監視対象と約束された日々【完結】   作:砂糖ノ塊

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どうも砂糖のカタマリです。

さあさあ監視対象と青薔薇編もこれを含め残すところあと2話!

まずはアンケートでデットヒートを繰り広げた紗夜先輩の回です!

それでは、本編どうぞ。



40.雨の日の独白【監視対象と青薔薇編】

 氷川 紗夜は、俺の、もう一人の先輩だ。

 

 俺を化け物から監視対象まで引っ張り上げた、もう一人の先輩。

 

 この場合引っ張り上げた……なのか?まあ、あの時よりは全然マシ、最近ではいろいろ幸せすぎて怖いくらいだ。

 

紗夜「何か大きな不幸がやってくる前触れなのかもしれませんね」

真言「怖いこと言わないでください」

 

 ある日の夕方、商店街に買い物に来ていた俺は、帰る途中で雨に降られてしまい、仕方なく屋根があるところで雨宿りをしようとしたのだが…………

 

 そこになぜか紗夜先輩がいた。

 

紗夜「私も神代さんと同じく、雨に足止めをされているんですよ。見てわかりませんか?」

 

 だそうだ。

 

真言「……雨、止みませんね」

紗夜「ええ」

真言「これどうします?」

紗夜「私は日菜が迎えに来てくれるらしいので」

真言「なるほど……」

 

 氷川 日菜。紗夜先輩の双子の妹で、この前羽丘に行ったときに会った、あの「るんっ♪」の生徒会長だ。

 

紗夜「…………どうでした?」

真言「何がですか?」

紗夜「実際に日菜に会ってみて、何かわかったことがありましたか?」

 

 ああ、そのことか。

 

真言「んーそうですね……」

紗夜「もしかしてあの子また何かやらかして……」

真言「いや、別にそんなことないですよ。ただ…………」

紗夜「ただ?」

 

 

 

 

 

『俺に氷川先輩の気持ちはわかりません。………………けど、先輩の妹さんの気持ちなら……少し、わかる気がします』

 

 

 

 

 

真言「…………俺って、紗夜先輩に随分適当なことを言ったものだなと…………」

 

 一瞬キョトンとした紗夜先輩だが、すぐに俺の言っていることがわかったらしく、少し微笑んでこう返した。

 

紗夜「あなたが適当なのはいつものことでは?」

真言「先輩最近なんか酷くないですか?」

紗夜「…………でもまあ、確かにあなたと日菜は似ても似つきませんね」

 

 きっと彼女はただ純粋に姉の背中を追ってきた……追い続けている人なのだろう。()()()()()

 

真言「俺が実際に会ってみて分かったのはそのくらいです」

紗夜「なるほど……それにしてもよく覚えていましたね」

真言「え?」

紗夜「私が神代さんに日菜について話したことなんて、かなり昔のことですよ?」

真言「ん、まあ確かに」

 

 自分でもよくわからないが、それでもあの日のことは結構ハッキリ覚えていたりする。

 

真言「きっと、あの日も今日みたいに雨が降ってたから、じゃないですかね?」

 

 そう、俺が先輩を"氷川さん"ではなく、"紗夜先輩"と呼び始めたあの日も、こんなふうに雨が降っていた。

 

紗夜「なんですか、それ」フフッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 今日はついてない日だ。

 

 目の前で突然降り出した雨を見ながら、俺はそう思った。

 

真言「はぁ…………」

 

 商店街での買い物の帰り道、運悪く通り雨に巻き込まれてしまった俺。

 

 これじゃ家に帰れない、もちろん突然の雨なので傘なんて代物は持ち合わせてるわけもない、まさに八方塞がり。

 

真言「しばらくここで雨宿りするしか──」

 

 ふと視線をそらすと一人の少女と目が合う。

 

真言「あ」

紗夜「あ」

 

 俺の先輩でした。

 

紗夜「……どうも」

真言「………………」ペコッ

 

 氷川さん……なんでここに?

