初めて意識を持った時、すぐ側に何かがあった気がしますが、生まれたのは一人だけでした。
白橡の髪と虹の瞳を持った子供は「無垢である」「神の子である」と両親から言われ、育ちました。にこにこと彼は頷きました。
ある日、教祖の座を子に譲ると父親が言いました。母親も賛成し、子供も最初は戸惑いましたが自分のすべき事を理解してからは父親よりもとても教祖らしく、迷える人々を救い、彼等は敬虔な信徒となりました。
年が過ぎる内、父親の遊びが激しくなると母親に刺され、彼女は子供に「立派な教祖として導くのよ」と言い残して毒を飲みました。
子供は母親からの願いに応えました。そう願われたのなら、そう在るべきだと判断したのです。
教祖として駆け込む人々の悩みを聞き、導く間に極楽教も大きくなりました。小さな組織であったのが今では藩の各地に信者がいるのです。これも教祖の一人一人の願いを真剣に聞き、叶える姿が人の心に響いたのでしょう。
癖のある黒い髪の男が教祖と一人での面談を希望しました。その男は最近極楽教にやってきた相談者でしたので、教祖は快く受け入れました。
しかし、その男は鬼の頭領でした。極楽教の教祖の噂を聞き、青い彼岸花について聞きましたが知らないと言われました。
男は落胆しながらもこの組織を扱う為に教祖を鬼にしました。
鬼となった教祖はそれでも教祖として在りましたが、鬼として強くなるために信者を食べ始めました。「鬼として強くなり私へ貢献しろ」と願われたからです。
彼は燃やされた妹を抱え慟哭する兄に生きる道を示しました。
彼は迷える信者と人々を食べました。
彼は誰から見ようと“教祖”として在りました。人も鬼も彼は
徐々に上弦の鬼の入れ替わりが無くなり、時代も移ろい始めました。
教祖は寺院へと逃げてきた女性を食べました。
彼女は連れてきた赤子を川へ落とし、「嘘つき」と言い残して食べられました。
教祖はある鬼狩りの女性を食べました。蝶の羽織を着た女性でした。
彼女は一言、「可哀想に」と言い残しました。可哀想、それは明らかに教祖へと向けられた言葉でした。
鬼狩りを無限城へ送り込んだ作戦の中、小さな背の鬼狩りがこう言いました。
「私の姉を殺したのはお前か」と。
長い髪と蝶の髪飾りを二つ。その特徴に見覚えがあったので教祖はにこにこ笑って頷きました。
当然、姉よりも弱い彼女は瞬く間に殺されます。彼女の血を被った際にひり、と皮膚が痺れたので吸収はせず、橋の下に転がしました。
続いてやってきたのは、よく似た顔の男です。
教祖から色を落としただけの、顔や肉体がそっくりな形でした。
彼は転がる女性の死体を見て、思わずという様に流れた涙に触れてから、鬼を睨みつけました。
言葉を読み取ると、彼にとっては大切な人だったようです。「生まれて初めて、誰かを憎悪した」と言います。
教祖は男と対し、鏡を見ている気持ちになりましたが、それも消えました。
違う道を歩いている自分。最初はそう思いましたが、教祖はただの一回も真に他者を想い、涙を流し、憎悪した事はありません。
そして、長い経験が目の前の青年が抱く感情は本物だと伝えます。やはり、違います。
上弦の参の体が崩れる場面が見えた頃には、感情的な鬼狩りの決死の猛攻に教祖の頸も斬られていました。
鬼は頸の弱点を克服することも出来るそうですが、彼は出来ませんでした。
強い生への執着も守らなければならない約束もありません。何もかも投げ捨ててまで生きたい欲求はありません。
「君、一体何の為に生まれてきたの?」
「願われたから」
教祖が生まれた理由は明快でしたので、躊躇なく答えました。
理由を問われようが不快にはなりません。快、不快も遥か昔に消えています。
最初からその為だけの生でした。