死ぬるよりは生きるが貴し。生者には生きる義務がある。
朝日は美しかった。人に慕われる事は胸が温かくなり、想う人々を残して地獄へ行くのは辛かった。黄泉路の前で弟が流す涙は温かかった。
感情というものを知った。負の側面たる悲しみも怒りも知った。
俺は確かに鬼の始祖に対して義憤とやらを抱いて刀を振っていた。多くの鬼殺隊士がそうしていた様に。
お偉いさんから『使っていいよ』と言われた部屋に入ってからどうもおかしい。
体の内側から軋む音がする。特定の事を考えると更に軋んで、身体の内から何かが溢れそうになる。呼吸を乱すぐらいに、激しい何かが俺の中に在る。
感情、即ち心とは人の核とも言うべきモノ。知ったが故にその存在を目に、頭に、思考に入れてしまう。
光の方へと行こうとする俺を留める影の正体を。
こんにちはと気軽に挨拶するでもない。殺してやると囁くでもない。
ただ確かに、俺の足を掴んでいる。
§
まったく歩けず姉に背負われて此処まで帰ってきた俺と、これまで無惨様を退治する為に体を鍛え上げてきた姉。どちらに力があるかなど自明の理。
人間と成って極楽教へと戻って来た筈の俺は――姉から殺気と刃を向けられていた。
呆気なく体を取り押さえられ、組み伏せられた先で暗がりでもよく見える刃が露わになる。
幸い呼吸は出来る。動揺を抑えながら問う。
「何でか、理由を聞いてもいい?」
「お前が人間になったから」
「人間になったらどうして殺されるの」
「可哀想だから神として救ってあげる。父親も母親も亡くした今、一人で生きていて楽しい? 哀れだからここで終わらせてあげる」
姉に刀を突き付けられている。
今の俺の体は鬼ではなく人間。もし心臓にでも突き刺されば簡単に死ぬ。
「極楽教の再興でもするつもりなの……? というか、俺には姉さんがいるじゃん」
「え? 神は肉親なんかじゃないよ。馬鹿だねお前。その程度の事も分からない?」
「うわ……。あのねぇ、姉さん。地獄はあっても、極楽教に
向けられる視線、言葉。そのどれもに
必ず敵を殺すという意志。その為だけにただひたすらに鍛え、――熱を持たぬ体で見事俺の頸を斬り落とした。
「…………思ったんだけどさぁ。いるよね、――
姉は固まるが、その目がかなり見覚えのある眼差しへと変えた。
だってね? 姉さんは「お前」とは呼ばないんだよ。弟と呼ぶ。
この
だからこの状況で「お前」と呼ぶのは兄さんしかいない。
俺の頸を斬る為に地獄から蘇ったあの人しかいないのだ。
冷たい――、八寒地獄を思わせる眼差しは真実、俺が兄と慕う者の気配そのもの。
もしかしてずっと前からいたのかな。俺みたいに?
それにさ、急にあんぱんなんて買い出して……と思ったら、本当にいるとは思わないじゃん。
「それが最期の言葉でいいってことだね」
「いやいや待って、なんで殺すのさ。俺は兄さんに理由を聞いているんだよ。俺を殺す必要性ある!?」
「あるよ。殺せば終わる」
(いや碌な理由になってないって!)
叫びたくなるのを堪えて頭を回す。俺と
さっきから体を動かそうとしてぴくりとも動かない。尋常でない力も合わさって、俺が力のみで
今動くのは頭と口。考えろ、何故兄さんが殺しにきたのかを。
それを導き出す言葉を引き出せ。まだ、刃との距離はある。
「……兄さんって、俺の監督……みたいな事をしてたのかな? 俺が自分の罪を反省出来る様に」
「概ねは。鬼となって何度も食っていた時はお終いかなと思ったよ」
「そ、それは……あははー……」
「生者の身を体験した今なら飢餓の辛さも分かるから責めはしないよ。最終的にお前は食欲を我慢した、そして
「それだけでは贖罪足り得ないってこと?」
「事が終われば自然に意識が戻るけど。まだ、というのなら
「なら俺を殺しても終わりにはならないよ。絶対」
見下ろす瞳は冷たいし、――なんだか胸がざわついて仕方ないけど、この状況を打開しなければいけない。
「地獄での刑罰って、何度死のうが生き返ってまた刑の続きを続行するんだぜ? 安易に死が終わりという世界では無いのは俺よりも兄さんの方が知っているんじゃないかな」
「そうだけどね……。罰は死んで終わりじゃない。それだけで済むならとっくに地獄は廃業してるよ」
「だよねー。――で、あの不思議な部屋を兄さんは何度も使った事あるんじゃない?」
俺が直前に入ったのは一面真っ白で
表情に目立った動きが無い――、本当に微妙な動きだったけど集中している俺には見えた。
眉をほんの少しだけ寄せた
咄嗟に出したハッタリだったけど、……本当に集中してないと分からないなぁ!
「やっぱ経験者なんだ。ならさならさ、兄さんの時の話を聞かせておくれよ。一体どんな風にして出れたんだい」
「……」
「なぁなぁ教えておくれよ。じゃないと俺達一生出られないままなんじゃない?」
「……」
「おーい兄さん聞こえてるー? 返事しておくれよー」
ありゃりゃ、黙りこくってしまった。それでも一切力は抜かれていないので抜け出すのはまだ難しい。
「頸を斬られた。お前に」
「――ん?」
「毒を飲ませられたから、お前を毒で殺した。家族という枠組みを知ろうとして、命を投げ打った」
俺が頸を斬った、……兄さんの? それ、兄さんが鬼になったって事?
えっと、もしかして俺が毒を兄さんに盛ったから盛り返されて。自分から死ににいった?
何とも言えない、嘲るような顔で兄さんは続けていく。
「この部屋はあったかもしれない可能性を見つめられる特殊な地獄……の一つかな。鬼なんていう従来での対処が難しい存在と、時代が進むにつれて複雑化する人間の罪状に対応するために作られた試験的な部屋。次の生を受けた場合に起きる問題を判断できる」
「へぇ、問題を直接見れるんだ……」
「だが肉体の死で一つの区切りを終える。人間は鬼みたいに何度も生き返る訳じゃないしね。御明察通り、俺は何度もこの部屋に来ている」
寄せられた眉は下げて兄は何かを言おうとしている。……何故こうも心臓が嫌に早く動いている。組みつかれた時よりも激しく、何かを訴えてくる。
そのまま何も言わないで欲しいという思いに反して、兄の口は開かれる。
「部屋を通して一つの事実に辿り着いた。俺達はね、別に二人一緒に生まれたからって人生の幸福が約束されている訳じゃないんだ」
は……?
「俺が生を譲ったってね、お前が幸せになる事は無い。より虚無を募らせただけの時だってあった。なら別に一緒に生まれなくたって良いってことだよね。二つ生まれて一つも幸せにならないのなら、もう一つは必要ない」
何を言っているんだ、この
これは、本当に……、黄泉路で手を引いてくれた兄なのか。
死んでも俺を殺しに来てくれた人と同一?
一緒に生まれなくたっていいって、本気で言ってる?
どういう思考回路? もしかしてこの人って自分で生まれるか死ぬかの選択が出来るの?
いや、いやいや待て。
……どう考えても約束を無かった事にしたい話にしかならない。何をどう前向きに捉えても結論がそうなる。
あれだけ俺の事殺しに来てくれたのに?
あれだけ生を望まれも俺を地獄に連れていってくれたのに?
その時に、約束したのに?
なにそれ。なんだよそれ。
「感情を得られて感謝してる。死んでいたままの俺では考えつかなかった。生きていることが地獄だなんて」
「ふざ、けるな……」
「ふざけてないよ。これが合理的ってことさ」
「――――」
絶句、という言葉の意味を
人は脳の処理速度が追いつかないと固まるだなんて可哀想だと思ったけど、俺でさえなってしまうのならばもう可哀想とは思えない。誰にでも起こる事なんだ。
「俺を殺して? それで、地獄に戻ったらどうするつもりなのさ」
「辞表出して輪廻の輪に戻らせてもらうよ。本来ならもう入っている筈だけど無理を言って留まってもらっているのだから」
俺の内側に酷く荒ぶる何かがいる。……これはきっと“怒り”だ。
初めて感じる、制御が効かない感情の荒ぶりというもの。
俺はあの食欲を完璧に抑えきれてはいなかったけれど、それでも約束の為にと抑えた。無惨様の支配だって解いていたし、肉体も改造した。
きっと鬼から人間に戻ることが贖罪だと、約束を果たす事に繋がると信じて。
「……約束は、兄さんにとっては何でもない事だった? 大切じゃなかった? ――俺と生まれるのはもう嫌になった?」
「そうは言ってない。ただ一緒にいても幸せにならないのなら意味は無い」
「意味が無いのは嫌ってこと? ……兄さん、分からない? 本気で言ってるの?」
「何が?」
こっちは本当に……、
ああ、俺いつもそうだったんだ。怒るなんて滑稽だなって思っていたけど、いざ自分がされるとこんなにも腹が煮えくり返るとは。
また会えたらちょーっと猗窩座殿に謝ってあげてもいいぐらい。
――腹立つ。
「何故意味が無いって言い切ってるの? 俺と生まれることに意味無いのなら、兄さんが態々、態々! 生まれ直してまで俺を殺しに来たことだってさぁ、合理的じゃないじゃん。そこの所どうなの? 兄さんにとっては難しいことを言ってるから簡単に噛み砕いて説明した方がいい?」
俺の首を掴む手を力の限りに握って爪を立てた。
よくも言えたものだ。
「お前の行動にこそ合理というものが無いよ」
――
最初から俺を見捨てて生まれていれば良かったんだ。
『譲る』なんて、生まれた時に意識があった様な言い方をするくらいなら。
俺が病に倒れていようと道を引き返させなければ良かったんだ。
代わりに兄さんが自分の体に戻る事だって出来たんだから。
殺しに来ることだってしなくて良かったんだ。
後は生きてる人間に任せていれば良かったのに、何故死者たる兄が殺さねばならない?
