頑張って終わらせるドン。
女が一人机の上で伏せていた。ぴくりと指が動き、次には重たく閉じた瞼を開けた。
疲弊しきった紫の瞳が光を宿し、身体を起こした。
「寝てしまった……」
可憐な声と共に軽く身動きするだけで書き散りばめた紙片がはらりと落ちていく。それを見て拾い上げる気力も無く、軽く周りを整えてまた伏せた。
まとめていた髪が一房顔に落ちる。それを払い除けて「はぁ……」と腹の奥底から重い溜息を吐いた。
「あと、一つ。何かが足りない……」
胡蝶しのぶは痣を発現させた隊士たちの命を長らえさせる為に日々研究を重ねていた。
原材料一つで人の寿命が
検討を重ねた結果、青い彼岸花だけでは第二の鬼舞辻無惨――鬼の始祖を生み出すだけだという事が判明した。始祖と化したモルモットはすぐ日光に当てた事により死亡したが、課題は積み重なるばかりであった。
(絶対に生かす。あの人みたいに、死んで終わりだなんてさせてやらない)
妹のカナヲが炭治郎と結ばれた。姉のカナエだって不死川さんと良い感じの仲になっている。
愛する姉妹たちを父親の
悲鳴嶼は未だ生死の境を彷徨う植物状態で、甘露寺と伊黒の夫婦も二十五の限り。冨岡も……。
鬼の始祖は退治された。けれど、後に残った“寿命”という問題を――なんとしてでも解消しなければ。
(不思議な夢を見た。あの人と、もっと前から接していたら、あったかもしれない光景……)
人形染みた笑みが段々と熱の通う、人間らしい笑顔になっていく。胡蝶屋敷で何度も叱ったり、……その果てに胸を痛めた事もまるで現実のよう。
天辺だけ色が抜けた黒い髪の人を未だに忘れられずにいる。未練がましいったらありゃしない。
しのぶは目頭……ではなく連日の徹夜明けで痛む額を抑えた。
『人の寿命を人のままに伸ばす薬』なんて難題は先の見えない、暗闇の中を一人走っているのと同じだ。
目的地が見えないし、明かりも辿れる証も無いのに、時間だけは迫ってくる。
その焦りで、どうしたって足が前へ前へと進む。前へとは言えど、本当は目的地から遠ざかっているかもしれない。
分からないままにずっとずっと足を動かしている。
「……駄目ね。一旦寝ましょう。徹夜は良くないわ」
沈んでいく思考は明らかな疲労の証。今、自分が取るべきことは休息を取ることだ。
床に落ちたメモを拾ってまとめて置く。扉への行き来は出来る様に積み上がった本やメモを片付けていく。
これは要らない、これはまだ使うと動いていれば彼女の肘が不安定に積み重なった本の山に当たった。
「あ、まずい……!」
ぐらりといくつもの本が落ちて、何冊かは頁が酷く折れ曲がってしまった。注意力散漫の為に起きてしまった事故にしのぶからまたまた溜息が出る。
少しでも折り目が無くなって欲しいが為、逆側に折ったり、強く力を込めて本を押したりして丁寧に重ねていくと一つだけ上向きに開いて落ちた本があった。
「
植物学について詳細が書き込まれ、精細なスケッチの施された本だった。開いた頁に広がる花を、――誰か、人形めいた指がなぞった。
え、と声が漏れる。
その指の主を見たくて――その毛が黒から白へと染まっているのが目に見えて――、……碌に顔も見れずに消えてしまった。
「……なんなのよ、一体何だっていうのよ」
これを使えば足りない物が補えるっていうの。
……ふざけないで。それなら堂々と教えに来なさいよ。
「ばか……」
§
皆さんこんにちは。初めましての方は初めまして。
俺は人間を辞めるぞジョジョォー!なRTA、始まります。
前回は魘夢を
ここから日輪刀たちの故郷――陽光山へと移動していきます。
え? 出来ているブツを略奪? 違います。そんなことしちゃあダメだろ!
