テクノロジーがすぎょいのぉ……。
熱。それは刀にとって忌避すべき要素。
刀というのは製法が特殊であろうとその成分は鉄。猩々緋鉄鉱石という特殊な素材を使おうが、他の刀と同じく熱には気を付けなければならない。
(動きは単調になったけど……。早いし、熱いし、いるだけでこっちの体力が削られる)
その燃え上がる肉体に一薙ぎしようものなら刀は溶けてただの鉄屑となるだろう。
攻撃を封じ、熱でこちらの体力を奪う。そして、獣の血は体に付けば人を簡単に燃やすのは見ていて分かる。
(変化するタイプの血鬼術か……。いや、それにしても……)
獣のひと噛みを避けながら肩の脱臼を直し、凍摩は横目でカナヲたちを見、手を動かした。
伊之助はカナヲを庇い、壁に打ち付けられて気絶。彼女の刀は離れた所にあるが本人の傷も決して軽傷ではない。
事態は悪化するばかりだった。仕える手札が無いに等しい。
近付こうがその見えている頸椎を斬るのが難しい。太さは呼吸術で強化された筋力で断ち切れる、しかし
「 ひゅぅ… ひふぅ…… ごほ、 ころさ なければ…… 」
「もう叫ばないでくれるかな! 君が鳴くと燃えるんだからさっ!」
咆哮による風圧でじくじくと体の表を流れる血が吹き飛び、部屋のあちこちに飛び火する。
――撤退。その二文字が頭を過ぎる。
(だが逃げてどうする? この獣の相手は俺ぐらいの柱が何人いようが難しいぜ。並の隊士ならただ食われるだけだ)
逃げようがこの獣は部屋を出て人間を襲うだろう。
無限城という木造の部屋で出来た空間に延々と燃える火種を投下すれば、――鬼はともかく、人間は全滅。
柱の援軍は……出来る限り求めたくはない。自らの手で斬り落としたい私情もあるが、他の上弦へと戦力は回したい。恐らくこの獣はこれが最後の形態だ。
(此処で対処する他無い。俺とて殺したい。しかし、手が無いなぁ……)
燃え上がる室内にいれば部屋の酸素は無くなり、やがて呼吸するだけで死に至らしめる空気へと変貌させる。
時間も着々とその背後に迫っている。前
(しのぶちゃんが託してくれた薬……)
最期に言葉を交わしてくれた時に渡された藤色の薬液。彼女はその効能を言わなかったが、これが必要になると見越していたのだろうか。
獣となった鬼はまだ凍摩へと注意を持っているらしく、カナヲらが伊之助を連れて部屋を出ていく――撤退したのが見えた。
(これで被害は最小限に収められるかな)
赤々と輝く火の部屋の中で一つ、硬質なものが見える。砕かれた数珠の傍にあったのは……。
(は? 南部式大型自動拳銃? まさか鬼が持っていたのか?)
陸軍の中でしか流通していない筈の自動拳銃。否、出所などはいい。状況を打破する事だけに頭を使う。
(これと、薬……)
――何が起きるかは分からないが、それでも。今こそ、やらなければならない事は理解できる。
凍摩は拳銃を取りに、燃え上がる高舞台へと体を向けた。
カナヲは汗に血を混ぜながら伊之助を背負ってこの部屋の入口へと移動していた。凍摩が彼女に見せたハンドサインは『撤退』。
――事態は取り返しのつかない所にまで来たということ。少なからず、自分はあの鬼を侮っていた。いつまでも血鬼術を見せないから、そちらの方を度外視してしまっていた。
自らの行動と起きた結果。その全てが悔しくて仕方がない。
出入口にはまだ火の手が届いていない。伊之助を壁に寄り掛からせてから、カナヲは冷たくなった師範の体を背負った。
「師範……」
首を一突きされた遺体の手を思わず握る。手に伝わるのは先程までいた部屋とはまったく違う、死人の冷たさだった。
(どうして、師範がカナエさんの真似を始めた時に何も出来なかったんだろう……。わたし、
カナエもしのぶも大切だったのに。しのぶに消えてなど欲しくなかったのに。
意思を伝えることも出来たというのに何も口に出来なかった。カナエの真似をしていく
「あらあら、カナヲったら。しのぶじゃなくてカナエよ、カナエ」
その度に、心臓がきゅうとなって痛かったの。そして師範が亡くなった今になって、したかったことがふつふつと胸の内に湧いてくるの。
――もっといっぱい話したかった。
――上弦の弐を倒したのなら、きっと師範が戻ってくると思っていた。
だが、己らが討ち取るよりも先に師範が仇と出会ってその命を散らした。
