監視対象と約束された日々【完結】   作:砂糖ノ塊

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親愛なる友へ


57.Dear friend

真言「(………………眩しい……夕日?)」

 

 目が覚めると、そこには見知らぬ天井が広がっていた。

 

真言「(ここは…………病院か……)」

 

 身動きが一切取れない。よく見ると俺の身体は包帯やらギプスやらで全身固定されていた。

 

 俺は確か燐子先輩を助けに行って、それから…………

 

真言「(あぁ……またか……)」

 

 どうやら俺は"暴走"して、そしてしぶとくも生き残ってしまったらしい。

 

清正「目が覚めたか?」

 

 声のした方に目をやると、そこには田舎にいるはずの俺の祖父、清正じいちゃんがいた。

 

真言「じいちゃん……なんで……」

清正「孫が入院したというのに、田舎に引きこもってなんぞおられるか」

 

 そっか……俺、じいちゃんにまで心配かけて……

 

真言「じいちゃん……ごめん……」

清正「気にすることはない。なに、いつものヤンチャじゃろ?」

清正「じゃがまぁ…………随分と派手にやられたもんじゃのぉ……事情はその子から全部聞いたよ」

真言「その子……?」

 

 一体誰のことを……

 

清正「その子もまた、お前をここまで運んで治療してくれた"黒服"とやらから聞いたそうじゃがな。ほれ、今お前に寄りかかって寝ておる娘じゃよ」

 

「すぅ…………すぅ…………」

 

真言「(寝息…………ん!?)」

 

 視線を横にもっていくと、そこにはこちらに寄りかかって眠っているツインテールがあった。

 

真言「あ……りさ…………」

有咲「ん………………んん!!」

 

 目醒めるや否や、今にも泣き出しそうな目でこちらを見る有咲。

 

有咲「マコ!!お前……心配させやがって……!!」

真言「………………悪い」

清正「まあまあ、また泣くとせっかくの美人さんが台無しじゃよ」

真言「…………本当に、悪いと思ってる」

 

 俺は……本当に…………

 

黒服A「おはよう御座います。神代様」

真言「黒服さん…………」

黒服A「ご安心を。こちらからきちんとご説明させていただきます」

 

 黒服さんの話をまとめるとこうだ。

 

黒服A「神代様の後を追い、我々がCiRCLEに着いたときには既に神代様はいませんでした」

 

黒服A「Roseliaの皆様から事情を伺い、倉庫後に駆けつけ、ボロボロの神代様を発見しました……そして今に至るという訳です」

真言「燐子先輩は……」

 

黒服A「白金様はご無事です。……というより全くの無傷でした」

 

清正「ほぅ……」

有咲「無傷?」

黒服A「えぇ。神代様の容態が命に関わるレベルだったのに対し、白金様は気絶していたもののお身体の方には傷一つありませんでした。」

 

 そっか……良かった…………

 

有咲「マコの容態が命に関わるレベルって……」

黒服A「……両腕ともに骨折。全身打撲……特に頭を鉄パイプか何かで殴打された跡。その他全身数カ所に骨折やヒビが」

黒服A「医者からは『生きているのが奇跡だ』と」

真言「……黒服さん。俺はどのくらい眠ってましたか?」

 

黒服「…………2週間ほど、神代様は生死の境を彷徨っておりました」

 

真言「2週間……」

黒服A「今回の事件について、幸い……と言いますかあの場に死人は一人もいませんでした。犯人グループは凶器を所持していたのに対し、神代様は素手でしたので、恐らく正当防衛が適用されるかと」

 

 誰一人……俺は、あの女も殺せなかったのか。

 

黒服A「倒れていた神代様の近くで同じように横たわっていた主犯格の女はかなりの傷を負っていました。当分病院からは出られないでしょう。……神代様?」

 

 弦巻を誘拐させ、燐子先輩を危険な目に合わせたのは……俺だ。

 

 俺のせいで皆…………

 

真言「俺……………なんでまだ生きてんだろ」

 

 俺なんか……あのまま死んでしまえば良かったのに。

 

 

 

 

 

有咲「……………おい」

 

 思わず口をついてしまったそんな言葉を、俺の親友が聞き逃すはずがなかった。

 

有咲「なんで……そんなこと言うんだよ…………」

真言「……有咲、俺はな約束を破っちまったんだよ」

有咲「それが何だよ!!たかが約束をひとつふたつ破ったくらいで何ふざけた事言ってんだお前!!」

 

 有咲…………ごめんな…………

 