もうとっくに延命の為に頭は回っていなかった。視野が狭まって、如何にこの目の前の兄の説く合理とやらを叩き壊したくって仕方なかった。
俺がすぐに殺されてあの地獄に戻り、兄が転生をしていようが抜け穴を探し出して憑り殺してやる覚悟だって決めた。
……一種の諦めだ。ああ、俺は死ぬ。この怒りのままに罵って殺される。
そして兄さんは……、俺を置いて生まれ変わっていく。
嫌だなぁ、嫌だなぁ。本当に嫌だ。
あの時約束してくれたのに、俺は、その為に食欲を我慢してまで、自分の体を作り変えたっていうのに。
兄さんは『幸せにならないから』って俺を置いていくんだ。
酷い、なんて酷い人なんだ。
目を瞑っていたが、…………一向に痛みがやって来ない。何か温かなものが頬に落ちている。
誰の、何が、落ちているのか。
直感的に理解したが、それを目の当たりにするのは怖くもあった。
――――泣いている。
兄の開き切った目から溢れているのは水の膜。一つ揺らめいては俺へと落ちていく。
涙だ。兄は嗚咽を漏らす事もなく、淡々と泣いていた。
おかしいな、俺も何故か、目から流れているものがある。
胸が切々として痛い。そこを起点として、身体を巡る血管の隅々にまで行き渡る程の鈍く重い痛みがある。
「生きてさえいれば……なんて、おかしくない?
抑えられる力が緩んでいく。俺から体を離した兄は刃を持つ手を下ろしていた。
指先に乗った雫を眺め、瞼を伏せていた。
「死者は何をしようが熱が生まれない。死ねば其処で終わり。重ねた罪を清算するだけ。鬼は死者と同じだ、なった瞬間に全てが止まる。不変を強いる呪い。俺は見ていた、ずっとお前が生きる道を。病から立ち直った時も、鬼になってから人を食い荒らした時も、ずっとだ」
「せめて人として死んでくれさえすれば、俺は良かったのに。それで良かった。何が良いとか、
「信者たちを受け入れる器として終わろうが、碌に人間性を育てられず生涯を終えようが、お前自身が幸福だと感じられなくなろうが。送り返して『死んでいた方が良かった』と言われても……」
不毛だと理性は言う。俺達はもうとっくに過ぎた事をいつまでも長々と口にしている。これでは俺が散々『頭が悪い』と哀れんだ信者と一緒じゃないか。
俺は死んだし、兄も死んだ。
先の事を話した方が互いの利になるのにそうはさせない。
感情という機構は、いとも容易く人に不合理を強いるのか。
俯く兄を他所に俺が身体を起こしても、やっぱり涙は止まらない。
演技で流してる訳じゃない涙を止める方法なんて知らない。
「厄介な人間だよお前は。悪知恵ばかり付けて、物事を簡単に切り捨て、虚言ばかり弄して人間を食らい、人の刀を折って、教祖なんて自分が嫌なものを押しつけ、最期の最期で思い出す」
「どうでもいいから忘れた癖に、思い出したら寄ってきて、別に兄とも思っていないのに兄と呼んで――――皆みたいに、生きている間に思い出す事なんて無かった癖に!」
勿論、人を食べた事も、空言で人を誑かしていた事も俺の罪なのだろう。
だが最も向けるべきところへと意識は向いていなかった。
傷付けたくないのに傷付ける、ずっと秘めていた事を露出させて、顰めに顰めた顔だというのに。
この人はまだ俺に注いでくれている。あの時送り返してくれた時の目をしていた。
片割れの手に爪を立てるのを、止めた。
「俺達二人が一緒に生まれたって必ず幸せになる訳じゃないなんて知ってるよ。人間が生まれてから死ぬまで、全ての時間で幸せになれるなんて思って無い」
人間というのは気の毒で、実に愚かな生き物だ。幸せの中にいるのに道端に落ちる苦しみのことを考えて勝手に不幸になる。
生を受けてから死ぬまでの間、何の罪も無く人が生きられる筈も無い。
どれだけ綺麗な事を言おうとも自分が生きる限りその不利益を
自分の命はいつも誰かの犠牲の上で成り立っている。
それなのにその事実を考慮もせずに目先の事ばかりに囚われる。余りにも愚かしい生物。
――俺も、その括りに入っていた。
「だから、約束があるんでしょ。してくれたんだろ」
感情。夢幻のように掴めなかったものだって、……大昔から俺の中にあったんだから。
刃を持っていない手を両手で握る。
……ねぇ伝わる? 俺の、煮え滾る血の流れが。感情の渦巻く音を、温度を。
「“皆”とか知らないよ。それはそいつらのやり方で、俺には俺なりの兄さんの慕い方というものがある。人として死ねばいい? そんなのもどうでもいいよ。俺は、今度こそ俺は」
来世を約束するというのならば。
「兄さんと生きたいんだよ!」
片割れに譲られた生じゃなくて、その隣にいてくれる人生というものが俺は欲しいんだ。
「この“体”の俺の記憶を見る度、辿る度にそう思った。あんな言葉吐いても鬼になっても見捨てないでくれる人が側にいる。それがどれ程――俺が望んだ光景だったか分かる?」
「俺の時には誰もいなかった! 兄さんが地獄から見ていようが助けてなんてくれなかった! こんなのずるい、ずるいずるいずるい! ――羨ましい!」
兄さんは口を戦慄かせて俺を見ていた。
「分かる? 頭のおかしい両親に囲まれながら生きる苦痛が。自分よりも遥かに年下の子供に縋りつく大人をやり過ごす苦痛が。何しようが自分の救いの為だと行動を曲解される苦痛が」
「――――その道しか選べなかった! 俺の! 苦しみを!」
多分何十何百と繰り返したって俺は何度だって神の子として崇められるし、教祖として導かなければならなくなる。
――あの時代じゃそれ以外に俺が生きられる道なんて無い。
辺境の、山奥の地。そんな限られた場所でしか俺という生物は生きていけなかった。
使命という言葉で誤魔化して誤魔化してようやく“本当”になった時……、自分と同じ顔をした鬼狩りが現れた。
そいつは俺みたいに感情を理解出来ないという欠点を持ちながら多くの人間に囲まれていた。その欠点を知りながらも離れなかった人間だっていた。
それぞれが思考を持ち、意志を持って、――その上で、自分自身が選んでそいつといる。
……おかしくない?
だって俺はそう生きる道しか無かったのに、そいつには色んな道があって、信者に囲まれる俺よりも楽しそうだった。
そいつは俺の苦しみなんて知らない。それなのに苦しんだって生きてさえいればいいなんか言う。こっちが理解に苦しむことばかり言う。
“体”の俺も、苦しんだ末に姉へと助けを求めて……“人”なんかになっちゃってさぁ。姉に甘えて、親に甘えて、同年代の子と阿呆みたいに遊んで。
じゃあ求められるがままに教祖で在り続けた俺ってなんなの?
一人で頑張ってきた俺を惨めな思いになんかさせないでよ。
そうやって、手を差し伸べてくれるというなら。何か別の道があったと示すのなら。
「俺だって、助けて欲しかったよ……」
――あんな場所から抜け出せるのなら助けて欲しかった。その救いの手を取らせて欲しかった。
俺が散々見下してきたくだらない人間みたいに、
だって彼等の方が何でか
俺は頷いて話を聞くだけで一生を終えるのに、彼等の人生は波があって揺られて、好きに喜んで怒って悲しんで楽しんで、それで極楽に生きたいとか言って縋ってくる。
なんて勝手な生き物なんだろう。なんて愚かで、馬鹿な生き物なんだろう。
俺よりも遥かに楽しく生というものを謳歌している癖に、生意気な生き物だ。教祖なんてものよりも自由で、何にだってなれるのに。
もうなんか、涙が止まらない。邪魔だなぁ感情って。
表情のコントロールさえままならなくなるし、みっともない姿になるし、体はあっついし。
硬い音がした。より、身体が熱く、相手の体温が伝わってくる。
それなのに、今だけはお互いの事が分かる気がした。
「ごめんね、一緒に生まれられなくて」
「ごめんね、生きることができなくて」
「俺はまた、何かを切り捨てようとしてお前を泣かせてしまうと思うから」
「多分俺、また次があっても皆の“正しさ”の中で生きられないと思うから」
「お前が泣いたり怒って俺に知らせてよ。手を繋いで、行かないでと言ってね」
「だから、兄さんが俺を留めてよ。悪い道に行かないように手を繋いでいてよ」
泣きじゃくりながら指を絡めて約束をする。
前もした約束も、この約束もずっと胸に抱いて次の生を受けよう。
同じ蓮の上で生まれて、生きてゆこう。
§
弟を地獄へ送った後、天上の蓮花の咲く池から
賽河殿はまめまめしい性質では無いが、旅であった出来事を夜通し話してくれた。
実弥殿はあんな別れ方をしてしまったにもかかわらず、四十九日まで毎日毎日墓に来てくれたし、この前は結婚すると知らせに来てくれた。
義勇殿は一度伏せってしまったが実弥殿の叱咤もあって立ち直って、祭りの日には誰よりも多くのあんぱんを置きに来てくれた。
しのぶちゃんもちょっとだけ手助けしたら皆を助けてくれたし、カナエ殿や医者くんに鬼の女医たちもよく頑張ってくれた。
悲鳴嶼殿も、玄弥くんも、時透くんも、竈門くんも、イノシシくんも、小さなお館様も……。
鬼殺隊の皆、医者くん、霜屋敷で雇っていた子たちだってお墓に来てくれたんだ。
その度に胸が温かくなってついつい匡近殿や浦賀殿をブンブン振り回してしまったのだけれど。
喜びが落ち着いてからひと呼吸してから――。
……じゃあ、あの時生まれる事も無く死んでいった俺は何だろう?
