監視対象と約束された日々【完結】   作:砂糖ノ塊

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53.兄弟 決意 神代真言【監視対象 帰省編】

正義「構わないけど……何かな?紗夜さん」

 

 どうやらこの目の前にいる少女は、何やら俺に聞きたいことがあるらしい。

 

 マコから聞くところによるとこの人、「紗夜先輩」という人は……

 

『怖い、厳しい、腹パンが痛い』

 

 ……らしい。十中八九あいつが悪い。

 

紗夜「正義さん?」

正義「あ、ああ。なんでもないよ」

 

 でもそんな人が俺に聞きたいこと……?マコの事だろうか。

 

紗夜「実は伺いたいことというのは…………その、真言さんの事で……」

 

 お、ビンゴ。

 

紗夜「あ、でも決して変な意味ではないというか……その……」

正義「大丈夫大丈夫、君達を見てればだいたいわかるよ」

 

 多分だけどあの子達は真言に恋をしているとかそういうのではないと思う。

 

正義「何となくマコを見てる視線がね、みんな親の視線っていうか、危なっかしい子供を見てる目っていうか……」

紗夜「あの……なんかすみません」

正義「謝る必要はないよ。俺も人のこと言えないからね」

 

 笑いながら答える。

 

正義「それで?君はマコの何が聞きたいのかな?"紗夜先輩"?」

紗夜「……………………」

 

 あ、あれ……ちょっとふざけ過ぎた?顔が暗いよ……?

 

紗夜「以前真言さんからあなたについての話を聞いてから、一度会ってお話を聞きたいと思っていました」

正義「マコが……俺を?どんな話で?」

紗夜「その……お気を悪くしてしまうかもしれませんが…………」

 

紗夜「真言さんとの……昔にあった喧嘩の話を」

 

正義「………………」

 

 あぁ……その話か。

 

正義「驚いたな……マコがあの事を誰かに話すなんて」

紗夜「真言さんは白金さんにも言っていないようでしたし、もちろん私も誰にも言ってません」

正義「ははっ、ちゃんとわかってるよ」

 

 あの子はあまり昔の事を話したがらない。けれどそんなマコが自分の、しかも俺との昔話を話すか……

 

正義「……君はマコにとても信頼されてるんだね」

 

 マコがどんなことを思って、何を言ったのかわからないけど、この子がマコにとって信頼に足る人物だということは確かだ。

 

正義「じゃあ君が聞きたいのはそれに関係する何かって訳か」

 

 小さく頷いて、彼女は話し出す。

 

紗夜「……私にも双子の妹がいるんです」

紗夜「才能があって……とにかく何でもできる子なんです」

 

紗夜「私は比べられるのが嫌で……なのにあの子はギターまで……」

 

紗夜「……だから少し前まであの子と距離を取っていました。真言さんに言わせれば"怖かっただけ"なんですけどね」

 

紗夜「今はいろんな人のおかげで少しずつですがあの子に向き合えている……ような気がします」

 

 この子は…………

 

紗夜「…………正義さん、あなたは……真言さんとどう向き合えたんですか?」

正義「……………」

 

 この子はきっと、それを聞くためだけにここに来たのだろう。

 

正義「向き合えてなんか……いないよ」

紗夜「え……」

 

 俺はずっと……マコと正面から向き合うことから逃げ続けている。

 

正義「昔からマコとはよく衝突していてね、よく2人とも母に殴られたよ」

紗夜「そ、想像できません……」

正義「かもね。今じゃ俺も、それにマコも、だいぶ落ち着いてきたから」

紗夜「(落ち着いて…………神代さんが?)」

 

正義「あの子はもう気にしてないと思うんだけど、俺は今でもあの喧嘩はハッキリ覚えてる」

 

 忘れたくても、忘れられない。

 

正義「自分で言うのもなんだけど俺は頭だけは良くてね。それで調子に乗ってたのかな……」

 

正義「こんな田舎から出て都会の名門高校に行くんだ、って家族に宣言して、そこから必死に勉強した」

 

正義「でもね、所詮は井の中の蛙だったんだ」

 

正義「結果は不合格。かろうじてここの近くの高校には受かったけど、それでも俺には初めての挫折だったよ」

 

正義「昔からいろんな人の期待を受けてたからかな……勝手に追い込まれて……そして勝手に自滅していった」

 

正義「期待は自信になり、いつからか重圧になった」

紗夜「重圧……」

 

正義「俺に期待の眼差しを向けてくる奴らの目が……途端に恐ろしいものに見えた」

 

