本当はもっと早めにうpの予定だったというのに……南無 人
生まれつき、兄は体が弱かった。俺と双子だというのに変わった色も無い子供だったので、教祖として崇められることは無かった。
周囲は神の子という色眼鏡の無い兄だけを正しく俺の両親の子供の様に認識した。俺だって両親の子なのに。胸がもやもやとした。
けれど俺は兄と違って体は強かったから、いつも床で苦しそうにしている兄さんを見て「可哀想だなぁ」って言うと、胸のもやもやもスっとした。
体が弱い兄さん。両親の子供だって思われていても二人は来ない。ああ、可哀想に。
俺や信者が面倒を見ていないと熱ですぐに倒れて死んじゃうんだ。よく生きてられるよね。俺が医者の手配をしなければきっと十も満たずに死んでいた。
可哀想な兄さん。俺だけは二人と違ってちゃんと面倒見てあげるからね。
最近、兄さんの様子がおかしい。熱で伏せることが少なくなってきた。「少しは体が丈夫になってきて嬉しいんだ」って話すけど、それでも兄さんは可哀想なままなんだよ。俺より背も小さいし、本も長く持てないんだから、部屋でゆっくりしていないと。
咳はするけど、それでも前より体が丈夫になってきている。「呼吸の仕方を身につけたんだ」とか言ってるけど、呼吸の方法を変えたぐらいで貧弱な兄さんの体質が変わる訳ないでしょ。可哀想に、現実と妄想の区別も付かないぐらい、追い詰められちゃったんだね。
大丈夫。俺は二人と違って絶対に兄さんを見捨てないよ。例えこれから酷く皮膚が爛れても顔が分からなくなっても、膿で蛆だらけになっても俺だけは兄さんを見捨てない。
だって双子だもんね?
色合いが派手なだけで、光が強いと見えなくなる事もある面倒な光彩に『神』という価値を見出す場所だもの。俺と兄さんが双子なことにもきっと理由があるんだよ。
最近兄さんが極楽教を空けるようになった。各地を旅して、自分の体を改善できるか探しているみたいだった。
薬草を潰して、効果があるかを実践してるけど……。そんな手遊びで兄さんの体の弱さが治る訳が無いんだよ。今だって咳をしているんだから、部屋でゆっくりしていなきゃいけないのに。
「働き口も見つけられたから、そろそろ出るよ」って。まるで兄さんが極楽教から離れようとしているみたいだ。
馬鹿な兄さん。弱い兄さんが極楽教の外で生きられる筈が無いのに。今まで幸運が重なっていたから、生きて帰ってこられているだけなのに。運を自分の実力と勘違いするなんて、流石に寛容な俺でも呆れてしまうよ。
でも見捨てないからね。俺は両親とは違うんだから。
やっぱりね。兄さんの体が今まで強くなったって言ったのは兄さんの勘違いだったんだ。
だって毎日少しずつ毒を盛ると、普通の人間はその度に血を吐くぐらい体調を崩さないし、そもそも一口目で違和感を感じて食べるのを止めるでしょ?
兄さんは違和感も感じずに食べ続けていたんだから。……ああ可哀想。本当に可哀想。
また医者を手配してあげるね。時間が空いたら俺も兄さんの様子を見に行くからね。大丈夫、一日に一回は絶対行くから。
あーあ、可哀想な兄さん。働き口には俺の方から断りの手紙を出しておくよ。ここまで気が利くなんて、俺って優しいよね。
兄さんが死のうとした。えー、どうして?
今度から兄さんの部屋に自殺が可能な物は置かない様に言い付けておかないと。あ、俺は健康だから分からないけど、兄さんは幼い頃からずっと自分の体の弱さに苦しめられてたもんね。
うんうん、ずっと苦しいと自死を選ぶんだよね。ウチの信者にもいたよ。折角話を聞いてあげたのに、勝手に死んでいった哀れな信者が。
兄さんはそういう信者と違って勝手に死んだら駄目なんだよ。俺と双子なんだから。俺を置いて外に出ていこうとした時点で駄目だったんだよ。
俺は気付いたけど……、兄さんは気付かずに出ていこうとしたから。分からないだろうから、俺が教えておいてあげた。
兄さんがもう一歩も布団から出られなくなってきた。このまま死んでしまったらどうしよう。
そうしたら、俺は一人でこの極楽教にいなければならない。……って思ったけど、兄さんが死んだら俺も毒を飲んで死んだら良いのか。
生まれて初めて先例を教えてくれた二人に感謝したい気分。信者の皆はどうしよう?
あ、寺院ごと吹っ飛ばすなんてどうだろう。そうしたら皆はもう痛い事も苦しい事も訪れないよね。忘れない様に、たくさん火薬を買う様に使いを出しておこう。
火薬の注文は止めておくことにした。だって、兄さんの体質が治って、しかもずっと生きられるようになったから!
だから俺が死ぬ理由も無いし、信者の皆には餌としていてもらわなきゃね。鬼っておとぎ話の存在だと思ってたけど実在したんだね。
俺は兄さんの体を強くしてくれた、あのお方を神と崇める事にした!
