを前に、彼女の盾になることなんて。
ぶつかる――――
ズバアアンッ!!!
予想だにしなかった凄まじい音。見ると、“デスゾーン”の威力はたった一人の男の足によって、完全に相殺されていた。
「来たか――――豪炎寺」
「こいつ等のサッカーはまともだった。にもかかわらず、サッカーで相手を痛めつけるだけに及ばず、素人である自分の妹まで必殺ワザに巻き込むとは――――鬼道とかいう男、絶対に許さん」
一見クールな、豪炎寺という少年には、
怒りの炎が、渦巻いていた。
*
豪炎寺って人、入ってくれたんだ。これなら一点くらい……
そう思うと、あれほどボロボロだった身体に、力があふれてくる。 降って湧いた逆転の目。こんなに嬉しいものはない。それは今動けるメンバーは、みんなそうみたいだ。
「「「“デスゾーン”!!!」」」
やっと目当ての相手が来たと、帝国勢がほくそ笑む。そのせいか、今までで一番強力な、会心の“デスゾーン”がゴールに向かう。
でも、今の円堂先輩なら――――あれほどサッカーが好きな彼ならっ!
「“ゴッドハンド”!!!」
「なっ……どこにあんな力が残って……」
勝機に、きっと応えてくれるよね。
――――会心の“ゴッドハンド”が炸裂して、ボールはボロボロのグローブの中へ。帝国のメンバーに動揺が走る。
だが彼も疲れ果ててしまっていて、豪炎寺先輩目がけて遠投したボールは、わたしのところまでしか届かなかった。
帝国の連中がここぞとばかりに立ちはだかる。でも――――無理のしどころは、今ッ!
「“レッドハート”!!!」
「「ぐわあーっ!!」」
最後の力を振り絞り、敵陣を強引に突破。
――したはいいものの、敵もしつこい。執拗にボールを狙ってくる。
ここからなら……春奈が空いているけれど。
彼女に渡せば、多分
激昂している彼女に任せるには忍びないが……やってもらうしかない。
「春奈、行ける!?」
「任せなさい!シン!」
春奈にボールが渡ると、案の定というか鬼道が出てきた。
「やめろ春奈!こんなことはしないでいいっ!」
「あなたなんて、あなたなんてっ!お兄ちゃんなんかじゃないっ!絶ッ対に許さないんだから!!!」
「そんな……くっ」
春奈は言葉こそ荒ぶっていたが、努めて冷静にプレイしていた。いくら相手が精彩を欠いているとはいえ、その一挙手一投足に対応してみせている。
「わたしだってあなたのプレイ、あの時までずっと見続けてきたんだから――――これくらいならっ!――――“スーパースキャン”!!!」
「嘘だろ……」
「春奈っ……すごいよ!」
冷静な観察眼が、最低限の動きをもって、鬼道を抜き去らせた。帝国からは戦慄が、わたしからは感嘆が、思わず漏れる。
「染岡先輩!」
「おう!」
みんな多くは語らず、とにかく前へ。
春奈から染岡先輩に渡ったボールは、やがて正確な弾道で豪炎寺のもとへ。
「決めてくれ、豪炎寺とやら!」
「“ファイア――――トルネード”!!!」
ラスト一分――――間に合えッ……!!!
円堂先輩から流れるように導かれたシュートは、雷門のプレイヤーの気合と根性により、裂帛の炎となって帝国のゴールに……突き刺さった。
スコアボードは、11-1を記録した。
――――――――
「これで終わりだ。データの収集が完了した……撤退だ」
そんな総帥の鶴の一声により、我が帝国学園は試合放棄。
散々な結果――――だがそれよりもずっと、鬼道には負担となっていることがあった。
突然の妹との再会。妹を迎えるためとはいえ、知られたくなかった行為の数々。そしてそれを見た――――春奈の反発。
処理しきれない感情が、少年を悩ませ、歪ませ。そして狂わせた。
そして彼は、ひとつの短絡的な答えを叩き出す。それを責めることが出来る人間など、この場には存在しない。
――――そうだ。
「アイツのせいで、アイツのせいで……俺は春奈に嫌われた……おのれ豪炎寺修也ッ! 絶対に許さんッ!!!」
装甲車に、慟哭が響いた。
波乱はまだ、始まったばかり。
―――― ―――― ――――
鬼道 → 豪炎寺
お前さえいなければッ!
豪炎寺 → 鬼道
兄としての風上にも置けん!
鬼道 → 音無
春奈……なぜ……
音無 → 鬼道
お兄ちゃんのバカぁっ!
変化したこと一覧
円堂が主人公の存在により若干成長(熱血パンチが打てるくらい)
染岡が主人公の存在により若干成長(帝国相手に倒れないで、味方を信用できるくらい)
主人公参戦!
音無参戦!
音無がお兄ちゃん嫌いに
豪炎寺の戦う理由変更
豪炎寺と鬼道が、宿命のライバルに
一年生勢が女子たちの尻に敷かれる(確定事項)
あーもうめちゃくちゃだよ
鬼道かわいそう(小並感)