鬼滅の刃RTA 上弦の弐単独討伐   作:一億年間ソロプレイ

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何かが違う本編軸のIF話


IF:どこかがおかしい本編軸の話

 

「やぁやぁ初めまして。良い夜だねぇ」

 

 胡蝶カナエはゆらりと街道の奥から現れた気配の主――鬼を見た。

 黄金の扇を持った、頭から血を被ったような、白橡色の髪に虹のような光彩を持った瞳。

 鬼の目には『弐』『上弦』と刻まれている。それがにんまりと弧を描き、カナエを見つめていた。

 その見た目と声に既視感を覚えつつ、カナエは刀に手を置きながら柔和に笑みを浮かべた。

 

「何の用かしら」

 

 しかし警戒はしている。十二鬼月の二番目。下弦はともかく、上弦の鬼が柱の前に姿を現した話は聞いた覚えがない。

 普段は鬼に対して穏健な思想を持つカナエだが、この目の前の鬼から()()()()()()()()()()()()と。体の内側から、心臓の音が激しく警告をしていた。

 

「なぁなぁ、私と同じ顔をした鬼狩りを知らないか?」

「知らないわ」

 

 本当は知っている。だが、()()()()()()()()()()()()()。色彩も彼女程に豊かではなく、髪の向きも違う。

 カナエはこの鬼とよく似た隊士を知っている。

 彼女の返答を聞いた鬼は眉を下げた。

 

「嘘は良くないなぁ。私は知っているんだ、君が私と同じ顔をした鬼狩りと話している場面をちゃあんと見ていたんだ」

「……そう。何故彼のことを尋ねるのかしら」

「ああ、それは君には関係無いから。んー……、そうだねぇ」

 

 

「まずは捕らえてから情報を吐かせようか!」

 

 

 朗らかでよく通る声で言い放った瞬間、カナエの首目掛けて振るわれる金色の線が見えた。

 これまで培った経験から即座に回避した彼女の艶やかな黒髪が凍った。

 

 フゥゥ。

 

 花の呼吸の型で応戦しようとした瞬間――、彼女の身の内で起こった鋭い痛みによって型は崩れた。

 

(な、に……? 肺、が……?)

「吸っちゃったね、辛いよね。大丈夫、まだ軽症だから死なないよ」

 

 けらけらと目の前で女の鬼は笑い、先程よりも緩やかに扇を振るう。それに眉を顰め、カナエは扇を刀の背で弾く。

 カナエは自分の内側に起こる細胞の死に血の気が引きつつも、その鬼から目を離さない。

 

(……先程、扇から出ていた冷気が今は無い。あの冷気を吸うと肺を壊していく。血鬼術だけじゃなくて、身体能力もこれまでの鬼と桁違い)

 

 下弦の鬼を退治して柱となった彼女は、下弦と上弦の差を理解した。

 

「――遊びなのね」

 

 人としても、鬼殺隊の隊士としても、カナエは目の前の鬼から侮辱を受けているに等しい。

 攻撃を防ぐので精一杯だが、彼女は思考を巡らせながら鬼の目を見据えた。

 

「そう、遊び! 即座に呼吸の型を使わなかったのは英断だね! アレは君たちの肺に多大な力を与えるから、君たちが型を使えば使う程、戦えなくなっていくんだ」

「随分と詳しいのね。調べたのかしら?」

「ああ、鬼殺隊ってとっても良い所だよねぇ。少し体を弄っただけですぐにお話してくれる子たちばかりだ」

「体を弄る……?」

 

 鬼の言葉に何かが引っ掛かったカナエに対し、優しく鬼は語り掛ける。分からない事を優しく教える教師の様に。

 

「君たちの藤の花の家紋の家……だっけ? あそこに送っておいただろう? ()()は私にたくさん鬼殺隊の話をしてくれたからね。そのお礼なんだ」

「…………そう。そうなのね」

 

 ――藤の花の家紋の家に、鬼殺隊の隊士の死体が突然置かれていたことがあった。

 腰を抜かした主人が家で休んでいた隊士に連絡し、その報を受けた――近くにいた柱が検死を行った。

 遺体は腹を裂かれ、内部の内臓がちぐはぐとなった状態で置かれていた。心臓に繋がる血管に腎臓が、肺の位置は左右が逆にと。

 

