まま、細かい事は気にしないで……。この話で現パロは、終わり!
日々怪人から一般市民を守るキサツタイには対策本部が置かれている。一部の者しか知らない場所の会議室に、世間では『羽織持ち』と呼ばれる面々が集まっていた。
キサツアクア、ファイア、ウィンド、サクラ、フラワー、ロック、エクスプロージョン、スネーク……。
大学生、社会人に高校生。様々な年齢のキサツタイが一同に揃っていた。
「やぁ、皆。怪我も欠席も無く、集まってくれてありがとう」
メディアではまるっこいマスコットキャラのシルエットをしているウブヤシキも、この時ばかりは人と変わらない姿を取っている。
先に集まっていた彼等は統制の見える動きでウブヤシキへと一礼した。
「お館様におかれましても、お変わりなくお過ごしの様子で我等一同安心いたしました」
「ありがとう行冥。今日は君達にとても重要な報せがある」
恒例と化しているお館様への挨拶権は悲鳴嶼行冥が取った。「掛けてくれ」とウブヤシキが言うとそれぞれが席に座る。秘書である白髪の女性がセッティングされたパソコンを動かして準備をしている。
「D県の怪人がそろそろ目覚める。以って二週間、という所だ」
ウブヤシキの言葉と共にスクリーンに映像が写される。
D県、七年前に大規模怪人災害の発生場所にして、――未だに封鎖が続けられている
住民の避難を済ませた後、県全土に蔓延していると考えられる
今尚痛々しくも災害の禍根を残す、負の土壌。
かつて建っていた高層ビルは半ばからぽっきりと発泡スチロールの如く折れ、壊れて瓦礫の飛散し、拉げて錆びている車体は幾つも放置されている。
千切れた電線にあちこちにのこる大きな獣の足跡。山には広範囲に未だ新芽も芽生えず禿げたままに凹んでいる箇所がある。
七年という歳月があれば芽生えもするだろう植物も、この惨劇の跡地には無い。
「あの怪人が……、ですか!?」
「よもや! 話に聞いていたとはいえ、驚きだな!」
白髪の男性キサツウィンド、燃えるような髪の男キサツファイアが驚きと共に聞き返した。ウブヤシキは微笑を浮かべた顔で頷く。
「D県の怪人に加えて、新たな怪人の発生も予想されている」
「そ、それって、もしかして……。その怪人並に強いとか、ですか……?」
「その可能性はある。……いや、D県の怪人よりも強い。そう思って対処して欲しい」
「……なるほど。それは重大な話だ。ですがお館様、怪人の発生を知らせる為に俺たちを集めた訳では無いのでしょう」
キサツサクラとエクスプロージョンの返答により、スクリーンの映像は変わる。
都心部から離れた場所。山間に近い場所にて
その穴は中の様子さえ見せない程に深い。一体どこまで深いのだろうか。キサツアクアは顔にも出さず、その穴を見ている。
「そこが怪人を封じたという場所ですか」
「深そうねぇ……」
「凡そ百メートルの深さはあるようだ。流石に測定は出来なくてね」
キサツスネーク、フラワーが感想を呟いた。
その穴の中心に多くの人間を脅かした怪人が眠っていると思えば、ただでさえ感じていた不気味さも増す。
何故、怪人を滅する事が出来なかったのか。その問いを口にする者はいない。
「――これから、大きな戦いになる。きっと七年前よりも人死にが出るだろう。だからこの作戦に参加するもしないも、自由だ。私は君達の選択を尊重する」
ここにいるのはキサツタイになった時に「自分が死ぬかもしれない」という可能性を指摘されようが、自らの意思で戦うことを選択した者達。
彼らの返答は一つ。『参加』のみ。
例え自分が死のうが、多くの人たちを守れるのならばと。
強い意志でキサツタイとなることを望んだ彼等に、ウブヤシキは作戦を言い渡した。
§
翌朝の事、ピンポーンとインターホンが鳴る。
本日は月曜日。土、日と文子の家に居候をしていた童磨の生活は終わることとなる。
「君の母親が来たよ」
「ほえ」
文子が通したのは童磨の母親だ。酷く疲れた顔色をした彼女は我が子を見ると抱き着いた。
「童磨、今すぐ荷物をまとめて帰ってらっしゃい。……母さん、もう怒ってないから」
「……そうやって下手に出て俺をまた束縛するつもり?」
「そうじゃないわ。今まで貴方が我慢してきていたのに。また母さんが間違えちゃった……。本当にごめんなさい」
「間違えたって……、何を?」
「私もね、分かってはいるの。思い込みが激しいから、不安になってしまうから、いつも貴方を縛り付けてしまう。……貴方だってもう小さい子供じゃないもの、危ない事の区別だってつく。だって昔から賢い子だもの」
