鬼滅の刃RTA 上弦の弐単独討伐   作:一億年間ソロプレイ

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これにて初投稿&完走です。
本当にありがとうございました。


無限城突入 ~ タイマーストップ part13

 

 寿命も最早無い信者を初めて看取った時だった。皺だらけの手が俺の手を強く執拗に掴み、「どうか極楽へ」とばかり、回らなくなった呂律で何度も俺に縋った。

 ベタベタと触られるのが嫌で、早く終わってくれないかと思って握り返すと安心したように何も言わなくなった。

 それを見て周囲は「極楽へ行かれた」と言い、ああ死んだのか、と分かった。

 初めて目にする人の死だった。

 

 だが、別に俺は極楽へと旅立たせたり、案内をしたりなどはしていない。

 それなのに周囲は俺の功績だという。私も是非極楽へお導き下さいと涙を流して懇願する。

 

(俺は、何もしていないのに? □□のように、手を引いたりもしていないのに。□□……?)

 

 この老人は勝手に病に掛かって勝手に死んだだけ。死の間際に俺の手を握っただけ。

 それだけで極楽なんて場所に導けると思うのだろうか。この、人を騙して時には死に追いやったような老人が、安らかな世界に行けるとでも?

 

(……いや、□□とは、何? 誰?)

 

 ふ、と浮かんだ誰かの名前、名称、単語。それが誰かの顔に結びつくことはなく、その時ばかりは気になったものの、次の務めがあるので忘れていった。

 忘れるぐらいならきっと考えなくても良かったことだ。

 煙草で吹かれて消える程の些事、酒気のように帯びては消える、何でもないこと。

 

 今となれば、きっとそうに違いないと、思いたかっただけかもしれなかったのだが。

 ははは、まぁ、どうでもいいだろう!

 俺は死んでしまったし、答えは出たのだから!

 

§

 

 皆さんおはようございます。初めましての方は初めまして。

 ようやく宿敵の頸を斬るRTA、始まります。

 

 ここが無限城かぁ~、テーマパークみたいでワクワクするなぁ~。

 最初は落下から始まるので手頃な所で着地します。はい、ここで注意深く音を聞きます。

 水の音がしてきますね(音量MAX)!

 ではそちらに近付いていきましょう。猗窩座と違って童磨・黒死牟の位置は固定です。有難いですね~。

 

 道中のモブ鬼を肩慣らしに斬りつつ目的地へ移動しておりまァ~す。ここで、宿敵とエンカウントする前にやっておくことをおさらいしましょう。

 

 一、味方の侵入・童磨の退路を防ぐ為に出入り口を爆破します

 二、あんぱんを食べて冷気スイッチをオォン!にします

 三、セーブします

 

 これで万が一死んだ時の為の保険+バトルフィールドの設定は完了です。これはバグ技有のレギュレーションではありませんので、急に何度も壁にアタックしてしのぶ姉貴を生存させたまま童磨戦を完了した状態へキングクリムゾンするbutterflyskipグリッチは使いません。

 おっとモブ隊士たちから援軍されました。お前の扱きでこんくらい出来る様になりましたーとのことです。無惨に簡単に食われる程度の肉の壁なんて要りませんしね、笑顔で応対しておきましょう。

 

 倍速してようやく辿り着きました。ここがあの鬼のハウスね……。

 今回はかなり運が良いです、距離がめちゃ近いです。ということで発破ァ!

 

 ボンバーして出入口へ急行、あんぱんを食べてバフの掛け直しと冷気を出しながら全壊した扉を潜ります。

 

 おっ、開いてんじゃ~ん(様式美)!

 

 宿敵を発見しましたが、もう栄養補給は済んでいるようで人の死体がありません。動きやすいのでラッキーです。生き残ってたら救助(ほぼ死ぬ)とかしなきゃならないのでロスですよロス!

 

「あれぇ~、もう来ちゃったの?」

 

 これRTAだからね、仕方ないね♂

 ここでお喋りを楽しむ暇はありません、イクゾー! デッデッデデデ! カーン!