他者を崇めるってこんな気持ちになるんだね。俺、初めて信者の気持ちを理解したよ。
この信仰の形は崩してはいけないね。崩れたら辛いよね。教義にも反するから、ちゃんと俺は教祖としてやっていくよ。
鬼というのは慣れると肉体を変化させることが出来るみたい。その特性を生かして、兄さんは本当に、俺の姿とそっくりになった。
俺たちが代わりばんこに教祖をしている。俺は抜け出して、少し遠出をして遊郭で遊んだりした。
滅多に出られない外での食事はついはしゃいでたくさん食べてしまう。でも信者を食べ続けていると不審がられてしまうから、そう多くは食べられないんだ。
このまま全部、教祖の仕事を兄さんにしてもらってもいいぐらい。だって、俺ってば小さい頃から極楽教に貢献してきたんだぜ?
兄さんは伏せってばかりだったし、色は普通だから神の子にはなれない。でも鬼になって健康になって、“俺”みたいになれるなら話は別。
今まで俺が頑張ってきたんだから、今度は兄さんが頑張ってもいいよね。
俺は着々と食事をしたし、無惨様に貢献する為にも鬼として力を付けていった。最近は上弦の弐にもなった。
でも兄さんは俺と違って食事に積極的じゃない。むしろ避けようとするから、俺が食べさせてあげてる。
それなのに、あのお方からの罰則は無いにも等しい。というか、人間の肉じゃなくて俺たちにとっては毒の、藤の花ばっかり食べてる。
きっと俺のせいで毒の食事が普通になってしまったんだ。面倒だけど、ちゃんと俺が兄さんに普通の食事を覚えさせてあげないと。
だめだめな兄を持つと弟は苦労するよ……。はぁ……。
俺が助けてあげた兄妹の鬼が上弦の陸になった。どうやら妹の方が常に出ており、兄は妹が危険になったら彼女の体から分裂する方法で人間を狩っていたらしい。
無惨様は妓夫太郎を気に入った。そして何故か話題が俺たちに移り、「お前たちは双子の癖に連携技も無いのか」と仰られた。
急に呼び出された俺と兄は互いに顔を見合わせるが、そも連携しようという場面も無ければ、そうしようにも兄の強度が足りていない。
兄は鬼になって体自体は強くはなったが、素手で首をねじ切るなどは出来ない。体自体の耐久度も低い。
俺は大抵の刃物を弾けるのだが兄には容易く、日輪刀でもない刃でさえ通る。再生も遅い。
ようやく一般人くらいの体になったぐらいで、本当に元々の兄は弱かったのだ。
鬼になっても鬼殺隊にすぐ殺されてしまうだろうから、出歩く時は御子を忍ばせているが、いつもどこかに落としてきてしまう。
無惨様がやたらと頭に指を突っ込むせいか、記憶も朧気になってきているらしい。
この前は俺を見て「誰だっけ」なんて言ってさ。酷いよね、本当に兄さんって弱いし、おつむも良くないし、毒ばかり食べるし。
生きてきて良かったと思えることなんて、あったのかな?
直に質問してみたら、兄さん黙っちゃった。
試行錯誤の末、緊急時には俺の体に兄が入って避難することになった。これ連携技じゃなくて兄さんの避難技が増えただけだよね?
と思ったら、万が一俺の首を落とされたら実は兄さんの首でした、という身代わり技になるらしい?
そんな事出来るのかなと思えば、兄さんは「出来るよ」と、いつになく自信満々に頷いた。
まぁそんな技を使う日は来ないと思うけど……。だって、俺の頸が斬られる事自体、この数百年間無かったしね。
§
(なのにどうして、俺、頸が落とされてるんだろう)
いつもより鈍い体。何故か走る激痛。気が散って集中が続かない。俺と似た事が他の上弦にも起きている。
いつもだったら扇の一薙ぎで終わる、取るに足らない鬼殺隊に手古摺り、奥の手を出さざるを得ない窮地に陥れられている。
(教えてあげようか?)
頸が斬られる寸前、童磨の中に収容された兄の声が響く。
そう、兄がいれば童磨の首を斬ろうが、また
(俺が身代わりになる技って、嘘だから)
「は?」
(お前は此処でその少女と猪に殺されて終わるんだよ)
――単純な事実を受け入れられないんだね。可哀想に。
――鬼なんて、お前を起点にして鬼舞辻無惨と繋がる神経目掛けて毒を流し込んだだけで終わるあっけない命だったね。
続けられる兄の思念に、童磨は零した。
(おれ、なにか悪い事、した?)
「 それはもう、たくさん! 」
生まれて初めて、あまりにも晴れやかな笑顔で
思い込みって怖いスね。という話。
なんで死んだか、地獄でゆっくり考えといてください(え、もう死んでるんだけど!)
藤鬼がしたこと
・童磨の体内に入り、今まで無惨様にもバレないよう貯蓄してきた毒を無惨様と上弦に繋がる神経ラインにドバァー!っとした。上弦の鬼たちも、もう滅茶苦茶や!
・事前にしのぶさんも食べられてるので童磨だけは毒の効果五倍+倍スピードで体に回ってる
と、鬼殺隊側に倍プッシュで上弦・無惨討伐を可能にしているので無事に鬼も絶滅出来ました。
食べられた藤鬼としのぶさんは……、死んだ後にお話してるのでは?