「……うん」
彼の記憶の中で母親が謝る時はいつも切羽詰まった様子か、金切り声を上げながら……どうにも尋常じゃない様子の時が多かった。
今みたく、落ち着いた様子で謝られているのは初めての事だ。こんなに理知的な目をするんだ、と何処か遠くの方で考えていた。
「貴方が思っている事を聞いた時は怒ってしまって、怖がらせたわね。お母さんに会いたくないのは分かるけど、このまま他所の家にお邪魔するのも駄目だって分かるでしょ?」
「それは……、そうだけど」
「ひとまず、今日の学校は休んで、お家でこれからの事を話しましょう」
童磨は母親の腕から出る。彼女の目が恐怖に駆られたものでもなく、自身の保身の為だけに吐かれている言葉ではない事も伝わってきた。
少し間を置いてから童磨は頷いた。あれやこれやと少ない私物は片付けられた。
童磨の母親は外へと出ており、一連の流れを見ていた文子へと彼は向き直った。
「仏塚さん、ありがとう。突然だったけど泊めてもらったし、ご飯もご馳走になった」
「気にしなくていいよ。……母親、話に聞くよりも理性的だったじゃん」
「それに俺自身がめっちゃ驚いてるんだよね……。俺も、まだまだ子供だったっていうことなのかな」
「ま、なんとかなりそうならよかった。こういう事は二度と無い様にしっかり話しなよ」
「うん! 本当にありがとう、文子ちゃん!」
「また名前で呼んで……」
玄関先へと向かい、その扉を開ける前に童磨は「ばいばい」と大きく手を振った。それに小さく文子が振り返した。
「お待たせ母さん」
「忘れ物は無いわね? ……出てくれたはいいけど、童磨。ちょっとお母さん、あの子と話してくるから、先に車に戻ってて」
「はーい」
坂道に停められた車で母親を待っていると、そう時間も掛からず彼女は戻ってきた。
「帰るわよ、童磨」
「母さん、
ニコニコと童磨が聞くと「ちょっとね」と母親は返した。
「……ねぇ童磨。貴方は自分の記憶が欠けていることを知っているのね?」
「うん。それが文子ちゃんと関係無いかなって思ったんだけど……、はぐらかされてさ」
「貴方は知りたいのだろうけど、私には……話す事は出来ない。本当の事を知る事が幸せなこととは限らないと思うから」
「へ」
――仏塚文子の事はもう忘れなさい。
母親の言葉に、童磨は固まった。
§
七年前、夏に雪が降るという、異常にも程がある気象がある県内で確認された。
太陽の熱が抑えられてしまったかのように空気は冷え込み、夏場である為薄着であった人々は急激な冷気で命を落とした数も少なくない。
D県に現れた怪人は、およそ三百メートルに近い体高でどちらかといえば動物の形をしていた。
獣の四つ足で顔部分には動物的特徴は見当たらないのっぺりとした形状。その爪が軽く動くだけでコンクリートを容易く抉り、七つに裂けて開く口に敷き詰められた鋸歯で人間がすり潰される際の悲鳴など聞くに堪えなかったな。
単純な動きで簡単に有象無象の人間が潰れる破壊力もだが、一番の厄介であったのは居るだけで巻かれる毒。
怪人の表皮から溢れる毒に触れた人間は治療する間もなく死体と化す。毒だというのに酸みたく内臓を溶かす作用から内臓の機能を停止させるものまで、人に及ぼす被害も幅広い。
しかも、あの時の怪人はなんとも醜い形だった。体表を見れば人間の顔が浮かんでいたしな。
だから私は常々、ウブヤシキに『オニを怪人と呼ばせるな。報道するな』と言っているのだが、奴等は実にイイ性格をしているので聞き入れられた試しがない。
オニはあくまでも『オニ』。
だからオニもキサツタイもカタカナ表記で分けているのだ。あんな悍ましい人間の悪感情の寄せ集めとオニとを一緒くたにするなと……。
話が逸れたな。では、何故その規模の怪人災害が県一つの被害だけで収まったのか?
あるキサツタイが収めた。あの忌々しい耳飾りの男と同様、度の越えた愚かな人間が収めてしまったのだ。
キサツフロスト。世間では幻のキサツタイだのなんだのと持て囃されているが、私には馬鹿としか思えないな。
キサツタイでは突然契約しようが、その後にしかとそのリスクを家族に説明する。「お前たちが一時の万能感で志望すれば死ぬ活動」だと、ご丁寧にな。
私はしないがな。そこまで説明せずとも察せる者こそが私の求めている優秀な人材だ。……説明責任? 知らんな。
で、キサツフロスト……。この女は自ら! 死にに行った!
