今回はいわゆる鬼化もの。
しのぶさんが取る手段がグロっちいかも><
でも、しのぶさんには手段を問わないでいて欲しいっていうかぁ……。なりふり構わない姿も見て見たくってぇ……。
時期として、無限列車にて炎柱が命を落としてから数ヶ月。炭治郎たちが回復し、それぞれが任務を熟している時期である。
炭治郎は任務の帰り道で見覚えのある羽織りの人物を見かけた。蝶の翅脈模様に、鋭い嗅覚が嗅ぎ分けたのは藤の花の香り。
(……しのぶさん?)
手に一杯の藤の花を束ねた彼女は森の奥へと消えていく。少し気になった炭治郎は彼女の後を追おうとしたが、くるりと振り向いたしのぶに補足された。
「どうしましたか? 炭治郎くん」
「あ、しのぶさん! こんな山奥で藤の花を一杯抱えているからどうしたんだろうと思いまして……」
「…………ふむ。そうですね、炭治郎くんにならいいかもですね」
ついてきてくださいと残す彼女に従い、炭治郎は歩を進める。徐々に強くなる藤の花の香り、どこか見覚えのある道なり。
(そうか、藤襲山なんだ)
最終選別の試験地にして、一年中藤が狂い咲く不思議な山。選別の時に言い渡された場所から外れたところへと来ていた。
そこにあったのはこじんまりとした猟師小屋だった。藤の花の香りに交じって、何か違う匂いがしていた。
「あの、ここは……」
「見れば分かります。でも、驚かない様に一つ言っておきましょう。此処にいるのは――鬼です」
開かれた扉の先に見えたのは、小屋の暗がりに隠れているのっぺらぼうの鬼だった。
頭髪や目や鼻、口なども無い、つるりとした表面を持つ鬼がいた。その鬼は部屋の片隅に集められた藤の花を一つずつゆっくりと体に吸収している。……異様な鬼だった。
「ご機嫌いかがですか、
「藤鬼さん……ですか?」
「御覧の通り、この鬼は口も無いし、自分から名前を告げることも無いので勝手にこちらで呼んでいるのです。それに……」
「藤おいしい」
炭治郎は「ん?」と首を傾げた。先程、しのぶが喋り、炭治郎が喋り、またしのぶが喋り――そして、恐らくこの鬼が喋った。
その音は言葉なのだろうか。何かしらの単語を発しているようだが、それが自分たちの喋る言葉とは思えなかった。
「ね、分からないでしょう?」
「分からないですね……。でも挨拶は大事です! こんにちは!」
「こんにちは」
「こ・ん・に・ち・は!」
「こんにちは」
「あ、なんか通じてる気がします! 良い鬼の気がします!」
しのぶはぽかんと口を開けた後、ふっと破顔した。彼女から感じる怒りの気配が少し和らいだような気がして、炭治郎は思わずぽっと頬を染めた。
「やっぱり。炭治郎くんは優しい子ですね」
「そうですかね……。どうして、しのぶさんは藤鬼さんに会いに来たんですか? 藤を届ける為ですか?」
「ええ。藤鬼さんは、私とお館様しか彼の存在を知りません。普通の鬼のように血肉を食らう訳でも無く、藤ばかり食べる鬼。しかし、藤襲山の藤を食べ尽くされては困るので時折こうして小屋に届けに行っているんです」
「へぇ~。藤しか食べないんですか?」
「ええ。試しに人の血を届けてみた所、凄く嫌がって……。怖がるように震えて手を付けなかった」
しのぶが藤鬼に花を渡すと、喜ぶ様な声を上げて食べ始めた。
「私には何故彼が藤の花ばかり食べるのか、分からなくて。普通の鬼ならば藤の花を嫌がる筈なのにこの鬼はそうならない。むしろ食べてさえいる」
「だよねぇ……」
「こうやって相槌みたいな事もする」
「いやまぁ、日が出ている間は暇だし。君たちは俺の言葉が分からずとも、俺は君たちの喋ってる事分かるからね」
「変な鬼です。本当に」
「変だって。酷いよぉ」
「うーん……」
炭治郎は藤の花を食べ続ける藤鬼を見た。藤の香りに鼻が慣れてきたので、この鬼自体の匂いを嗅ぐことも出来るようになった。
(なんだか、二つの匂いがする。日向ぼっこでもしてるみたいにのんびりとした匂いの中に、すごく……悲しい匂いがあるような?)