正義「もしこの期待を裏切ってしまったら……俺の周りには誰もいなくなるのだろうか。誰も俺を見てくれなくなるのか。……受験中もそんなことばかり考えていたよ」

 

正義「そんなんだから失敗するだけどね」

紗夜「……………」

 

正義「……高校に落ちたことが分かると、真言は俺にこう言ったんだ」

 

正義「『大丈夫だよ兄ちゃんなら』ってさ」

 

正義「あいつなりに頑張って俺を励まそうとしてたんだろうね。ちゃんと見えてた……けど俺にはもうひとつ、別のものも見えていたんだ」

紗夜「別のもの?」

 

正義「真言はね……実はよっぽど俺よりできるやつだったのさ」

 

正義「あいつには他の奴らにはない"才能"があった」

 

正義「先に始めたはずの道場での稽古も、すぐに俺は抜かされた」

 

正義「それに俺より頭もいい。なのにあいつはそれを人に見せない」

 

正義「俺にはあの時……俺を置いて遠くに行ってしまう真言の姿が見えた」

 

正義「今まで俺に期待し、後ろをついてきたはずの弟が、俺に見向きもせずに進んでいく姿を」

 

正義「当たり前のことなのに、俺にはそれがとても怖かった」

 

『俺に持ってないものを全部持ってるお前が!!!何も知らないくせに!!!俺に同情するな!!!!!』

 

正義「当時の真言はまだ小学生だったんだぜ?…………最低の兄貴だよ、俺は」

紗夜「そんなことは……」

 

正義「紗夜さん、君は俺に聞くまでもなく妹さんとの向き合い方を、既に見つけているんじゃないかな?」

紗夜「!」

 

正義「少なくとも君は妹さんから逃げていない」

 

正義「逃げずに妹さんと同じ道を進むことに決めた、その時点で君は俺よりいいお姉さんだよ」

 

正義「……俺の話はこれで終わり。どう?聞きたいことは聞けたかな?」

紗夜「…………ありがとうございます。それに、ごめんなさい」

正義「謝る必要はないさ。俺も誰かに話せてスッキリしたよ…………ありがとう」

 

真言「あ!こんなとこにいたんですか紗夜先輩!」

紗夜「神代さん……!?」

真言「花火の準備できましたし、先輩が来てくれないと始まらないんですよ!」

紗夜「わ、わかりました」

真言「ほら早く行って行って!」

紗夜「え、ちょ、あの」

正義「………………?」

真言「よし……行ったな」

 

 紗夜さんを無理矢理押し出し、俺と真言のふたりきりになった。

 

真言「兄貴…………その、ちょっと聞きたいことが」

正義「(今日はいろんな人から質問されるなー……)」

真言「兄貴?」

正義「いや、何でもないよ」

 

正義「で聞きたいことってなんだい?言っておくけど紗夜さんと何話してたかは言わないからね」

 

 あれは兄と姉だけの秘密だからな。

 

真言「あー……その……」

 

 言いよどむ真言。なんだ?様子が……

 

真言「兄貴……"好き"って何だ?」

 

 ………………は?

 

正義「好きって……loveのこと?」

真言「…………」コクッ

 

 恥ずかしそうに頷く我が弟。久しぶりに帰ってきたと思ったら……

 

正義「随分ませちゃって……」

真言「あ"!?」

正義「あーごめんごめん、つい口に出た」

真言「ったく……」

正義「それで?何でそんなこと聞くの」

 

真言「…………好き、かもしれない人ができた」

 

 100%燐子さんだな。

 

正義「"かもしれない"?」

真言「俺さ……今まで好きな人とか出来たこと無かったから…………」

正義「なるほど?要は自分の感情が"好き"かどうかがわからないって訳だ」

 

 こうモジモジされると調子狂う……マコってこんなんだっけ?