――理解しかねる。キサツタイよりもオニの方が自由で良いものだと勧誘してやったというのに、アイツはキサツタイを選び、そして死んだ。
まだ死んでない? あんなものは死んだと同然だ。七年前の時点であの女は自己の生命活動を停止したのと同じ。
話を聞いた時は耳を疑ったぞ。そこまでして人を助けたかったというのか?
馬鹿は死なねば治らんというが、コイツは死んでも馬鹿のままだな。一生をやり直そうが同じ事を繰り返す大馬鹿者だ。浅ましい英雄願望もここまで来ると清々しさすら覚えてくる。
毒素など放っておけば良いだろう。七年前、現場にいた人間が死ぬ事は仕方ないのだと諦めれば良かったのだ。
お前が毒素の働きを留めようが大衆は貴様の働きなぞ知らずに生を終える。賞賛もされない働きに一体お前は何を求めた? ウブヤシキにでも唆されたか?
貴様の死後は英雄として褒め称えられるだろうと? 未だキサツタイの一部にしかこの事実を伝えていない男に?
両親から見放されているお前が、己の身を犠牲とすれば家族の一人だと認められるとでも思ったか?
――無様にして醜悪だ。見ていて吐き気がする。
だがもう一度だけチャンスをやる。正に起死回生の手と言えよう。
「仏塚文子、鬼になれ」
オニとて怪人に対抗する手段だ。キサツタイだけでなく、オニたちも怪人を倒しているのだから。オニもまた正義の側だというのに、ウブヤシキめ……。
これまで多くをスカウトしてきたが、目の前の女。こいつがオニになればあの氷像から――。
「ならないけど」
お前はまた即答で断ったな!?
「あと、
「何……?」
居候のいなくなった部屋の中、文子が静かに響く。
「情とか家族への承認欲求とか、そういった話じゃない。あの場において私にとって何が最も最適な行動だったのか。
「……救えん馬鹿だな。使命など放り捨てて自己の生命を大事にすれば良いものを」
「私の判断に私の命の有無は勘定に入らない。昔みたいに覚えられていたら一考の余地はあったけれど、記憶喪失なら問題ない」
そういうと文子は私を徐に掴……、おいやめろ馬鹿! 投げるつもりだろう貴様!
「まったく、私に情動というものを期待しないで欲しいんだけどな……」
「この、大馬鹿者がぁッッッ!」
§
それから、彼女は姿を消した。
家を訪ねてきた少年少女は彼女の父親にやんわりとお礼の言葉を伝えられるだけで、帰る他無かった。
§
暗い空が徐々に白んで、青みのある色に近付いていく。朝日が地平線から昇って、光が差す。
あの光景に何かしら感動したことは無い。綺麗と、心を震わせることも。そもそも何かを綺麗だと一度も思ったことは無い。
全部が夢や幻みたいにふんわりとしたままの延長戦。けれど、ここ最近は人が騒がしかったというか、感覚もはっきりしていた心地だったか。
ウブヤシキから支払われる補償金での生活中、学生として過ごしていれば制服は切り刻まれた。新しく制服を買ってまで学業が必要かと言えば、そうじゃない。
かと言ってずっと自宅で瞼を閉ざして寝ているのも……何だか。
僅かにもお金を稼げば父の賭け事費用の貯金にはなるかと思い至り、人の少ない朝のバイトを選んだ。それも最近辞めてきたし、家も出てきた。
あのワカメ生首饅頭の言う通り、キサツフロストもとい、仏塚文子は七歳の時点で死亡している。
今も穴の底で怪人を封じる氷像として立っている。
あの場で毒素が消えるまで何年も怪人といる覚悟ではあったが、ウブヤシキがこう、魔法少女マスコットキャラみたく魔法を使った。私も魔法みたいな現象を扱ってるから何とも言えないんだけど……。
でも前回の大戦で犠牲になったキサツシャインはもっとすごい魔法を使ったとか聞いたし、キサツタイの方がオニ並みに超常現象を起こしてる気がするような……。
手首を抑えて伝わるのは皮膚とは少し違う感触。人工的な作り物。
ウブヤシキの魔法というのは本体である氷像から私の意識を、
見た目は成長した私にそっくりだけど、体温は感じないし、人間が可動出来ない箇所まで可動しない様制御する必要もあったし、味もよく分からない。
でも最低限食べれば何日でも動く体というのは中々合理的な造りだ。人間もそうなったらいいけど、ならないんだろうねぇ。
「七年かぁ……」
あっと言う間みたいな、長かったような。曖昧に感じる時間の流れは死んでいるのに生き長らえたせいだろうか。
