異聞大正怪異譚   作:てーけー。

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地獄とは平和の隣りにある、という話


奈落の様な瞳〜上〜

なんやかやとあって階級が"甲"になったことを伝えられた湯浴み後の会話。

 

俺は柱となるべくしてその就任式を執り行う為に産屋敷の屋敷にずっと前から呼ばれていたのだ、という話を山柱の巌山峠岬から知らされた。

 

いや、柱の条件は知っていたし、俺がその条件を満たしている事も知っていたが、産屋敷家というのは鬼舞辻から身を隠す為にその屋敷の位置を選ばれた人間(例えば柱とか隠の一部の人)以外知らされないし、度々屋敷を引っ越す。

 

屋敷内へ行くには色々と遠回りや準備をしなければいけない等の理由で日数を取られるため、行くのを敬遠していたのだ。

 

階級なんぞより俺は鬼殺を優先していた。

耀哉との約束で柱になると告げていたが、柱には現役の内にいつでも成れるしな。

 

 

 

元師匠である巌山峠岬の話では、元々"甲"という階級は無かったらしい。

 

鬼殺隊で階級を昇段するかは鬼殺隊の元締めである産屋敷家が鎹鴉の報告を元に精査し、その功績から癸から乙までの七段階で評価する。

 

"甲"という階級は「一定の功績だけが足りていない、実力が柱として劣らない立場」らしい。例えば、未だ下弦の鬼以上の鬼と戦ったことが無かったり、鬼を50体以上(たお)していなかったり。あとは柱の定員である10人が既に揃っていたり。ここ100年間でそんなことは無いらしいが。

 

 

そして俺の場合、功績も足りているのに就任式を執り行っていない、と。多分わざわざ山柱に伝手を頼んだのは耀哉の気遣いだろうけどな。

 

 

「就任式とやらはいつなんだ?」

 

「すぐにでも。緊急でもない限りは現役の柱が半数以上揃っている場合に新しい柱の就任が受理されます。今現役柱が6名なので、今回は3名以上ですね。私ともう一人の柱が居れば行えます。」

 

俺の就任式には山柱の巌山峠岬の他に、岩柱と炎柱立ち会ってくれる予定だそうだ。

 

少なっ、という野暮なツッコミはしない。

柱になるだけの才能など少ない方で、柱の殉職率もこの人に随分前から聞き及んだいる(隊士になる前の授業として耳にタコが出来るほど)。

 

 

「ふーん、じゃあ明日には出発するのか」

 

「そういうことです」

 

 

 

 

早朝の出発とあって俺達は早く寝る事にする。

 

 

 

 

しれっと同じ部屋で寝ようとした元師匠を締め出そうと躍起になっていたその時だった。

 

 

 

べべんっ

 

 

かなり近くで琵琶の音が鳴り響く。楽師が仕事をするには流石に遅すぎる時間帯だ。

 

それになんだか怖気が走る。隣りの山柱も同じ感覚がしたのか、お互いに頷きあい、隊服にサッと着替えて刀を取る。

 

 

鬼が出た。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その鬼と目が合った瞬間、

身動きが取れなくなった。

 

 

金縛りの血鬼術かと思い、

深く息を吸い込む。

今度は呼吸の仕方を忘れた。

 

 

 

「…みいつけたぁ。」

 

 

痴女みたいな格好をした童女の鬼が、そこに居た。

 

深い深い谷底の闇そのものみたいな瞳で俺を見つめて、目当てのモノを見つけたとはしゃいでいる。

 

 

何をしてんだ、俺。

動け。抜刀しろ。頸を刈れ。

鬼が目の前にいるんだぞ。

 

 

しかし身体は言う事を聞かず、

只々ガタガタと震えるばかり。

 

「…!?っか、……!?」

 

ダラダラと脂汗が滲み出る。

喉が渇いて変な音が出る。

何だこの鬼は。

今まで出会ったどの鬼よりもヤバい。

 

 

「ん?あぁ、ウチと目ぇ合ったばっかりに、息も出来へんのやねぇ。可哀想やねぇ。どれ、目合わさんでええ様に、

()()()()()()()()()()()()()

 

 

瞬きもしていないのに一瞬にして目の前に現れたこの鬼は、爪の尖った右手をゆっくりと俺の左眼に延ばして…

 

 

 

「山の呼吸壱の型 剛衝方天戟!!!」

 

 

後ろから強烈な一撃が飛んできた。

 

少女の鬼は飛び引いてこれを躱し、元の位置へ戻る。

 

 

「桃晴!大丈夫ですか!」

 

「…はぁはぁ、大丈夫だ。傷は無い。」

 