狙いはズバリ! 『陽光丸』の作成です!
これはアップデートで発生条件がようやく固定された激熱盛イベント!
とーっても簡単! ギコギコせずとも素材を事前収集・薬学を(100)にしていたらすぐ取れてしまうんです!
①都や町で開かれる古本市にて低確率でポップする『□□丸作成□南書』を入手(値段は高め)
②必要な素材は固定なので予めゲットしておく。
③刀鍛冶の里へ行く。→イベント発生→薬学(100)で即作成
ほらこれだけ ええ!?(イベントスキップの舞)
飲んでみたいでしょォ~? ウン飲みた~い!
行きますよォ~! せーのッ!
なんと波紋法を獲得出来てしまいます!
刀鍛冶なぞ必要無い。真に強きは己が肉体――MUSCLEこそ至高。
一応説明文があります。普段浴びている日光エネルギーを活性化し、体内に巡らせることで太陽の無い夜だろうと触れた鬼を灰にする。書けば書く程波紋だな!
そしてその性能と言えば……、握る刃物全てが日輪刀になるというもの!
また素手の場合でも鬼に対して攻撃が効くようになる!
この丸薬一つあれば鬼舞辻無惨折れた刀討伐だって目じゃありません。
そんな縛り課すなんて多分変態だと思うんですけど(名推理)
これでもうこんなしみったれた里に用はありません。
刀なんか必要ねぇんだよ! サラダバー!
さて、と移動中にやっとこさ開示しましょうかね。(バァン!)
こちら、ヤクリストとなっております。
10、30とあるのは薬学の技能値で作れるようになる値です。もう(100)なので関係ありませんが……。
今まで夜中にチマチマ作ったおかげで作った事無いのが鬼血研究条件必須ヤクのみ。『人間化薬』と『鬼化薬』です。
ちなみに藤の毒・分裂阻止の薬などはTMY塾受講済みかSNB姉貴との共同研究によって解放できます。人間化薬と鬼化薬は一人でも作れる……ってコト……?
コカ・コーラがもうある?(大正に販売開始)
酒を個人で作ってるのは酒税法違反?
そもそも|薬品営業並薬品取扱規則《やくひんえいぎょうならびやくひんとりあつかいきそく》って知ってる?
あのさぁ……、そんなんじゃ甘いよ。第三者勢力√攻略舐めてんの?(逆ギレ)
これにて素手の小娘に消し炭にされる鬼が出来た所で下弦の壱と肆のハウスへお邪魔しに行きます。
(命を取りに)お邪魔するわよ~?
「イヤァ! なんで効かないの!?」
「ここで、終わるのか……?」
ち~ん(笑)
断末魔をバックミュージックに鬼血パーセンテージが60。残りは上弦一体で埋まります。
さて記念すべき初上弦戦の前に獲得しておきたい技能があります。
その為、年の暮れの雲取山に私が来た!
ヌッ! 炭十郎さん(見取り稽古)お願いしまーす!
「久しぶりだね。元気にしてたかい」
今年のお正月、舞を見させて欲しいんですけど大丈夫でしかね?
「構わないよ」
だから雲取山へ通う必要があったんですね。好感度を上げておくとご家族の行事に参加できます。
あと事前にステータス配分で透き通る世界を獲得しないと一発で獲得できません(2敗)。
ジー、ジー! ……ヨシッ!
仏塚 吉子 性別:女 特徴:『筋肉密度異常』 階級:『神』
ステータス
体力(91/108) 根気(108/108) 筋力(108/108) 防御(92/108) 速度(108/108)
技能
薬学(100/100) 交渉(47/100) 岩の呼吸(80/100)
人体理解(80/100) 素流体術(50/50) 拳の呼吸(60/100)
節制(70/100) 器用(46/100) 全集中・常中(100/100)
瞑想(100/100) 柔道(63/100) 医学(100/100)
強靭(50/100) 運び上手(100/100) 心眼(10/100)
不落の陽(100/100) 透き通る世界(1/100) 日の呼吸(1/100)
使わない日の呼吸をゲットだぜ! だって使ったら一気に無惨様引き篭もるもん!