「好きな人、出来たって……。言いたかったのに」
――いつか好きな男の子でもできたらカナヲだって変わるわよ。
朗らかに笑うカナエとそれにむすっとした顔をしながら唸るしのぶ。時折やってくる
そんな日常はもう帰ってこない。……けれど、為すべきことは残っている。
「…………師範、刀をお借りします」
しのぶが腰に装備していた白い鞘を抜き取り己のベルトに差す。蝶の鍔が付いた刀を鞘に戻して見様見真似で捩った。
カナヲには毒の知識はあまり無いが、それでも刀に毒を塗布した状態には出来た。
彼女は熱が籠り、陽炎さえ見え始めた部屋に戻る。
そこには何かを掠め取ったはいいものの、
(私は足が動く。腕も動く。大丈夫、よく見て……)
カナヲは素早く刀を抜き、――――凍摩を押し潰す寸前の獣の目に刀を突き刺した。
「ごふぃ…… 」
「……今っ!」
カナヲが凍摩へと叫んだ。彼女はそのまま熱さに身を焼かれながらも獣の左目に刀を突き刺し続けていた。
視界の外からの痛みに怯み、カナヲを振り払おうとする獣。尋常ではない熱さだろう。失血と獣からの熱で限界が近いのが見えた。
獣の呼吸 捌ノ型 爆裂猛進
「伊之助様はこのくらいじゃ死にゃ死ねぇぞ! 天才だからなァァァ!!!」
伊之助が気絶から復活。攻撃を捨てた突進で部屋へと戻り、獣の前へと躍り出――ようとして体の内で折れた骨の痛みで止まった。
しかし、彼は即座に技の型を出した。
「獣の呼吸 玖ノ牙
関節全てを外した腕がぎゅるりとゴムの様に伸びた。その刃は獣の足に軽く斬撃を入れた。――同時に、ジュッと音がした。
伊之助は咄嗟にその時点で手から刀を外した。それは
「ちっ! あっちーぜ!」
(……色々ツッコミたい所はあるけど、おかげで隙が出来た)
獣は伊之助の方へと顔と体を向けていた。
先程まで追跡していた凍摩を視界から外す瞬間が生まれていた。
彼は呼吸で強化させた脚で獣へと近付き、体中の酸素を使って息も出来ない中――手の中の小瓶を投げつけた。
いつになく滲んだ汗と酸欠で震える手であろうと、その意志は不滅にして揺らぐ事は無い。
照準を合わせる為に身動き一つせず、其処だけに集中していた。
彼の目前ではカナヲをそのままにして、より
(空中で割っても蒸発する。だから、より、肉に近付いた…………今っ!)
――自動拳銃から放たれた銃弾が溶け始めていた小瓶のガラスを破る。そして、獣の細胞へとその薬液は撒かれた。
それは蒸発する前に、目に、肉に、血に触れて取り込まれ。
炎を零しながら体の心臓までもが強く揺るがす絶叫。
あああ ああ いやだ あたまを いじるな あ つく て きもちが わるい しね
部屋を軋ませる音の圧と熱さに全てが包まれていった。
§
「生意気だ。私の支配を解くとは」
「支配……?」
この男の訪問は二度目だと記憶していた。猫の様に尖った瞳孔と不遜な笑顔を見せるこの男。
彼の去った後、強い衝動が沸き上がったが坐禅をすることで落ち着きを取り戻した。
夜が開けての翌日の朝、彼は何故か日光の下へ出られない体になっていた。
浴びれば死ぬという直感が不思議と湧いていた。加えて、信者の人間を見る度に溢れる筈の無い食欲が浮かび、身体の機能は前よりも上がってもいた。
不思議がりながら教祖として極楽教をまとめていた彼の元に、こうなる直前に面会していた男が再び姿を現して冒頭の言葉を口にした。
――顔を見て思い出す。対話の途中、
教祖は和やかな顔をしながらも片眉を吊り上げた。
「そう。最近、人間を食料と思考させ、日の下に出られぬ欠陥を有する体になったのはお前のせいか」
「何を欠陥だという。人よりも強い力を得た体の感想がそれとはな」
「人間は昼の元で活動する。鬼は夜の元で活動する。ただ食と活動時間だけが変わり、人よりも致命的に避けられぬ弱点を有する。これを欠陥と言わずして何と言う」
人間は陽の下にいようが灰になる危機感を覚えない、そして夜にだってしようと思えば活動も出来る。
だが鬼にとって日光は確実に死ぬ要素でしかない。活動時間の縮小と信者への要らぬ心配、教祖としての活動にも少なからず支障は起きていた。
「お前は一体私に何をした?」
「……貴様、先程から私に対して無礼な言葉ばかりを使うな」
「だから何だというのか。お前が尊ばれる立場の人間だとでもいうのか?」
