鬼滅の刃RTA 上弦の弐単独討伐   作:一億年間ソロプレイ

30 / 38
そろそろ番外編が本編の話数までいきそう。アカン(アカン)


キメ学:女になろうとも

 俺は極力、兄の行動を疑いたくなかったし、それを他人に指摘される程態度に出した事は無い。むしろ好き好きアピールしかしてこなかった。

 けれども今、己の脳の許容量を超える情報を目前にし、短時間で思考速度がより鋭く結論へ辿り着くのが分かった。

 

 目の前にいるのは兄。そう、兄。男である。双子の片割れである。同じ体格、同じ顔、異なる色合いを持ったたった一人の肉親である。

 けれど自らより遥かに小さく、女性らしい丸みを帯びた体つきはしていなかった。

 

 幼少期から彼の性別は男。一緒に風呂も入った。だから本当は女……なんて事は無く、兄は兄――れっきとした男性である。

 制服も男で、プールの授業も男で、成長期が来たら二人揃って女性らしさとは無縁の長身の体格にもなった。

 揃いの声ではなくなったが、声変わりも来て低くなった。うん、振り返ってどう考えても男。

 

「あ、そうだった。俺ね、女の子になれるようになったよ~」

 

 いややっぱ無理。分からないって。思考が固まるなんてこと初めて。

 ――俺は兄さん……、姉さん?の事が余計に分からなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔から兄は不思議なぐらい親に尽くす人だった。

 同じ血を分けた片割れで、同じように両親の頭の悪さを哀れんでいたというのに、決定的に違っていた。

 俺は両親の事を諦めたが、兄は見捨てなかった。

 

 結果、母親が自らより二回りも、――そもそも齢二桁にも達していない幼子に縋りつくという絵図が生まれた。

 父親の不倫を気付いているというのに「そんな事無いわよね」と言い、「母さんのことを愛してるよ」と兄に慰められて心の平静を取り戻す。父親さえも不倫行為で遅くなるという電話を兄ばかりに向ける始末。

 そんな二人を到底、普通のご家庭に於ける無邪気な子供みたく『親』として無条件に求められる筈も無かった。

 俺がもし他人に両親を紹介するなら兄を紹介する。俺にとって兄こそが親であった。

 

「どうして兄さんは、人の為ばかり動くの?」

「難しい事を質問するねぇ」

「だって兄さん、母さんの為に話を聞いたり、父さんとの間を取り持ったり……。それに……」

「んー? それに?」

「俺の我儘も聞いてくれるし……」

 

 両親の死後、兄さんとの生活を望んだのは俺だった。普通なら施設なり各々親戚に引き取られるなりする中で、どうしても兄の側を離れたくなかった。

 兄はいつも誰かの願い事を引き受けていたから。目を離していると兄さんという人が擦り減って、その削り粉さえも風に吹かれて消えてしまいそうだったから。

 

 ただ、俺とて両親と同じく、兄の生を縛っているという負い目があったから。

 上手く目も合わせられずに小声になった。

 

「俺もどうしてかな、よくは分からないけど……。皆の願い事を聞けばいざという時助かるだろうから」

「つまり打算……?」

 

 ピシッと俺と兄さんの間に罅が入ったような気がして、震える声が出た。

 それを感じ取ったのか、兄さんが実に困った様な顔をした。

 

「例え他の人間が打算だとしても、お前に対するものだけは違う……と思うよ?」

「ホント? ホントに?」

「じゃなきゃこうして二人で過ごすことに承諾していないというか。行動に不合理な部分が生まれるし……」

「兄さん?」

 

 包丁を置き、濡れた手を拭った兄は台を降りて俺の頭を撫でまくった。ペットか何かみたいにそれはもう、わしゃわしゃと。

 

「……うん。多分、違うと思う。そう思いたいなぁ!」

「それとなく不安だけどありがたく受け取っておくよ! 兄さん大好き!」

 

 ヤケクソが滲む言葉に俺は心を改めた。兄さんの『違う思い』をハッキリさせる為、俺は兄さんへのアピールを積極的にしていくと。

 同時に思った。――この人は、何か優先するものが無ければ他者の言う通りのままに動くんじゃないかって。

 

 

 断固反対!