後は固定位置にいる上弦の伍に向かって成長点稼ぎで人助け&鬼狩りだヒャハハハ!
いえ~い病人みたいに顔の白いワカメくん見てるゥ~?
君がイヤイヤ増やした手駒は今、血を採取されて消し炭にされてまァす!
あれーっ!?
通りすがりの半天狗に出会ってしまい、池ポチャからの電気ショック!
効いたわ、少しね(体力ミリ減)
「何故死なぬ……!」
突発的に起こった半天狗戦ですがあ~^(幸運が)たまらないぜ。
彼奴は生息地が絞り込めないフラフラフラFlamingo民の為、遭遇する確率が低いのです。命拾いしたな玉壺!
これからの為に……その命、神に返しなさい!
いざ半天狗戦解説!
普段は皆さん大好き老天狗が基本なのですが、今回は先に
このままではRTA走者の名折れ。
颯爽登場☆ 銀河美少女 KICHIKO! アプリポォォゼ!
サイバディは目覚めませんがSUNBODYにはなります。
残酷な夜に燦然と輝くはこの女ァ! キチ子DA!
さてさて邪魔な4天狗分身隊をご紹介。
積怒、錫杖を持った落雷避けミニゲーム。
哀絶、ジャージ槍。
可楽、立ち上がった時死角から現れて態々踏まれに来た癖に汚臭と嫌悪感を撒き散らして生意気に噛みついてくるヘッピリムシ以下の吹っ飛ばし野郎。
空喜、カス。
以上解説終わり! 解散! え、駄目?
まず処理しに行くのは可楽です。
岩の呼吸を(100)に出来てないのでキチ子の重量だとかなり遠くへ吹っ飛ばされ→タイムロス!おファック!
タイムロスの要因は颯爽とブチ転がしておくに越したこたぁ無いですぜ。
おっと採血を忘れていました。はいこれで鬼血研究完了です……。
次は先程から余計な事をしてくる
コイツはとにかく空中戦用の攻撃が無いと本ッッッ当に苦戦します。
拳の呼吸素流タイプ持ちなので対応は可能、後はバインドボイスでスタンを取ろうとしてきたら組み付きでキャンセルします。当然んじゃろ…!
積怒は遠隔で電気チクチクしてきますが回避が余裕で間に合います。ジャージ槍鬼は地上にいなければ槍を投擲するだけ。
ん? 何か足んねぇよなぁ?
(小僧鬼こと憎珀天の登場は)無いです。
何で戦う必要なんかあるんですか(RTA)
後は隠れて逃げようとしている半天狗本体を潰すだけです。
待て待てー(空中ダッシュ)
空中にいても的が小さくて当てられない、そう思ってないですか?
お客様ぁん、半天狗戦って火力もいるし時間も掛かるし大変ですよね?
ところがこの、拳素伍『骨砕き』があるだけで半天狗を蒸発させられるんです!
半天狗が4天狗ではなく幻のシックスマンがいる、実質
彼奴は怯(本体に見せかけた老天狗)が撃破されると喜・怒・哀・楽に分裂し、本体はミニ天狗となって戦いを攪乱させに行きます。今回は最初から分裂してましたが稀です。
おほん。ともかく半天狗はリソース配分量と作戦が必ず決まっています。
邪魔な喜・楽共を蹴散らした後、態々四体倒す必要もなく本体を狙いましょう。
その為の透き通る世界――――。
Look!
