前回のあらすじ
「(明日もこの宿は営業する訳ですし二人まとめて入った方が差し障りがないでしょうしおば様が言う様に話のネタとか困らないかも知れないし気まずさを取り除けるいいチャンスでもある筈で入隊前からどのくらい鍛えられたのかちょっとだけ気になりますし)お風呂一緒に入りましょう!!」ガラガラー
「キャーーー」キャーーー
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「…少し、真面目な話をしましょう。」
仕方なしに俺がこの人の髪を洗い始めてから、暫くして。
長いまつ毛を気持ち良さげに閉じたまま、元師匠の巌山峠岬は静かな声で語り始めた。
「…貴方は人を喰わない鬼が現れたなら、
どうしますか?」
「
「
…いえ、やはり質問を換えましょう。
悪人が善行を行う事を信じれますか?」
そんな事を突然言われても困る。
もしかしなくてもあの時の事を言っているのだろうか。だとしたら俺の答えは決まっている。到底信じられない。
しかし、その時の師の表情がそこはかとなく不安げで、良い返事を期待したかの様な表情をするものだから、俺は少し気まずくて、突き離すような言い方が出来ずに、曖昧な返事をしてしまう。
「…行動で示すなら考える、…かもな。」
本来なら一も二もなく悪人なら罰せ、と告げていただろうに、その時はなんだかそう答えてしまった。
「そうですか、…良かった。やはり貴方は理性的で優しい人ですね。」
唐突に俺を褒めて変な人だ。
困惑する俺に彼女は話を続ける。
「罪と罰は切り離して考えるべきである、と私は思うのです。悪人だったからと、その先もずっと悪人であるという事はありません。悪虐が世に尽きることは無いかも知れませんが、善い事が出来ない人は一人も居ないのです。」
残念ながら俺には到底理解出来ない考えだ。そう在れればどれだけ良いか。その考えが許されるなら、罪も罰も必要ない。誰もが満ち足りていないと、そうは考えられないのだ。
「…性善説って奴だろ、それ。耀哉の屋敷に居た時読んだよ。難解な言葉で下らないこと書いてある宗教だった。」
「あら、よく勉強していますね。偉い偉い。」
「茶化すな。」
「ふふっ、…まぁ私のは孟子の様な立派なものではありませんが。それに近い所はあるかもしれませんね。」
「あんたあんな人尊敬してんか?書いてある事ほとんど詐欺だぞ、アレ。信じる奴はバカか狂人だ。」
「ふふ、…そうかも知れません。
では桃晴、ここで問題です。
孟子は真に性善説が正しいと思っていたのでしょうか?」
「?そりゃ著者なんだし、そうなんじゃないのか?」
甘いですよ桃晴。ちゃんと読みましたか?
師は得意げに指摘してくる。…ウザい。
「一説には、かの孟子が性善説を説いたのは、この世が性悪説で出来ているからだそうです。
そうであるから唱えたのではなく、
そうあってほしくて唱えたのだと。」
「人間の本質が悪であるなど、学問で証明するまでもなく、誰でも
ふーん、と相槌を打ちながら、洗髪を完了した師の髪を湯に
「でもそれじゃあ逆に、人間は生まれつき悪人で罪人って言ってるようなものだな。
皮肉なモンだ。」
「そこがまた面白い所なのですが、
…さて、お互い洗髪は終わった事ですし、次は身体を洗って貰いましょうか。勿論、私の後は貴方の方も洗ってあげますね。」
「はぁ!?まだやんのかよ!もう良いだろ、身体くらい自分で洗え!自分の身体も自分で洗う!」
というかこの状況もおかしい!出て行こうしたらこの宿のオババが脱衣所を掃除中だって言うし…あのオババの仕業か!
「何を言うのです。折角一緒にお風呂に入っているのですよ。勿体ないじゃありませんか。入隊前から一段と引き締まった貴方の身体をもっと良く見せてください。」
「変態かあんた!?俺にそんな趣味ない!あのなぁ!俺はもう数えで十四!