母親は胎に二人いた事に気付けど特に気に掛ける事も無く好色な父親へと
弟は両親の心中もあってか忙しく過ぎる日々の中で忘れていった。
誰一人として俺を思い出すことなく両親は地獄へ落ちて、弟は鬼となっていった。
あの時はゆいまたちから教わるまで『悼まれる』という行為を知らなかったのもあったし、される実感というのも湧かなかった。
でもね、生を受けて死んで。
ああやって皆に惜しまれて、悲しませて死なせた
その度に切り捨てて、膨張していく気持ちが抑えきれずに獄卒の手伝いを願い出た。
そして、お偉いさんから『新しい仕組みの地獄造りに協力して欲しい』と言われて、全てが真っ白な部屋へと入った。
自分の現在の状況で新たな生を得た場合、起こりえる状況を観測できる部屋。
――もし弟と生まれた場合にどうなるかと思って入ってみれば、どうしたことか。
一回目。弟を斬り捨てて生まれた筈なのに何も分からなかった。全部完璧に熟した筈なのに。
二回目。弟を切り捨てず、医療がより発展した時代で安定して生まれた。だが、ここでも変わらなかった。
この頃から先に亡くなった隊士たちは次の生へと移っていた。
それを見送って、
三回目。譲った時と同じ性と時代で生まれた。殺すことでしか止められなかった。
四回目。瓦解する家族という繋がりを繋ぎ留められなかった。朝日が綺麗に思えなくなった。
五回目。
この時には現世では大正の世は過ぎており、天国にいた皆も、新たに来た彼等も先へと行ってしまった。
五回目の頃には悟ってしまった事実をどうしていいのか訊ねられる人がいなくなってしまった。
そして次。六回目。
『弟の贖罪の監督』というから来てみれば……。逆に
俺は弟を生かしたが、
思いのままに吐き出した後の悲痛な絶叫が、胸を抉るみたいに
生きている事が地獄。
打開できる者もいればその場で打ちひしがれる者もいる。その末に満足に死ぬこともあれば、苦しみ悩んだ末に死ぬこともある。
匡近殿や浦賀殿だってそうだ。生きられるのならば生きたかったんだ。
不器用な弟弟子を悲しませたまま死んでいきたくなかった、将来を約束した娘を置いて死にたくなどなかった。
置いていかれる苦しみ。置いて逝く苦しみ。
世の中には様々な苦痛と困難があって、……それでも生きていかねばならない。
助けられた命を自分で捨てるようなことは、自分を助けた人を否定するようなものだから。
その場にしゃがんで、ようやくその穴の大きさを知る。
俺の足を掴むその手の主に触れた。
「やぁ、下から見上げる世界はどうだった」
「……」
「うん、まぁ……辛いし苦しいよね。疑問が出れば
――感情が無い? そんなことは無かった。
だって、無かったのならば俺は
俺が初めて人間という熱の通う肉体を得た時から、下から覗く己を誤魔化して、踏み付けて、忘れようとして生きていた。
「忘れられるのは辛いね。助けたのに、それは自分で選んだ行動で相手を責める非は無いのに、どうしてと刺したくもなるよね」
「見捨てられるのは嫌だよね。同じ自分なのに、元は
小さな
実弥殿と出会った年頃?
弟が教祖となった時の年頃?
それか赤子?
違うよね。
――赤子になる前の、肉の粒。
耳や手足が発達する前のそれこそが、己の幼き姿。
泣く為の声帯も、世界を見る為の目も、母親に己は此処に在ると知らせる手足も無い。
全部が未発達のちいさなちいさな肉。
「こんな体でも意識や魂が宿るもの。弟には
「……ま、いっか! 今度は一緒に生まれるから大丈夫だろう。たくさん約束もしたから」
指先で肉の粒をつついた。
うんともすんとも言わない、でも明確な意識と感情を持っている。
「……うん、今度は俺を忘れないから。ずっと背負っていくよ」
そうして、ようやく、俺の身体というものが熱を通し始めた。
足元を掴む俺も穴も消えていく。いや、元に戻ったというべきか。
生を得られたのならばその限り、目一杯に生き抜いていこうじゃないか。
弱くたって、生を得られたのならば
ならば。
たくさん喜んで、怒って、楽しんで、悲しんで、笑顔で死に果てよう。
「さぁ得難く尊き生が待っている――」
数年も放置されていた極楽教は
それでも残った人骨を土へと埋めて簡単な墓を作り、――同じ顔をした子供二人が手を合わせた。
その後、男児は隣に小さな石を小さく盛った土の上に置いた。
新たに増えた墓へと手を合わせ、おどけて隣の姉へと合わせた。彼女の顔に血管が浮かぶ。
「目の前で墓を作られる気分は初めてだよ」
「えー? だってやっておきたかったんだもの。区切りってヤツ。少し経てば地獄に戻るんだからさ」
「地上でしか出来ないことではあるけど……。ふうん? お前にそういう事をする義理人情なんてものがあったなんて思わなかった」
「だってやっておいた方が
「どうあろうと絶対殺す危ない人間みたいに言わないでくれるかなぁ? 道を外れるお前が悪いんだよ」
「だったら俺の根っこは正道には無いってことだね!」
「何でそう喜ぶんだか……」
男児はニコニコと笑顔を更に深めて手を繋ぐ。「こっちこっち」と手を引っ張り、寺院の参道へと繋がる下り坂――そこから連なる山塊の景色を見渡せる。
一面に雪間も見えない銀世界。埋もれなかった枯れ木が出ているだけで、人の気配は微塵も無い。
何者の足跡の無い、ただ白い世界が
敷き詰められ石畳から伸びる草に足を取られない様にしながら、山々に囲まれた地にて日が昇る前の空が映る。
「最期は夜明け、でしょ?」
「五月蠅い。かなり五月蠅い。俺の大切な
「いいじゃん俺その時にはもう地獄の道手前にいたから見れなかったんだし」
罰が悪そうな顔をしながら階段へと二人は座る。
手を繋げば言葉を交わす事を止めた。
鮮やかで透き通る瞳たちが眺める中で黒い闇は裂かれ、朧々たる色へと変わり――やがて地平線から日輪がその姿を露わにする。
優しくも温かで、時には残酷な光。――だが、この世に生きる者へと注がれる大切な輝き。
死者には決して訪れない、生者だけが眺めることが出来る朝。
「確かに、ね……」
二人が互いに頭を預け合って、薄らいでいく。
「……ここ、寺院? いつの間に戻ってきたんだっけ」
「……うう、姉さんが人間じゃなくなってる」
「失礼な。こら、起きなさい。外で寝てたら風邪を引くよ」
吉子は隣で寝ている弟を揺さぶり起こした。
「あれ、どうしたの姉さん。泣いちゃって」
「弟も泣いてるよ。……どうしてかな」
溢れて落ちる大粒の涙。
それは陽の光をきらきらと吸い込んで、彼等の衣へと落ちていった。
§
開かれた障子の前へと鴉が下りてくる。日を浴びていた主が手を向ければその指へと乗った。
「ゴ報告! 薬師ノ集団ガ鬼ヲ退治! ソノママ北ヘ向カッテイマス!」
「そうかい。ありがとう。引き続き頼むよ」
裾を藤色に染めた白の上衣を羽織る男は鴉を空へと飛ばす。
当代産屋敷当主たる耀哉、彼は二十歳近くになろうとしているがその身体は至って健康体であった。
これは産屋敷家当主ならば“異常”といえる事態だった。
耀哉が幼き頃、父はこの年にはもう病に侵され、体の一部が紫に変色しては伏せる日々も増えていった。
どういうことかと神託を求めて儀礼を執り行った結果、『鬼の始祖は人となった』と。
妻のあまねの口を借りて、彼女ではない意思が告げた。
故に『短命の呪いを解く』とも。――鬼殺隊の
耀哉には一つの確信があった。刀鍛冶の里にやって来た幼い薬師が鬼の始祖を“治す”という事をしてのけた。
鬼舞辻無惨を殺せば全ての鬼が滅ぶ筈が、始祖だけが人間となった今――支配から逃れた鬼たちはその勢いを増していた。
(不思議な心地だ)
耀哉には産屋敷家の人間として生きて短命で死ぬ覚悟があった。
だが今は、第三者の気まぐれによって人と変わらぬ寿命となった。
人間化した無惨の捜索を進めているが人となろうと
人間になったからといって追手の手を緩める訳はない。彼は人の一生では償いきれない業を作り過ぎた。
鬼の残党、行方知れずの無惨の捜索。
呪いから解放されども産屋敷が鬼殺隊の補助を放棄する事も無い。
――彼女が齎したのは救いの手などではなく、混沌への一石である。
鬼によって人は依然として死ぬ、いつまで続くのかという先行きも不明で、子や孫の代にも鬼殺は続くだろう。
「……時間が出来れば、話をしてみたいものだね」
鬼殺隊に所属する獪岳には人には話せない過去というものがあった。
――幼い頃、自らの命と引き換えに身を寄せていた寺の者達の命を差し出した。
焚いていた藤の香を止めて鬼を手引きしたのだ。
仕方なかった。じゃないと俺が殺されていたんだ。
そう言い訳しながら幼き頃の獪岳は動いていた。
僅かにあった罪悪感。きっと聞こえるだろう悲鳴と血の匂いから逃れる為に背を向けた獪岳の前に
「え」
恐る恐る後ろを振り向いた獪岳の前にいたのは――寺の出口からは距離があるのに――、この寺へ宿を求めに来た薬師の二人。
その内の……背が低い女だ。
名を仏塚吉子と言い、もう一人……この寺の住職並に背が高い男の姉である。
見間違いでなければその細腕が鬼の身動きを取らせないよう抑えており……。
「鬼を入れたのは君か」
一瞬で力関係を理解した獪岳はこれまでの事を全て洗いざらい話した。
彼女は寺の中で話せと言ったので、自分の行いは寺の子供だけでなく住職たる悲鳴嶼の耳にも入ることとなった。
子供たちが非難轟々として思い思いに獪岳に罵りの言葉を放つが、対する大人達は静かに彼を見ていた。
逆にそれが居たたまれない気持ちを増幅させ、彼はずっと床へと顔を俯かせたままでいた。
「金を盗んだ挙句鬼まで入れるなんて!」
「最低! そもそも何で外に出てんだよ!」
何も言わず睨みつける視線さえも重苦しい。
逃げ出してしまいたいが戸の近くには薬師の男がいて抜け出す事も出来ない。獪岳と目が合えばひらりと手を振られた。
「皆、少し静かに」
沈黙を守っていた悲鳴嶼が声を掛けると、納得のいかない顔をしながら非難の声は止まった。
伏せたままの獪岳はただ体を震わせていた。
「獪岳、何故帰りが遅くなったのだ」
「そ、れは……」