Z注目しながら高度を上げてはいドーン!(即死)
恨むんなら小さくなったテメェを恨むんだな……。
まだ通常サイズだったら生き残れただろうに、俺は(半天狗のあまりのか弱さに)泣いた。
……と、本体天狗のリソース配分はとにかくスピードに分配し防御は4天狗より低い為、現キチ子のステ+獲得スキル+空中の高低差ボーナス+痣が出ている状態を加味した拳素伍『骨砕き』によって一発KOが可能となります。
お前たちの戦術は素晴らしかった!
コンビネーションも戦略も!
だが、しかし、まるで全然!
この俺を倒すには程遠いんだよねぇ!
本体を倒すと残った2天狗たちが崩れていくので……あ、青い彼岸花がポロリ!
いっけな~い、キチ子うっかり! ちゃんと仕舞っておかないと!
はい、こうして鬼の前で青い彼岸花を落とすと舞い上がったワカメ野郎が上弦を差し向けるフラグを立てます。
見せた当日すぐに襲撃はありません。無駄に作戦を立てようとしているので安心して残った人化薬(藤と青い彼岸花両方)・鬼化薬を開発してヤクリスト全開放。
朝日を迎えた後はあんぱんを十個くらい買って成長点を稼ぎ、夜は暇つぶしに鬼をオラオラしておきます。
RTAはあんぱん食いながらやる。当たり前だよなぁ?(ビール七缶目)
さてそろそろでしょう。確信を持って弟に睡眠薬をサーッ!して眠らせておきます。
無惨様は自分の支配を解いた鬼と出会うと会話を長くしがちなのでタイムロスの原因には黙っていろ……!
ある日、キチ子が森を歩いていると、そこはありとあらゆる空間の法則がしっちゃかめっちゃかになった――無限城にいました。
テーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるなぁ~。
さぁ初手に来る鬼は……!
「ヒョッヒョッ……。小娘が相手ですか」
くっ、玉壺か……。初手猗窩座は無理……。
―――― ド オ ン
あれは……上弦の陸と参と弐!?
何故ここに……!
は?(困惑)
マジでェ↑?????????
思ったよりも連れた魚がデカ杉多杉で草枯れた所で今回は終わります。
次回もまたお会いしましょう。ほな、また。
§
古本市で手に入れた巻物を珠世や愈史郎の力を借りながら解読した吉子は猩々緋鉄鉱石が採掘できる山の麓にある里を訪ねた。
どうやらかなり閉鎖的かつ人の出入りが限られた場所らしく、吉子が姿を見せるとひょっとこの面をした男たちが一斉に家の中へと隠れ、門番には槍を突き付けられた。
「何者だ貴様!」
「薬師の仏塚と申します。ここは鍛冶に精通している方が多い里と見ました。この巻物の……、猩々緋鉄鉱石というものを探しているのですが、知りませんか?」
「何……。客人よ一つ聞こう。鬼、というものを見た事があるか」
「あります。鉄道の上で燃やした事もありますよ」
「え?鉄道の上?」何か言いたげな門番のひょっとこ面が困り顔になる。
「こちらからも訊ねましょう。猩々緋鉄鉱石が採れる場所を探しています」
「何の為に薬師が」
「薬には鉱石をすり潰して使うものもあるのです。薬の為に必要です」
門番の元に黒い詰襟の人間が耳打ちをすると門番は槍の穂を下ろす。
「里長様が会いたいと仰せだ。ついてこい」
「かしこまりました」
吉子は静かに後をついて行く。少し開いた窓から覗くひょっとこ面たちと、自分の後ろを歩く詰襟の男とを見比べた。
(もしかしてあれが鬼狩り……。愈史郎殿から聞いたのと同じ特徴)
耳打ちの時に見えた背には大きな『滅』の文字。黒い詰襟で、この時世に刀を佩刀している姿。
ひょっとこ、火吹き男……刀鍛冶。家々の屋根に静かに烏が降りていくのが目に見えた。