有咲「燐子先輩との約束が無かったらお前には何もねぇのか!?」

 

 本当にごめん…………でももう遅いんだ。

 

有咲「違うだろ!!お前には紗夜先輩もRoseliaの人達も……私も!少なくともここに私がいる!!」

真言「……………」

 

 もう……俺に何を言っても無駄だ。

 

有咲「"親友"じゃ……なかったのかよ……」

 

真言「……………」

有咲「なぁマコ……」

 

真言「……帰ってくれ、有咲」

 

 俺がそう言うと、有咲は足早に去っていった。その目が今にも泣きそうだったのはきっと気のせいではないのだろう。

 

清正「……本当に、あれで良いのか?」

真言「…………もう、いいんだ」

 

 俺がいるから、周りの人間に迷惑がかかる。あの女のような奴らがまたいつ襲ってくるかもわからない。

 

清正「だから自分から大切な人を遠ざける……か」

真言「…………」

清正「マコ、ワシは当分この街に滞在する予定じゃ。すまんがあの家を使わせてもらうぞ」

真言「………………うん」

清正「……先程、医者が言っておったがお前はしばらくの間は絶対安静じゃ」

 

清正「そこでよく考えるが良い。自分が今後どうすべきかを」

 

清正「……何れにせよ、ワシはお前の味方じゃ」

 

 そう言い残して、じいちゃんも出ていった。

 

 俺がどうすべきか……?そんなの決まってんだろ。

 

 先輩たちが作ってくれた居場所に、俺がいる資格はない。

 

真言「"監視対象"は……もう終わりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【市ヶ谷 有咲】〜〜

 

 マコが目を覚ましてから数日後、あいつは何事も無かったように学校へ来た。

 

 全身包帯まみれの痛々しい姿で。

 

有咲「……………」

 

 マコが、完全にマコでなくなってしまった。

 

「神代……くん……?怪我は大丈夫?」

真言「あぁ……うん」

「聞いたぜ?お前、弦巻さんを誘拐犯から助けたらしいな!お手柄じゃねぇか!」

真言「うん……まぁ……」

 

 歪な笑顔を浮かべ、今まで喋ったことのないクラスメートたちと話しているあいつは誰だ?

 

「聞いた?弦巻さんを誘拐した犯人、元花咲川の生徒らしいよ」

「えぇ!?それ本当!?」

「しかも神代くんが1年のときに起こした暴力事件の被害者!」

「えー?それはなんか出来すぎてない?急に神代くんが出てくるわけないじゃん」

「あくまで噂だからね。でもあんなにボロボロになって弦巻さんを助けたなんて……それこそ漫画の中のヒーローみたいじゃん」

 

 違う……

 

「……なんか私達、神代くんのこと誤解してたのかな……」

「今まで怖そうな人だと思ってたけど……実はそんなことないのかな」

「かもね。ほら、今も笑ってるし」

「神代くんってあんなふうに笑うんだね……」

 

 違う……!あいつは…………

 

こころ「違うわ」

有咲「!」

こころ「あんなの……真言じゃない」

「ちょ、弦巻さん?」

 

 マコに近づいていく弦巻さん。そこにはいつものような明るい笑顔は無かった。

 

こころ「真言」

真言「……どうした?弦巻」

こころ「聞いたわ。1年生の時、あなたの身に起こったこと、……それに今回のことも」

真言「……そうか」

こころ「真言、燐子とはちゃんと話せたの?」

真言「………………」

こころ「ねぇ真言!!」

 

真言「……お前も、怪我が無いみたいでよかった」

こころ「!」

 

 力なく笑うマコを見て、弦巻さんはそれ以上何も言えなくなってしまった。

 

有咲「弦巻さん……」

こころ「あんなの……あんなの真言の笑顔じゃないわ……」

 

真言「じゃあ、俺職員室行かなきゃいけないから……」

「お、おお。気をつけてな」

 

 教室から出ようとするマコの足が止まった。

 

 その目線の先にいたのは……

 

有咲「燐子先輩……」

真言「……………」

燐子「…………ま、真言く──」

 

真言「…………………」

 

 それは決定的だった。

 

 あいつにはもう、誰の声も届いていない。

 

 燐子先輩の声さえも振り切って、あいつはどこか遠くへ行ってしまう。

 

 あいつの"親友"……一人の友人として、私があいつにできることは…………何もないのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【弦巻 こころ】〜〜

 

 「神代 真言」という男の子がいるということを、あたしは以前から知っていた。

 

