偽善者達の疲れる日常をご覧ください!
それでは本編どうぞ。
そいつの色は真っ黒だった。
……いや、"黒"というのは少々語弊があるな。そいつのそれは黒ではなく"闇"と言ったほうが正しい。
異常なほどの闇。少なくとも普通に生きてる奴が出せる色じゃない。
さらにそいつが異質だったのは、その闇がさまざまな色で構成されていたからだ。
まるで子供がクレヨンでグチャグチャに描いたような、赤、青、黄、緑、紫、橙、白……全ての色を混ぜて、交ぜて、描き殴って、そしてその上から黒の油性インクをぶちまけたような……
そんなメチャクチャな色。
最初に見たときはなぜこんな色のやつが正気を保っているのか理解できなかった。
普通こんなにも感情を混ぜ合わせていたら……さらに上から自分の感情を押し殺していたのなら……すぐにでも正気を失い、狂って死ぬ。
真言「確かに、俺は狂って死んでてもおかしくなかったよ──」
笑いながらそう言うこいつを見て、俺はすぐに理解する。
"その人"の話をするときだけ、そいつの色が、暗黒が、嘘のように晴れたからだ。
真言「──燐子先輩がいなかったらの話だけどな」
…………おかしな奴。
真言「暇だなぁ……」
俺はバイト中に一体何度この言葉を口にしたのだろう。おそらく10や20ではない。よくクビにされないものだ。……まあ見てる人が誰もいないからだけど。
真言「でも今日は本当に暇だ……」
いつもはこんなボヤきをきれいに捌くか、便乗して一緒にぐで〜となるバイト仲間がいるはずなのだが、今日は残念ながらシフトが被っていない。
真言「ま、いいや。この後姐さん達とはCiRCLEで会う約束してるし」
早くこんな誰もいないバイトから上がって……
「ねぇーいーじゃんー」
上がりたかったなぁ…………
ふとレジから外を除いてみると、どうやらコンビニの外で何やら揉めているらしい。
真言「コンビニ強盗といい、なんで俺のシフトのときだけ面倒くさい奴ばっかなんだよ…………」
何も買わないなら○ねばいいのに──じゃなくて大人しく帰ればいいのに。トラブルじゃなくて金を落としてくれ。
再度大きな溜息を付きながらレジを出て外へ向かう。あそこにいつまでも居られたら溜まったもんじゃない、さっさとお帰り願おう。
真言「………………………センパイ?」
思わず自動ドアの前で立ち止まってしまう。
センパイだ。今おかしな不良達に囲まれている人、俺のバイト仲間のセンパイだ。
真言「…………………」
黒とも赤とも言えない感情が自分の内側から湧いてくるのを感じながら、俺はドアの外に出る。
「あ?何だテメェ!」
モカ「マコくん……!」
真言「………………」
面倒だ…………あぁ、本当に面倒だ。
俺は燐子先輩との約束を守りたいのに……もう誰も傷つけたくないはずなのに……
殺さなきゃいけないバカが、俺には多すぎる。
「おい!何見てんだよ!あぁん!?」
不良の1人が俺の肩を突き飛ばし、大声で怒鳴り散らす。うるさい。うるさい。うるさい。
………………いっそ本当に殺してしまおうか。
全部忘れて、全部投げ捨てて、やりたいようにやってみようか。
そうすれば…………そうすれば…………?
きっと行き着く先は、あの時よりも酷い地獄だ。
真言「…………それは嫌だなぁ」
そうなってしまったら、きっと今までのように燐子先輩達と笑い合えないだろう。
大丈夫、今日も俺は冷静。
真言「センパイ、今のうちに行ってください。当分戻ってこないように」
モカ「わかった……!」
「テメェ!シカトしてんじゃねぇぞ!!」
じゃ冷静ついでにこいつらをご帰宅させますか。
「この俺が羽根付きのワニって知っててやってんのか!?」
真言「………………はい?」
「羽根付きのワニ」……?何それ……異名?