すんでの所で山柱の助太刀が入る。

もう少し遅ければ眼を抉られていた。

 

 

「目を合わすな!動けなくなる!」

 

「金縛りの血鬼術ですか」

 

「分からない。…だがアイツは何かヤバいぞ。」

 

「…ええ。この禍々しさ、これが上弦?」

 

「上弦の文字は無い…けど動きが速すぎて見えなかった。」

 

ヒヤリと背中に嫌な汗が伝う。本当に動きがまるで見えなかった。一瞬して間を詰められたさっきの事をを思い出して俺は慌てた様に抜刀し構える。

 

巌山峠岬は言われた通り目を合わさないように口元から上を見ずに鬼の様子を伺う。

鬼殺隊でも天才の部類に入り、既に柱となる予定の桃晴でさえ怯えた様子を見て、山柱、巌山峠岬は先程投げた槍の柄を掴み、構えを取る。

 

 

「上弦てアレやろ?無惨の手駒の。ウチはそんな名前とちゃうよ?

 

…奈落童子。よろしおす。」

 

 

雅な所作で挨拶を交わす鬼。

隙だらけだが突っ込めば死の予感がする。

 

「それに…血鬼術ゆうんはこうゆうのをゆうんとちゃうの?」

 

 

 血鬼術 千紫万紅神便鬼毒

 

 

トクトクと大きな杯から鮮やかな酒の様なものが溢れ出す。

 

零れ落ちた瞬間、草木は枯れ果て、燃え上がり、地面を腐らせ、辺りを侵蝕する。

 

 

「「…!!!??」」

 

 

俺達は後ろへ少しでも距離を取ろうと全速力で後退する。

 

 

「桃晴!山を降ります、着いて来なさい!」

 

「…ああ!」

 

 

あの鬼はヤバすぎる。

 

ジュワジュワと山林が腐っていく。

足下まで迫るソレを振り切れるまで後退した俺達は驚愕する。

 

 

「…山が」

 

「…一応宿屋の人達には皆、既に下山するよう伝えています。心配ないでしょうが、これ程の血鬼術は初めて見ました…」

 

 

ものの数分の出来事で山一つ無くなってしまった。否、溶けてしまった。

 

ぺしゃっぺしゃっと溶けた拍子に出た酒臭い有毒そうな煙の中から小さな影が歩いて出てくる。

 

 

「ふふ、ビックリした?ウチの酒はなぁんでも蕩かしてしまうさかい、小僧も呑んでみる?美味やで。」

 

奈落童子の後ろには文字通り草一本残ってはいなかった。なみなみと毒の入った先程の杯を口に当てがって嚥下すると、また俺達に話し掛ける。

 

 

「それにしてもそこの無粋な牝乳女(うしちちおんな)は小僧の(つがい)?…残念やわぁ。甘ったるくて不味そうやさかい、ウチの口には合わんやろね。」

 

「私と桃晴はその様な関係ではありません。貴方は何者ですか。」

 

「取り合うな師匠。糞ったれの鬼なのは確実だ。戦うぞ。」

 

「ああん、もう、せっかちやねぇ。遊ぶんもええけど、もちぃと語らうんも悪ぅないよ?名前は桃晴ゆうんやねぇ、ええ名前やんか?イケメンやし、ウチに(しゃく)でもしてくれへん?」

 

 

その綺麗な目玉もっと近くで見たいわぁ。

などと言う奈落童子。

 

俺は油断なく身構える。

 

 

風の呼吸参の型 晴嵐風樹

 

 

俺は出来るだけ広く地面を抉り取る様に全集中の呼吸を繰り出す。まずは戦闘を出来るだけの場を整える。

 

 

山の呼吸肆の型 金剛砕(こんごうくだ)き・十歩(じっぽ)()

 

 

続け様に巌山峠岬が突貫し、目にまとまらぬ速さの突きを繰り出す。奈落童子はそれをヒラリヒラリと軽く躱していく。

 

 

「ふふ、(ぬる)(ぬる)い。そんな突きじゃイけんわぁ。」

 

「…っく!」

 

 

一息連続の突きを全て躱してから間を詰めると、奈落童子は伸びきった岬の右腕を掴み取り、余った腕で岬の胴へ手刀を放つ。

 

 

風の呼吸弐の型 爪々(そうそう)科戸風(しなとかぜ)

 

 

横合いから桃晴の日輪刀が伸びる。

 

ガキィンと金属同士を叩き合った様な音を鳴らし、奈落童子を引き剥がす。

 

「ほっと、…危ない危ない。ふふ」

 