 

真言「兄貴はその……どういう感情で……いや違うな……どういう経緯で?」

正義「まあ落ち着けよ」

 

 一旦深呼吸をし、落ち着きを取り戻すマコ。あのマコがここまでテンパるなんて……なかなかに罪なお方だ。

 

真言「兄貴は何を根拠に、由香義姉さんを好きだと思ったんだ?」

正義「んー…………」

 

 深く考えるなって言っても無駄だろうしな……

 

正義「自分の将来とか、そういうのを考えたときに、隣にこの人がいたら幸せだろうなって思ったからかな」

真言「将来……」

 

正義「真言、これはお前の問題だ。人に聞いても意味がない」

真言「ああ……分かってるよ」

 

 きっと真言は俺にこんなことを質問するくらいたくさん悩んだのだろう。

 

正義「……俺はもう少し自分に正直になってもいいと思うけどね。マコがどうしたいか、結局のところそれが一番大事なんだから」

真言「でも、俺のエゴであの人が傷つくかもしれない……それは、絶対に嫌だ」

正義「真言も燐子さんも同じ人間さ。もし傷つけたなら謝ればいい」

真言「そんな無責任な……!」

正義「好きってことはそういうことだよ。対等で平等。真言は自分と同じ一人の人間として、燐子さんを好きになったんだろう?」

真言「対等で……平等」

正義「お前の選択が間違っていたならまたやり直せばいい。お前はまだ高校生だ。いくらでも時間はある」

 

正義「……でもな真言、いつまでもそこで止まってると置いてかれるぞ?」

 

 先輩からのアドバイスだ。

 

真言「…………うん、ありがとう」

 

正義「花火、俺達も行こうか。光と静……特に光が心配だ」

真言「あ、あともう一個だけ」

正義「……まぁこの際だから全部聞くよ、何?」

 

 

 

 

 

真言「兄貴は最低なんかじゃない。俺の自慢の兄貴だ」

 

 

 

 

 

正義「………………」

真言「そんだけ。先行ってるぞ」

 

 足早に去っていくマコ。その背中が昔より大きく見えたのは気のせいだろうか。

 

正義「…………ははっ、聞かれてたのか」

 

正義「にしても……うちの家族は盗み聞きをするのが得意だなぁ!なぁじいちゃん?」

清正「ギクッ」

正義「でもまあ……本当に成長したね、マコ」

清正「そうじゃなぁ……2人にも見せてやりたかったわい」

正義「…………だね」

清正「正義、お前にもたくさん苦労をかけたな……本当にすまない」

正義「いいって。俺もマコもいつまでも子供じゃないんだからさ」

清正「そう……じゃなぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光「あー!とーさんもじーちゃんもおそいよー!」

正義「ごめんごめん」

清正「すまんのぉ光」

光「花火なくなっちゃうよー」

由香「大丈夫よ、真言くんが帰ってくるって聞いてたっくさん買ってきたから♪」

 

あこ「わーい!たのしーい!」

紗夜「宇田川さん!両手に花火を持って振り回すと危ないですよ!」

真言「お、おい静……お前の手に持ってるそれ……なんだ……?」

静「ねずみ花火」ジュッ

真言「火つけて持ってくんなあああああ!!!!!」

燐子「ふふっ……」

友希那「楽しんでるわね」

リサ「いや普通に危なくない!?」

 

清正「正義」

正義「ん?」

清正「お前もマコも大人になっていく、じゃがな……」

 

清正「お前もマコも、それに由香さんも光も静も、みんな家族でワシの子じゃ。いつまでもな」

 

正義「………………うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜翌朝〜〜

 

正義「もう行ってしまうのかい?」

由香「もう少しゆっくりしていけばいいのに……」

紗夜「ありがとうございます。でも学校もありますので」

友希那「お世話になりました」

リサ「楽しかっ──」

 

光「やーーーーー!!!!!」

 

リサ「ありゃりゃ」

由香「あらあら……」

 

 号泣しながらあこにしがみつく光。

 

あこ「光くんごめんね……あこ達もう行かなきゃ」

光「いやーーー!!!もっとあこねぇちゃんたちとあそぶーーー!!!」

正義「はぁ……光」

友希那「随分懐かれたわね、あこ」

リサ「あれ?そういえば燐子とマコくんは?」

紗夜「二人は清正さんと一緒に道場にいますよ」

正義「マコのバカ……ギリギリまでじいちゃんから技を教えてもらうつもりなんだよ……」

リサ「あ、あはは……」

静「………………」

リサ「うわ!?静ちゃんいつから友希那の後ろに!?」

静「ばれた……」

由香「友希那ちゃん達についていくつもりだったのかしらね〜?」

正義「血は争えない……か」

光「あーーーーー!!!!!」

あこ「ああもう泣き止んでよー!ほらまた遊びに来るからさ!」

 

清正「なにやら賑やかじゃの」

正義「お、じいちゃん。それにマ…………」

 

 そこにはいつもの様に穏やかに微笑む清正と、なぜかボロボロで燐子に肩を貸されている真言がいた。

 