「そうか」と無惨は教祖の頭に手を沈み込ませた。通常、生きていて感じることのない類の苦痛が教祖を襲った。
「支配を解かれたのは二度目だが、鬼にしてすぐというのは初めての事だ。貴様は二度と私に逆らえぬよう調整してやろう。そして使える手駒となれ。そうだな、せめて上弦くらいには入れ。その前に死ねば……、貴様はその程度の存在でありながら、私に口答えをした塵屑ということだ。理解したな」
「ぃ、ね゛……。ぁが゛……。は゛、い゛……」
強固な支配を掛けつつ、無惨は教祖の肉体に一つの芽を根付かせた。
それは
正気に戻る度に、項から触手が伸びて
しかしそれでも男の精神は中々に強固で何らかがきっかけで支配を解く。時折、無惨自らが出向いて調整することもあった。
その手間を抜きにしてもこの男は肉体も頭脳も有能ですぐに上弦へと入り、猗窩座を下して弐の数字にまで入った。目覚めた血鬼術も鳴女と組み合わせれば有用。
実に使える手駒ではあるが……。
(獣へと変じさせる血鬼術だと? 二つも持っていたのか。……これまで出し惜しみをしていたということか)
無惨は思考を切り替えて、五つある内の一つの脳で鬼殺隊を燬宅から奪った血鬼術で燃やし、残りの四つで薬の解毒を進めていた。
――決まって意識が明瞭になった時、目にするのは人が死ぬ姿だ。
教義には無い、する必要も無い殺人を起こしている。その後ろで、血縁らしき幼子が怒り、憎しみの目を向けて離れていった。
足元で頽れているのは女の死体。確か、最近極楽教……、万世と付いたか? 何故?
兎角、最近入信した無邪気な女だった。人を笑顔にさせ、しきりに赤子に指切りの歌を歌い、子を守ると固く約束を交わしていた女を殺す理由が私にはあったのだろうか。
それからまた、どこか足元が浮いた心地でいた。私は主の為に仕えている。
主などいない。極楽教の主は己だ。服毒自殺を図った母親は私に「皆様を立派に導くのよ」と言い残して身罷られた。
願われたから、極楽教の教祖として相応しく皆を導く教祖となろう。……その行いに、人を殺すというのは無かった筈だが。
何度も明瞭と茫漠の意識を繰り返す。
人を殺す。食らう。信者を導く。主に捧げる。殺す。食らう。主に捧げる。主などいない。
何か不愉快な意識が混ざって、ずっと耳鳴りがしてどうしようもない。何かを踏み外したのに、それが何か、何処でなのかが分からない。自分のことなのに自身のことが分からない。
でもわかっていることはある。――人を殺して食らうのは、教祖という姿には相応しくないということ。
私は教祖としての姿を願われて生まれた命なのだから、その通りに生きるべきなのだから。
百も過ぎた年頃。柱という一際強い鬼狩りを殺すことにも慣れてしまった私が直近で対峙したのは――その両の目に哀れみを滲ませた女であった。
翅脈模様の羽織を着て、その刀は薄紅に染まっていた実力者。
『可哀想に。貴方は、貴方の意志で生きられない。貴方の中には何も無い。それなのに、在り方を歪められて、泣いている』
私は一体何を嘆いている。
『教祖様。どうか、元に戻って……。いつもの、優しい……。伊之助を、微笑んで見守ってくれるような……』
私の何が優しいというのか。
『姉さんをっ、返せっ!!!!』
死んだ人間は帰らない。私は幾度汚さなくても良い手を穢した。
忌々しい男からの細胞が伝える記憶で、また意識が戻れたというのに項から肉が生える感覚がした。
その直後に決まって意識が朦朧とする。私が私でなくなる。――私が、あの男に都合の良いように使われる存在に成り下がる。
意識があろうと無かろうと蓄積された感情が私の体を巡っている。
細胞から血へと熱を伝え、忘れるなと焼き付けていた。
この数百年間、ずっと。
「 あああ」
熱い。熱い、熱い。熱い熱い熱い熱い熱い。
痛み、熱い。苦しみ。毒が巡る。あつい。あつい、あつい。喉が、痛い。焼けている。血も、肉も、骨も、髄という髄から灼けて、焦げて、燃え盛って。
いたいのにあつい。あつい。いたい? くるしい。もえて、いつもいきがつづかない。
めがいたい。いたい。あつい。あつい。あついあついあついあついあ、ついあついあつい。
ただこえをあげることさえ、儘ならない。言葉を発する、意思を提示する、主に仕える?