藤鬼は炭治郎の視線に気付いたのか、くるりと振り向いた。いや、その視線は炭治郎よりも背後に向けられている。
しのぶは扉を閉めると隅に置かれた机の上にあるカンテラを点けた。
夕方とはいえまだ日は沈み切っていない。彼女が小屋の戸を閉めたことで、炭治郎は箱を下ろした。
「禰豆子、出ておいで」
箱の扉が開くと「ム!」と勢いよく小さな禰豆子が転がり出てきた。
「わあ、……おや。人を食べていない鬼?」
「むむー」
「わわわ」
禰豆子は藤鬼を見ると好奇心旺盛にその体に昇り始めた。つんつるてんな頭頂部に顎を置くと満足気な顔をした。
おずおずと藤鬼はその背を優しく叩いた。それが心地よいのか、禰豆子は目を細めて体を揺らしている。
「懐いてますね!」
「驚きました。禰豆子さんがこう甘えるということは、悪い鬼ではないのかも?」
「長く生きていると驚くことに出会うね。人を食べていない鬼がいて、それを連れている鬼狩りがいるなんて」
心地よさげな禰豆子は頭から下ろされ、藤鬼の腕に抱かれた。のっぺらぼうの鬼はゆらゆらと揺れて、腕の中の娘を優しく撫でている。
「……ふふ、なんだか懐かしいような気がするねぇ」
「誰か下の子でもいたのかしら。随分と慣れた手つき」
「確かに……」
ここでいきなりしのぶが手を叩いた。突然の音に全員の目が彼女へと向く。
「さて、炭治郎くん。そろそろ出ましょうか」
「えっ!?」
「ここから先は大人の時間です。良い子は次の任務に備えてちゃんと眠るんですよ」
「は、はい」
ニコニコとしのぶは炭治郎と禰豆子が藤襲山の麓へと下りていくのを見守って、重い足取りで小屋へと戻る。
ぎぃ、と開けられた扉からのっぺらぼうが頭を傾げた。炭治郎といた時にはあった微笑みがすっかり抜け落ちたしのぶの顔に、彼は笑っているかの様に顔を揺らした。
「うん。やっぱり採血の時間かな?」
「そうですよ。貴方の血を採ります」
「ええー。俺って弱いんだから、中々再生が追いつかないんだよ~」
「何を言おうが、知りません。だって、貴方だって……知っていて此処に来るのでしょう。何度も、何度も」
机の下に手を伸ばすと、薄っすらとした線が見える。その溝に指を掛けるとゆっくりと線で囲われた床部分が開き、そこから鋸歯の付いた鉈を取り出した。
藤鬼は着物の裾を捲って腕を見せたが、しのぶは着物の合わせに手を掛けて剥いだ。
鬼はされるがままにしのぶに押し倒され、彼女は鬼の肩に鉈を当てた。
この鬼の血や肉は毒の調合によく使える。その採取の為にしのぶは来ていた。
最愛の姉は殺された。憎き鬼に殺された。女の柱を食うことに執着する、卑しい鬼に殺された。
「貴方の血は、私よりも濃い藤の毒が回っている。だから、必要なのよ」
藤ばかり食べる鬼や人を守る鬼が現れようが、彼女の目的は変わらない。
姉の理想を体現した鬼が今現れたって、姉が喜べる訳もない。この世にいないのだから。
鬼を殺す。姉を殺した鬼を殺す。
煮え滾って震えんばかりの怒りを噛み締めた。
「上弦の弐を倒す為には、絶対に」
必要な体の部位に刃を当てて斬り落としていく。腹を捌いてより濃度の高い血が巡る内臓を切除する。頭を裂いて脳を取り出す。
達磨にされようが中身が空っぽになろうが鬼は日光を浴びせるか、日輪刀で頸を斬り落とさなければ死なない。そう、これだけしても死なない化物。
鬼は苦痛をおくびにも出さずにしのぶの行動を見守っていた。斬りにくいようなら自分の手を添えて力を加える事さえもする。
幾つもの瓶に並々と入った血、箱に詰められた臓器。
己の指から滴る血からああ、なんとも濃い藤の香り。
(どんな藤よりも……)
鬼の助力も得て一頻り作業を終えた時、しのぶはのっぺらぼうの姿が見える気がした。
白い雪を被ったような黒い髪をした男の姿を。
双眸に収まる、色の無い瞳が弧を描いて彼女を捉えているような。
「どうぞ、好きなだけ。君になら暴かれてもいいよ」
――全てを諦めきった笑みと、落ち着いた男の声が耳を打っている気がして、ならないのだ。
鬼は人とは違う。四肢を捥がれようが再生する。怒りを秘めた少女が去ってから数日後、ようやく藤鬼の体の全てが再生した。
小屋の中に増えている藤の花を全て取り込み切った所で、藤鬼は扉を開けた。