 

真言「…………氷川さん」

紗夜「何ですか」

真言「なにか、あったんですか?」

紗夜「……!」

 

 一瞬驚いた顔をした氷川さん、けどすぐに普段通りの顔に戻った。

 

紗夜「……なんでもないですよ。あなたには関係のないことです」

真言「………………」

 

 そう……だよな。所詮俺はただの学校の後輩、特別氷川さんと仲がいいわけでもない。だからまた余計なことに首を突っ込まないように…………

 

真言「……嘘、ついてますよね。わかりますよ」

 

 ……俺のバカ野郎。

 

 …………はぁ、もういい。ここまで言っちまったんだから好きなだけ言っちまえ俺。

 

真言「今の氷川さん、なんか変ですよ。いつもと雰囲気が…………」

 

 でも何故だろう。今日のこの人からはとても悲しい雰囲気が漂ってくる。

 

紗夜「………………あなたって人は──」

真言「…………」

 

紗夜「──本当にお人好しですね」

 

 そう言うと彼女は優しく微笑んだ。

 

紗夜「さっきは少し冷たかったですかね。でも本当になんでもないんですよ」

真言「…………え?」

 

 え、なんでもないの?ガチで?俺の勘違い?

 

紗夜「ただ、以前のことを思い出してしまって……」

真言「以前のこと?」

紗夜「あの日もこんなふうに雨が降っていたな、と」

 

紗夜「神代さんは知っていますか?私には双子の妹がいるんです」

 

 双子の、妹?

 

紗夜「ええ、実を言うと私、ずっとあの子と距離を取っていたんです」

真言「距離を……仲が悪かったんですか?」

紗夜「私が一方的に、と言ったほうがいいですね。どんなに私が冷たく接してもあの子はずっと私を追いかけてくれて……」

 

 姉の背中を、追いかける……

 

『にいちゃん!』

 

真言「…………どうして、氷川さんは妹さんのことを嫌ってたんですか?」

紗夜「………………」

 

 答えなくても俺にはなんとなくわかっていた。

 

 

 

 

 

真言「……怖かったんですね。妹さんが」

 

 

 

 

 

紗夜「……っ!」

 

 多分、この人は同じなんだ。

 

 俺の兄貴と。

 

真言「俺に氷川さんの気持ちはわかりません。………………けど、先輩の妹さんの気持ちなら……少し、わかる気がします」

紗夜「日菜の……?」

真言「俺には年の離れた兄がいるんです」

 

 そうして俺は話し始めた。今まで誰にも話したことがない、燐子先輩にすら話したことのない、俺の兄のことを。

 

真言「兄貴は俺と違ってよくできた人間だったと思います」

 

真言「強くて、優しくて、頭も良くて……誰からも好かれる人でした。小さい俺には兄にできないことはない、完璧超人に見えてたんですね」

 

真言「俺もそんな兄のことが好きでしたし、俺の憧れでもありました」

 

真言「いつかは追いつくため、俺はずっと兄の背中を追いかけて、追いかけて、追いかけて、」

 

真言「…………そんな俺の憧れが、兄を追い詰めていたなんて知らずに」

 

紗夜「…………………」

 

 氷川さんはただただ黙って俺の話に耳を傾けてくれている。

 

 俺は続ける。

 

真言「ある時、兄がいわゆる"挫折"というものを身を以て知ったんです」

紗夜「挫折……?」

真言「はい。それが何だったのかもう覚えてませんが、まあ普通の人ならよくあることだったんじゃないですかね」

 

真言「けれど、兄にとってそれは人生で初めての大きな挫折だったんです。文武両道、勉強も運動もできて皆から好かれる完璧な兄」

 

真言「その完璧を求める姿勢が、みんなの期待が、俺の憧れが、兄の挫折の原因になった。それだけは確かだった」

 

真言「別に、挫折すること自体が問題じゃなかった。問題はその後なんです」

紗夜「……と言うと?」

 

真言「俺は兄貴を…………励ましたんです」

 

紗夜「…………?」

 

 んー……まあ普通そういう顔をするわな。「当たり前のことだろ?」みたいな……

 

真言「普通なら挫折した兄を弟が励ますなんて、そんなのハートウォーミングな話にくらいしかなりませんよね」

 

真言「けど、俺と兄貴は違った。俺は、兄の背中を追い続けた俺だけは、きっとその言葉を言ってはいけなかった」

 

真言「俺がなんて言ったかはもう覚えてないですけど、兄貴がなんて言ったかは今でもハッキリ覚えてます」

紗夜「……お兄さんはなんと?」

真言「………………」

 

 

 

 

 

『俺に持ってないものを全部持ってるお前が!!!何も知らないくせに!!!俺に同情するな!!!!!』

 

 

 

 

 

紗夜「………………」

真言「兄貴は俺が怖かったんです。自分を追いかけてくる俺が。自分より才能のある弟が自分に迫ってくる感覚が」

 

 俺にはそんな自覚、全く無かったんだけどな。……だからああなったのか。

 

