監視対象と約束された日々【完結】   作:砂糖ノ塊

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親愛なる友人達へ


58.Dear friends

 〜〜【白金 燐子】〜〜

 

 ピンポーン

 

燐子「やっぱり……家にはいない……よね……」

 

 真言くんはわたしと……"すれ違った"後、黒服さんに連れられて帰ってしまったらしい……

 

燐子「やっぱり病院に……」

 

 でも行って何を話せば…………前みたいに……いや、前よりも心を閉じてしまった真言くんに……わたしはなんて言えばいいの……?

 

「はーい」

燐子「え……」

 

 誰か出てくる……?

 

清正「おお、やはり燐子さんじゃったか」

燐子「真言くんの……おじいさん」

清正「久しぶり……と言ってもつい最近あったばかりか」

 

 何でここに……

 

燐子「真言くんのお見舞いですか……?」

清正「まあ、そうじゃな」

 

 あ、謝らなきゃ……わたしのせいで真言くんは…………

 

燐子「…………」

清正「折角来てくれたんだ。上がっていきなさい」

燐子「え…………」

清正「いいからいいから」

 

 良いのかな…………でも、既に何回かお邪魔してるよね……

 

燐子「お、お邪魔します……」

 

 玄関で靴を脱ぎ、そのままリビングに通される。

 

 生活に必要な最低限の物しか置いていない簡素なリビング。とても高校生が一人で住んでいるとは思えないほど、綺麗な…………何もない部屋。

 

清正「本当になんにも無いのぉ……燐子さんもそう思うじゃろ」

燐子「え、えっと…………」

清正「はっはっは!」

 

 口ごもるわたしを見て笑う清正さん、でもすぐに真剣な表情になった。

 

清正「あの子に趣味と呼べるものは無い。それがこの家に現れておる」

 

清正「小さい頃から無趣味だったからのぉ、まぁ無理もない…………」

燐子「?」

 

 あるものを見て止まる。その目線の先にあったのは……テレビの横の棚に丁寧に並べられたCD。

 

清正「……君達と出会って、少しは変わったと思っていたんじゃがな」

 

 そう、悲しそうに笑う。

 

 並べられたRoseliaのCDを手に。

 

燐子「あの……」

清正「ん?」

燐子「前から気になっていたんですけど……真言くんはずっと一人暮らしなんですか……?」

清正「あぁ、そうじゃ。あの子の母親の話は前にもしたな?」

燐子「はい……」

 

清正「この家にはマコが母親と二人で住んでおったんじゃ。……ほんの少しの間だけじゃがな」

 

清正「母親の容態がよくなれば二人で住み、悪化したらマコは一人。子供には酷な話じゃ」

 

清正「…………やはり、ワシの選択は間違っておった。今でも後悔しておる」

 

 わたしを見据える清正さんの真剣な瞳は、どこか真言くんに似ている気がした。

 

清正「君はどうかな?白金 燐子さん」

燐子「わ、わたし……ですか……?」

 

清正「あの子と出会い、あの子を救い、そしてあの子の大切な人になったせいで…………君はとても恐ろしい経験をしてしまった」

 

清正「もし君が真言と関わらなければ……今回のようなことは確実に起こり得なかったんじゃ」

 

 少しためらった後、清正さんはハッキリとした声でわたしに聞いた。

 

 

 

 

 

清正「君は……真言と出会ったことを後悔しているか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【神代 真言】〜〜

 

真言「止めに来た?俺を?」

有咲「そう。止めに来た」

 

 そう言う有咲の目は、今までに見たことがないくらい真剣なものだった。

 

真言「何を止めに来た……いや、何で止めに来た?」

有咲「お前が間違ってるから」

 

 要領を得ない回答だ。いつもの市ヶ谷 有咲では考えられない。

 

 ベッドの横の椅子に腰を掛け、話し出す。

 

有咲「お前は燐子先輩を助けた。なのにお前は勝手に一人で有りもしない責任を負って、挙句の果てに高校を辞めようとしてる。そんなの…………絶対におかしい」

真言「……俺が自主退学しようとしてたこと、バレてたのか」

 