 初手はやっぱこれだね、霹靂一閃。全ての呼吸術の技の中でも随一のスピードを誇ります。

 

「お喋りする暇も無いんだね……。可哀想に……」

 

 受け止めた後に凍て曇のモーションを見せたので離れる為に霜の呼吸 参ノ型『露霜払い』を出しておきます。うお、危ね。

 

 さて童磨戦のおさらいでもしましょう。

 

 まず最初、彼の周囲に漂う冷気のある場所で呼吸術は使わない&長い間いないこと。すぐに立ち去れば冷気ゲージは溜まりません。

 特徴が冷気なんでこっちにも耐性はあるんですが、鬼ではないので冷気ゲージが中ぐらいまで溜まったら肺が高確率で壊れてゲームオーバー直行です。

 

 故に冷気のない場所へ引っ込む+息をしないで呼吸を使って相手の攻撃をいなし、最後に霜の呼吸を叩き込むの繰り返しとなります。

 使う呼吸は覚えた呼吸全部+霜の呼吸。ここで確実に奴の頸を刈り取ります。

 道具はあんぱんのみ。最初のあんぱんバフ掛かってる時間内に頸を刈り取れたら自己ベスト更新です。

 

 

 

 お ま た せ ♡(開戦)

 

 お 前 の 死 が 来 た ゾ ♡

 

 

 

 童磨の攻撃モーションについて解説でもしていきましょう。まず画面で行われている扇攻撃。

 とにかく早い・痛い・ヤバイのHIYが揃っています。が、このモーションに対応できないようではRTA走者として未熟者、未熟者です(SNB姉貴)

 透き通る世界所持+速度MAXのおかげで簡単に対処可能となっております。

 ただ、この攻撃は冷気のオォン!とオフ!の二種類あります。開戦当初というか、体力がまだ減ってない時は冷気オフの舐めプ攻撃ばっかりなので呼吸でガンガン♂攻めていきます。

 

 そしてちょっと厄介だな~と思われて来ると蓮葉氷・凍て曇で冷気を散布してくるので避けます。

 

「あはは、待て待て~」

 

 なんて冷気を発生させながらこっちを追っかけてきます。こうなると、今まで無呼吸でやってきたので根気ゲージを回復させることが出来ません。

 なので、童磨に突っ込みます。

 

「えっ」

 

 高確率で驚いてくれるのでそのまま彼奴の頭に向けてジャンプ・ステップ・フライハイ!

 空中はまだ冷気が満ちておりませんので呼吸しても大丈夫。すると蔓蓮華での追撃が来ますがご安心を、最大に回復した根気ゲージでの霹靂一閃で地上に着地、霜の呼吸 弐ノ型『大霜の雨』でようやくヒット。冷気ゲージがちょっぴり入りました。

 応戦される前に霜の呼吸 陸ノ型『月落霜天・烏啼』で冷気ゲージの上昇率をアップさせつつヒットを狙いますが……防がれました。

 

「なにこれ、……冷気? あはは、俺に冷気は通用しないよ!」

 

 と思っていられるのが花なんだよなぁ……。言ったジャマイカ、霜の呼吸は上弦の壱だけでなく無惨戦でも通用するって。

 また根気ゲージが減ってきたので離れると今度は……、散り蓮華ですね。初動を見極めて風の呼吸 弐ノ型『爪々・科戸風』で撒き散らす一手に限ります。

 

 似たような場面が流れますのでここいらで上弦戦の解説を。

 

 雑魚鬼・異能の鬼・下弦の鬼戦で共通するのは踏ん張って刀ブンブンすれば体力(HP)切れが狙えることです。頸が切れなくても体のどっかに打ち込んでりゃ体力がゼロとなり、相手がなんかしら死を悟ってビビッて隙だらけになって頸を切る確殺シーンに移行します。

 

 ですが、無策で行くと上弦戦ではこの体力切れを狙えません。当然無惨戦でも無理です。

 打ち込んでった端から体力が回復します故、下弦で通用していたのに上弦戦で負けるのは『体力回復阻害効果を持つ方法』を持っていないからということになります。

 

 基本赫刀だったりなんだりで救済措置はあるんですがね。

 『体力回復阻害効果を持つ方法』は赫刀に藤の毒、デバフ薬であったり、ヒノカミ神楽こと日の呼吸だったりと……、上弦戦ではこれらが必須!