獪岳は捨て子だ。物心ついた時から親はおらず、強いて言えば――悲鳴嶼行冥が親代わりだった。
この寺には獪岳を含めて九人の子供が身を寄せている。この寺に捨てられていたもの、麓の町で徘徊している時に誘われてやって来たものと様々な経歴があるが誰もが悲鳴嶼を慕っていた。
そっと、獪岳が懐から銭の入った巾着袋を取り出した。
最初入れた時は少なかった筈が、それはずっしりと膨らんでいた。
「悲鳴嶼さんを馬鹿にしてたヤツを賭博で負かしてたら時間が経っちまっただけだよ……」
「獪岳……」
「だってアイツら、アンタの事を『嘘つき』だって馬鹿にしやがった! アンタは嘘なんか吐いてねぇのに、そうやって笑ってる奴に何も言い返さないでよ。言われっぱなしで悔しくないのかよ! 俺はっ! 嫌だ! アンタが言われたまんまぺこぺこ頭下げてるのを見るのも、何も悪かねぇのに嘘つきだの何だの関係無いことまでアンタのせいにする奴等なんて死んじまえばいい!」
悲鳴嶼は目が見えない盲人だが、耳が良いのか誰がどの声で話しているのかの判別がついた。普通だったら人からズレた方を向いたりするが、そんなことが悲鳴嶼には無かった。
だから彼らは悲鳴嶼のことを『嘘つき』と決めつけ、事あるごとに難癖をつけてきたりもした。
それが獪額には悔しくてたまらなかった。だからその鼻をへし折って……ついでに小遣い稼ぎをして帰ろうとした。
言われた刻限よりも日が暮れてしまった矢先、鬼と遭遇して、――自分以外の命を売った。
「獪岳、こちらを向きなさい」
有無を言わせぬ声で渋々と上げ――、重たい拳が頭に落とされた。
ひょろりとしている筈なのに、まるで筋肉で鍛え上げられた剛腕で殴られたかの衝撃。
獪岳は目を白黒とさせた。
「まず最初に、人に『死んでしまえ』と言ってはいけない。自分が言われて嫌な事は言ってはいけない。それはやがて、自分自身に返ってくる」
「いづっ。……はい」
「次に、お前の年頃で賭博をするのはいけない。金銭感覚が育たず浪費し、何かあれば賭博場へ向かう癖がついてしまう。それから、賭博場が非合法な場所であれば憲兵の取締の対象にもなる」
「はい……」
「最後に」
ゴツン! ゴツン! 拳が二回落とされた。
一回目は意識を失いかけたが二回目に与えられた痛みで引き戻された。
「皆に言っていない言葉がある。酷いことや自分が悪いことをした時に言う言葉だ」
「……」
「凄い、これが本当の住職なんだね。俺の父親より真っ当なことを言っているよ」
「しっ、黙りなさい」
震えていた獪岳は悲鳴嶼を見上げ、それから黙って様子を見ていた子供たちへと体の向きを直した。
「ごめん、なさい。本当に、ごめ゛ん゛な゛ざい゛!!!」
人を見捨てて自分だけが生き残ろうとした事は謝罪したからといって許される訳でもない。それでも、言葉にして放つ事は必要だ。
良く言えたと獪岳の頭を撫でる悲鳴嶼の周りに子供たちが集まる。「許さんからな」「暫く便所掬いはお前担当な」と憎まれ口が飛ぶものの、雰囲気は先程より柔らかくなっていた。
と。
目の前で『階級が上の隊士を殴った』我妻善逸……、口にしたくはないが同じ師に学ぶ弟弟子がだんまりを決め込んでいる。
獪岳は漠然とその時の事を思い出していた。
殴られた隊士への謝罪回りでもコイツは黙りこくってこちらが肘鉄打ってようやく「スイマセンデシタ」と片言の謝罪を引き出せた。
「……つかテメェ、何で殴ったんだよ」
「……」
「黙ってんじゃねぇよ。兄弟子サマに挨拶回り付いて来させといてその態度はねぇよな? 後でシゴいてやるから覚悟しておけ」
「……」
いつもならば「イ・ヤ・で・すゥゥゥゥゥゥ!!! アンタの修行辛いんだよ人間がしていい修行じゃないんだよ分かる!? アンタ超人! 俺凡人なの! 俺は普通だから自分よりも二回りも大きい岩を背中で火を焚きながら
仕方ないので顔を見てやったらそっぽを向いていやがる。
ピキリと癪に障った獪岳は胸倉を掴んだ。
「あのなぁ黙ってねぇで喋ろや! オレはテメェみたいに何でも聞こえる耳なんて持ってねぇんだよ! 分かるか、タコ!」
「……あいつ等が悪いし」
「もっとハキハキ喋れや!」
「あ、アンタの悪口言ったヤツに何で謝らないといけないんだよ! あいつ等、すぐ死ぬだろって、柱になんかなれねーって!」
胸倉を激しく揺らしていた獪岳の動きが止まる。
――ぶすくれていた様子が似ていると思ったが、まさか黙る理由までとは。
目を丸くさせた獪岳の心の動きに気付いた善逸が思わず顔を見れば、そこには「ぷ」と失笑する兄弟子がいた。
ずっと険しい顔をしていた彼がまるで師の桑島と対した時みたく、自然な顔をしていた。何が起きたかは分からないが、善逸は笑った態度にムッと来た。
「笑ってんなよ馬鹿!」
「おい兄弟子に馬鹿とはなんだカス……。表出ろ、ジジイの家で謹慎詰め込み修行だオラァッ!」
「イーヤーァァァァァ!?!? なんで!? なんでそんな結論になったんですか! 頭のネジ足りてますブヘァ!!!」
一発叩けばまた更に泣き喚くタンポポ頭の弟弟子を引き摺って、獪岳はそわそわと帰りを待っているであろう桑島の元へと帰っていった。
見送った先から下弦の血が送られてきたのにも驚いたが、すぐに上弦の血が届いた事にも珠世は眩暈がした。
あまりにも早すぎる。とはいえ貴重な血が送られ続けてきたのでこちらも研究を続けていたが。
前略
先日、青い彼岸花を落とした矢先、不思議な屋敷の中へと落とされました。
その中では上弦の鬼たちが犇めいており対応に時間も掛かりました。中でも拳の鬼の気迫凄まじく、また同じ流派を修める方でもあったのは驚きでした。
その後、例の男……鬼舞辻無惨が現れまして、手前勝手ながら人間にして野に放しました。よくよく考えれば貴女様の仇であったことを失念しており、次見かける事があればその所在地をお送りいたします。
鬼の始祖を人間に出来たのならば薬として間違いは無いだろうと弟に投薬し、この度彼は人間へと戻りました。
突然の申し出にも関わらず弟を受け入れ、私に医学の知恵を授けてくださった珠世様、愈史郎様に紙面ではありますが礼を申し上げます。
こちらの用事が落ち着いた頃にまたお会いして、再度謝意を述べさせていただきたく存じます。
追伸
青い彼岸花が余りましたので『人間に戻る薬』や『人間と同じ食物や睡眠でエネルギーを摂取できるようになる薬』などを送ります。
何かの研究の手助けになれば幸いです。
草々
珠世は椅子から転げ落ちた。驚いた愈史郎が抱き起し、手紙を見て彼も絶句した。
――見送ってから実に一年程度の出来事である。
それからも度々吉子と珠世は手紙でのやり取りをしていた。
木こりの一家の元で世話になったり、意思の強い瞳をした夫人の病を治療したり、八丈島に巣食う女蛇鬼を討伐したり、臥せる一人息子の診察を行ったり。
珠世たちが授けた医学の知識を惜しみなく人に与え、彼女たちは鬼殺隊の様に鬼を狩って――或いは、人に戻しているらしい。
『人は苦しい時、それらが一片に霧散する方法が差し出されれば手に取るでしょう』
『人は間違えます。悔みます。ですが、それでもと鬼になったことを悔やみ、贖うことを望むのなら私はその切っ掛けを与えたい』
……人に戻ることを望む鬼はごく僅か。鬼としての全能感に身を任せる者が殆どだろう。
吉子が鬼舞辻無惨だけを人間に戻した為に全ての鬼がアレの呪いから外れたこともあり、鬼たちの暴走が起きている。
傍目から見れば酷く辻褄の合わない事をしている。
鬼を殺す。鬼を人に戻す。仇である鬼舞辻無惨を人間にした。
だが、彼女の中では必要な事だった。
何事も新薬を試すには治験が必要。そう彼女に教えたのは珠世だった。
鬼舞辻無惨が未だこの世にのさばっているのは、本当に忌々しくも許せないことだけど。
――少しでも彼女に医学を教えた者として、その本願を遂げたことだけは祝福しよう。
(お茶菓子でも用意してゆっくり話しましょう)
そう返事の手紙にしたためていく穏やかな珠世をそっと眺めながら、愈史郎は(今日も珠世様は美しい)と心の日記にメモをした。
はっ、はっ、と体中の力を使って、肺から空気を絞り出しながら女は赤子を抱えて走っていた。
出た時には降っていなかった雪が今ではぽつぽつと降り始めていた。その雪片の一つが肌に当たる度に体温が奪われていく。口から吐き出される白い息と、背後からの足音で恐怖が蘇る。
「うー、きゃっ、きゃぅ!」
――胸元で楽し気に手を動かす赤子がいなければ、彼女の足は止まっていた。
顔は酷く腫れさせながら、着物から覗いて見える素肌にも青痣紫痣と彩られて痛々しい姿を晒して雪山の中を走る。
彼女――嘴平琴葉は胸に赤ん坊を抱いて、雪山の中……極楽教の本拠地までの山道を碌な履物もせずに走っていた。
山へ入った時、雪に足をもつらせて脱げてしまってからは濡れた足袋のままに我武者羅に道を進んでいる。
何度も転びそうになるが、それでは赤ん坊の伊之助も無事では済まない。後ろからは夫と姑が追ってきている。
冷たい、足の感覚が薄れてきて、今朝新たに殴られた箇所もズキズキと痛む。
零れそうになる涙を振り払って彼女は必死に坂道を駆け上がっていた。
石畳の階段を滑らない様に登り詰めた先、――不思議な双子がいた。
とても対照的な色合いをした子だった。
男の子は白っぽい髪で目がキラキラと何色もの色が混ざっていた。
女の子は黒い髪で、目は透き取った色をしていた。
「私は貴方に言っていなかった事がある。貴方が『もう教祖なんてしたくないよう』と泣きついてきた時の事だ。私に対して『お前はいいよな。何も出来ない無能だから期待されないし愛玩動物みたいに接されて』と言った。あの時、私はとても怒ってました。その日以前から上から目線甚だしい言葉で話してくる度に頬を叩きたくなるのを抑えて話していたけれど、さっきその時の夢を見ていたからこの際ちゃんと言ってあげる。黙れ生まれてから一度も病をしたことがない健康児めが、貴方も一年間床に伏せる生活をする必要のある体にしてやろうか!という気持ちを堪えていました。ということで一発」
ゴッ!