 有咲が怒ったような口調に聞こえるのは、やはり怒っているからなのだろう。

 

 今、彼女は俺のために怒ってくれている。本当に優しいやつだ。

 

真言「別に、おかしくはねぇよ。死人が出なかったとはいえ、昔より酷い事件を起こして、約束破って…………」

 

 大切な人達を、危険な目に合わせた。

 

真言「何よりな、有咲。俺は俺が怖い」

 

真言「黒服さん達から話を聞いて、俺が一番最初に思ったことはな──」

 

 

 

『今回の事件について、幸い……と言いますかあの場に死人は一人もいませんでした』

 

 

 

真言「──誰も殺せなかったってことなんだよ」

 

 あれだけ憎くて、殺してやるって息巻いていたくせに、結局俺は誰一人息の根を止めることができなかった。

 

 そしてそれを俺は……

 

真言「悔しいって思っちまったんだよ」

 

 俺は俺が怖い。

 

真言「殴ったときの拳の感触も、血の匂いも、そして自分が自分でなくなる感覚も、全部覚えてる」

 

 俺はもう神代 真言を人間だとは思えない。

 

 人の命を奪うという行為を軽んじている今の俺を、もう人間だとは思えない。

 

 あいつらが俺の人生の前に現れ、俺に不幸を撒き散らす狂った悪魔なのだとしたら………俺も、周りの人に不幸を撒き散らす狂った化け物だ。

 

真言「…………なぁ、有咲。教えてくれよ」

 

真言「お前に俺はどう見える?」

 

 無言で椅子から立ち上がる有咲。

 

有咲「……お前が窓から飛び出して、それを私が掴んだあの時から…………」

 

有咲「私には神代 真言は人間にしか見えていない」

 

 ハッキリと、有咲は俺にそう言った。

 

有咲「お前は人間だ。口では全て諦めたような事を言っても実は全然諦めきれてなくて、他人に迷惑をかけるのが怖い……でも一人じゃ何にもできないってことさえ忘れるくらいバカな」

 

 

 

 

 

有咲「ただの人間なんだよ」

 

 

 

 

 

 私達と同じ。と有咲は続ける。

 

有咲「……だからさ、もう諦めたフリをするのはやめろよ。もっと周りに、私達に助けを求めろよ」

真言「そんなの…………」

 

 許されていいはずがない。俺が……俺なんかが…………

 

有咲「化け物でも監視対象でもない、一人の人間としての"神代 真言"が何をしたいのか……答えが出たら聞かせてくれ」

 

有咲「じゃあ、また学校で」

 

 答えが出ない質問を投げかけて、静かに病室を出ていった。

 

真言「俺は…………」

 

 俺はどうしたい?

 

 やらなければならないこと、やってはいけないこと、今までにたくさんあった。

 

 じゃあ、やりたいことは?

 

 俺の本当にやりたいことは………………

 

こころ「燐子に会うこと、でしょ?」

真言「あ…………ああ!?」

 

 金髪の少女がいつもの笑顔で病室にいた。

 

真言「おま!いつからそこに……!」

こころ「ついさっきよ!」

真言「はぁ…………」

 

 こいつは全然変わんねぇな……

 

真言「…………なあ、弦巻、聞きたいことがあ──」

こころ「あたしにも真言は真言に見えてるわ!」

真言「………………」

 

 この野郎………聞いてやがった…………

 

こころ「どうかしたの?」

真言「……聞きたいことはそれじゃねぇよ」

こころ「あら!じゃあ何かしら!何でも聞いてちょうだい!」

 

真言「お前、今したいことはあるか?」

 

こころ「したいこと?」

真言「夢って言ってもいい。今……というか、人生?生きている内にしたいこととか……まぁ何でもいい。何かあったら聞かせてくれ」

こころ「それはもちろん世界を笑顔にすることよ!」

 

 世界を……笑顔に?