ウブヤシキもキブツジムザンも、私が大勢の為に死んだなんて解釈するが単純明快な事実が一つあるだけだ。
私の魔法……の様な力で全体を凍らせた余波で人死にが出ようが、毒素の動きを留めている働きを知る者が少数だろうが関係無い。一点を除いて。
あのまま毒素を蔓延らせたら
私が人柱となって県全体を凍らせておけば毒素の動きは無くなるし、病原菌由来でもない毒だから時間経過で消え去る。
そうウブヤシキが自己の見解を伝えたから行動に出た。ついでに毒素を保有したまま避難した人間の命も救ったことになるから、英雄的行為と言われるだけ。
そもそも怪人が毒を持っていなかったり、弟が怪人出現の余波で起きた地震による建物の崩落に巻き込まれかけなければキサツタイにならなかった。
だけどそんな話、伝えても意味も意義も無いから言わないだけ。
弟はその時に記憶喪失になったし、態々幼体の時の記憶なんか取り戻して何か意味あるのかな。
――携帯を閉じる音が物音のしない無人の場ではよく響いた。
溜息を吐きながら手すりに体を預ける。展望台に来るとよく見えるものだ、連なる山を越えて立つ防壁の仰々しさと、その先にある癒えない傷跡が。
携帯を再び開いて、すぐ上の番号にコールする。出ないかと思ったが、意外とすぐ早くに出た。
「久しぶりです。文子です」
『おお、文子。久しぶりじゃないか。どうした?』
「そろそろ残り時間が無いものなので、少しばかりの礼の言葉をと」
『……そうかぁ。もうちょっと頑張れたりは……』
「今の時点で大分頑張った状態なんですよ、
『…………そうか。分かった。いない俺が悪いんだが、もう少し早めに電話してくれても良いじゃないか』
「娘の死に目に会う気概があったとは思わなくて」
『事実は事実だが胸に刺さるな……。娘の最期くらい、今度こそは看取りたいとは考えてはいたんだよ?』
「へぇ。何パーセントぐらい」
『……最近はちょっと楽しすぎたから十パーセントぐらい』
「十パーセントもですか。驚きです」
『なぁ、文子。お前は俺たちの元に生まれてきて幸せと思えたか?』
「何を言うかと思えば。必要無いから考えた事も無いですよ」
『難儀な娘だなぁ……。もしまた、お前が俺の元に生まれて来るなら、今度はちゃんとした父親になりたいものだ』
「そうですか。その願いが叶うといいですね。――では、さようなら」
『さようなら、文子。次に生があるならば、幸せになりなさい』
電話が切れて、再び二つ折りの携帯を閉じた。
「この深夜帯に電話してすぐに出てくれたのは良かった」
碌でもない生活サイクルには違いないが。暫く文子は眼下で広がる夜景を眺め、風に吹かれていた。
やがてはその身体が糸の切れた人形の様に、崩れ落ちるまで。
県一つを壊してしまえる程に巨大な怪人災害。その再来が来ようとしていた。
近付けば近付く程、人を拒絶する程に冷たく凍える空気の漂う源。怪人の大きな核を突き刺す白い羽織の女性――の氷像。
キサツタイやオニが降りてきた途端、怪人の核に刀を突き刺している像に罅が入って砕け散る。割れた氷像の塊が溶けずに白い砂となって消えて行く。
あまりにも似た顔の像。
それは初めて出会った時、家を訪れた時の様な衝撃があって――古く寝付いた記憶を呼び起こした。
「
――その氷像の口元が笑っていたなどと、言葉を零した当人には気付くことも無かった。
なんかぁ、書くことあったンすけど、年越したら忘れました。
オニ側も超常現象出来るけど、一部のごく稀なキサツタイは奇跡的な事を起こす力があるとかなんとかという裏設定。
そうそう、母親は童磨との口論で若干正気になりました。ショック療法ってヤツっすね。あと「いつまでも死体とおしゃべりしているんじゃありません」という愛の言葉です。
ムザン様も一部分しか見てないので節穴アイズで言葉を組み立ててます。
あと多分これっすかね?
>> これ打ち切りエンドじゃねーか! <<
でも文子の話はここでというか作中時間軸の七年前に終わっちゃったンすよ。いわゆる大きな流れの前に起きた過去編の中身みたいなもんです。恐らくしのぶさんがほわんほわんと回想してお話されるタイプの。
だからここでおしまいということで。
あとはかまぼこ隊や胡蝶家の妹子たちがキサツタイになって奇跡を起こしてなんとかするじゃろ。これでハッピーエンド……、ヨシ!