異聞大正怪異譚   作:てーけー。

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大切な者を失って覚醒する話


奈落の様な瞳〜下〜

「…南無」

 

 

真夜中の山道を物凄い速度で駆ける巨漢がいた。

 

名を悲鳴嶼行冥。

 

鬼殺隊きっての特化戦力である柱の一人であり、岩の呼吸の遣い手である。

 

また、類稀なる怪力の持ち主であり、その怪力たるやまだ呼吸法を知らぬ頃に鬼に襲われた際、夜通しその鬼の顔面を殴り潰した程である。

 

彼の怪力と身につけた岩の呼吸法はまさに天啓と言える程に適合していて、今では鬼殺隊の歴史上でも百年に一度の逸材と名高い。

 

 

そんな男が急ぐ理由は「上弦の鬼が出た」という情報を鎹鴉(鳩?)が現場に最も近かったとされる自分へ報せに来たからである。

 

 

「…"上弦"という情報は確かか、鳩よ」

 

「クルッポー!ホントウ、ホントウ!山柱トソノ元継子ノ劔桃晴ガ遭遇!山柱ハ殿ヲ務メ、桃晴ハお館様ヘ報告ニ向カッタ!デモ桃晴ハ多分山柱ノモトニ戻ル気ダ!コノママジャ二人共死ヌ!応援頼ム!応援頼ム!」

 

「…成る程、相分かった。」

 

 

上弦の鬼はここ百何十年と姿を見せていない、正確には姿を見て生き残った鬼殺隊がいないと言われる、常軌を逸した強さを持つ鬼である。

 

その強さは下弦の鬼以下とはまるで違い、柱であってもコレに打ち勝った記録は無く、数百年と上弦の顔ぶれは変わっていないのだという。

 

自分達鬼殺隊の最終目標は鬼舞辻無惨の討伐であり、まずもって上弦を倒さないと話にならない。

 

自身の先輩にあたる山柱と言えど、一人では相手はキツいかも知れない。急ぐべきだ。

 

元継子とやらはどうやら山柱の命令を無視してしまった様だが心配になったのだろう。それも仕方の無い事だ。何せ相手は今まで会った事もない上弦。上司の命令に反するは隊規違反だが、あの山柱の元継子と聞いている。居ても足手纏いにはなるまい。

 

自身に報せを伝えた鎹鴉ならぬ鎹鳩の後を追う形で山中を走る。

 

恐らく自身にしか完璧に操れないだろう斧と鉄球が鎖で繋がれた特殊な日輪刀を両手に構え、いつでも戦闘を行える準備を整えている。

 

 

 

 

 

鎹鳩が木に止まった。

どうやら此処に居るらしい。

 

 

自分は目が見えないので気配を探るが、鬼の気配は弱っていた。コレが上弦なのか…?

 

しかし弱った鬼の気配と共に、これまた衰弱して今にも消え入りそうな人の気配も感じとる。山柱かその元継子か?

 

このままでは危険な事を察知して鬼とその人物の間に勢いよく割って入る。

 

 

 

「…あら、なんや邪魔が入ったねぇ。やっぱり今宵はここまでかなぁ。」

 

 

千切れた自分のモノと思しき左腕を拾い上げると、京言葉を使う二本角の少女の鬼はその重傷からは想像も出来ない程余裕の笑みでそう言って、プラプラと拾った腕を玩(もてあそ)ぶ。

 

対象的に行冥の背中に後する人の気配は、近くへ行けばそれが男子のもので、今にも意識を失いそうな程出血多量であることが身に纏う匂いと弱った呼吸音で判った。

 

 

「…まだ間に合う。少年よ、まだ意識を保てるか?」

 

 

「…す、…こ、…ろす」

 

大木に背を預けて手足も動かせないほどボロボロになって尚、「殺す」と呟いて殺意を眼前の鬼へ向ける少年に、行冥は哀れみよりも寧ろ感嘆の念を抱く。

 

 

「(この状態にしてまだ戦意があるか…すぐに治療すれば間に合うだろう)」

 

「…腕を生やさないのか、鬼よ。」

 

 

ふと疑問に思った事を口にする。須(すべから)く鬼は瞬く間にどんな傷も再生する能力を持つ。頸を断たねば意味をなさないからこそ、この日の本で脅威をふるうのだ。

 

 

「ふふっ、そんなんあの鬼もどき共だけ。ウチはアレらとは根本的に違うからなぁ。再生やなんてずっこいチカラ持ってへんよ?そん代わりそないな量(・)産(・)品(・)の(・)な(・)ま(・)く(・)ら(・)刀(・)で斬られるほど柔らこぉない…筈なんやけど、そこな小僧には斬られてしもたわ。あははっ、可笑しいねぇ!」

 

 

愉しそうに女の鬼は破顔(わら)う。

 

彼女は懐に千切れた腕を仕舞い込むと、足下にに突き刺さった刃こぼれだらけの日輪刀の刃先を右腕の指でつまみ取り、鑑定する。

 