『鉈で斬ろうが鬼は再生するが、鬼狩りの刀はその鬼の頸を断ち斬る。……気を付けろよ、事情があろうがあいつ等は必ず鬼を殺す執念の塊だからな。見つかればお前の弟も無事じゃ済まない』
顰め面で吐き捨てた愈史郎の言葉が思い起こされる。もしかするとここはその刀を鍛えている、組織にとっては重要な場所なのかもしれない。
ついていくこと数分、彼女はひょっとこ面の小さな小人と対面していた。
「おお、まだ幼いのによう辺鄙な場所まできなすった。ワシが里長じゃ」
「仏塚と申します」
「それで、猩々緋鉄鉱石が必要な薬とはなんじゃ」
「私にも名前は分からないのですが」
微笑みを浮かべた吉子は懐からするりと一つの巻物を開いて差し出した。年季が入ったその巻物は保存状態も悪かったのか所々紙は破け、虫に食われているせいで大々的に書かれた文字の判読は出来なかった。
小さな指が『猩々緋鉄鉱石』と書かれた場所を指差した。
「生薬屋や金物屋に聞いても知らぬと仰られるので、自らの足で探してみようと」
「ふむ。確かに猩々緋鉄鉱石とある。そりゃ流通しておらんしの、扱っているのは此処だけやな」
「でしたら、お幾つで融通していただけますか。少しばかりなら出せます」
「お嬢ちゃん、これを作ろうとしとるんか。――それがどういう意味か、知っとん?」
「はい」
里長――鉄池河原鉄珍はこの薬の名前と、人に齎す効能を知っている。
陽光丸。人間を鋼と見なし――一つの日輪刀と見なす。刀が折れようがその肉体で頸を引きちぎればより多くの鬼が屠れると考えた、刀鍛冶の里にいた随一の狂人が考え付いた荒唐無稽な丸薬。
そして、
人間に蓄積された陽光の力が、太陽の沈む夜であろうと体内を巡り、――触れた鬼を灰にする。
試した人間は数人だったが、その誰もが
鬼に殺されたのではなく、突然体が動きを止めて、呼吸が止まり、死んでいく。
そう言い伝えられた忌まわしき書物は燃やされた筈だが何の因果かこの世に残り、童女の手に渡り、陽光丸を作成しようとしている。
手遊びと侮り、もし作って飲んでしまえば彼女の命が危うい。鉄珍は厳しく諭そうとした。
「
有無を言わせぬ、菩薩を思わせる笑みで返した。
十もある猩々緋鉄鉱石を全てすり潰し、各薬種を煎じ、煮詰めて固めて出来たのは小さな丸薬。
指でつまめる程に小さく、黒く、そして内側に熱を感じさせる。
彼女の頑なな態度で鉄鉱石を卸すことを承諾した長曰く、飲めば死に至る事が殆どだという。
そして一握りは記述された通りの効能を発揮させたが、若い内に亡くなっていった。
――飲むか、飲まないか。
その段階で悩む時期はとうに過ぎている。吉子は躊躇い無く飲んだ。
胃の中で丸薬の表皮が解けていく内、激しい熱を感じる。そこを起点として体中の血にいつも以上の熱が宿り、――そして心臓にまで伝わった。
陽光丸、その作用は思った以上の働きを彼女に齎した。
身体から溢れる力、弱い鬼であれば触れただけで蒸発させてしまうこの威力。
これまで襲ってきた鬼は気絶させるだけが精々であったが、これからはこちらが攻めに転じる事が出来る。
喋るだけでひゅうひゅうとか細い息を漏らす肺は空気を大きく吸っても何も言わなくなった。
雪に触れるだけで感覚が無くなった皮膚も何度も擦り切れて治る度に丈夫になった。
生まれて幸運だったのは骨ばかりは元から強く在ったこと。関節を擦り切れないように何度も柔らかくする為に動かして。
――幼い頃からの積み重ねで私は両の足で立っている。
異形たる鬼を前にしても揺るがない。いつだって目の前の相手よりも乗り越えるべき壁がある。
強い風が吹いて池に落とされた。状況を把握しようとして――池に雷が落ちた。
頭上に雲は無い。ならば、これは鬼の血鬼術だ。
吉子は池から飛び出てその姿を探し、捉えた。