 

 

 他人が兄さんを好きに使うな!

 兄さんの方もスケジュールをバイトまみれにしないで欲しいんだけど!

 

 俺の抵抗も虚しく、兄さんは色んな頼まれ事を打算で引き受け、俺たちの生活費を稼ぐ為にバイトする日々。俺だって中学は頑張ったけど、高校の時に「演劇部で頑張る弟が見たいな?」と言われちゃったから演劇部に入らざるを得なくて、生活費稼ぎのバイトもそう手伝えなかった。

 俺の意志って弱いのかもしれない……。

 

「俺は兄さんと学生生活を楽しみたいんだけど!?」

 

 そう叫んだら……、兄さんが、何か……危ないアルバイトに手を出して……。

 謎の高収入のアルバイトだよ? 一回で十万単位ってどんなアルバイト? そんな都合の良い話ある?

 今時で言う闇バイトとか、そういった類のものなんじゃないのかと恐々とした気持ちで焼き肉を食べたさ……。

 それ以来収入が高くなったからか兄さんもアルバイト詰め込み生活だけじゃなくて、学生生活を楽しめるぐらいの暇が出来たのは良かったけど……。

 

 うう、兄さん……。俺は兄さんがしたい事がよく分からないよ……。

 取り合えず兄さんの物差しに俺が入ってるのは分かるけど。積年の俺の頑張りが実を結んでいるような気はしているけれど!

 

「おーい。可愛い弟よ~」

「そろそろカッコイイ弟とも言ってくれないかなぁ!」

 

 カッとなって目を開いた。……? 視界に入ったのは、兄さんみたいな女の子で……?

 ふむ、どうやら俺はこの子に膝枕をされていたらしい。

 

「???」

「刺激が強かったか」

 

 いやいや、俺は常に冷静に物を考えられるのが強みなんだ。

 えーっとだね、まずはまっさらになっている頭の中に残る情報を整理しよう。

 

 まず最初に、俺は兄からの連絡を受けて都心から離れた地方へとやってきた。

 連絡の内容はこうだった。『凄い事になっちゃった。暇だったら△×ホテルの405号室に来て』。

 兄さんの危ないアルバイトの関係で二日は出掛けると聞いたから、俺はとうとう不味い事になってしまったのではないかと飛んでやって来た。

 そして405号室に来た。鍵は開いており、部屋のベッドにはのんびりと寛ぐ兄さんがいた。

 

「すっごい汗かいてるじゃん」

「いやだって緊急事態かと思ったんだって! とうとう兄さんがバイト先で危ない事をやらされるのかと……!」

「危ない事って……。お前が考えているより健全な仕事だからね?」

「とりあえず何とも無い? 抹殺する人間リストとか持ってない?」

「ないって」

 

 それを聞いてようやく俺は落ち着けたんだ。この部屋に来て兄の姿を確認するまでは気が気じゃなかった。

 

「シャワーでも浴びる?」

「そうする……」

 

 ちょっと待っててと一言置いて兄さんがシャワールームへと向かった。綺麗にしてくるらしい。

 思わず「何を?」と聞いた俺は悪くない。兄さんは普通に「さっき使ったから」と返してきた。

 

(……え)

 

 嫌な予感が迸る。

 ――もしかしてもう、オーダー完了済み? もう全部処理したからリストさえ手元に残ってないってこと?

 シャワールームにハンティング済みの人間……の死体が!?