 だから、救済措置として柱稽古に『呼吸法訓練』がある訳です。すると確実に炭治郎の持つヒノカミ神楽こと日の呼吸を(1/100)の状態で獲得できます。

 

 「あれ? ホモくん獲得出来てないですよね?」なんて気付く勘の良いホモたちもいることでしょう。

 

 というのも特徴が『冷気』の為に起こる現象です。これ以外にも、記述はされていなくとも冷気と同じく『体温上昇を阻害する効果』がある特徴がございます。

 

 人体を凍結or機能停止に追い込める冷気を放出できる奴が体温三十九度にできるかっつうと出来ませんよね?(当然)

 

 だから刀をぎゅんぎゅんに握っても赫刀になりません。

 痣を出して更なるステータスアップも狙えません。

 そしてそれらというか、通常の人間的構造を持つことが前提となって初めて獲得できる日の呼吸も獲得できません。

 頭に来ますよ!(事実陳列罪)

 

 通常でしたら特徴が『冷気』の場合、カナエ姉貴を死亡させてSHINOBUサンに進化させて藤毒特攻をさせて上弦の弐戦をスキップした方がいいんですけどぉ~……。

 でもぉ……、それってぇ、しのぶ姉貴があの宿敵に喰われて死ぬことになるんでぇ……。

 

 そんなことしちゃあダメだろ!(良心)

 

 胡蝶姉妹にはこの後歴史的な鬱イベが残っているとしても健やかに生きていて欲しい。そう思うことはいかんのか?

 ならばやってみせよう、このホモくんが童磨をこの場でただ一人で殺せばいいだけのこと……。

 行くぞ、ハイクを詠め!

 

 冷気ゲージがMAXからのブレイク!

 

 はい、体力が四分の一減りました。これを~、あと一回繰り返して~。

 

 へい。半分になりました~。イエーイ、無惨様見てる~? 今からお前の部下を一人で潰していくからな~?

 ――こっからが本番です。イヤーッ!

 

「そんなに俺と遊びたいんだね。いいよ、もっと激しく行こうか!」

 

 体力が半減になるとぉ、これまで童磨に使ってきた戦法を学習されてめちゃくちゃ阻害してきます(絶望)

 これまで使っていなかった『寒烈の白姫』や『結晶ノ御子』を使って遠距離責めもします(絶望)

 ワァ~……ァッ、アッ……。泣いちゃう、泣いちゃわない?

 いくら『体力回復阻害効果を持つ方法』とか持ってても鬼たちはいつもプレイヤーにクソゲーを強いてきます。そんな所まで原作再現しなくていいから(憤怒)

 

 馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前(意地)

 

「じゃあ頑張っていこう!」

 

 言った側から『結晶ノ御子』を使うなんて卑劣な!

 鬼が卑劣の呼吸を使うとはよもやよもやだ!(煉獄卑怯寿郎)

 『寒烈の白姫』と『結晶ノ御子』の対処法は出来る前に潰す、これ一択です。霹靂一閃でパパパンと出来る前の御子をすり潰していきます(無慈悲)

 

「へぇ、じゃあこれはどう? どうやって動くのかな!」

 

 あ゛~、やってきましたね。サイレントで頭上に『冬ざれ氷柱』。攻撃に夢中になってるとノーモーションで『冬ざれ氷柱』してきます。急に現れた氷柱でダメージを受けるとなったら十中八九これです。クソゲーかな?

 回避ィ~していると池からも攻撃が飛んできます。ほーんと眼中に無かったただの池フィールド使って『蔓蓮華』とかカスの所業ですよカス!

 

 散り蓮華もいつもより激しく~、あ゛~、後ろの方で扇合わせのモーション――御子ろう(結晶ノ御子)としてます! いけません!

 霹靂一閃で空中に飛んでからの風の呼吸 伍ノ型『木枯らし颪』で接敵して阻害します。そして霜の呼吸 壱ノ型『秋霜烈日』でアタック、お祈り冷気ゲージを蓄積させます。

 冷気オォン扇攻撃で応戦されましたが、ジャストガード出来ました。怯んで出来た一瞬の隙に霜の呼吸 肆ノ型『露の緯・霜の経』をお見舞いして……、いいっすね、順調に溜まってます。

 

 一旦根気ゲージ回復の為に距離を取ります。まだ大技の『霧氷・睡蓮菩薩』を出してきていないのが救いでしょう。

 体力半減すると技の範囲も増えましたし、よりねちっこくこちらの根気ゲージを回復させまいと追撃してきますし、冷気の範囲がとにかくお広い……広スギィ!

 

 初見の方は胡蝶姉妹の行く末とか気にしないで藤の毒とか縛らないでパパっと毒殺でいいと思います(外道)

 それが一番早いです、こんな耐久戦やるより確実に殺せます。

 

 とはいえもう終盤も終盤なんですがね。

 

 これまでの鬼との戦いでは冷気ゲージを溜めればイチコロやニコロで終わっていたのですが、童磨戦ともなれば計四回ゲージブレイクをしなければならんのです。

 体力が三分の一にもなれば『霧氷・睡蓮菩薩』を出してくる確率も高くなりますし、なんといってもこんな猛攻を受けつつ二回もゲージブレイクせねばならない、なんてロスですね?