静かな夜、鬼が活動するに相応しい暗闇が広がっている。藤鬼は妖しく光る藤の山を後にして歩いていく。
あまり長居して居場所を悟られる訳にはいかない。ゆっくりと遠く、何日も掛けて回り道をしてとある寺院に辿り着く。
広大な敷地と立派な楼門。門から内部の敷地へと置かれた灯篭に宿る明かりがぼんやりとその場を照らしていた。
門を潜り、こつこつとわざと鳴らされる足音と気配に何も無い顔を上げた。
『弐』『上弦』と刻まれた彩豊かな瞳が此方を見て細められていた。
「お帰り、兄さん。今回は随分遅かったじゃないか」
「ただいま、弟。ゆっくりしてきただけだよ」
ニコニコと笑う弟は「んー」と顔を曇らせた。
「やっぱり何を言ってるか分かんないよ。もっと分かる言葉で話して?」
「俺は普通に話しているよ。聞かれたくない者には分からないだけ」
「だから何言ってるか分かんないだって。またのっぺらぼうにもなってー。ほら、ちゃんと顔戻して」
「いいよ。お前の顔になっておいてあげる」
藤の鬼は手を顔に当てた。白橡の髪、虹の瞳。――対峙する男とそっくりの顔になった。
すると目の前の弟は何か言いたげに口を噤み、扇の一閃で頸を凪いだ。
ぽろりと落ちた己の首を受け止めた藤の鬼はにこにこと笑っていた。
「……元の兄さんに戻ってよ」
「兄はずっと元のままさ」
首繋いでおいてよ、と言い残して戻る弟の後を、匂いをさせない兄は追う。
鼻歌を歌っているかのような不気味な音が寺院に静かに響いていた。
§
拝啓、■■■。貴方方が弟を神の子と■■上げた■かげで、弟は立■■教祖■して日々信■■ちを導■ています。
近々■も其方に参る予定■■ので、殴られる準備■整え■く■さいませ。
脆弱な体と付き合■て何十年、と■■いかず、今年で二十。■で■長生き■■た■■と納得しています。
元々十歳まで生きら■ないと■で言■■ていた■で、そこ■■十年。気力で■きた日々でした。
小童■■で■の篤い信仰の■は■ち破ること■叶わず、祀られ■いく弟を見る■けの日々で■■。
どう■よう■ない日々を積み重ねただけの人生■■た。
咳■止■■ません。咳と■に出る血も■■りま■ん。体■■っと重たく、彼■此方が痛■ます。
薬で■治り■せ■。■方でも民■に伝わる■■でも■りません。体というものが弱いだけなので、風邪が■■ても■た罹ることを繰り■■て■ま■■。
毒■飲み続■■も治りま■ん。泣き言だけは零■■せんで■■。毒と一緒に飲■■み続■ました。
布団か■も出■れな■■った時に死期を悟り■し■。腕も■■らな■なって、何■かもが己で■来なくなった時に惨め■■感■■■た。
其れを喜ぶ弟も嫌■した。■■弟を祀■■げる信者も嫌でした。全■■部嫌で■た。
でも不■議と、今■■は全身が軽い■で体が動■ま■。箪笥に仕舞■れた懐■を出せる程の力が、■■己■漲っている■が■く分かり■す。
■笥を引く■とで■■息が上■るのですから、懐刀を持つ■ともまま■りません。
今■か■いので。何■か寺院の中が静■■返っている、■しかない■で。必死に持ち直しま■た。
刃を己に■■ました。一箇所でも良■から貫けば■■死にます。■ねるのです。
首元■■くこ■が出■■■た。浅いも■でし■が、■れでようやく死ね■す。
「ああ、可哀想に。床にいるのは辛かろう。だが貴様は幸運だ。死なずとも良いのだ。今、私が治してやろう」
もし■の世に神や仏がいるの■■ば。
この戯言を宣う男を■してく■さい■願いました。
し■しです。残■ながらご不在のご様子。おられても、葦の一つに手を差し伸べ■こと■無いのでしょう。
ならば、己でこの男と道を違えた弟を殺してやると心に秘めました。
双子として生まれた場合の話を妄想してました。
なんかハードになりました。コンナハズジャナイノニ……。
兄鬼はナチュラルに無惨の呪い+GPSを取り外してるので藤襲山へ行って「藤おいしい」してます。無惨様に思考を読み取られても「藤おいしい」しか聞こえないので呪いを掛け直すのを止めたそうな。
(無惨様の呪い掛け直しの頭グチュッ+しのぶさんの解剖によって段々記憶が穴抜けになってますが、一番大事な事だけは忘れない所に置いてあるので)大丈夫そうです。このルートでも殺れます!