 明らかに意図を持って弄ばれた遺体が鬼殺隊に送られた。もしかすると鬼ではなく人による仕業とも思えたが、――啄む様に遺体に残された歯型で鬼の仕業に寄るものだと確信を得た。

 鬼が人という体を食い荒し、中身を弄って遊んでいた。

 そこに在ったのは鬼からの悪意そのものでしかなく。理解した隊士たちの幾人が憎悪を募らせた。

 

 この鬼はわざとそうした。お前たちの中の裏切者をこちらで始末しておいた、と親切を装いながら、その遺体を弄んだ。

 例え彼らが鬼へと情報を流した裏切者であろうと、その死体を弄んで良い道理など何処にも無い。

 

「貴方があの遺体を送ってきたのね」

「そう! なるべく人体の理解を深めたかったからね、丁度良い機会だったよ~」

「なら、何も言う事は無いわ。……貴方を斬る」

 

 人と鬼はきっと仲良くできる。元は鬼とて、人だったのだから。

 しかし、全員が全員仲良く出来る訳ではない。性根が鬼にまで堕ちた人と仲良く出来ないように、どうしたって合わない人物はいる。

 

 この鬼はそうだ。分かっていて命を弄ぶ。屈託なく笑って、残虐な行為を簡単に他者に行える。

 ここで斬らなければもっと酷い目に遭う人が増えていく――。

 

 カナエが呼吸を整えたと同時に、彼女の背後から刃が迫った。

 視界の端にちらりと見えた雷と唸るような声。神速に近い居合によって抜かれた刃が頸に迫り、扇で止められた。

 鬼と対面していたカナエはその様子がよく見えた。

 

 

 

 これまで表面上の笑みを浮かべていた鬼に、本当の喜びが滲んでいく様が。

 

 

 

「ああ、ああ、ああ……。ようやく逢えた……」

 

 放たれる斬撃は軽々と受け止められる。だがその際に生じる衝撃の一つ一つが愛おしくてたまらないとばかりに、鬼の頬は紅潮していた。

 片方だけの眉毛を上げ、怪訝な顔をした――彼がいる。

 顔立ちは男女の性差が無ければそっくりであろう、仏塚文寿郎という男が来てしまった。

 

「初めまして! ずっと逢いたかったよ、兄さん!」

「初めまして、そして死ね。見知らぬ鬼」

 

 攻撃を交えながらカナエに送られたハンドサインに躊躇した。『自分が代わる。離れろ』という意の指示を簡単に聞くことは出来ない。

 ――だが、目の前の応酬に入り込める程の体力ももう残っていない。鬼にとっては児戯に等しい攻撃だけでカナエの体は消耗しきっていた。

 己は歯を食いしばって見ることしか出来ない。いや、何かある筈だと、周囲を見渡しながらカナエは仏塚に言い残した。手のサインは敢えて使わなかった。

 

「その鬼の出す冷気を吸っては駄目よ」

「了解」

「酷いなぁ! 兄さん、私とも話しておくれよ! 実際に見ると本当に生き写しで驚いたよ。本当に。本当に本当に本当に私はずっと待っていたんだ」

「俺は頭のおかしい鬼なんて知らないんだけど」

「おかしいだなんて、酷い酷い。私はおかしくなんか無いぜ。ただ一途に待っていただけなんだ」

「……」

「初めての出会いは……ここでは人目があるから話さないでおこう。二人だけのヒミツだもの。じゃあ一緒に帰ろうか! 家でこれまで話せなかった分だけ、たーっくさん話そう」

「帰る訳ないだろう馬鹿」

「ああん酷い。いいや、それでも兄さんは私と一緒に帰る事になるんだ」

 

 鬼の表情は終始恍惚として自分の言ったことがどれだけ的外れであるのかさえ理解できていない――、いや、他者がどう思っているかなどどうでもいいと思っているのか。

 普段は演技ながらに笑みを浮かべる仏塚でさえ真顔になっている。

 彼の何が彼女をそうさせているのか。行った行為と鬼という観点を外せば、素直にならない兄とそれを慕う妹の様にも見える。

 