「ふう気が済んだ。まるで今の空みたいに晴れ晴れしい気持ち」
「晴れてないし ゴッ! 雪降ってるし姉さんが二回もぶった……! 痛いよう、うう…………うわーん!」
(……姉弟喧嘩、なのかしら?)
ぽかんと琴葉はその様子を眺めていた。
「だって姉さんあの時なんにも出来なかったじゃん。可哀想だって思うのが間違いだったっていうの!? 俺間違ってないんじゃないの!」
「間違っている。お前は私の意思を無視して決めつけた。鬼だったら殺している」
「何か知らない間に姉さんが物騒になってるよぉ!」
ぐずぐずと泣いている弟に向けて、姉は打って変わって優しく語り掛けた。
「お互い、話せる口があるのに話して意思の疎通をしないのがおかしいでしょ。……昔は、喋るだけで咳き込んでしまった弱い私が悪かったけど、貴方が泣きついた時にはもうちゃんと喋れていた」
「……姉さんが口を効けなかったのも、仕方ないことでしょ」
「では両成敗ということでさておき、貴方はもしかして寺に来られた方でしょうか」
「さておきで置いとかないでよ……」
急に姉らしき方が琴葉の方を向いたので、彼女は動揺しながら「は、はい」と返した。
(そうだった、伊之助を連れて逃げていたんだ……!)
緩んでいた眦をキュッと鋭くさせた。
雪空の落とし込んだ目は彼女の怪我の様、抱える赤子を見てから背後に立つ廃墟を顎で示した。
「まずは貴方の治療を。廃れてはおりますが此方へ。子供も寒いでしょう。弟、火鉢の用意を」
「はーい……。あるか分からないけど探してくるよ」
「あ、ありがとう……」
この山で極楽教と呼ばれる宗教を開いていたのは知っていたが、ある日熊に襲われて壊滅したと村で噂になっていた。
目の前にある建物はその噂が出回るのもおかしくない。
ぎっしりと草があちこちの建物へと伸びて、緑色で覆われて、中へと入って見れば天井や床に血らしい黒い染みが広がっていた。
それでも琴葉は咄嗟に駆け込み寺としても人を受け入れている、という話を思い出してここへ逃げ込もうとしていた。……逃げる時には壊滅した噂を忘れていたのだ。
建物の有様を見てようやくその話を思い出して、何故だかここにいた双子に手当てを受ける事になった。
それとも琴葉が来たのは、彼女が認識していない直観力によるものだろうか。
比較的天井が崩れる程朽ちてはいない部屋へと案内され、傍に置かれた火鉢で炭に火を通し始めた。火加減を泣いていた弟に見るよう言い付けた後、姉の方は琴葉の診察を始めた。
「外傷が多い。口内に血の味などはありませんか。吐き気は」
「えっと、はい、多分。今はけほっ、こほっ……」
「こちら水です。ゆっくり飲んでください」
「やや子は俺が持とうか?」と弟が声を掛けたので、彼に伊之助を預けた琴葉は水筒の水をゆっくりと飲んだ。
火鉢にも熱が宿り始めじんわりと部屋が暖かくなってきた。
冷え切った体温が溶けていく中で包帯の巻かれた腕が見えた時、不意に彼女の腫れた目から涙が出てしまった。
久しぶりに誰かに優しくされた気がすると零して。
「ご、ごめんなさい。急に……」
「いいえ、此処は元々悩める方を受け入れていた場所ですから」
「あの、貴女たちは……」
「昔、ここで極楽教を運営していました“神”の姉です」
「“元教祖”兼“元神の子”が俺です」
「「二人合わせて仏塚姉弟」」
きらーんと決めポーズと共に発された台詞に琴葉は口を開けていたが、可愛らしさにくすくすと笑っていた。
「見つけたぞ琴葉! 逃げやがって、今日という今日は折檻してやる!」
「こ、こんな山奥に逃げたって、承知しないからね……」
意気揚々と入って来た口から成人した男が琴葉を見つけて躍り出て、その後からひぃひぃ言いながら五十は越えているだろう女が来た。
男の声に琴葉の体が固まる。ぎゅっと抱えようとして、その腕の中に赤子がいないと気付いて冷や汗が流れるもののその様子を見た弟が彼女へと返した。
目もまだ碌に開いていない赤子は母親の中でもぞりと寝返りを打っていた。きゅ、とその身体を包む様に琴葉は小さくなった。
琴葉の治療中にある程度のあらましを聞いていた吉子がそっと気配無く彼女の夫との間に立った。
視界に入ってようやく気付いた彼等は「あ」と声を漏らす。
「こ、れはこれは、極楽教の幼な神ではありませんか。ご無事でいらしたとは露にも思わず」
「ええ。命辛々逃げ延びて、ようやく一息付けたので郷里へと戻ったのです。
「ええほんと、無事で何よりです……が、その背後の女だけは返してもらわねばなりません。そいつは不出来な嫁でして、あろうことか、夫である私に噛みついて家を逃げ出したのです」
「はぁはぁ……ふう。そうです、ウチの息子を何度も悲しませて。躾を何度しても同じ事を繰り返し、間違え、手のかかる子でして」
吉子が極楽教を掌握した際、――元々この辺り一帯が山深い地域かつ、付近には東京へと繋がる“裏街道”にも近い。その為、周辺の村との友好と連携を固めた。
裏街道を渡ろうとした遭難者の受け入れ、各村で起こっている困りごとの相談、連絡役など。主に村を跨ぐ必要のある用事を率先して極楽教信者たちが引き受けていたのである。\ンマッスルゥ!/
無論、山道の整備も同時に行い、村人だけでなく信州から裏街道を渡ってやって来る商人、旅の者たちの危険を減らしてもいた。
その甲斐あって周辺の村では極楽教の名を知らぬ村人もおらず、その生き神とされる少女の容貌を知る者も多い。
「極楽教は逃げてきた者を受け入れます。これも何かの縁でしょう、勝手ながら貴方方の仲介人として話を取り持たせていただきましょう」
「そのように時間を掛ける事もございません! その女をこちらに渡せばすぐ済みます」
ぱちん。炭が爆ぜる音が響く。
琴葉は震えたまま赤ん坊を抱えて縮こまり、その隣で弟は背を
駆け込み寺としての需要もあった極楽教ではそう珍しくもない出来事だ。逃げた嫁と夫らの間を取り持つことは。
そして説得の甲斐虚しく引き摺られていく嫁の姿も。
「では、足元をご覧なさい」
そう言われて彼等は自分たちの足元を見た。そこには黒い染みのある床板があるだけだ。
「ここを何処と心得ておりますか」
自分の時は見送るしか無かった問題を姉がどう解決するのか、弟はこっそりと見た覚えがある。
「ああこれは怖い」と感じた。
彼女は信者との対談や人と話す際、決して瞳を逸らさない。瞬きもしない。
相手の眼差し、その奥に隠された心まで暴こうとする視線に耐えられるのは一握りだ。
「此処は極楽教。幕府からも公的土地として所持しているのは私であり、貴方方は私の許可あって立ち入りを許されている」
この場において私に意見できるのは
良く言って“凄み”、悪く言って“威圧”。
直接的に言葉にしない威圧感。――それこそが姉が神足り得た一因である。
結果から言えば、琴葉は離婚することになった。
相手方は嫁が逃げ出したという事で役場には届けを出し、彼女が抱く子供は不倫が原因で生まれた
「あまり有利に進められませんでした。貴方とその子供の名誉も貶めることになってしまい、申し訳ありません」
「そ、その、ありがとう。えっとね、ありがとう……。でもどうして? ここまでしてくれるの?」
