いやぁ、前回は悲惨でしたね。お口直しにどうぞ。
カフェ『ふろすと』。昼間はカフェ、夜にはバーにもなる店。
本日も通常営業。定位置に座る弟以外に客のいない長閑な時だった。朝から入る客も少なかった為、店主もだらだらと過ごしている。
「兄さん来週の火曜日空いてる?」
「空いてるよ~」
「俺も休みだからどこか行こうよ」
「いいよ~~」
だらしなく机の上で伸びる文寿郎に童磨はすっと携帯を取り出した。写真アプリを起動させてから連射シャッターまで三秒と掛からない早業。
何枚かカメラ目線でのピースももらえてほくほくとした時間だった。
文寿郎の携帯が鳴るまでは。
「ちょっと出てくるね~」
と、キッチンの方へ行ってしまう兄を見送り数分後。
「ごめん来週の火曜日潰れちゃった!」
「は?」
「副業の方でちょーっと遠出しないと駄目だから。ごめんね、埋め合わせはするよ」
「そんな……。そんなぁ!」
童磨は泣いた。何故だか無性に涙が多く出た。
前話で碌な結末を迎えなかったせいだろうか。あれ女版の俺の結末であって至って平和で品行方正な俺とは違うのだけど!
§
そしてやってきた火曜日。へっくしゅ。くしゃみをした文寿郎は気を取り直す。
ぼんやりと電話口でのやり取りを思い出しながら、黒い大穴の口を広げるトンネルの脇でバイクを止めた。
『ははぁ、トンネルでの除霊作業を? 一応聞きますが、本職の方にお願いした方がよろしいのでは?』
『一度頼んだんですが、あいつ……! 金をふんだくって除霊はしなかったんだ! おかげでまたトンネルで騒ぐ餓鬼共が多くて多くて……』
『ああ、もしかしたら騙されたのかもしれませんね。よろしければ頼んだ寺社を教えていただけますか? この業界としても詐欺師が蔓延るのは御免ですからね』
『確か名前が万歳寺とかそういう名前でした。そこの坊さんに頼んだんですよ。お願いします、
『洗濯洗剤みたいな広告を出した覚えは無いんですが……。まずは下見させていただいても? 私の手に負えるのならばお引き受けします。そうですね……、来週の火曜日にまたご連絡させていただきます』
『先生、ありがとうございます、ありがとうございます……!』
と言うことで指定されたトンネルが心霊スポットとしてやや有名な場所だった。ネットの掲示板、SNSなどで話題になり、この『旧B隧道』へ面白い物見たさ、動画配信サイトの視聴数稼ぎに利用する者も多く……。
一連の話を聞いた依頼主こと地主がそろそろ此処を解体して心霊スポット目当てのミーハー共を駆逐したいそうだ。
だが噂通りに霊がいても困る。事前に調査を頼んだ万歳寺?の住職に金をぼったくられ、文寿郎へ依頼するに至ったと……。
「さ、行きますか」
依頼主の為、金を絞り取る為。
『危険!絶対入るな!』と草臥れた看板を素通りして文寿郎はトンネルの内部へと足を踏み入れる。
『どうしますか? 大分強力な悪霊がいるんですが……、これはざっと数えて五十万は掛かりますよ』
『ご、五十万もですか?』
『軽い霊でしたら一万とか二万で請け負っているのですが、いやぁ……触れたら危険なレベルの悪霊がいますからね。こちらも命を懸けて商売しているので多めに取らせてもらってるんです』
『ふざけるな! いきなりそんな大金を支払えるかっ!』
『えぇ……、御予算は七十万とお聞きしたのでこれでも安ぅ~くしているのですが』
ベシ、と文寿郎が足を組み替えて足元の物体を蹴る。それはヒギュ、と不愉快な音を立てた。
『悪霊に対するアクションは封じるか完全に成仏させるかの二択です。中途半端に触れるとその人間は霊に祟られてしまいます。祟られると最悪命を落とします。そして、その祟りが血縁に移ることもあります』
『……』
『どうします? このまま心霊スポットで終わっているトンネルが
『わ、分かった……。一括で五十万を支払う』