――耳鳴りを齎すような部位は要らぬ。
項を引き千切って、しぶとくしがみ付こうとする肉の繊維を赫い刀が断ち切った。
いつの間に人間の形に戻っていた。二つの手と頭がある程度で、下半身は炭化して崩れ落ちた。再生しかけているが、体の所々は白く炭化して目が崩れ落ちた。
残った右目が、汗を滲ませた男を捉えた。己に似た容姿をしているが内は異なっている。人を殺され憤ることなど、人であった頃から無い。
この男には
「久方ぶりに。晴れやかな……」
熱さは未だ感じるが先に解放感があった。長い眠りから目覚めた心地、物事の終わり、終着。
此処でようやく終われるのだと、その赫の刀が予感させた。
頸が斬られる音。身体を巡る血の熱は冷め、再生の命令さえ届かぬ境地へ。涅槃、いや待つのは地獄だろう。
「やっと、終われた……。願いは、果たされた……」
教祖として導かなくて良いのだと思うと胸に何か温かなものが満ちる。
本来なら数十年で終わる筈の行為が数百年と引き延ばされ、壊され、ただ生き長らえて。
なんて無駄な時間だったのだろう。
「君、一体何の為に生まれてきたの?」
「願われたから」
自分の意思さえ無く調整されるままに人を殺し、醜く生き長らえ人ではない姿になった。
身の内に溢れる炎を振り撒き、関係の無い人間をも巻き込んで大勢殺した。焼き殺した。白い炭になるまで殺し続けた。
だが、僅かに。教祖という目標の根の底に、生存欲があったのは事実。
「俺の分までたくさん生きてね」
「弟に、願われただろうから……」
目を閉じる。そんな声も言葉も錯覚だ。
だが今は坐禅で精神を抑えることが出来ないから。少しだけ、思ってしまった。
本来は言葉なぞ話す間もなく弟は己の一部になったのだから。声帯が出来る前、言葉というものを知る前に死んだのだから。
視界が消える前に、女隊士を支える少年――伊之助が見えた。
己が殺してしまった信者の息子。何度も鬼を父と呼ぼうとした子。朦朧としていた中でもよくその通る活発さのある声を思い出せた。
……認めたくはないが、人のまま死んでいればあの奇天烈な親子とも会うことは無かったのだろう。
解けた髪の隊士を背負い、母親に似た顔立ちながら立派な体に育った。その瞳が何か言いたげに揺れていた。
「……上手に関節を外せたな。痛くはない?」
「はァ? 痛くなんかねーし! テメェから教わりなんかしてねーし」
「お前は元気に育ったようで、良かったよ」
私は市井に生きる人々ではないから。普通の父親らしく子供を気に掛けて、その成長に喜べる筈も無いけど今は違うらしい。
あの小さな子供が大きくなり、頸を断つまでに成長している。たったそれだけの事が何故か、胸を震わしている。
「お前の願いは叶えられなかったけれど。無意義に、無益に、無駄に、人を殺してきてしまったけれど」
恐らくこれは達成感。長らく課された教祖という立場が終わり、もうこれからは教祖らしからぬ言葉を吐いてもよいのだ。
「今日は、いい夜だ……。君たちにとっても、よい夜でありますように……」
鬼の頸は消え、伊之助へと伸ばされた腕と体は炭化が進んで白く砕けていった。
緩やかに燻る熱は炭の中心を仄かに赤く染めていた。
「……父ちゃん」
凍摩から部屋を出る様に指示が出され、伊之助はカナヲを支え、凍摩はしのぶの遺体を運びながら燃える部屋を出た。
軽く索敵をして周囲に鬼の気配が無いのを確認してから凍摩は自分が受けた傷の手当てを始めた。