(弟は……、多分気絶してしまったのかしら)
さっきまで騒いでいた声が静かになっている。体に残った電流も抜けて動作に支障が無い事を確認した。
「効いたわ。少しね」
「……は? 貴様、人間か?」
「おいおい積怒よ、幼いからといって手加減したのかぁ?」
「そんな事は無い。次同じことを言えばお前に食らわせるぞ」
「おぉ怖いのう、だが相手は傷一つない。はて、どういうことやら」
汽車の上にいた鬼にもそんな目をされた。『生きているのが不思議だ』と、己の優位性を信じ切ったその図々しい態度。
――そして彼らは死に際にまったく同じ瞳をする。飛び回る鬼の首を手刀で斬ると、まるでこちらが鬼であると非難の色を宿し口汚く罵る。
雲の上から私目掛けて落ちる雷を避けながら、鍛錬を続ける内に人体やら構造物の内側を見れるようになった目で地を見下ろした。
見上げる鬼、から離れた場所に小さな鬼の反応。錫杖を持った鬼とは違ってそちらの方がより色濃い。
(分裂した体で戦闘を行わせ、本体は小さくなって身を隠す。手本のような戦法)
鬼も人も死ぬ。ただどうやっても命の危機は訪れる。その時、自身の代わりに脅威に立ち向かってくれる者がいればそれはさぞ好都合。
人間の疲労は早々回復しない。的外れな場所に向かって全力を出している隙に鬼狩り、引いては人間を食らう。捕食者として理想的な動きだけれども。
――――私は喰らわれる側の人間じゃない。
拳の呼吸 -氷心素流式- 伍ノ型 骨砕き
動き回るその小さな点の移動距離、思考を計算。体中の力を込めた踵落とし、高所からの落下の力をも込めた……せいよね?
足に肉が潰れる感触と、えっと、地面が割れてしまったけれど……。決して私の重量が重かったとかそういう話ではないのよね。
……残った鬼たちの体が崩れたので、良しとしましょう。
「い、今の何……? 地震? 出るよ?」
「…………。あ」
さっきの衝撃で貴重な薬種が落ちてしまった。危ない危ない……。
勝手に扉を開けて出て来た弟は何故か私が手に持つ物を見て声も無く仰天していた。
「そ、それ、それって」
「分かりにくいけど青い彼岸花。それを乾燥させたものよ」
「あ、青い……、彼岸、花……。うそぉ……。どこで見つけたの?」
「日中の山で。限られた時間しか咲かないし、一年で必ず咲く訳でもないから貴重なの。触っては駄目」
「う、うん」
今の所、弟が薬種で遊んだ事は無いけれどこれは本当に本当に貴重なので、予め言い含めておくことにした。
しかしなんだか背中が熱いような。動きの速度も上がっていたから修正が若干遅れてしまった。
気になったので、弟も箱の中にいて人のいない所で鏡を使って背中を見ることにした。新たな病の兆しであれば何か対処しなければとは思ったものの。
(……信者に打ち付けられて痕になった場所が焼け爛れている)
運ばれた時に背から落とされた場所は痣になって色が変わって痕に残りはしたものの爛れてはいなかった。
それも見た目だけで触れても痛みは無い。皮膚の引き攣れも無い、膿……も出ていない。そこまで酷い傷ではなかった。
ふと過ぎるのはあの火吹き男の仮面をした村長の話。
(『全て若い時分に病とも関係無く息絶えた』。…………納得はする)
鍛冶の男が鍛えに鍛えて鬼を斬る刀が作られる。
その原材料をふんだんに使い、己が正にその刀と同等の働きをするならば――折れる覚悟とて必定。
力には代償があるということだ。
(今はせめて弟を人間にしてから。それだけね)
§
青い彼岸花。それは無惨様が長き生の中で求めた物であり、俺ではなく猗窩座殿にその捜索を割り振られた……。
――あの方において最も重要な事項。幾ら探しても発見することが叶わなかった、あの花!