『ああ、賢い選択が出来るクライアントで良かったです。では次に言う口座にキッチリ五十万、本日から六十日以内のお支払いをお願いします。支払いが期日を越えた場合は法的措置を取らせていただきますので……、くれぐれも踏み倒すなどとお考えにならない様に』
『ひえ……。は、はい……』
上機嫌に文寿郎が口座番号を伝えてから電話を切った。
彼の片手で握られた縄は彼が足蹴にして座る物体と、その横の物体に繋がっている。
見る者が見れば、拘束している物体が人間の遺体を継ぎ剥ぎに植え直した巨大な粘液の姿に見えるだろう。
「だって。いや~、大物が二体いてくれて良かったよ。最近やって来た新しい子なのかな? 君達がいたらすぐ自殺スポットに成り果てているだろうし」
『
『
悪霊の体から降りると、彼は道路に転がる二つの小石を拾った。
『
「はい、成仏」
文寿郎は軽く小石を弾いて二体の霊体に飛ばした。おはじきでもしているのかという軽さで小石が霊体に当たると、彼等の体は綻びジュワッと成仏していった。
それだけでトンネル内に充満していた重たい空気は霧散し、ただ薄暗いだけのトンネルとなった。
「はー、お土産何買って帰ろうかな。どうせ拗ねてるだろうし、何買っても同じか~」
彼の歩く後にはぺんぺん草は生えるが霊はいない。仕事として請け負った場合は痕跡すら残らない。
そして依頼人から予め予算を聞き、確実に払える範囲での請求を行い、もし踏み倒そうものなら検事時代に培った法的知識が牙を剥く。
霊媒師・
それが霊能業界での彼の名前である。なんかがめつい。
§
「はいお土産」
「こっ○……。サービスエリアか……」
「何か文句でもある?」
「大ありだよ。○っこぐらいで買収できると思わないでよね~」
夜の八時頃に帰宅出来たが、弟は家で不貞腐れたままだった。本日の急用で予定キャンセル、そして夕食を一緒に取れなかった事がお気に召さないらしい。
「俺も一緒に霊媒業やったっていいんだけど」
「駄目」
「ついて行くだけでもいいんだけど」
「殺してでも止める」
「それ俺死んでるじゃん!!!」
「死んだら俺の気が済むまで霊体を現世に縛っておいてあげる」
「え、本当……?」
「嘘」
文寿郎の顔面にクッションをシュート!
弟の淡い期待さえも裏切った兄は難無くキャッチの末、投主の顔にぐりぐりと押し付けた!
「巻き込む訳ないじゃん。馬鹿?」
「俺としては巻き込みウェルカムなんだよ。兄さんが馬鹿」
文寿郎が珍しく強い感情を露わにして「止めろ」と言っているのだから、霊媒稼業に軽い気持ちで足を踏み入れてはいけないのだと分かっていても。
(つまり兄さんだって死ぬ可能性があるってことだろう? 心配するよ)
弟心、兄知らず。しばらく童磨は拗ねの季節に入ることにした。
しかし翌日、兄から「そういえば、今日は暇だけどお前はどうなの?」と声を掛けられ機嫌が良くなり、面倒臭い季節はあっと言う間に過ぎ去った。
そして大いに重なった休日を楽しむのであった。
網田光銭:銭はキッチリ取る、でも仕事も確実にこなす。突如霊能業界に現れた必殺仕事人!年齢も本業も本性も謎だが、テレビ出演のオファーが来た際に「育児で忙しい」と断ったので家庭持ちである事だけは広く知られているぞ。
貴方のお財布に優しく、霊と関わりの無いクリーンな生活をお届けします。
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童磨:これ本当に俺?あまりにも感情的過ぎない?兄さん監禁生活とかうらやまけしからん!清廉潔白な弟である俺はあまりにも非道な妹版俺の行いを糾弾します。俺は!絶対!兄さんを足を切断して監禁なんて…………しないと思うけど実際そんな状況に出来るとしたらのなら少し考える時間が欲しいな。
???< 本性出てるよ^^