真言「もしかしてあなた…………」
真言「イジメられてます?」
「……んだとコラァ!?」
真言「あぁ……俺にもよくわかりますよ。イジメってこう……心にグサっと来るものがありますからね」
「俺はイジメられてねぇ!!」
真言「大丈夫ですよ……学校だけが全てじゃないですから。あ、もし辛くて耐えられなくなったらいつでもここにお電話を」
「人の話を聞きやがれこのクソ店員!!あとなんでお前学校でもらうイジメ相談センターの紙持ってんだよ!!!」
ダメだな……この羽根付きのワニ、略して羽ワニ、俺のコンビニ店員モードでも全然帰ってくれないや。
真言「はぁ……いいからさっさとお仲間引き連れて帰ってくださいよ。あんたがイジメられてるなんて思ってませんから」
「ガキが……舐めやがって…………!」
まったく…………こいつは臨時ボーナスもんだな。
真言「…………さっさと帰れって言ってんだよクソワニ」ビリッ
「!?」
真言「俺がこうやって敬語使って下手に出てやってんだ。今のうちに消えろ、財布にすんぞ」
「て、テメェ…………!!!!!」
これは殴りかかってくる、そう思ったとき……
「あれー?こんなとこで何してんのかな?羽ワニくん?」
そいつは現れた。
「あ"あ"!?何だテメェ…………は…………」
振り向いたワニは話しかけてきた青年を見るなりそのまま固まってしまった。
黒いマスクを付けた、背も年も俺と同じくらいの青年。
真言「(……てかなんでこいつ固まってんだ?)」
「俺、前に言ったよなぁ?『二度と俺の目の前で不快なことはすんな。次はねぇぞ』って」
「ひっ……!」
「さてと、どうやって死にたい?圧死?失血死?オススメは、首吊りかな?」
「い、嫌だ、死にたくない……!」
「でもさー約束破っちゃったんだから、当然じゃね?」
「あ…………あ…………」
汚いうめき声を上げて、羽ワニは白目を剥きながら気絶した。
何だこの男……
真言「(…………不気味なやつだ)」
「………………っ!」
真言「………………?」
今俺を見て驚いた?
「………あの」
真言「………………!」
不良達は羽ワニを連れて逃げ帰り、今度は怖いくらいの静寂が訪れたその場で、話を切り出したのは向こうの方だった。
「………………アイス買いたいんですけど」
真言「おかしなやつだったなぁ……」
結局あの後あいつはアイスを買って帰っていった。俺もとりあえずセンパイに無事を伝えてバイトを引き継いでもらったけど……
真言「にしても何だったんだ……?あいつの得体のしれない感覚は……」
あこ「おーいまっくーん!」
真言「……あ、師匠」
ぼんやりしながら歩いていたらしく、気づけばRoseliaの皆がいるCiRCLEの前だった。
紗夜「何やらぼーっとしていたみたいですが……大丈夫ですか?」
真言「あぁ……別に何ともないですよ」
リサ「ホントかな〜?マコくんはすぐ誤魔化すから」
友希那「しっかりしなさい。でないと燐子が心配してしまうわ」
燐子「……………」
真言「そ、そんな目で見ないでください燐子先輩……本当に何もないですから!」
心配性なんだから………………ちょっと危なかったことは絶対に言わないでおこう。
「なぁクロ〜俺にも一本くれよーパ○コなんだから別にいいだろ〜?」
「自分で買ってこい」
「ケチ」
再会というのは、必ずしも劇的ではない。
真言「あ」
「あ」
燐子「真言くん……?」
「ん?どうしたんだクロ、知り合いか?」
「お前……………」
俺はそれを身をもって知ることになる。
「なるほどなーそれでクロと会ったわけか!えーっと……」
真言「神代です。神代 真言」
「そうそう……真言だからマコだな!」
真言「(何この人……無駄に明るいんですけど……)」
「黒…………いややっぱり違う……でもこれは…………」ボソッ
真言「?」
色「じゃあ紹介するよ!俺の名前は赤羽 色(アカバネ シキ)、こいつは黒鐘 真倉(クロガネ マグ)、よろしくな!」
真言「よ、よろしく……」
あこ「まっくん!あこ達は先に行ってるね!」
真言「は!?ちょ、待って……!」
リサ「ごゆっくり〜☆」
ま、マジで行きやがった……
色「……とりあえずそこのカフェテリアで話そうぜマコ!」
真言「え、あ、いいんですか?」
色「まぁいいんじゃない?な!クロ」
真倉「…………ああ」
やっぱり迷惑なんじゃ……
そう思いながらも赤羽さんに連れられカフェテリアのテーブルに座る。
真倉「なぁお前」
真言「……なんでしょう」
真倉「お前…………何者だ?」
何者だと言われましても……さっき自己紹介は済んだはずだろ?