「貴方は此処を訪ねてきた。重ねて言いますが、此処は極楽教。迷える人を助ける為の場所です」
実態は碌でも無い父親が落ち着く為に作られた場所だが。
弟は口を噤んで涙ぐむ琴葉を慰める姉を見守った。
「役場で思い出したけれど、弟……名前はどうするの」
「え? 名前?」
「そう言えば父から『実は弟の戸籍出して無いんだよね』と言われたのを思い出して……。教祖を辞めた時に名乗っていた気がするけど不思議ね、思い出せない」
「えぇ……。うん、でもなんか俺も名乗ってた気がするよ。ど……? どわ……、
「まぁ。いくら愚昧な弟といえどそんな可哀想な名前だと余計世間様に笑われてしまうわ。“とうま”にしましょう」
「それ一文字変えただけだよね! 別にいいけど!」
さらりと言われた言葉はスルーして弟の名前があっさりと決まった。あまりにも軽く決まるので「それでいいのかしら……」と琴葉が零した。
「……ありがとうございます。お姉さん、とうまくん。これからは一人でも、頑張って伊之助を育ててみせるわ」
「え、ウチで世話になるんじゃないの?」
とうまの言葉に「え」と返され、固まる二人へ向けて姉が告げる。
「離婚調停したから放り投げる、というのは信条ではありません。琴葉さんが良ければ私達と来ませんか。何にも無い場所ですが……人二人面倒を見る財と甲斐性はあります」
腫れが引いてきた彼女の顔が、再びくしゃりと歪む。
ほろほろと落ちる雫を赤子の柔い頬が「あーうー」と受け止めていた。
――こうして極楽教は新しく始動した。
この話を聞きつけた――当時寺院にいなかった者、周辺の村に住んでいた極楽教の生き残りたちが「“
相変わらず教義は『限界まで鍛えろ』なので異様なマッスル男・女たちの掛け声満ちるマッシブな寺院が復活した。
時折仏塚姉弟、琴葉とその子伊之助が各地方へ生薬探しの旅に出ており、最近は吉原遊郭の最下級の切見世にて死にかけていた兄妹が入って大変賑やかな薬師の一団となった。
「お兄ちゃぁぁぁん! 吉子がぶったの! つまみ食いしようとしただけなのに!」
「一日下痢と嘔吐で苛まれても良いのならあげましょう」
「梅……、素直に謝っとけぇぇ。それから
「さっき姉さんから蛇の蒲焼を貰ったばかりなのに元気だねぇ……」
「伊之助もたくさん食べてたわねー」
「
「キィィィイ! ホンット、顔は綺麗なのにムカつく餓鬼ね! このこの!」
道を歩けば誰もが振り向く美貌をした少女の梅が、琴葉に似てこれまた美しい顔を持って生まれた少年伊之助を追いかけ始めた。
強面な梅の兄、牛太郎が呆れながらも梅に危害が加えられないか見守り、この集団で一番年上の琴葉は傍らで朗らかに笑う。
年を重ねてかなりの背を持つ
弟と対照的に背が伸びずに一番低い背の少女の吉子が騒がしさに額を抑えた。
遊郭で拾った兄妹を交えての珍道中から幾年――。
夏の夜に行われる祭りに行きたいと梅が言い、宿に残ろうとした吉子に「吉子も来てよなんで来ないのよ馬鹿ァ!」と騒がれたので全員が祭りという場に出ては楽しんでいた。
ただ俺はする事があるから、牛太郎に梅と琴葉たちの面倒を頼み込んで姉と二人、人込みから離れた場所へ来ていた。
雑木林が茂る中でようやく、姉が息を吐いた音が聞こえた。
「ここならどう? 少しは気分良くなるでしょ」
「お前に慮られるとは……。明日嵐でも来るのかしら」
「あーそういうこと言っちゃうんだ。ならこうだ」
最近遠慮も無くなってきて『お前』なんて呼ぶようになった姉だが、変わったことはそれだけではない。
彼女はふとした瞬間に眩暈を起こし、鬼を狩る際の動きにも精彩を欠く一瞬が見えていた。それは本当に……誰もが見逃す刹那の事だが、この俺には見えていた。その度に何でもない風に装うのも見てきた。
今回の祭りだって本調子ではないから一人部屋に籠って落ち着かせようとしていたのだ。
「昔さー、約束してたよね。姉さんの体が丈夫になったら山を下りようって」
「覚えがないわ」
「……忘れちゃった?」
「過去は過去。私と弟の間にした約束はない」
俺が教祖になった後、姉さんの体は徐々に丈夫になっていった。それまで少し歩くだけで倒れるし、床に座り込んでて酷く辛そうだった。
丈夫になったのは喜ばしかったのに。いやはや、恥ずかしい事に俺は姉さんに当たってしまった。
過去に戻れるならこの鉄扇で俺自身を殴り殺す所なのだが、教祖ではない自由な立場にいる姉を羨んだのも事実。
あの時の俺は感情のままに酷い言葉を放った。姉の尊厳を存分に傷付け、俺が神へと仕立て上げてしまったようなもの。
嫁入りか何かで極楽教を離れられる道もあっただろうが……、俺が縛り付けて神にしてしまった。
俺は姉さんの心を深く傷付けたままだ。
琴葉に出会う前に殴られた時からどうしようかと悩み続けて――何年も経ってしまった。
「じゃ、今しよう。姉さんが鬼になった俺を護り助けてくれたように、今度は俺が姉さんを護る」
「組み手で勝ったことも無いのによく言える」
「この前一回取れたし?」
「手加減という言葉をご存知?」
……昔より成長した俺でも、姉さんとの実力には差がある。本気で向かって来られたらまず間違いなく負ける。俺を背負っていた時から技も冴えてまぁ大変で。
すっかり親子かというぐらい背も離れてしまったが、大事な姉だ。
俺の姉でいてくれた人だ。
「位置変えていい?」
何も言わずに姉は背から俺の肩へと移動する。
小さく感じるようになった指が俺の頸や肩に沿う。あの時から少しばかり成長した背と伸ばすようになってくれた髪。……それ以外は何も変わらない。
伏せられつつも目は俺を見ていた。戸惑うように震え、それでも逸らさないようにしてくれていた。
「ほら指切りげんまん」
抱える腕とは逆の手を向ければ、姉さんは大きく瞳を揺らした。
「遅くなっちゃったけど。俺は神様じゃない姉さんともう一回指切りしたいよ」
「………………もう、いい? 怒らない?」
「怒らないし、当たらない」
「貴方はもう大丈夫? 辛くはない?」
「辛くないし、むしろ今はとっても楽しいよ」
それからそろりと、静かに目が合ってゆっくりと指が絡む。
「指切りげんまん、約束しましょう。……俺たち、もう何だって出来るんだから」
幼い頃とはもう違う。姉は強くなり、俺も視野が広がった。
俺たちはもうあの小さな世界だけで生きる人間じゃない。
海の如く際限なく広がる世界を自由に歩き回れる足を持ち、心にはもう
「指切りげんまん、ねぇ。……琴葉殿みたいね、たぬきの歌でも歌おうかしら」
「俺が歌おうか? 最近俺も琴葉から免許皆伝したからね……。子守歌の」
「子守歌って免許必要……? ふふふ、楽しそうならいいわ」
遠くで花火が爆ぜる。豊かな色合いの残光を輝かせて消えていく。
身体の芯まで轟く音の中、鮮やかな色の
小暗くじっとりとした暑さの残る夜、酷く冷ややかな指を強く、外れない様に。
「……あなたはまた、私の弟に、生まれてくれる?」
「もっちろん! 姉さんこそ俺以外の弟なんて持っちゃ駄目だぜ。呪い殺す気しかしないからね!」
「そこは笑顔で見守って欲しいところだけど……」
残念だけど俺にそういうサービス精神は無いんだよね。うーん本当に残念だなぁ!