 

 ここで皆さんにオススメいたしますは……、霜の呼吸 終ノ型『八寒・摩訶鉢特摩』!

 

 生々流転の様にコンボ技ではありますが、なんといっても特徴は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 難易度調整とか出来ないゲームにおける救済措置の中でも破格です。

 なのですが、全弾ヒットさせた上で相手の冷気ゲージがMAXに溜まっていなければ不成立となります。

 技を発動してからは他の呼吸で繋ぐとコンボが途切れるので使えません、どないせえっちゅうねん。

 

 

 どこんじょーの一択です!!!!!!

 

 

 ほんでもう使うことにします。稼げるだけのゲージは稼ぎました。

 何来たってバッチコーイ、パーフェクツに避けてやろう。

 

 距離を取って根気を全回復、それでは発動します。

 

「霜の呼吸 終ノ型」

 

 これまでとは段違いの冷気を放出し始めたところで凄まじい攻撃速度でコンボの初撃を当てます。

 しかしながら相手の冷気を吸うと全てがおじゃんになるので全部避けます。

 攻撃を当てる、童磨の冷気と攻撃を避ける、これを同時にやらなきゃならないのが終ノ型の辛いところだ……。

 ですがコンボも中盤となったらまた根気回復し……、もう一息にやっちゃいましょう。

 

 

 なんで更に攻撃範囲が広がってんだよ(枯れ園垂り)

 

 根気はどうなってんだ根気は

 

 お前ら禁じられた菩薩を平気で使ってんじゃねえか(霧氷・睡蓮菩薩)

 

 分かってんのか!?(ジャストガード)

 

 「鬼」が生まれたのは無惨の生存欲求の深さを甘く見たせいだろうが!

 

 命取んのかよ!?(無限城の死者数)

 

 くそったれ!(鬼の王発生)

 

 

 もう押し切るので冷気を避けず一撃貰いましたが、フィニッシュです。

 

「『八寒・摩訶鉢特摩』」

 

 

 憎き宿敵、万世極楽教が教祖の童磨、討ち取ったり。

 

 

 冷気ゲージMAXからの体力ゼロで頸チョンパ。いやー、いつ見ても皮膚が固まり捲れ上がる様は睡蓮のようでお見事。キショ。

 ん? ムービーが入りましたね……。まぁそっくりさん効果のせいでしょう。

 最初のあんぱんバフが掛かってる内に殺れたとはいえ、ムービーが入りますかぁ……。

 

 ふむ、はい。

 なんか前世で兄だったらしいです。長男として次男の命を蘇らせたらこんな事(鬼化)したのでケジメつけろと神仏から言われたそうです。

 もうとっくに故人なのに鬼になって罪ばっか重ねてる弟を殺す為に呼び出されるとか……。

 この作品の長男責任重大だな……。そうは思いませぬか、兄上。

 

「上弦の弐、撃破ァ! 撃破ァ~~~!」

 

 はい、鎹鴉が鳴いた所でタイマーストップです。

 時間は04:56:4439219:45:33。

 自己ベストをおおいに更新! 五時間を切りました! やふー!

 

 完走した感想ですが……、キツかった(素)

 

 何故藤の毒を縛ったのか、酒に酔ってチャートを考えた己を刺し殺したくなる思いでした。

 ですが、こうして自己ベストを叩き出して完走するとRTAを走って楽しかった、という気持ちが湧いてきますね。

 そっくりさん効果もどうなることやらと思いましたが、意外に良い効果ばかりを引けたようで何よりでした。基本的に運に愛されたのも好走の要因でしょう。

 やっぱ最初の内に不死川兄貴と出会えたのが幸いっちゃ幸いでした。あそこから爆速で育手の元へ行けたのでね、ええ。さねみん様様です。

 はー、いや、ほんと、感無量です。

 無限城に入った時に取り出してきたこのビール缶で優勝していくことにするわね……(20缶目)

 

 ホモくんも本懐を遂げました。最後に食らった扇の攻撃と冷気で死にかけです。

 このまま緩やかにゲームオーバー画面へ移行しましょう。

 そして「次に託しますか?」と出るのでそこで【はい】を選択すると……。

 

 

 

 

 

 ど う し て 動 画 が 続 く ん で す か ?

 

 

 

 

 

「――大丈夫ですか!」

 

 ファッ!? しのぶサン!? 間に合っちゃったしのぶサン!?