紗夜「なんでまたそんなにボロボロなんですか……」

真言「聞かんでください」

正義「『ワシの攻撃をいなしてみよ』と軽くこづいたらこのザマじゃ。まったく情けない」

リサ「燐子、どんな感じだったの?」

燐子「すごすぎて……何をやってるのか全然わからなかったです……」

 

清正「ん?光、お前何故泣いておるんじゃ」

由香「あこちゃん達とお別れしたくないって聞かなくて」

清正「ほぅ……ならマコ、皆を連れてあそこに行ってきなさい。光、それで皆とはお別れじゃ。わかったな?」

光「……ぐす…………うん」

清正「すまんがロゼリアの皆さん、マコについてやってください」

真言「………………」

燐子「真言くん?」

清正「マコ、頼んだぞ」

真言「……わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「よし、ここです」

 

 ま、まだ体中が痛ぇ……じいちゃんめ、何が"軽く"だよ。結局全部クリーンヒットしてやがったじゃねぇか。

 

燐子「ここは……」

紗夜「山……いえ、丘ですか?」

真言「今は朝だから明るいですけど、木々が生い茂ってるから道に迷わないよう、ちゃんとついてきてくださいね」

 

 光は…………機嫌はちょっと直ったかな。

 

あこ「光くん、この丘って何があるの?」

光「んーっとね……ひみつ!」

静「頂上に行けばわかる」

友希那「じゃあ早く行きましょう」

 

 ……なんで静は湊さんの手を握ってるの?

 

真言「ちょっと見ない間に随分と懐かれましたね」

友希那「うるさい」

 

 

 

 

 

 歩き続けて数分、頂上に到着した。

 

あこ「わー!きれー!」

光「でしょ!?ここはけしきがいいんだ!」

リサ「これを見せたかったのかな?」

あこ「ありがとね!光くん!」

光「えへへ……」

 

 はしゃぐ光達を横目に、俺はある物の前に屈んで、そして両手を合わせる。

 

真言「ただいま」

燐子「真言くん……?だいじょ…………!」

紗夜「これは……!」

 

 そこにはまるで子供がその辺から持ってきたような木の棒が二本地面に刺さっており、その棒の前には花が供えられていた。

 

真言「お墓です、母さんと父さんの。……まあ本当にここに眠ってる訳じゃないんですけどね」

 

 子供の俺がどうしてもここから見える景色を見せたくて勝手に建てた墓だ。

 

真言「それでも、最後にここで、二人に挨拶しなきゃ帰っちゃダメな気がして……バカですよね俺…………!」

 

 隣を見ると燐子先輩が俺と同じように、屈んで両手を合わせ目をつぶっていた。

 

 釣られるように皆が次々に二人の墓を拝んでいく。

 

真言「ははっ……」

 

 母さん、父さん、見てよ。俺、こんないい人達と巡り会えたんだぜ?

 

 俺は本当に……幸せ者だよ。

 

『よかった……本当によかった』

真言「え?」

燐子「どうかしたの……?」

真言「いや、今なんか聞こえたような……」

紗夜「……?私達には何も……」

真言「気のせい…………か」

 

真言「……そろそろ帰りましょうか、燐子先輩」

燐子「うん……そうだね」

 

 じゃあな。また来るよ。

 

『行ってらっしゃい』

 

────────────────────────

【監視対象 帰省編】無事完結です!ここまで読んでいただきありがとうございました!

 

今回は神代ファミリーという新しいオリキャラを出してみましたが……やっぱり難しいですね。

 

恐らくですが皆さん誰が誰なのかわからないんじゃないでしょうか。(記憶力舐めんじゃねぇよバーカという方はすみません。そしてありがとうございます)

 

お気に入り登録 らったた 様 メンミグ 様 秦こころ 様 流星のビヴロスト 様 える@さよりサをすこれ 様 ツナジン 様 ありがとうございます。

 

皆様、これからも監視対象と約束された日々をよろしくおねがいします!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「湊さん、俺決めました」

 

 兄貴やじいちゃん達と会って、何かが吹っ切れた。

 

 俺はもう、迷わない。

 

友希那「…………なら、あなたの答えを聞かせてくれないかしら」

 

 前に進む。ここから。

 

真言「俺は…………」

 

 ここで立ち止まって後悔するくらいなら、ぶつかっていって玉砕してやる。

 

 そのくらいの覚悟は、できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真言「俺は燐子先輩が好きだ」




次話より「監視対象と約束された日々」最終章開始。
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