……でも姉さんさっき落としてたよね。落として拾う素振りだったよね。
貴重って言う割には雑な扱いをして――賢いので俺は必死に飲み込んだ。
(いや、不味いのはそうじゃない)
借りた宿の中で実験器具を広げて研究をしている姉を眺めながらさっきの状況を振り返る。
どう考えても(何故か倒されて)消えていく半天狗の目には姉の持つ青い彼岸花が映っていた。無惨様が見逃す筈が無い。
きっと日を跨いで、夜になってから集団で襲撃される。……姉が殺されてしまうかもしれない。
何故か手刀で鬼を狩ることが出来る様になっている姉だろうが、数の暴力の前では忽ち飲み込まれてしまう。絶対にあの方は多くの鬼を姉に差し向ける。下弦、それか上弦を複数。
(……ああ心臓が騒がしい。姉が死んだら、と考えると暗くなるこの気分は何なんだろう)
匿う……、無理だ。
無惨様の監視を逃れられる場所など無い。琵琶の君もいるだろうからどこにでも鬼を送り込める。
逃れ者の珠世……の元にいる小鬼の血鬼術で隠れようが何れ見つかる。
どうしたら……?
「……弟、どうかした?」
「え? 何も?」
「ずっと不安そうな顔をしているわ」
「……不安?」
姉は顕微鏡を覗くのを止めて部屋の隅にいた俺の前へと座る。じ、と何の色も無い目が――何かに揺れる俺を収めている。
手を伸ばそうとして、彼女は腕を下ろした。そっか、もう
姉さんの体には鬼を殺せる陽光の力が滾り、巡っている。
「何か思い悩んでいるの?」
「それはー、えーと……」
「話してごらんなさい」
ず、と空っぽの色の目が俺に注がれる。
姉の視線の圧に耐え切れず、俺は内容を上手く纏められないまま喋ることになってしまった。
「もし、姉さんが多勢の鬼に襲われたら、どう、しようかなと。俺は何が出来るのかなって」
「――そう。ふふふ、優しいのね」
姉さんがくすくすと笑う。常日頃から表情を動かすことも稀な姉さんが……笑った。
多分嘲笑ではないのに居心地が悪い。何だろうこれ。
「俺は優しくなんかないさ。何も感じなかったし、何も楽しくなんかなかった」
「その割には随分川遊びの小石飛ばしは躍起になっていたみたいだけど」
「あれは……、一郎が挑発してくるから。仕方なく付き合っただけ」
――まだ壊れる前の極楽教、そして俺が単なる“人”になった時、寺院の子供たちから川遊びに誘われた、記憶だ。
あの辺りは急峻だけれど水はとても澄んでいて、暑い時期も水辺の周りは涼やかだ。
足に水を浸からせるだけの俺に一郎が「遠くまで石を飛ばせなかったらお前の分の桃寄越せよな!」というので相手をしてあげた。
結局、俺の勝ちだから一郎の分の桃を俺が取ることになっただけ。小石飛ばし歴十年とか言ってた彼にとっては矜持も景品も損を出しただけなのに、何故か嬉しそうで。
……俺も多分、楽しいと感じた。
(そうか。あの一郎にはもう会えないんだ)
俺の横で殺されたから。俺を連れ出そうとした為に無惨様に殺された。
……それまで、何かがズレていたものがぴったりと嵌まるような。秘密箱の仕組みを解いて、開けた時の感覚。
――自分が何を不安に思っているのか、理解した。
「嫌だなぁ。姉さん。俺、姉さんまで死ぬのが嫌だよ」
「おや悲しんでいる。珍しいこともあるものね」
「茶化さないで。俺真剣に言ってるんだけど」
死んだら無になるだけ。――そこで人間は肉体の機能を停止させる。
死体は何も喋らない、何も言わない、何も、何も……。
小石飛ばしをしたり、憎まれ口を叩くことだって無い。
生者の世に関わった人間を置き去りにして、
もしも姉さんが死んでしまえば……、俺はずっと姉さんを記憶したまま生きていかなければならない。
鬼になった俺を背負って、『鬼を人間に戻す薬』を作ろうとまでする姉さんの事を、死ぬまでずっと。
「拭いたいけれど、私は出来ないから。今は自分でしなさい」
渡された手拭いで、自分が涙を流していることに気付く。……意識せずに泣いているのか、俺が。
「――私も何だか、近々あの男が来そうな気配はする。鬼ともたくさん戦う事にもなりそう」
でも、と姉は続ける。
「私はその前に完成させる。そしてあの男を必ず人間にする」
「え」
「
あ、これ大丈夫そうかも。
何でかさっきまでの気持ちがスン……と落ち着いてしまった。姉さんの覇気がそうさせるのだろうか?