 

 

 

 

 

§

 

 俺用に造られた敷地で信者の女の子を救済しながらこれからの戦いに向けて栄養を取っていたら、突然寺院の中から爆破音がした。

 爆破音だよ? 流石の俺も驚いちゃってさ、そーっと入り口を覗いたんだ。まだ来ていないけど準備はしておいた方がいいかなって、結構急ぎ目に信者たちを救済しきった所で入り口が爆破されちゃった。

 あー、来たんだなって思ったさ。

 

 土煙の中から出てきたのは予想通りというか、俺が始末しなきゃならないそっくりさん。

 見れば見る程そっくりだ。違うのは髪と目の色合いと髪の向きぐらいで、体格まで似てる。というか同じかも?

 雪を被ったように白い部分のある黒髪、色を何処かに落としてきた白い目。殆どが白色と黒色で構成されている男、という印象。彼は二本の刀を挿してこちらに歩んでいた。

 彼、柱になったんだっけ。それで無惨様からお叱りも受けちゃったし、情報を引き出そうか。

 

「あれぇ~、もう来ちゃったの? いやでも丁度良かったよ。今食べ終わ――」

 

 一瞬何が起こったか理解は出来なかったが、感覚で避けた。

 すぐに持ち直してその刀の軌道を追うことが出来た。

 

(あの距離を一瞬で移動……、居合で斬り落とそうとしたのか)

 

 何の殺意も無く、害意も無く、俺の頸に届こうとした刃を扇で逸らしてすぐに血鬼術を散布すれば回避しがてら、こちらに十字の斬撃を放って後ろへと下がった。それでもチリ、と鋭い攻撃が髪の端を掠めた。

 

 攻撃の速度と練度が、前に会った時より格段に違う。これまでいくらか柱と対峙してきたが、彼は特別、警戒しなければならないかもしれない。

 ニコニコとしながら文句を言うことにした。

 

「ねえちょっと、いきなり斬りかかるなんて酷くない? 少しはお喋りしようよ! 俺、そっくりな君のことが気になってるんだ!」

「俺は気にならないから」

 

 何だか空気が違うと思ったら、そっくりさんは表情を削ぎ落した顔でこちらを見ていた。前会った時はニコニコしてたのに。

 

「お喋りも笑う暇も無いんだね……。可哀想に……」

「“ある振り”をするのは無駄な事だから。君のようにね」

「ふーん……」

 

 とまぁ、こういう風に俺たちの戦いは火蓋を切った訳だ。火蓋なんて凍りつくぐらい、冷えた空間だったけどね!

 

 しっかし、相手も冷気を出すだなんて不思議だよね。本当に俺にそっくりだ。

 その冷気で凍らされた鬼の頸は一発で斬られるらしいけど、無惨様からは「お前なら冷気ぐらい耐えられるだろう」と言われたのだからさ、頑張らなきゃなぁとは思ったんだ。

 

 でも結果は違った。

 冷気に耐えられはするけど、完全に防げる訳じゃなかった。あの攻撃を受ければ受ける程、再生の追いつかない箇所が徐々に増えていく。

 だが相手は単なる人間。いくら俺の冷気を吸わない様に息をせず技を使おうが、息継ぎの瞬間はやってくる。

 何度か技を出された時、彼が俺から距離を取ろうとした。

 

「あはは、待て待て~」

 

 息をさせる暇を潰そうとしたらさ? 彼、どうしたと思う?

 突っ込んで来て俺の頭を踏んでジャンプしたんだ!

 思わず俺も「えっ」と声が出てしまった。そしたら呼吸を整えたらしい彼が一気に距離を詰めてきて、その攻撃でまたチリと俺の肺が冷たく感じた。

 

「なにこれ、……冷気? あはは、俺に冷気は通用しないよ!」

 

 彼は無言で、その能面のままに俺に立ち向かってきた。嵐のように飛び上がって飛ばしてくる斬撃、腰に挿したもう一振りを使っての六連撃。

 とにかく多彩な動き。恐らく彼は他の鬼狩りも使う呼吸とやらを使っている。

 見ているだけで鮮やか! 動きも読めない、俺も対応するのが遅れるぐらいに早くて!