真倉「お前みたいな奴はそうそういるもんじゃねぇ。どう生きてきたら"そう"なるんだ?」
真言「………………」
色「ちょいクロ!ごめんなマコ、こいつちょっと言葉が足りないとこがあってさ……」
真言「……悪いな赤羽、そんで黒鐘。俺は馬鹿なんだよ、だからな…………」
どう生きてたら?はっ、そんなもん……
真言「どういう意味なのか、ちゃんと説明してくれんだろうな?」
俺が聞きてぇよ。
色「っ!?」
真倉「………………俺にはお前の色が見える」
色「おいクロ……お前」
真言「俺の色……?」
真倉「神代、"共感覚"って言葉を聞いたことはあるか?」
真言「共感覚?」
じいちゃんから昔聞いたことがある気が……
真倉「人の怒り、悲しみ、興味、尊敬……感情と呼ばれるものが、俺には色で見える。」
真言「人の……感情」
色「クロ……お前それ人にホイホイ言っていいのかよ……」
真倉「誰彼かまわずじゃねぇよ、ただ……」
人の感情が色で見える、確かにすごい力だ。少なくとも俺にはできない。
真倉「神代、お前の色は異常だ」
真言「…………具体的には?俺は何色なんだ?」
真倉「俺が見たことのないくらいの…………闇」
真言「闇って……色じゃねぇじゃん」
色「まぁ……そうだな。クロ、本当にそんなのが見えんのか?」
真倉「だからこうやって俺の能力バラしてでも話をしてんだよ!」
真倉「お前…………何したらそんなんになる?どうしてそんな色で……お前はまともに生きていけている?」
真言「……………さぁな」
真倉「は?」
真言「今なんで自分が生きているのかなんてわかんねぇし、一歩間違えていたら完全に狂っていたってことも認める」
今でも俺は正常じゃない。あの頃に囚われているという事実も、全てを投げ捨ててやりたくなる感情も、俺には確かに存在している。
それが真倉の言う"闇"だろう。
真言「でもな、それでも俺は過去を全部背負って今を生きてる。いろんな人に支えられて、比較的幸せに、な」
少しの沈黙の後に黒鐘が切り出す。
真倉「…………これ以上の追求はやめておく」
真言「助かるよ、黒鐘」
真言「まぁ1つ言えるのは……ほら、あそこにいるRoseliaの燐子先輩、あの人のおかげで今の俺がいる…………?」
色「へー!そいつはまた…………ってどうしたマコ?」
真倉「おい、あれ……なんか変なやつに絡まれてないか?」
色「クロ、お前何かとトラブルを引き寄せるな……神社にお払い行ってきたほうがいいんじゃねぇか?」
真倉「俺のせいかよ……ったく、面倒くせぇ…………っ!?」
真言「…………何、してんだ?」
真倉「(闇が……一段と深く……!)」
色「ってクロ!早く追いかけんぞ!」
真倉「は!?あいつ一瞬であんなとこに!?」
色「化け物かよ……おいマコ!!」
「君達Roseliaだよね!ファンなんだ!ちょっとそこでお茶でもしない?」
燐子「あの……待ち人がいるので……」
紗夜「やめておいたほうがいいですよ。特にその人に声をかけるのは」
あこ「ねぇリサ姉……あそこからものすごいスピードでこっち来てるのって……」
リサ「あぁ……もう……大丈夫なの?」
友希那「…………死んだわね」
「ねぇ何話してんのか…………な?」
真言「おいこらテメェ」
「あ?誰だお前?」