 小さい時からたまに家に来るおじいさんがよく話していた、あたしと同い年の男の子。

 

『ワシにも君と同じくらいの孫がおるんじゃよ』

 

『君のように昔はよく笑う子だったんじゃが……今では自分の笑顔を見失っておる』

 

 それを聞いたあたしは、顔も知らないその子のことを笑顔にしてみたいと思った。

 

 その子が笑顔になればこの優しいおじいさんも心の底から笑顔になれると思ったから。

 

『そうかそうか……!では君がいつかあの子に会ったときには、あの子の友達になってくれるかい?』

 

 あたしはそのおじいさんと約束をした。

 

 「あたしがその子を笑顔にする」

 

 そしてあたしは彼と出会った。

 

 いつもやる気がなくて、無愛想で、ぶっきらぼうで、子供っぽくて、

 

 でもそれと同じくらい優しくて、

 

 燐子を見ると幸せそうに笑う。

 

 そんな彼と。

 

 でも…………

 

こころ「違うわ」

 

 違う。それは今の彼が大怪我を負っているからじゃない。

 

こころ「あんなの……あんなの真言の笑顔じゃないわ……」

 

 真言はあんな風に笑う人じゃなかった。今の真言はまるで別人みたい。

 

真言「……お前も、怪我が無いみたいでよかった」

 

 真言の目には何も写っていなかった。

 

 あたしのことも、親友と呼んでいた有咲のことも。

 

 きっと燐子も、今の真言には何もできない。

 

 

 

 

 

 それでいいの?

 

 

 

 

 

こころ「…………いいわけない」

 

 約束したんだから。真言が燐子と結んだように、あたしだって……あたしだって……!

 

こころ「あたしだって、真言の友達なんだから……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【Roselia】〜〜

 

 その頃、Roseliaは電話で連絡を取っていた。

 

リサ『燐子を無視、ねー……』

紗夜「これは相当危険な状況です。恐らく1年生の時よりも」

燐子「わ、わたしが……拐われたから…………」

あこ『りんりんは悪くないよ!』

紗夜「とにかくこのままだと神代さんは何をしでかすか分かりません。一刻も早く何とかしないと……」

 

友希那『…………燐子』

燐子「はい……」

友希那『正直に言えば、私は今回の事件で真言がやったことなんてどうでもいい』

リサ『ちょ、友希那!?』

 

友希那『ただ一つ、紗夜にした仕打ちを謝ってもらえれば私は十分だわ。後は真言の自由にすればいい』

 

友希那『だから燐子、あなた達がどうしたいのか、二人できちんと話し合って…………それから私達の前に引きずり出しなさい』

 

燐子「…………わかりました」

 

燐子「(でも……もう真言くんには…………ううん、届いていなら、何度だって……!)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【神代 真言】〜〜

 

「君はもう生徒会の監視対象じゃなくて良いね。特別問題も起こしてないし、なんてったってあの弦巻家のお嬢さんを救ったのは君らしいじゃないか!大手柄だな神代くん!」

真言「…………先生、これを」

「ん…………?」

 

 これでいい。

 

 あいつらの友達として、これが俺の今できることだ。

 

 ……そう、俺は自分に言い聞かせる。

 

 弦巻も、有咲も、そして燐子先輩も、俺がいないほうが幸せにやっていける。

 

 だからこれでいい。

 

「これは……」

真言「お願いします」

「何故なんだ?何か問題でも……」

真言「問題があるのは俺です。だから……」

 

 

 

真言「俺はこの学校をやめます」

 

 

 

 それは一枚の退学届。

 

 何かを言われる前に押し付けて退散する……予定だったが。

 

黒服A「少々お待ちを」

「あなた達は……」

 

 職員室に入ってきたのは黒服さんだった。

 

 おおかた俺が病院からこっそり抜け出したことに気づいて急いで連れ戻しに来たってとこか。

 

黒服A「お構いなく、神代様を連れて行くだけですから」

真言「…………」

黒服A「まだ怪我が完治しておりません。さぁ、病院へお戻りを」

真言「…………わかった」

黒服A「"これ"は神代様が退院するまで我々が預かっておきます」

真言「…………ああ」

 

 退学届を奪われ、俺は病院へ連れ戻された。

 

真言「はぁ……」

 

 まぁいいさ、時間は十分にある。

 

真言「………………………何しに来た」

 

 決まってるだろ。と突如俺の病室に入ってきたそいつは俺に言う。

 

有咲「親友として、お前を止めに来た」




感謝を込めて。
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