 

 俺の冷気を的確に見分けて、息を止めながら呼吸の術を扱って。

 ならば息継ぎをする間を潰そうとした追撃を雷の如き速さで振り切って。

 散り蓮華や凍て曇で襲わせれば霞を払う様に冷気を払われて。

 水の如く変幻自在の動きで俺に次の行動を予測させず、苛烈な炎の様に攻め立てて。

 

 対戦していて厄介だなと思ったのが“目”だ。

 彼は全方向からの攻撃に対応した。こっちが攻めて気を逸らしながら上空に氷柱を落とした時も、池に忍ばせた『蔓蓮華』の奇襲も、連続で『散り蓮華』と『蓮葉氷』で冷気そこら中に散布して逃げ場所を潰しても、全ての攻撃を躱してこっちに攻撃を叩き込む。

 

 攻撃を打ち込まれる度にゆっくりと、確実に、その冷たさは俺の中で占める面積を増やしていた。

 

 俺は鬼だから体が壊死したってすぐ再生する。だがそれでも拭えない、何か、何かがずっと俺の後ろで待ち構えている。

 冷気を纏った攻撃が体に蓄積する度、それが大きく、大きく――。

 

「そんなに俺と遊びたいんだね。いいよ、もっと激しく行こうか!」

 

 その何かを振り払う様に出し惜しんでいた術を使うことにした。『結晶ノ御子』と『寒烈の白姫』で遠距離に徹すればやがてこの空間は俺の冷気で満ちる。

 どこにも逃げ場は無いから彼の肺を蝕ませることが出来る。そんな俺の考えは知っているとばかりに、全部出来上がる前に叩き潰されてしまったのだが!

 

「へぇ、じゃあこれはどう? どうやって動くのかな!」

 

 意地になって彼の頭上に『冬ざれ氷柱』を出しても、まるで見たかの様にすぐに回避されるし、また御子を作ろうとしたら叩き潰されるし、一切俺に息継ぎの暇を見せはしないし。

 こんなに手こずるのは初めてだから早く終わらせなければと思った。――体が、体の芯が冷え切ってしまう前に。

 

「霜の呼吸 終ノ型」

 

 ――空気が変わった。その体から尋常ではない量の冷気を溢れさせていた。見たことのない動き、恐らくは大技。

 

 扇で防ぐ間も無くその刃が体を容易く引き裂く。斬られた断面が治りにくい、――凍っている。肉も血潮すらも凍らされた?

 

 治らない、ということは――。

 

 全ての力を使って彼の攻撃を振り払った。『霧氷・睡蓮菩薩』を出したものの、分かっていたかのように菩薩からの冷気を避けたが、俺との距離は取れた。

 ハァと息を吸うのが見えた。

 

(……時間が経っても治らない)

 

 彼に斬られた体の傷がいつまで経っても治癒しない。

 ――目の前の相手を確実に殺せ、と細胞の奥底から聞こえてくる。

 

 菩薩に攻撃させながら俺は『蔓蓮華』で追撃、『結晶ノ御子』で『散り蓮華』を使って逃げ場を潰したとして、――本当に何で避けられるの?

 

 蔦は切られ、彼は的確に冷気と攻撃の少ない場所を潜り抜けてこちらが作った冷気の壁を破った。

 

「えー、これ避けちゃうってか受け流しちゃうの……」

 

 質量も素早さもある菩薩の手刀を簡単に一本の刀で受け流して、片方の菩薩の手の中にいる俺へとその刀を携えて向かってくる。

 

 扇を彼の心臓へ向けて振り下ろしたけど、俺よりも彼の出す攻撃の速度が早かった。

 

 冷え冷えと皮膚から伝わる、熱から程遠い――そうか、死への恐怖というものだ。

 先程まであんな避けていた冷気も構い無しに俺への攻撃の手を止めない。御子も攻撃の余波で崩れた。

 

(あ、死ぬんだな)

 

 俺は抵抗する間もなく激しく、身を切り裂く冷気を纏わせたその技をマトモに喰らった。

 体を動かそうとしたが、巡る血が全て凍りついた様に俺から身動きというものを奪い去った。

 あまりの冷たさとその刃の勢いに体の皮膚が捲れ上がる程に、肉色の花を咲かせて。

 

 

 

「『八寒・摩訶鉢特摩』」

 

 

 

 ――どちらが鬼なのだろう。

 

 霧散していく俺の血鬼術と共に、軽やかに着地をした目の前の人間は生物として遥かに勝る“鬼”を凌駕していた。

 しかも人間なら動ける筈も無い冷え切った部屋の中で通常の人間の様に呼吸をしている。

 見た目で言えば首だけで意識がある俺の方だけど……、いやー、彼の方が化物じゃない?