紗夜「結局、その後はどうなったんですか?」

真言「そりゃもちろん──」

 

『こんの……クソ兄貴があああああ!!!!!』

 

真言「──殴り合いの喧嘩ですよ」

紗夜「は?」

真言「互いに叫びちらしながら殴って殴られて……母親にぶん殴られて止まるまで続けてましたねぇ」シミジミ

紗夜「え、えっと……」

 

 

 

 

 

真言「知ったような口をきくなと思われるかもしれませんが、その人も俺と同じでただ純粋に氷川さんを追いかけてるだけなんだと思います」

 

 俺はもう……追いかけるのをやめてしまった。

 

紗夜「……………………」

真言「あ、ごめんなさい。また俺は……」

紗夜「日菜は……妹は……」

真言「?」

 

紗夜「妹は神代さんのようにバイオレンスではありません」

 

真言「…………ふっ」

 

 そりゃそうだ。俺みたいなやつが妹だったら氷川さんの体がいくつあっても足りねぇか。

 

真言「お、晴れましたね」

紗夜「……今日はありがとうございました」

真言「何がですか?」

紗夜「私の話を聞いてくれたことと、神代さんのことを話してくれたことです」

真言「いいんですよ。また俺の厄介な性格が出ただけなんですから…………それに俺についてのはただの雑談みたいなもんでしたし」

 

紗夜「でも神代さん、辛そうな顔をしてました」

 

真言「…………気の所為ですよ」

 

 あのときは辛かったかもしれない、けれど今はそんなことも忘れてしまった。

 

 俺は……もう兄の背中を追いかけるのはやめたから。

 

紗夜「ではまた明日、学校で」

 

 ……それに辛そうな顔をしてたのはあなたの方ですよ。

 

真言「…………また明日です、()()()()

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

真言「………………ぜんっぜん止みませんね、雨。」

紗夜「ほんとですね」

 

 こんだけ色々思い出したのに一向に止まない雨。

 

 どうやらあの時と違ってただの通り雨ではないらしい。

 

紗夜「…………やっぱり」

真言「え?」

紗夜「やっぱり似てませんね。あなたと日菜は」

 

 あ、まだ考えてたんだその事。

 

真言「あの人は俺なんかより、100倍純粋に姉の背中を追ってますよ」

紗夜「そういうことではないんですけどね。神代さんはどちらかというと──」

 

「おねーちゃーん!!」

 

 おっと、噂をすればなんとやら。どうやら紗夜先輩のお迎えが来たみたいだ。

 

日菜「あれ!?真言くんもいるじゃん!」

真言「どうも」

 

 水色の傘をさしながら、もう一方の手で別の傘を持って小走りで近づいてくる氷川さん。

 

 ここからは家族水入らずのほうがいいだろう。お邪魔虫はとっとと退場するとしますか。

 

真言「じゃあ俺はこの辺で失礼します」

日菜「真言くんも傘ないんでしょ?ずぶ濡れになっちゃうよ?」

真言「大丈夫です。雨くらい避けて帰れますから」

日菜「へ?」

紗夜「(神代さんなら…………ありえるかもしれませんね…………)」

日菜「何言ってるかわかんないけど……と、とりあえずこれ使って!」

真言「え、でも……」

日菜「いーの!あたしとおねーちゃんは同じ傘に入ってくからさ♪」

紗夜「先輩からの好意は素直に受け取っておくものですよ」

 

真言「……わかりました。ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 こうして少年と少女はそれぞれの帰路につく。

 

 完璧な兄を追いかけていた弟、天才の妹に今も追いかけ続けられている姉。

 

 立場は真逆でも二人には共通するものがあった。

 

 それは、どれだけ逃げても追いかけてきてくれる大切な人がいたこと。

 

 降りしきる雨の中、約束を結んでくれる人が、傘を差し出してくれる人がいたこと。

 

 全然違うようでどこか似ている、雨の日に救われた二人は、

 

 これからも迷い、悩み、自己を嫌悪し、自分を見失い、傷つき、傷つけられ、悪意にまみれ、何一つ問題が解決しなくても、問題を後回しにしても、

 

 たとえ雨にうたれても、

 

 それでも前に進んでいく。

 

 傘をさして。




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皆様のおかけでついに三段目に赤ランプが点灯いたしました!!本当にありがとうございます!!!

そして次回で監視対象と青薔薇編……の番外編ですねこの人は。でもとりあえず次回がこの章の最終回です!
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