真言「どうでもいいだろ、そんなこと」
俺が誰か、お前が誰か、そんなことにはなんの価値もない。
俺にとって価値のあるものなんて……
真言「その人以外、全部どうでもいい」
燐子先輩だけだ。
「は、はぁ?お前何言って……」
真言「死ね」
紗夜「止まりなさい神代さん!約束を忘れたんですか!!」
燐子「真言くん!!」
真倉「よっと」
黒鐘に後ろから腕を掴まれ、そのまま地面に組み伏せられる。
真倉「ちょっとは落ち着けよ」
真言「くっ……そが!!」
色「まりなさん連れてきたぞー」
真倉「月島さん、そこにいるチャラ男がRoseliaにちょっかい出してましたー」
そう言うと、CiRCLEから出てきたいつもカウンターにいる人や、周りにいた通行人がざわめき出した。
大事になることを恐れたのか、Roseliaに声をかけた男は足早に去っていく。
真倉「こういう風に頭を使うんだよ。もっと周りを見やがれバカ」
なんだよ……何なんだよこいつは!!
真言「(全く動けねぇ……!!)」
真倉「(完璧に固めてんのに押し返されそうとか……なんつー馬鹿力だよ……)」
真言「……………はぁ、悪かった。頭冷えたからそろそろ離してくれ」
真倉「ならよし」パッ
紗夜「神代さんを力で押さえつけるなんて……」
真倉「確かにだいぶ化け物でしたよ、氷川さん」
感情が色が見える男、黒鐘 真倉……
真言「俺にしてみりゃお前のがよっぽど化け物だよ」
真言「燐子先輩、ケガはありませんか」
燐子「うん……私は大丈夫……真言くんは?」
真言「俺のことは気にしないでください。平気ですから」
色「へーふーんなーるほどねー」
真言「…………なんだよ赤羽、その顔は」
真倉「(闇が晴れた?………………なるほどそういうことか)」
色「んじゃ、俺らはもう行くわ」
真言「お、おお。じゃあな」
色「なかなか楽しかったぜマコ、また会おうな!」
真言「……あ、黒鐘!」
真倉「どうした?」
真言「さっきは助かった。ありがとな」
真倉「…………あれはお前一人で助かっただけだ。俺がやったのはただの
真言「!」
真倉「…………?どうした神代」
色「ばっかお前!またそういう冷たいこと言うから!!美竹さんの件でわかったはずだろ!?」
真言「偽善……偽善かぁ……」
『俺は間違ってない……間違ってるのはあいつらだ』
『違う……俺は…………正しい』
随分……懐かしい言葉に感じる。
今でも俺は自分のやっていることを正義だとは思っていない。
俺の正義はあの時から燐子先輩だからだ。
真倉「(緑……?なんで……)」
真言「でもまぁ、礼は言っとく。ありがとよ偽善者」
真倉「…………じゃあな、化け物」
そう言い捨てて、共感覚持ちの偽善者は去っていった。
真言「にしても今日はまた一段と……疲れる日だったなぁ……」
遠くなっていく二人の背中を見ながら、俺はそんなことを考えていた。
神界書庫 様「共感覚持ちの偽善者とちびっこ革命家」→https://syosetu.org/novel/223488/
今回は偽善者コラボということでとても楽しいものになりました!改めまして神界書庫 様コラボありがとうございます!
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