()()()()()をパッパッと払い、埃一つ付いていないその様に斬りつけた桃晴は驚愕する。

 

「(固すぎるっ!?斬りつけた俺の方が腕が痺れてやがる。)」

 

「…フォローありがとうございます桃晴。腕は無事ですか?」

 

「…折れてはいない。()がダメになりつつあるけどな。…硬さが尋常じゃない。マトモに打ち合ったら勝ち目が無いぞ、気をつけてくれ。」

 

「…日輪刀と打ち合って勝つ硬さ…ますます普通の鬼では無いですね。貴方は上弦の鬼ですか?」

 

 

腕の痺れを気にしてくれたのか、隣に立つ山柱が少しでも情報を聞き出そうと奈落童子に話し掛ける。

 

 

「ちゃうよってゆうたよ?まぁ、あの()()()()共の間じゃあ、〈上弦の零〉やんてけったいな呼ばれ方される時もあるけどなぁ。」

 

 

「…上弦の、零…」

 

「上弦は6体では無く7体…」

 

「ウチは好かんからこの呼び名使わんけど。小僧はウチの事、名前で呼んでな?」

 

 

"零"という事は"壱"より更に上の可能性がある。納得の強さだが動揺が隠せない。

 

 

最悪の想定が頭をよぎる。このまま戦っても今の俺達ではこの鬼に勝てないかも知れない。

 

かくなる上は…

 

 

「師匠、俺がしん…

「桃晴、貴方は即刻ここを離れてお館様へ報告へ急ぎなさい。殿(しんがり)は私が務めます。」

 

 

 

「…な、何言ってんだ!俺の方が残った方がいい!追って来て街に被害が出たらどうする!?」

 

 

「1つ、貴方の日輪刀はもう使い物にならない。どちらかがこの場に残らねばならないなら、戦える私が適任でしょう。

 

 2つ、追っては来ません。その為に私が残るのです。貴方は一刻も早くお館様の下へ急ぎこの事を報告し、可能であれば柱の増援を頼みなさい。鎹鴉だけでは不安です。

 

 3つ、今は私が上司。聞き分けなさい。

 

何か反論はありますか。」

 

 

「………。」

 

 

反論の余地は無いかも知れないが、だが。

 

だってそんなの、間違いなく死ぬ。

 

それだけは、嫌だ。

 

 

「…嫌、だ。」

「桃晴!行きなさいっ!」

 

 

ああ、チクショウ。

 

 

「…っくそ、待ってろ、すぐ戻る!」

 

 

師匠に背を向けて俺は走りだす。

 

 

 

「貴方は戻って来なくてよろしい。…己が信ずる道を征きなさい。」

 

 

 

 

そんな声が聞こえた気がするが、今は振り返る暇も惜しい。全速力で山道を駆け抜けながら、鎹鳩の旭丸を口笛で呼びつける。

 

「っ旭丸!この近くにいる柱、誰でもいい!見つけ次第応援を呼んでくれ!頼む!」

 

「クルッポー!」

 

 

バササッと翼を羽ばたかせて旭丸が飛び立って行った。

 

あとは俺がお館様の下へ…いや、近場の藤の家に遣いを頼もう。俺は戻るべきだ。柱を呼んでも二体一じゃ、さっきと状況が変わらない。三体一なら、…何とかなるかも知れない。何とかするんだ!戻って来るなと言われたが知った事じゃ無い!

 

 

 

 

 

 

 

「…お待たせしました。正直待ってくれると思っていませんでした。」

 

「…ふぁあ、終わったみたいやね。退屈やったけど、待った甲斐はあったからええよ。」

 

「待った甲斐?」

 

 

 

「…ふふ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

なんちゃって。

と戯ける鬼に私は冷静に相対する。

柱の一人として、私は鬼のペースに流されたりなどしない。何より…

 

 

「その様な事にはなりません。私が此処で貴方を倒しますので。」

 

「あはは!…なんでやろねぇ。あんたはんの事見ると、なぁんか(はらわた)煮えくり返りそうなるわぁ。」

 

 

 

ここに産屋敷家の公式の記録に、上弦との戦闘が数十年ぶりに更新された。

 

 

 




異聞大正こそこそ小噺

ああ、遂に物語が動き出す…
作者です。ビンビンにおっ勃ってたフラグが即刻回収された気分は如何でしょうか。私は涙無しには観れません。もうすぐ桃晴君が柱になりますね!楽しみだなぁ()次回チラッとイキ過ぎたホモ和…じゃ無かった悲鳴嶼さんがちょーっとだけでてきますよ。お楽しみに。

あとごめんなさい、長いので二話に分けます!

次回
「死の具現〜直死〜」
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