 

「ホンマになまくらやし、コレは小僧の方に理由が有りそやねぇ…」

 

「…何の話だ?」

 

「ふふ、あんたはん、そこな小僧ちゃあんと治療したってな?特にその碧い左の眼(まなこ)は潰したらあかんよって。ウチはこれで帰るさかい、頼んだよ?」

 

「逃がすと思うか」

 

「あははっ、あんたはんもウチと遊びたいん?けど駄ぁ目。ウチもう胸も腹も満たされたし。あんたはんもイケメンやけど、ウチ今は小僧に夢中やねん。せやから…

 

 

 

 

邪魔、したらあかんよ。」

 

 

 

 

最後の言葉だけは歴戦の行冥でさえゾッとするような声色で、思わず冷や汗が垂れた。

 

グッと両手の日輪刀に力が入る。

 

しかし次の瞬間には鬼は消えていた。

 

べべんっと響いた琵琶と共に。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

時は戻りとある山中。

 

桃晴は鬼を前に嫌な予感がした。

 

溶け落ち、あちこち崩れた戦場を背景に、

桃晴はつい先程戻ってきて、目の前の悪鬼へ疑問を呈す。

 

 

「…おい、お前。

 …師匠は、何処に行った…」

 

「あ、来た来た。…小僧、"お前"やのぉてちゃんと名前で呼んでぇや。寂しいやんか。」

 

 

ふふふとふざけて破顔う女に同じ質問をする。

 

 

「…答えろ。師匠を何処にやった?」

 

「…ふぅん、そないな態度とるんやねぇ。じゃあこうしよか。ウチの名前呼んでくれたら、あの牝ちち女(うしちちおんな)が何処行ったか教えたるわ。」

 

 

「答えろっ!!奈落童子ぃ!!!」

 

 

「はい、あげる」

 

 

ポンと掌サイズのナニかを投げられた。

 

悪意のカケラも感じられなかった行動に、桃晴は思わず両手で投げられたモノを受け取ってしまう。

 

 

腕の中に収まったモノは、

 

 

自身の師の生首だった。

 

 

昏い瞳を半開きにして、少し口を開いて冷たくなっている、変わり果てた恩師が、腕に収まっていた。

 

 

「…あ、ああ…」

 

「四肢は甘くてなかなか美味かったよ?乳から下は脂っこそうやったから溶かしてしもたけど。」

 

 

「ああああああああああああああああ」

 

「悲しい?怖い?ウチのこと嫌いになった?」

 

あははははっ

 

愉快に破顔うこの鬼に殺意がはち切れそうになり、同時に恩師の危機に間に合わなかった自分を情けなく思う。

 

 

「…なんで…ああ、何も、まだ、返せて無いのに…あああああああああ」

 

「泣いてるん?可哀想やねぇ。

 …泣き顔もかぁいらしいねぇ。」

 

 

奈落童子がニタニタと嫌らしい笑みを浮かべる。

 

 

「…テメェみたいなのが居るから…」

 

「うん?なぁに?」

 

 

「オマエらなんか根絶やしにしてやる」

 

 

ドクンと心臓が止まる。

 

左の視界に"奇妙な線"が迸る。

 

ギシギシと身体が硬くなっていく感覚と頭の先から血の気が引いていき、体温が冷めていく。

 

しかし左の視界はぐらりとゆっくりとしたモノでまるで残像の様に奈落童子含め全ての物体が揺らぐ。

 

自分が遅くなったのではなく、コレは自分が早くなったのだ。あの下弦の参、鐚梵天の時と同じ感覚。覚えている。長くは保たないがこれなら新しく開発している途中のあの呼吸で、

 

コイツを殺せるっ!!

 

 

 

 

剣の呼吸壱の型 剣禅一如

 

 

「…あはっ」

 

 

ギャリンッ

 

一瞬で詰め寄った桃晴が、凄まじい速度で奈落童子の首へ一太刀。右腕で受け止められてしまうも、最初に打ち合った時とは違い、その腕には刃が食い込んで血が飛び散った。

 

 

奈落童子は桃晴の日輪刀を払うと少し距離を取り、斬られた腕から出た血をぺろりと舐める。

 

 

「あらら、斬られてしもた。小僧、その碧い眼ぇ、キラキラ輝いてから動き変わったねぇ。面白いモン持ってるやん?もぉっと魅せてぇ?」

 

目つきを更に嫌らしいものに変えて、悪鬼が恐ろしい速度で襲いかかる。桃晴は最初に相対した時には反応すら出来なかった奈落童子の動きを今度は見切り、躱して返す刀を浴びせようと技を繰り出す。

 

 

 

剣の呼吸参の型 無明三段突き

 

 

 

見える!動く!斬れる!殺せる!