 

「――分かった。俺、兄さんと何処までも落ちるよ」

「何シリアス顔してるんだい弟……うわぶっ」

 

 と、兄さんは手元の操作を間違えてシャワーを起動させた。あぁなにやってるの兄さん、と思って……。

 そう、確かにそこに、男の兄さんがいたんだ。でも、目の前でシャワーを浴びてみるみるうちに背丈が小さくなって、顔つきが女の子っぽくなっていって。

 

「あ、そうだった。俺ね、女の子になれるようになったよ~」

 

 …………そこからの記憶が曖昧だねぇ。

 えーと、えーっと……。何か、体を洗われて、着せ替えられて、膝に寝かされ……。

 

「???」

「壊れちゃった……。どうしよ」

 

 

§

 

 

 あれから約一時間。

 童磨はフリーズしたままだったが、段々と目の焦点が定まり、部屋で思い思いのまま寛ぐ()を直視することが出来る様になった。

 

「本当に兄さんなんだね?」

「うん。お前が中学生の時に彼女が出来たけど、『兄の話ばかりでちょっと気持ち悪い』で別れ話を切り出されたことを思い出せるよ」

「良かった、完全に兄さんだ」

 

 お互い円満に別れた青い春の話……。周囲から「何で別れたんだ!?」と驚かれた真相の話を知っている。

 童磨は本人認証も終えたことで頷いた。

 

「で、兄さん。性転換したけどどんな気持ち?」

「別に? 大学で水被らない様にしないといけないな~ぐらい」

「こう、謎の興奮とかも無い?」

「謎の興奮って何? ……あぁ、女体になったから色んな事が出来るだろうって? 別にそういったものも無いなぁ」

「……本当に女の子の体になっちゃったの?」

「見る?」

 

 ひらりと(ねえ)さんは浴衣の合わせを解いて見せると弟はしげしげと眺めた。凹凸の少ない体だが……。

 

「本当に女の子だ……」

「不思議なもんだよね。実はかくかくしかじか」

「さり気なく暴露するの止めてね。番外編で文字数が多い話ばかり更新してるからって……」

 

 ――ということで童磨は兄がゴーストバスターの仕事をしている事を知ったのであった。

 それから女体化したのはこの近辺にある娘が溺れ死んだ話のある泉に落ちてからだそうな。

 

「世の中怪現象ばかりなんだ。お前には知らずに過ごしていて欲しかったんだけど、こうなっては致し方あるまい」

「まぁね……。でも、兄さんが隠さないで教えてくれて良かった」

 

 童磨は文寿郎をすっぽりと抱えた。

 こうしていると不思議と充足感がある。それと同時に、文寿郎の体はすっかり変わってしまったのだという実感もあった。

 彼の女体は幼子(おさなご)のように小さい。柔らかな頬とこちらを見上げる丸い目、童磨と比べたら手は……赤子サイズにも思える。

 んふふと頭上から笑いが聞こえる。

 

「随分堪能してるなぁ」

「なんか落ち着く。小さい兄さん、可愛いね」

「見た目が変わっただけだから、中身はいつも通りだけど……」

「姿形が変わろうが兄さんは兄さん」

「何理論なんだ……」

「童磨式兄理論」

 

 新理論が唐突に爆誕し、宇宙を背負った兄をぐぐぐと何故か背筋が凍りそうな抱き潰しをしながら弟は問うた。

 

「そう言えばどうやって戻るの?」

「お湯を被ると戻る」

「ら○ま1/2だ!」

「偉大な漫画を読んでおいて助かったよ。ホント」




[兄が落ちた池の伝承]
昔、この辺りに外から行商に来た薬師の娘がおりました。彼女は大きな背負い箱を背負っていた為か、転んで池に落ちました。箱の重さで苦しむ娘の上から落雷が落ちて彼女は死にました。
以降、この池に落ちると死んだ娘の呪いで女体化するとかなんとか。
ヒィィ……、恐ろしいのう。儂ゃ近寄りとうない……、近寄りとうない……!

姉さんになる兄
身長が140ぐらいまで縮んだので187もある弟を見上げると首が痛い。大学二年ぐらいに起きた事なので、これ以降必死に雨の日には水を被らない様にするのが大変だった。あと、弟から送られてくる服の試着。女体化した本人より張り切って選んでくる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。