 

 全てが固まり、全身の血が凍りつき、そして痛みも無く訪れた刃は酷く冷たくて。

 頸の上から咲く花を感慨も無く見届けた。

 

 ……体が朽ちていく感覚がする。

 頸を斬られた――死んだからって負けてたまるかーとか、無惨様に申し訳ないーとか、何にも思えないな。

 あれだけ強く従属意識を植え付けられたのに、何も変わりはしなかったということか。

 

「あーあ、斬られちゃった。なのになんにも思えない。俺ってば一体何の為に生まれてきたんだろう」

「……はぁ」

「あ、ようやく喋ってくれた。凄いね、さっきの技! 猗窩座殿や黒死牟殿なら凄く好きそう!」

「もう死ぬ間際なのに、それでも取り繕うんだ」

 

 俺を見下ろすそっくりさんは刀を出したままに相槌を返した。

 

「もう癖みたいなものだし、仕方ないものだと思っておくれ。いやはや、上弦の中で一番先に俺が退場とは情けない話だ。これでも教祖だから、信者の皆の事も心配だ。なぁなぁ君、俺にそっくりなんだから代わりに教祖をやってくれないか?」

「断るよ」

「いいや、俺は考えたんだが……。思うに、君は俺の後を継ぐ為に生まれてきたんだ」

「違うけど……。俺は君の頸を落とす為に派遣されただけの人紛(ひとまが)い」

「へ、俺の頸を?」

「君の頸だけを」

 

 へー、えー……?

 そんな事ある? もしかしたら、頭が可哀想な子なのかもしれない。

 え、俺ってばこんな子に殺されたの? うわー、俺可哀想すぎない?

 信者の皆を幸せにしたし、救済もしてきたっていうのにこの仕打ちかぁ……。

 

「君を生かした罪が俺にはあるから、償えと」

「はい?」

 

 そっくりさんは俺の頭にそっと手を置いた。

 満身創痍だ。俺の冷気も吸ってるだろうし、心臓のある部分を斬ったが、部屋の冷たさが幸いしてか血は流れてはいない。

 

(……確かに傷は与えられたけど、こんなに生気というものが消えていくものだっけ? 普通、生気を切らさない――もっと生きたいと思うものじゃない?)

 

 目の前にいる彼には生気というものが急激に消失し、戦いを始めた時より気配が希薄になっていった。

 火を激しく燃やしたが為に蝋燭が尽きていくように、氷が解けて水へと戻っていくように、ごく自然な事であるかの様に彼は受け入れている。

 そんな彼の手が、撫ぜる様に揺れた。

 

「だから、今度はちゃんと連れていくよ、地獄に」

 

 

 

 色の無い目が俺と目を合わせた。

 

 

 

 その目に、何処か既視感があった。探す、頭の中の記憶を、隅から隅まで。

 俺はその眼差しを見た覚えがあった。確実にあった。あった……のに、何処で?

 

 

(□□、□□)

 

 

 口をついて出た何かの音。何の音だろう、言葉だろう。

 

 

 

「……□、□。あ、に。――――――あに」 

 

 

 

 彼は俺を地獄に連れて行く為と言った。昔は()()()()()――。

 

 

 ああ。

 

 なるほど。

 

 

 なるほど。なるほど。――なるほど!

 

 これまで理解出来なかった、何処か不明瞭な部分のあった記憶に掛かっていた靄が晴れていく。

 熱病で苛まれて隠れていたあの時の記憶が、目の前の彼の正体を教えた。 

 

「そうか、()()とは君のことか!」

「……」

 

 能面がぐしゃりと崩れた顔をする。

 

()()よ、()()よ。あはは、今度は俺を地獄へと連れていくのか! 連れ戻したのはお前だというのに」

 

 あはは、おかしいね。お互い感情というものを知らないのに、彼の方が感情を持っているみたいな振りをしている。

 

「あーなんだ、地獄ってあるんだね。どうやら俺はその事を信じたくなかったみたいだ。さてはて、地獄への道は何処だろう? 分からないから、お前が案内してくれるのだろう。昔、俺の手を引いて黄泉路を戻ったように」

「まぁ……、腹立たしいことにそうなるねぇ」

「ふふ、いいね。一人だとつまらないが、傍らに誰かがいるというのは――うん。実に悪くない、楽しみになってきた」

「そうかい、じゃあ死ね」

 

 ダン、と振るわれた日輪刀で残った俺の頸を叩き潰された。

 

 

 

 ――が、俺の意識はまだ明瞭に、ハッキリとあった!