「……ああ夜明けが来ちゃった。兄さんの場所を特定するのに時間が掛かっちゃったから仕方ないね」

(ここまで冷気の攻撃は無し……。攻撃の手は私の時より激しくて、それでも仏塚くんは応戦出来ていた……)

 

 呼吸で肺からの失血を抑えながらカナエは観戦に徹した。

 比較的鬼と交戦した時間が夜明けに近くて助かった。――上弦の鬼の情報を不足無く持ち帰れる。

 鬼は名残惜しく扇を閉じ、興奮の残る瞳でじっとりと目の前の仏塚を見つめた。その視線を彼が一刀で薙ぎ払うも鬼はするりと避けて民家の軒先へ上がった。

 

「ああそうだ。名前を名乗っていなかったね」

「別に聞きたくないからさっさと帰りなよ」

「私の名前は童磨。兄さん、また会おうね!」

「話聞きなよ」

 

 妙齢の女性に見えたが、仏塚に向ける表情は少女らしく爛漫な顔で手を振り、帰っていった。

 残念ながら追撃するにはこちらの戦力も足りていない。これは撤退し、情報を共有するのが最善だ。

 鬼の去った方を見据えたまま刀を握っている仏塚の元へカナエが近付くと、その手が震えている事に気付く。

 

「震えているの?」

「……なるほど。理解の出来ない感情を向けられると恐怖を感じるらしい」

「本当にお兄さんだったり……ということではなかったのね」

「どうだか」

 

 仏塚は肩を竦めて、ようやく着いた増援たちに背を向けて歩き出した。

 

「ちょっと、何処に行くの」

「やる事が明確になったので、次の任務に行こうかと」

「怪我をしているかもしれないじゃない。屋敷にいらっしゃいな」

「いや、怪我なんて一つも……」

「いいからいいから」

 

 ぎゅうっと羽織の裾を掴むカナエは「ね」と笑顔を浮かべた。彼の兄弟子と似た頑固さを感じ取ったのか、仏塚は折れた。

 

(修行不足ね。……治ったらまた鍛え直さないと)

 

 少なくとも上弦の戦いに入れるぐらいには。

 カナエは、険しい顔で迎えに来た妹へ痛みを堪えながらも笑顔を向けた。

 

 

§

 

 

 ベン、と琵琶の鬼の能力で拠点である寺院へ送られた童磨は打ち震えていた。

 

「あは、あははは……! ようやく逢えた。本っ当に、長かった……」

 

 私室の柔らかな布団に体を落とし、ぱたぱたと勝手に足は動き、今でさえ……。むしろ後になった今だからこそ、自分の求めていた人物に逢えた悦びが体中を巡って、体も火照って大変。

 目の奥がチカチカとして星が舞っている。涙腺を動かそうと意識することなく自然に涙が溢れ、それでも悦びは止まらない。

 

「兄さん。私だけの兄さん。私だけの片割れ」

 

 自分で体を抱き締める。それでは何も感じない。だが、兄に抱き締められたのならばどうだろう。

 女にしては長身の己も容易く収まるだろう。彼の血肉に熱が通っていることにまた涙を流してしまうだろう。

 

 体中を絶え間ない幸福感が包んで、己はこの世で最も幸せな生き物となるだろう。

 今から想像してまた涙が止まらない。ぎゅう、ぎゅう、とまた己を抱き締めてその熱をやり過ごす。はあ、と熱っぽい溜息が自然と出てしまう。

 

「兄さんの隣は私だけだからね。貴方の体を譲られた、私だけの特権なんだからね……」

 

 だから、待っていて。

 

「兄さんの方からかえりたくなるようにしてあげる」

 

 俯いた鬼の顔はこれからの事を思い、喜悦に満ちていた。

 




?<俺だって記憶があれば行動してたもん。もっとやれたもん!

ということで『弟』が『妹』だった場合の話を妄想してました。
可愛いですね。お兄ちゃんは責任取りましょう。あ、(頸を)取ろうとしてましたので大丈夫そうですね。
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