朝になって姉さんはあんぱんを買い込んできた。……うん、別にいいんだけどね。俺の血鬼術で保管するのは。
――――――あんぱん?
§
例えば、たまたま池に咲いているのを見た時。
例えば、父に強請ってお参りに行った神社の池を見た時。
――決まって、二つの花を咲かせる蓮を見つけるの。
これって、神様からの思し召しでしょう? そう思うのはいけない事なのかしら?
一目見てこの人となら人生を共にしていいと思えた人と出会えば、きっと素晴らしい子が生まれる。
神の意思を聞ける男の子が生まれる。
――ほら、こんなに色彩の綺麗な子が生まれたわ!
これで私もようやく役に立てる人間になれたわ!
皆が言うような子も産めない役立たずでもなかったの!
とても素晴らしい無垢な子、神様からの愛を受け取っている子供!
瞳の中には虹を宿すのは神様からの意思を持っているのよ。白橡の髪は無垢な証。
とてもとても、想像以上に美しくて、神様からの子が私の胎を借りて生まれてきたのよ。
だから、あの人が他の女に手を出しても、きっと私は極楽浄土にいけるのよね。神様の子をこの世に産み落としたもの。
たくさんの人を救う為に遣わした子を宿した私は、例えあの人が私を見てくれないからって刺し殺しても、神様のいる極楽にいけるのよね?
本当は神の子ではないと知っていても、そう思ってしまったのは悪い事?
私、行けないのでしょうね。ああ、でしょうね。子供を蔑ろにしてしまったんだもの。
たくさんの責め苦を受けてきたことを、今になって思い出したわ。
現世に蔓延る鬼[おっと]に貪り食われてしまうのが、きっとお似合いなのね。
白い瞳が私を見て、興味の一欠けらさえ示さずに夫に追われて家を出ていった。
初めまして、あの時、あの子に譲ってくれた子。
さようなら、私の子。
陽光丸の素材
枳実(きじつ) 柑橘
附子(ぶす) トリカブト
木通(もくつう) アケビ
女貞子(じょていし) ネズミモチ
無花果(むかか) イチジクの果実
山査子(さんざし) サンザシ
燐(りん) P
牛黄(ごおう) 牛の胆石
(当時は天然モノしか採取できず、一部の方しか持てない超貴重品。特定のイベント報酬だったが極楽教に寄付されてたのでスキップされた)
蘆薈(ろかい) アロエ
猩々緋鉄鉱石(しょうじょうひてっこうせき) 日輪刀の素材
通称、きぶつじむざんごろし。
絶対に殺すという意志が伝わっていいと思う(小並感)。
無惨さまワイプ
「雑魚鬼共が手刀で殺されるが……、どうせ手に日輪刀の刃でも付けて……ない!?」
「……(長考)。アレ(言葉にすると細胞が震え始める)じゃないなら脅威ではない。小さくても巨体の男並の力があると理解していれば何も間違えない」