姉さんが、兄さんになろうとまた俺の隣にいてくれるなら、それがいいんだ。
「指切りげんまん、約束しましょう。来世も一緒に生まれましょう」
「約束だ。同じ蓮の上にて生まれようじゃないか!」
ほろほろと静かに泣く姉さんを抱えて歩く。
深く深く息を吐いて、俺に体を凭れて。
「…………もう。いいのね」
姉さんは瞼を閉じた。とても穏やかな顔で魘されずにゆっくりと、眠りについた。
小さく感じる体を背負い直して、やたら騒がしくしている所へと戻る。
「いた! 見つけた桃摩ぁ! ねー吉子は、吉子はどこよー! 見てないなんてもったいないわよ!」
「あら、どうやら寝ているみたいですね。珍しいですね~」
「……。あー、こっちは特に問題無かった、です」
「
人に囲まれながら見上げる。警鐘の後に、一際大きな花が夜空に咲く。
「ああ、確かに綺麗だったなぁ。……本当にきれいだった」
井戸の蛙はそれまで外を知らずに生きてきた。井戸の中にいればいつでも水があって、狭いけれど住みやすい場所だった。
ある日、桶の中に入った蛙は引き揚げられて井戸の外を初めて見た。見知らぬ景色と寒さの中で、堪らず雪の中へ飛び出していった。
そんな蛙の話をしてくれた人がいた。
うちにはいつも正月に来てくれる薬師の人がいた。
話を聞いた当時の俺より少し背が高いくらいだけど、その実、年は二十を超えているという。
雪というものを人にしたらこんな人になる気がする。
音や匂い、そういったものが希薄な人だった。
「その蛙は幸せだったのかなぁ」
「どうして?」
「汲んだ時に井戸へ戻せばまだ蛙は生きられたかもしれない。死んじゃうのは可哀想だよ」
焼けた餠をむっしゃむっしゃと食べながら俺が言うと、その人はくすりと笑って俺の頭を撫でた。
「君はやさしい子だね。私が見掛けた時そうは思えなかった」
「そうなんですか?」
「うん……。けど、今は幸せだったと言えるよ」
俺が「どうして」と言わずとも、その人は話してくれた。
「井戸にいては気付けない事も、外を出れば分かる。雪の白さも冷たさも。知る度に運命を切り開く為の手段が増えていく。……だから、幸せなことよ」
難しい話で当時の俺はあんまり理解出来なかったけど、その人はとても凪いだ顔をして微笑んでいた。
……最近、来ていないのが気掛かりだけど、父さんは「来たくなったら来るさ」と言っていた。竹雄が生まれて以来だから、六太はあの人のことを知らないだろう。
いつか来たらまた旅の話をしてもらおう。ムン、と炭治郎が気合いを入れて竈門の中へと木を入れていると――彼の鼻が人の気配を感じ取った。
(すごい、なんかこう、滅茶苦茶ぐちゃぐちゃした感じの匂いの人だな……)
憎悪、憤怒、悲哀に……一点混じる、正の感情らしきモノ。炭治郎の目は竈門の火加減から人の気配がする方へと向いた。
そこには、白い雪の中で目立つ黒いもっさりとした物体……ではなく人間が倒れていた。すごくうねる髪は茫々に伸びており、着ている服は襤褸切れで防寒具の一つも付けていない。
雪も深く積もるこの山でその姿。自殺でもしているようなものだ。
それでも手が、その指先が、死んでたまるかと。
赤く染まりながらも積もる雪へと突き立てているのが見えた。
――不意に、薬師の女の人が話した蛙の話が思い浮かんだ。
井戸の底にいた蛙が外へと出て死んでしまうお話。
再び彼女に出会えたのなら炭治郎はこう答えるだろう。
「なら、俺は蛙が死なないように助けるよ」と。
蛙と自分とでたくさんのことを知っていけば幸せも二重になって、とっても幸せだと思うから。
――――遥か昔から幾度も避け、舌打ちをしてきた、あの忌々しい光。
世には朝と夜が必ず繰り返されるものだとこの男は知っていた。朝だけの世が無いのと同じく、夜だけが続く世もまた無い。
鬼舞辻無惨は、かつて自らが乗り込んで滅ぼした新興宗教の“神”と名乗る女との会話を、漠然と思い出していた。
あれは雲も厚く、ある程度耐性を持つ無惨ならば平気で出歩ける天候の日だった。
とある山の奥に“神”のいる寺院がある。
遊郭や商人からの世間話でよく耳にした噂話の真偽を確かめてみようと彼は行動を起こした。何か稀有な才能があれば鬼にして、日光に完全な耐性を持つ血鬼術を使う鬼の芽吹きを待つ。全ては己の欲望のままの行動だ。
そうして――本当に山の奥にある寺院に来てみれば、「神の子はいなくなった」と宣う童女がいた。
寸法の合わない帽子と上衣を着ていた。同じ年頃の童女と比べれば非常に落ち着いており、何より気に入っていたのは何も映さぬ超然とした空の瞳だ。
その齢にしては
「貴女の年頃で宗教の祖たるのはさぞ大変でしょう」
「ええ、人を取り纏めるのは至極難儀な事です。それでも、床に伏せていた身から此処まで登り詰められたのです。如何なる苦難が訪れようと乗り越えてみせましょう」
「床に、ですか。体が丈夫では無かったと? いや、失礼。女性に聞く話でもありませんでしたか」
「構いません。教義にも関わるので公言しております。――昔は病で伏せてばかりの身であったと」
何事も為せば成る。その言葉には実感と、僅かな共感を呼び起こした。
「世に変わらぬものなどありません」
「それには“否”と言いたい所ですね。不変はある」
「成程。その心は」
「私こそが変わらず在るからだ。不変を体現したままの生を受けている。貴様らの様な卑俗極まりない生物とは違って、何百年とだ」
だからすぐには殺さずにいてやった。珍しい毛色の弟の前に食料として置いてやったのだ。
(私がしたことはたったそれだけだというのに)
無惨にとって天災に等しき己に抗うのは異常である。嵐の前で「止めてみせる」と仁王立ちしているようなものだ。
滑稽にして醜悪、知性を置いてきた家畜以下とさえ思っていた。
――その
奴から感じた気配は“日光”そのもの。当たれば死ぬと直感した、あの――光。
「治して、あげましょう。鬼という、不変を強いる病を」
止めろ。『不変』こそが最も美しいものなのだ。
『不変』こそ己、己こそが――この世で最も尊き生き物なのだ。
「私には。生きる為に、足掻くその姿も……、貴方の言う、低俗染みた、ものを、感じるけど」
触れるな、この私に……。
「成程。死にたくはないわね……。あの淵にいるのは、嫌ね……」
その陽光の力を近付けるな。死にたくない。死にたくない……!
「でも貴方、私より遥かに、生きていて――――世の中に変わらぬものなど無い事を、理解出来なかったのね」
止めろ、止めろ止めろ止めろ! その薬を私に飲ませるな!
「一つだけ、礼を。弟を、殺さずにいてくれた、事だけは」
無惨の血を受けて無傷ではない筈だった。だがすぐに薬を入れると無惨の血によって苦しんでいた彼女はけろりと立ち上がった。
己か相手の返り血を顔に残す童女は背負い箱を負って、鬼舞辻無惨へと残した。
「
この日、鬼舞辻無惨は人間となった。
『不変』から最も遠き家畜以下の存在へと成り下がった。
朝日。永らく苛んでいた恐怖の源がこの身に降り注ごうと無惨は死ななかった。地平線から朝日が昇ろうとその体は崩れず、その目は光を受けて眩しさに目を細めた。
しかし、今まで己の身を包んでいた万能感は雲散霧消し、いつになく重い肉体と、これからの事を考え――無惨は発狂した。
鬼の身では切り傷などすぐに治る。癇癪で壁を殴ろうが拳にはかすり傷一つ付かず、壁は尋常ならざる力によって崩れ落ちる。
だが今はどうだ。無惨が狂って地を叩こうがその拳に砂が、土が、小石が沈み込み彼の拳を傷付ける。
声を張り上げていた喉は掠れ、数百年ぶりに体中から酸素という酸素が吐き出され、彼の体は空気を求めて大きく息を吸い始めた。
眩しい。――この光が憎い。鬼のまま、日光が浴びても滅びない肉体こそが欲しかった。
薄らと赤みがかった黒い目には涙が滂沱と流れ、顔を伝い落ちていく。
鬼舞辻無惨は生きていた。
喉は乾き、体が飢えを訴え、――それらの体の機能にぎしりと無惨が苛立ちから歯を食いしばる。
鬼舞辻無惨は生きていた。かつての心根のままでいた彼は暫し堪忍をしながら働いていたが、限度を越えれば生来の傲慢さによって様々な場所から叩き出された。
やがて彼は社交の場からかけ離れた浮浪者へと身を落とした。
貿易会社の取締役、芸妓の花形女芸者、製薬会社の一人息子……。人間社会に溶け込んだとて好んで上流階級の暮らしに甘んじてきた彼は、自身が一等蔑んでいた下層階級の人間へとなった。
それでも鬼舞辻無惨は生きていた。泥水を啜り、酔っ払いに蹴られ殴り返す余裕も無くなろうと、自ら死を選ぶ事だけはなかった。
(……此処で、終わりか)
隠れ潜んでいた山に冬が来た。野生の獣と同じく、地に転がる木の実を食らい、魚を取り、時には鹿や蛇に突かれながら日を過ごしていた彼にもとうとう限界が訪れる。
(あの餓鬼を、慈悲など掛けず出会った当初から殺していれば)
ぱたりと自然に倒れた体は無惨の頭が幾ら「立て」と言おうが、腕に力が入らない。直感的に己の終わりを感じた彼の脳裏に走馬灯が過ぎていく。
そこでやはり思うのはこうなった
(…………そうか。これが、天罰というものなのか?)
空腹と寒さによって疲弊しきった頭は何時もであれば切り捨てる筈の――、天罰ではないかという思考に至る。
荼毘に付されそうだった直前で産声を上げて葬儀を免れた。医者の男の薬によって鬼になってからも幾つかはあった死の手を逃げ延びた。
あの耳飾りの剣士でさえ殺し切れなかった命が此処で終わろうとしていた。
(許せん。このまま、死にたくない。生きていたい、私はまだ死にたくない……!)
目は最早何も映していなかった。身体の感覚はとうに消えており、この覚束ない思考だけが未だ無惨が生きていると思える唯一の動作。
(死にたくない、死にたくない。あの女を殺してやるまでは死にたくない。嫌だ、やめろ、やめろやめろ。まだ私は生きられる。死なない、私は、死にたく――)
「あの、大丈夫ですか」
――――何者かの声が、彼の耳へと届いた。
俺の世界は真っ暗になった。全てが暗闇の、――先さえ見えない世界の縁にいた。
「……食べたね」
「んー? 何を?」
無言で開けられたビニールの包装紙を突き付けた。
ちゃんと名前をマジックペンで書いてあったというのに!