 

真言「……即答かよ」

こころ「えぇ!」

真言「…………お前らしいな」

 

 「弦巻らしい」なんて、関わりの薄い俺が言えたことではないとは思う。

 

こころ「それに今は…………」

 

こころ「目の前の友達に、笑顔になって欲しい」

真言「……!」

こころ「その子はあたしにはいつも怖い顔をするんだけど、偶にすごくいい笑顔を見せてくれるの」

こころ「だからあたしは、これからもっともっとその子に笑顔になって欲しい」

 

 あぁ…………

 

真言「(眩しい)」

 

 いつもそうだ。こいつを見ていると目が眩む。

 

 いかに俺が暗くてダメなやつかを見せつけてくるみたいで。

 

 その太陽のような笑顔は……俺には眩しすぎるんだよ、弦巻。

 

こころ「ねぇ真言、真言は自分のことが嫌い?」

真言「…………嫌いだよ」

 

 嫌いだ。嫌いだ。大嫌いだ。

 

真言「自分勝手で、自己中心的で、周りを見れなくて、約束一つ守れなくて、友達を……お前を危険な目に合わせて、燐子先輩を守れなかった」

 

真言「そんな俺が、俺は──」

 

 ポスっ

 

真言「……………」

 

 手だ。俺の頭に弦巻の小さな手が置かれている。

 

 そしてそのまま弦巻は俺の頭を優しく撫でた。

 

こころ「真言が真言のことを嫌いになっても、真言を大切に思ってくれる人は必ずいる。心当たりがあるでしょ?」

真言「………………」

こころ「少なくともここに一人、あなたの友達がいるわ!」

こころ「有咲も紗夜も燐子も、みんなあなたを大切に思ってる。そんなみんなの気持ちも真言は否定するの?」

 

 何も、言えなかった。

 

 頭を撫でながら弦巻は続ける。

 

こころ「大丈夫。あなたは自分で思っているよりももーっと素晴らしい人よ!」

真言「俺はそんなんじゃ……」

こころ「あたしが保証するわ!だって真言はあたしを助けてくれたじゃない!」

真言「それだって俺の……」

こころ「真言が自分のことが嫌いなら、あたしが真言の良いところをたくさん言ってあげる!真言が自分のことを好きになるまで!!」

こころ「だから……ね?」

 

こころ「勝手にいなくなろうとしないで……」

 

 笑顔が消え、一瞬で泣きそうな顔になった彼女は弱々しくそう絞り出した。

 

真言「…………悪い」

こころ「何度でも言うわ、あなたは素晴らしい人よ!」

 

 再び眩しい笑顔で彼女は俺にそう言う。

 

こころ「強くて、カッコよくて、困ってる人がいると放っておけない、あたしも助けてくれた!」

 

 

 

 

 

こころ「神代 真言はあたしのヒーローよ!」

 

 

 

 

 

真言「……本当、お前は眩しいよ」

 

 眩しくて、温かい。

 

 まるで、太陽みたいだ。

 

真言「ありがとな、弦巻」

こころ「……!今笑ったわ!」

真言「……気のせいだろ」

こころ「ならどうして顔をそらすの?」

真言「あーもう!いいから帰れよ!俺は疲れてるから寝る!!」

こころ「もっと素直になってもいいのに……」

真言「ほっとけ」

 

 こいつと話して、少しだけ気持ちが軽くなった。

 

こころ「じゃあまた学校で!」

 

 どいつもこいつも、「また学校で」か……

 

真言「ああ、またな()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜【白金 燐子】〜〜

 

燐子「後悔なんてしてません」

 

 口下手な私でも……ハッキリと口に出して言えた。

 

燐子「だって真言くんは……」

 

 私はちゃんと知ってる。

 

 何の関係もない女の子をイジメから救おうとしたことも、

 

 今井さんと青葉さんを強盗から守ったことも、

 

 プールで私達を守ってくれたことも、

 

 攫われた私を助けてくれたことも、

 

 ……あの日、一人で心細かった私の手を引いてくれたことも。

 

 全部全部全部、知っている。

 

 真言くんは自分で思っているより、ずっとずっと素敵な人だってことも。

 

 彼のカッコいいところを、可愛いところを、優しいところを、怖いところを、強いところを、弱いところを、見てきた。

 

 いろんなところを見てきた。

 

 だから私は……

 

燐子「だって真言くんは、私の……ヒーローですから」

 

 だから私は、彼を好きになった。




感謝を込めて。
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