「全裸なんて今更ですよ?貴方が意識を失った最初の朝、一体誰が看病したと思っているんですか。」
「それとこれとは話が別だろ!あんたの方は良いのかよ、嫁入り前の身体を男に触られて!」
「それこそ成人前の男性に触られてキズモノになったなどと、少し
こんな生傷だらけの女、誰も貰いたがりませんよ。」
申し訳無さそうに眉を下げて笑う彼女に少しムカついた。なんだか自分が熱心に集めたビードロを、他人に石だと
「…んなこと無いだろ。」
口を尖らせて小さく反論した俺に、彼女は
「…何です?もしや見慣れない女体に興奮しているのですか?いけませんよ、桃晴。いくら年頃の
「
「は?」
やべっ、これは
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「全く、貴方はもう少し女性の扱い方を学ばなければなりませんね。」
二人の男女が同じ湯に浸かる。それだけではまるで
湯煙漂う石造りの露天風呂はかなり広い造りだが、二人の距離はそう遠くない。
女の方は長い髪が湯につかぬ様に頭を布で器用に覆い、肩口まで湯船に浸かってから、拳大の
「…さっき、貴方が言った"人は生まれつき悪人で罪人"と言う言葉。西洋では"原罪"という表現を用います。」
「明確な定義がある訳ではありませんが、人は生まれて死ぬまで罪を背負い続ける生き物だから、生きている間に清貧に過ごした者には、死んだ時くらいはその罪を不問にしてあげましょう、という思想です。」
「鬼は元々人間です。鬼舞辻によってある日突然魔に変えられた哀れな人達。我々鬼殺隊は鬼を殺して人を助ける組織ですが、元は普通に暮らす人だった者を殺して人を助けているとも言えます。そう考えると業が深いと感じるのは私だけでしょうか。」
だから、鬼が人を喰うのは罪ではなく、
ただ巡り合わせが悪かっただけなのだと
巌山峠岬は言う。
我が師ながら繊細な人だと思う。
愛が深いならぬ、愛が広い。
敵である鬼にまで分け与えるその慈愛を、
少しは自分に向けられないのだろうか。
博愛主義などとは良く言ったものだが、俺からすれば大事な人を奪われて怨みも抱けないというのは、許容し難い考えだった。
「…その生き方は、辛くないのか?」
「辛いですよ」
なんでもないかの様に言う師に、
俺は不思議に思う。
なぜそんな辛い思いを自ら背負うのか。
「人生とは苦しみを積み上げる巡礼だと、私は私を導いてくれた人に、そう教わりました」
「生きている限り自身が本当に求めるものは決して手に入ることはないとも。」
「…死んだら欲しいものが手に入るって?
…そんなの詭弁だろ。」
それじゃあ生きてる意味なんてまるで無いじゃないか。
そう俺が切り返すと、もう
誰かに想いを
短い黙祷を終えて、ふっと柔らかく微笑んで、俺に語りかける。
「いいえ、死ぬ時にはもう手にしているのです。ただ、生きているうちにそれに気づくか気づかないか。それだけです。」
細かい傷跡が残った自らの肢体を、
惜しげもなく月へ晒して語る言葉は、
気づくか、気づかないか。
それが最も重要なことで、多くの人が気づかぬまま最期を迎えるとも。
「あんたは、気づいたのか?
自分が本当に欲しいかったものに。」
「ふふっ、ええ。気づいていますし、
実はもう手に入れていますよ。」
さっき生涯手に入らないって言って無かったか?という突っ込みはせず、俺は師の話に付き合う。また女の扱いを
「へぇ、どんなものなんだ?」
「貴方です。」
「へ?」
「正確には、貴方や鬼殺隊の皆ですね。
私の大切な家族で、暖かい周囲の人達。
私の"本当に欲しいもの"をいつか必ず手に入れようと頑張っている人達。」
愛おしいものを愛でる様に、いつもみたいにおっとりした調子で俺にそう告げる。
自分だけが努力して手に入れるのではなく、誰かが自分と同じものを欲し、それを手にするその時まで、その夢を繋いでくれる同士。
果てしなく長い道のりには違いなくて、
掴めないまま終わるかもしれない夢。
なんだか
それを語る師の姿は誇らしげで、どこか儚げで、こうゆう悟った表情をする所が俺は出逢った時から苦手なのだ。
「あ、そういえばまだ手に入してないものがありました。」
思い出した、というように人差し指を立てたかと思えば、その指をそっと口元に当てて悪戯っぽい笑みを浮かべ、
"貴方が貴方の本当に欲しいものに気づく事"
です。
そう言って微笑む姿があんまりにも月に映えるから、なんだか自分は恥ずかしくなってついつい誤魔化してしまった。
「…二つも欲しがるとか、ちょっと強欲なんじゃねーの」
「そんな事ありません。欲しいものはいくつあったっていいのです。両の手で抱えきれるだけ
ふふん、と自慢げに語る師に、
自分は口じゃ一生勝てないなと思った。
「仏の道ってのはアレか?
弁舌が上手くなる教えのことか?」
「全く、年上には本当に素直じゃありませんね。偶には師匠をたててくれたっていいのですよ?」
「子供騙しが通じる歳じゃないだけだ。
…おい、頬を膨らませるな撫でるな引き寄せるな抱きしめるなー!」
鬼殺隊の夜は戦いの夜だ。
殺伐としているのが常であり、
こうしてゆっくりと語り合えるのは稀だ。
桃晴が
それ以外は特筆すべきことは何も無い、
けれど彼にとって何かが変わった、
そんな特別な夜だった。
異聞大正こそこそ小噺
お待ちかねのおねショタ回だよ!作者のチカラを振り絞った力作だったけどどうだったかな。当然一発は抜いてくれるよね。無作法だもんね!今回はオリキャラの岬さんの中身をかなり掘り下げたつもりだよ。ファンが増えると嬉しいな。
へ〜それでfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素はいつ出てくるの?
副題は岬さんの根底にある強さ、そしてこれからの桃晴君の強さになっていく、という意味でつけたんだ。原作のOPである『紅蓮華』ともシナジーがあって良いでしょ?
へ〜それでfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素はいつ出てくるの?
所々にタグにある他原作のオマージュを挟んだり、いろんな宗教や哲学に触れたりを楽しんで貰えたら嬉しいな。
へ〜それでfgoやら空の境界やらBLEACHやらの要素はいつ出てくるの?
次回。
へ〜、へ?
次回。
次回
「死の具現」