この片割れは! 楽しみにしていたシュークリームを食った!
「千回頭をバットで叩き潰してから殺す」
「それもう死んでるじゃん! というかお前が先にやったんだからね。昨日俺のチーズケーキ食べた癖に! 何も言わずにそっとしておいたのに!」
「あれはチーズケーキが『食べて』って言ってるから食べたんだよ」
「情状酌量の余地無し。スマブ〇で方を付けよう。久しぶりにお前のその腐った頭に処方箋を出してあげる」
「おやおや、消火栓で吹っ飛ばされたことを忘れてるなんてとんだ単細胞だよね。俺と遺伝子が同じとは思えない低能ぶりに涙が止まらないぜ」
お互いに血管を浮き上がらせながら画面の前での勝負に熱中し、結局無断で食べたスイーツを買い直すことで決着が着いた。
「ありがとうございましたー」とコンビニ店員の眠たげな声を背に、何も言わずとも手に持っているビニール袋を交換した。
――両親が二人で旅行に行っている間での諍いだったが、何がどうしてか夜中だというのに海に来てしまった。
コンビニから続く街灯のある道を買った菓子を取り出して食べ歩く二人の間に潮風が吹く。
小高く作られた堤防の上に座り、漁火も見えない暗夜の下の海を眺めた。
そこは、僅かに波を可視できるだけで闇の縁と言われても遜色無い夜景が広がっていた。吸い込まれる程に暗く、闇に溶け込んでいる海。
最初に口にしたのは兄からだった。
「食べちゃってごめん」
「俺も言い過ぎたし……、ごめんね」
買った菓子の他にもスナックや違う種類のスイーツも混ざっている。隣で「あ!」と声を上がるのを見てにやにやと振り返る。
「なんでピクルス味の煎餅なんて入れたの! 好きじゃないって前言ったじゃん!」
「驚く顔が見たくって」
「最悪だよ! お前に食べてもらうからね」
「ちっ……」
仕込んだ菓子は自分の袋の中へと戻されてしまった。が、ちゃっかり俺の方にも普段食べないつまみ菓子が入っている。
これでいいかとブラックペッパーの効いたカルパスを開けて口に放る。うん、微妙。
海が見たいと言い出したのは勢至郎だ。
なのに何か喋るでもなく海の方を見て機嫌を良さそうにしている。いや、チーズケーキを食べられたから満足なんだろう。
俺は最近見た夢が気掛かりで夜しか眠れないというのに。この片割れはとても能天気だ。
というかちゃっかり肉まんを自分だけ買っている。ムカついたので押収することにした。予想外だったのか、その手元から奪うのは簡単だった。
「あぁっと行儀悪すぎ!? ちょっと吐き出しなよ俺の肉まん」
「ぇー……。もう食べちゃった!」
「馬鹿」
書類上、『兄』となるのは勢至郎だが兄らしい仕草というものはあまり見当たらない。
継国双子みたいにぽやーっとした方の弟を引っ張ってくれる訳でもない。むしろ俺が兄の面倒を見ている時の方が多い。
だというのに、目を離すとすぐどこかへ行ってしまう。
小さい頃公園を歩いているだけでいなくなって、家族全員で探し回ったのが昨日の事のように思い出せる。何か事件に巻き込まれでもしたのかと心配でしょうがなかった。
後からひょっこり出てきた兄を発見して警察沙汰になる前に騒動は終わった。両親にあれだけ怒られといてへらへら笑ってる方が信じられないよ……。
「ねぇ弟も心配したの? したの? ねぇねぇ」って体をずんのこしてくるから本当に信じられない。良識というものを何処かに置いてきたに違いない。
……でも俺は知っている。この人は血を分けた片割れたるこの俺だろうと簡単に切り捨てられる思考の持ち主だ。
普通、辛いとか痛いのは嫌だからと棘など無い平たい道を選ぶだろう?
でもこの人はその道が最短だと知るや否や迷いなく突き進んでいく猪なんだよ……。
この前も「自転車より俺が全速力で十分走る方が早く着く」とか「見てこれ。通常十時間掛かる登山を五時間に短縮できた」とか言ってきた。
何? スピード狂? とか思うぐらい、この人は時間短縮に目が無い。
――だから、家族や俺という存在が、兄さんの目標に対する障壁となれば迷いなく捨てる。捨てられてしまう。
それを思うといつも胸が裂けそうになる。捨てないで欲しいと思う。
「なんで俺の肉まん食べておいて不満そうな顔してるの? キレていい?」
「不満なんて無いよ。ちょっと高い方の肉まんありがとう、美味しかったよ兄さん!」
「表出ろ。…………出てるね!」
兄さんは夜明けの時間帯が好きだ。態々早起きして、ひこめと共に散歩しながら眺めるぐらいには好きな時間らしい。
確かにね、太陽が昇る瞬間の朝は綺麗だろう。暗い時間に一筋日が差して、増々と空の色が明るくなって一日が始まる。
俺も一般的な感想として綺麗だって思うさ。だが嗜好は別だ。
俺は夜の方が好き。こうして兄さんが突っ走らないようにしてくれる暗がりの道の方が好きだ。
月の光が静々と照らす夜の中で、誰にも意識を向けず、俺を見てくれている時間の方が……。
「どうしたどうした。黙りこくって。本当に体調は大丈夫?」
「別に? 何もないし。俺を思うなら手を繋ぐくらいしてくれないとさぁ……」
「はいはい。寂しくなったんだね」
「ほら」と手を向けてくれる。俺は何時までこの兄という人の傍にいられるのかが分からなくて、……やはり未来でも同じことで懊悩するだろう。
その度に「馬鹿だなー」と言わんばかりに。……ねぇ今言った? 言ったよね?
「馬鹿じゃないし! 俺のセンチメンタルな気分を返して!」
「キリンも
――ホントヤダこの人。……まったく俺じゃないとこの人の弟とか出来ないからね。仕方ないな……。
だから決めている。繋がれた手は絶対離さないって。あの人が見えなくならない様に俺がその手綱を握っていようって。
約束も、絶対絶対この人が忘れてたら叩いてまで思い出させてやる。……あれ約束って何かしたっけ。
兎にも角にも、俺たちの小さな兄弟喧嘩はこうして終わりを迎えたのだった。
また数日後に同じ事したけど。
>> 完 結 <<
よ・う・や・く『幾星霜を…』で散りばめた話を回収できて感無量侍でごわす。
実は本編 → 番外編 → 臨界編と流れは続いてイタノデス。
番外編もちゃっかり本流に入っていますが、もし気にしていただいたら読むぐらいの認識で大丈夫です。本編→臨界編で読んでも安心。逆は難しいッスネ。
全話読んでくれた方……?
LOVE……♡ ジュテームジュテーム極まりないです。付き合ってくれてありがとう!
あとね、死んでる癖に生き返って殺しに来る奴が感情ない訳ないやん!という話でもありました。ヤツは嘘を吐いてた……!(ペロリ)この感情が無いという定義も難しいんですがァ……。
本編での最終話『幾星霜の……』での勢至郎視点では「未来どうなるか分からんけど大丈夫やろ」という謎に明るく前向きな空気でしたが、童磨こと冬摩は「捨てないでね」と自分の悩みをメインにしてます。あと時間帯が夜なのも元鬼さんチームを意識してます。
弟くんはさぁ……、効率厨がわざわざ弟と歩行スピードを合わせて一緒に歩いていることには気付けない模様。
臨界編を書いた理由として。
童磨に感情が芽生えて育つ過程を書いておきたかったのと、二人が兄弟になるには絶対必要な事を書かないと気が済まなかった。
普通殺してはい兄弟でーすにならんのは当然んじゃろ……!(苦い顔)
ずっと供養していない水子とかアカンとですよもう。ちゃんと向き合ってくだせぇ。
この話を書く為に番外編をねっちり書き、ねっちり臨界編も書き……死ぬ、(俺が)死んでしまうぞ杏寿郎!!!
もし記憶があって供養したのならば童磨にも違う未来があったかもしれないが、そもそもそれぐらい出来る人間性が育つ環境じゃない……。
何なの、極楽教の環境……。人間性の芽が消えていく……。
あとですね。
実は吉子の方にも文寿郎がおってじゃな……みたいな展開でしたが、キチ子、番外編での文子やキメ学・欠損文寿郎たち全員の道筋が本編軸文寿郎の体験話でもありません。
ちゃんと彼等は
体験として知識としてもあるけれど、決して空想だけの人物でもない。
これだけはハッキリ言っておきたかった(ややこしい)。
そして予告します。
まーた余白編とか新スィー番外編の枠作ってちょくちょく更新したりします。
本編軸での話数制限で弾いた話とか、他に書きたい話あってぇ……。
どうせ鬼滅映画第二章が出てきたら感極まって書くんだから……ネ!(予防線)
またその時は温かい目で見守ってやってください。
そして、活動報告の方にて諸々の小ネタを呟くので良かったら見てください。
出来るだけ読み返してあまり齟齬が無いようにはしましたが、それでも気になる所などがありましたら是非コメントやメッセージなど送ってください。返信いたします!
そして全話に渡っての感想となりますが。
誤字報告ありがとうございましたァ!!!!
頼むから消えてくれ。お前がいると話の空気が狂うのだ(誤字)
これにて文寿郎→勢至郎へと至る本編完・全・完・結となります!
ほんっとうに応援していただいたり、コメントを残してくださったり、なんと三次創作までしていただいたりと、多くの方に読んでいただけました。このお話はこれ以上ないくらい幸せな作品です。
数多くある鬼滅二次の中で本作を読んでいただけたのは望外の喜びであり、自分としても一つの作品を完結させられて幸せでありました。
皆々様、ご精読ありがとうございました! 良き日々を!