 

桃晴はかつて無く研ぎ澄まされた視界と身のこなしで奈落童子へ横合いから突きを入れる。刃こぼれの激しい今の日輪刀では斬撃とり突きが有効と判断した。

 

奈落童子は桃晴が放った突きをその鋼鉄の如く硬い手で掴み上げようと腕を伸ばし、

 

 

彼女の掌を日輪刀が貫通した。

 

即座に飛び引き、回避に専念する。

 

二の突き、三の突きが空を穿つ。

 

 

笑みはそのままに、更に興味を持ったのか、奈落童子は愉快げに高笑いをあげる。

 

 

「あははっ、強ぉなったねぇ桃晴。そないにあの女気に入ってたん?」

 

「うるせぇ、殺す。殺す殺す殺す!」

 

 

激昂する桃晴を他所に、奈落童子はボタボタと血が滴る右腕に付けられた傷痕を視る。

 

 

「…傷が塞がらんわぁ。ウチも鬼やさい、人間よりは回復早いんやけどなぁ。やっぱりその目玉、なぁんか秘密ありそやねぇ。」

 

 

奈落童子は背中に左腕を回すと、するりと自身の身体以上の大きさの大剣を握って出してきた。

 

 

「これ、ウチの武器(えもの)。頑丈やさかい、そんなまくらじゃ何合打ち合って保つやろねぇ。…どぉする?桃晴。」

 

「次で殺す」

 

「あはっ、強がってもあかんよ。

 次(・)ま(・)で(・)し(・)か(・)保(・)た(・)ん(・)ね(・)や(・)ろ(・)?(・)」

 

 

笑みを深める奈落童子。

 

その推測は正しいもので、桃晴は既に限界を越えて肉体を動かしていた。

 

この眼は使えば心(・)臓(・)が(・)止(・)ま(・)る(・)。必然呼吸が出来ず、時間が経つにつれて酸素が足りなくなって視界がぼやけ、身体も硬直する。

 

既にこの感覚は経験済みだが、誰にも言っていない。

 

だが、この眼に映る線や点をなぞる様に力を加えれば、豆腐を切る様にあっさりと切断できる。切断面は鬼でも容易に再生出来ない。

 

その事は実証済みだ。

 

死(・)に(・)近(・)づ(・)く(・)事(・)を(・)代(・)償(・)に(・)莫(・)大(・)な(・)チ(・)カ(・)ラ(・)を(・)生(・)み(・)出(・)す(・)魔(・)眼(・)。

 

 

剣の呼吸漆(しち)の型 汎式・直死

 

 

桃晴はこの眼を"直死"と呼ぶ。

 

 

「…今日の所は次の一撃で終わっとこか。

 寂しいけど、またね桃晴」

 

「ここで死ね!!!」

 

 

剣の呼吸伍の型改(あらため) 直死・倶利伽羅天象

 

 

月夜に二つの影が重なる。

 

勝敗は決した。

 

 

 

 

 

 

明治37年5月31日

山柱巌山峠岬及びその元継子劔桃晴が

上弦の零 奈落童子と遭遇。

岩柱悲鳴嶼行冥が増援し、これを撃退。

負傷者一名、死亡者一名。

 

死亡者 巌山峠岬

 

 

 




異聞大正こそこそ小噺

オリキャラは殉職するもの。都合が良いからでは無くコレもフラグの一部だと思おう。重要そうなキャラクターでも容赦なく死んでいくハードな世界観、ソレが鬼滅。むしろ味が増してるのか?まぁ、ソレは良いとして岬さんは此処でオサラバですね。追悼はしっかりしてやるからな…

長ったらしさは作者の悪癖ですが、付き合ってくれる読者の皆様には感謝を。薄々気付いてきた方はいるだろうか?桃晴君に関わるとロクな事にはならない。主人公の運命力が試されてると言えますが主人公は炭治郎なんだぜ。不運に見舞われるのは当たり前だよなぁ?その内黒塗りの高級車とかにもぶつかってくれるのだろうか…


奈落童子の血鬼術はfgoの宝具そのままって感じではありますが、一応オリジナルの血鬼術とか用意してます。出すかは分かりませんが…

桃晴君のまだ未熟な剣の呼吸が少し出てきました。完成度がまだまだ低いこの呼吸も時系列をすっと飛ばしてめちゃくちゃ強くなっていきますのでお楽しみに。fgo大好きなのでドンドン宝具もどき出していきたい。燕返しとか超かっちょ良いし。




ここまでの時系列(簡略版)

桃晴君、12歳で家族全員鬼に殺される
(因みに原作開始10年前)
↓
桃晴君、山柱とお館様に出会う
↓
桃晴君、13歳で鬼殺隊へ入隊
↓
桃晴君、初任務で継子を剥奪される
(多分この位の時に悲鳴嶼さんが柱に)
↓
桃晴君、若干15歳一年で乙に(甲)
(この辺りで義勇の最終選抜)
↓
桃晴君、師と和解
↓
奈落童子に師を殺され覚醒するも敗北
↓
次回
「主人公、遂に柱へ。」
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