 

 斬り落とされた先に崩れた筈の体はあるし、意識もある。死後の世界ってあるんだ。

 

 ああ、なんでだろう、胸がドキドキする。なんだろうなんだろうこれ。

 ぼんやりと日輪刀を持ったまま命の灯火が消えていく彼の姿を見つめる。

 

「あにや、あにや。早くこっちに来なよ。だってとっくの昔に死んでいる筈だろう、君」

 

 

 

 ――俺には昔、()()と名乗った誰かに手を引かれた記憶があった。

 

 

 

 まだ俺が教祖として日も浅く、未だ話を聞くのに慣れてもいなかった頃のことだ。

 そういった疲れのせいか熱を出した俺は生死の境を彷徨った。

 両親が呼んだ医者は俺に処方した薬に効果が出ないと知ると怒って放り出して、いもしない神に縋って、熱に苦しむ俺を看病すらせず祈った。

 

 その間、俺は真っ暗闇の中を歩いていた。

 何処へ向かっているかも分からないというのに、足を動かしていた。

 

 すると、誰かが現れて、俺の手を引いたのだ。

 手を掴まれた感覚で顔を上げると、俺の手を掴む誰かの姿はぼんやりとしていたが、俺と同い年くらいの背丈ではあった。

 その誰かの顔はこちらを向かないので見えなかった。

 

 「だれ」と問えば、「()()だ」と答えた。

 俺は一人っ子なのだが、こんな話を母親から聞いた覚えがあった。

 

「最初はね、双子かと思ったのよ。二人分の音が聞こえていたの。でも、生まれたのは貴方()()だった。きっと、もう一人の子がお前の為に生を譲ってくれたのよ」

 

 漠然とだが、その双子の片割れなのだろうと思った。

 

 生まれることすら無かった“兄”、それが俺の手を引いて歩いていた。

 何故だとかその原理だとかは気にならなくて、ただ、ただ、胸の辺りが温かくて。このまま手を引いていて欲しくて。

 

 それをなんと呼ぶのかは結局、今となっても分からず仕舞いなのだが。

 

「お前はこっちに来るには早い。まだあっちにいなよ」

 

 いつの間にか俺たちは暗闇の中から川の見える場所にいた。

 ()()は俺を壺でも持つように抱え上げて、川の向こうへと投げた。

 到底優しさの欠片も無い扱いに文句の一つを言おうと思って振り返った。

 その、誰かの眼差しが、これまで一度も見た覚えのない色をしていた。

 

 俺を『崇める』でもない、『憐れむ』でもない、『怯える』でもない、――死んだ今でさえも『なんて言うのか分からない』。

 でも向けられて嫌なものではなかった。そこに、俺の求めるものの一欠けらがあるような気がした……、幼い俺でも直感的に分かっていた。

 ()()を知りたかったというのに。

 

 

 

 ――そうして、呆気に取られている間に俺は熱で苦しい体に戻っていた。ああ、誰かに手を引かれていた間までは体の重さも熱の煩わしさも無かったのだ。

 

 それから両親は快方へと向かって行く俺に奇跡だの神の子だのと囃し立てたが、俺はぼんやりと薄れていく不可思議な経験の記憶を呼び起こそうとして何度も何度も失敗した。

 失敗する度に消えていく、あの温かさも、知りたかったものも、なんだったのか分からないままに。

 

 『あに』は『□□』となり、何と言う音かも忘れ、――そして百にも続く長い生で忘れてしまった。

 

「それが死後になってはっきり思い出すなんてさぁ……。まぁ思い出したとしてもどうにもならなかっただろうけど」

 

 兄は水子だし。……ああ、そういえば誰も墓とか供養とかしなかったなぁ。

 ま、済んだことだし、もう俺とて死んでいるし。

 

 それよりも、だ。

 

「あにや、あにや。早く共に地獄へ行こう。今度は俺がそちらへ行く番だろう。俺では道が分からないよ」

 

 くらりと倒れていく兄の体を見つめた。

 この胸の高鳴りがなんなのか、兄に聞けば分かるだろうか。分からないだろうか。俺を放り投げた時の眼差しのことも聞きたい。

 

 いや、分からなくてもいいから、俺はあにと共に地獄へ行きたいのだ。

 俺がまやかしと語った幻の園を見たい、そこで水子たる兄がどう過ごしたかとか、なんで殺しに来たのとか、聞いてみたいことばかり思い浮かぶ。

 こんなに胸が躍って、ああしたいこうしたいと思うのは――なんだか、初めてのような気がする。

 

「――大丈夫ですか!」

 

 

 

 ………………へ?

 

 

 




実はもうちょっとだけ続くんじゃ……。
こっからは不定期更新です(失踪フラグ)
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