鎹鴉からは後から医療道具を持ち運ぶ隊士たちがここに集まり、しのぶの遺体を守るという。――自分でやりたいというのに、状況はそうさせてくれない。
自らの分が終われば凍摩は伊之助らの手当てをしていた。
「あー、やっぱり君、肋骨が折れてるし、今度呼吸を使えば肺に刺さるから以後使用禁止。……それか、他の隊士と同じく護衛に回るかだね」
「ふんっ、何言ってんだ。
「は? はぁぁぁ???」
透き通る視界の中で器用にも肺で折れた肋骨を動かしているのが見えた。しかも肺には傷は無い。
それから寝始めた不思議生命体を目の当たりにした凍摩は「……じゃあいいか」と考えることを止めた。
体力の消耗により気絶したカナヲの耳と目を手当てをするが、体温が熱く下がらない。手持ちの道具ではどうしようもないので隊服の襟釦を外すだけに留めた。
両名の傷をひとまず処置し終えた彼は一息吐いてしのぶの横に座り込んだ。
「……しのぶちゃん。終わったよ」
最初、カナヲによって運ばれた時に見開かれていた瞼は下ろされていた。その体温と動かない心臓に、凍摩は静かに涙を流した。
『わたしのことを、見捨てないでくれて、ありがとう』
最後、薬を渡された時に小さく呟かれた言葉が思い起こされた。
――幼い頃、あの子に声を掛けてもらわなければ俺はきっと夜を徘徊する鬼に食い殺されていただろう。それか人に攫われでもしていた。
あそこで彼女に会わなければ。話しかけられていなければ。
何かを思って、感情を動かすことだって無かった。心が溢れることも苦しくなることも無かった。
しのぶちゃんが「こっちよ」と、手を引いてくれたから――俺は生きている。
「渡したかったな。あーあ……」
――しのぶちゃんに戻れたのなら簪でも送ろうと思っていた。蝶の髪飾りじゃなくて自分が選んだ髪飾りに合う着物選びで悩んで欲しかった。
隊服のポケットに収めていたものを取り出せば、場違いにもしゃらりと綺麗な音を鳴らす。
「贈らせてもくれないなんて、酷い子だよね。しのぶちゃん」
蝶の横にそっと蓮の簪を刺した。自身の見立て通り、いつもとは違った美しさを惹き立ててくれるものだった。
§
上弦の参も弐も、壱も役に立たず死んでいった。
鬼舞辻無惨は珠世から投与された薬で数千年も老いながら逃亡した末、串刺しにしてまでもこの場に留めようとした炭治郎を巻き込んで肉を膨れさせて日光から逃れようとした。
赤子のように膨らんだ肉の塊の中で無惨は周囲の様子をぼやけた視界ながら見ていた。
(忌々しい異常者共め……。私の行く先々の邪魔ばかりしおって)
だが、そこである筈の無い気配と姿が見えた。赤い袈裟の男。――上弦の弐だ。
それが
『燬宅か。貴様、辺りにいる柱を――』
確かに頸は消えたが炭となった体は残っていた。そこから頸の弱点を克服し復帰したのだろう。
だが、その鬼の頸の目は細められながら
――膨れ上がらせた肉の半分が白い炭となり、その部分が熱を持ち、燃え上がる。日光で焼かれるより生々しい痛みが無惨を襲った。
「貴様裏切ったか!」
燬宅と呼ばれた男は無惨の元へ向かう途中、割れた
頸を持った片手がずいと肉を陰にして隠れる無惨の前に差し出された。
にこにことその顔は奇妙なまでに笑顔を見せていた。――あの無表情が常の男が。
「いやさ、君は
「――――は、?」
「流石に俺も堪忍袋の緒が切れちゃってさ。君にはここで、確実に死んでもらおうと思ってね!」
日光で焼かれながら笑うこの男は誰だ?
「無論楽しい楽しい地獄が君を歓迎してくれるだろう! でもその前に二回は死んで欲しいんだ」
この男の血鬼術は二つ。見たものを炭化させるものと、獣と化すもの。
その目は無惨を見つめながらも、彼を覆う肉の壁を見ていた。
理解と同時に無惨の体は炭となり燃えていく。僅かに燃焼よりも再生速度が早く、彼が視界を取り戻した時には――。
日光という太陽からの光が目を焼く。
無惨を唯一殺せるものが――彼の全身を隈なく焼いていった。
「兄さん待っててね。俺もそっちに行くから!」
それを見届けてから、満面の笑みを浮かべた頸を持つ体も死を迎えた。
仏塚 凍摩
カラーリングは文寿郎。中身は童磨。なんなんだぁコレは……。
ということでオールラウンダーに呼吸が使える。特に雷系が一撃必殺でラクチンなのでよく雷の呼吸を使用、鳴柱として任命された。
両親が鬼にされて母を食い殺すのを見て即リターン。逃げた末でぼーっとしてたらしのぶさんに声を掛けられ、胡蝶家に引き取られて感情を自覚出来た。
カナエさんにはしのぶさんが好きなことがバレているのでしょっちゅう「あらあら~」と弄られることも多々あった。
だが死亡後はしのぶさんがなんか酷いこと始めて原作より姉の模倣度合いを追求していったので絶望の日々。しのぶちゃんが
カナエさんエミュを始めた以降も毒の研究に付き合ったりと辛抱強く付き合っていた。でも強固だし、頑固だし、幼い頃からの想いは伝えられずにいた。
思いは言葉には出来なかったがしのぶさんの方は薄々感じ取って、それでも応えられないので最後に話の機会を設けた。
実はしのぶさんは鎹鴉からの言葉で「鬼ハカナリ理性的デ、操ラレテイルンジャナイカッテ。彼女ト話シテタ」と聞いて、(は? 殺す一択だが?)と思いつつも人間化薬を凍摩に託した。そんなに理性的なら人間にして罪を償わせてみるのもいいんじゃないかなって。珠世さんを見て思ったらしい。
趣味は扇舞。鬼狩りにならなければ舞手として生計も立てられた腕前。幼い頃に胡蝶母から教わり、かなり筋が良いと褒められた。それが嬉しいし、胡蝶姉妹も一緒に舞ってくれるので楽しくて仕方がなかった。幸せの日々。
燬宅 (仏塚 文寿郎)
=火宅。燃え盛る火のように煩悩にありふれた世の中の様。
極楽教の教義を聞いた無惨様が「笑顔にしてれば極楽だぁ? んなのある訳ねーだろアホw」という侮蔑を込めたネーミング。
白橡の髪に虹の瞳。赤い袈裟(くるりん巻きタイプ)に黒い着物(NO僧服)。青い数珠。裹頭の白頭巾スタイルもある。見た目僧侶タイプ童磨、中身は目標一直線族文寿郎。
彼が運営する極楽教が新興宗教というよりは禅宗も取り入れているので、どっちかっていうと『極楽
名前があるのは「父上。私は神の子ではありません。名前というものは無いのですか」とガン詰めして付けて貰った。でも極楽教内だと彼を指す単語が「教祖様」の一言で終わるから一切使わないっていう。
本編の方もバニシングツインだけど、こっちは吸収した胎児の特徴が体内に残ってるタイプ。右目の多瞳孔・獣形態時に生えてきた腕と足もその名残。
鬼化の初手で支配を解いたせいで支配の強化+監視の目が項に植えられた。うなじというか首回り全体に根を張っているのでたどたどしい発声なのはこの監視の目のせいもある。あとは心の軋み。ずっと急ブレーキが掛かってる感じ。
「催眠!催眠解除。催眠!催眠解除。催眠!(以下略)」の流れを数百年続けると傷付いてもすぐ治る
殆ど無の表情だけど恰好も相まって徳が高そうに見えるトラップ。有るように見せるから摩擦が起こりやすいのであり、元から無いと周知されていれば周囲からも「あーせやね。お前何も感じへんからなぁ」で済むので、上弦内でも打ち解けてる方?
黒死牟とは碁を打つ(レアイベント)。
猗窩座は入れ替わりの血戦を素直に挑んできそう(ウザ絡みが無いので好感度がマイナスではない)。
半天狗はあっちが避ける(坊さんの見た目になるとコナーズ)。
玉壺は気まぐれに作品を見せたら「ええ壺やん」「歪んどる」と批評くれるから普通。
妓夫太郎らも遊郭で働いてた元極楽教徒からのお願いで死を看取りに行った時に出会って鬼にしたので命の恩人寄り。
鳴女さんは弐に要請すれば大人しく殴り殺されてくれて、その後にめちゃ気持ちええ演奏をさせてくれるので好感度高め。血鬼術との相性もいいし(チラチラ)。
無惨には「
本来なら一つの体に一つの魂ですが……、この生まれと低確率でなんと……今だけは……!
みたいな状態で、中にいる何かが坐禅の度にコンタクトを取ろうとしたが「幻聴乙」で片付けた。なので血鬼術も二人分ある。?? < 存在を認知されず、遺憾の意。
「気付いたら斬られてて面白かったぜフィーバー」と楽し気に雷の呼吸の斬り心地を後藤さんに教えた。