異聞大正怪異譚   作:てーけー。

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間話休題

〜産屋敷邸〜

 

 

 

庭先に満開の藤の花が薫る縁側。

綺麗に並んだ白い庭石との対比が美しい。

池には錦鯉が悠々と泳ぎ、水のせせらぎと鹿威し(ししおどし)の軽く響く音が心地良い。

 

麗しい男女が一組散歩をしている。

 

 

「…鎹鴉から報告は聞いているよ。

 …岬のことは残念だった。」

 

「…山柱様は4年間も柱を務めた古株(ベテラン)。五代流派の一つである岩の呼吸の遣い手として、かつてない程の活躍でした。元十字教の巫女(シスター)としても学があり、寺子屋で教師も兼任してくれて。産まれたばかりのひなき達にも、本当によくして頂いていました…」

 

 

「そうだね。ひなき、にちか、輝利哉、くいな、かなた。五つ子達の名前を共に考えてくれた恩は忘れ難い。」

 

 

それと、と耀哉は続ける。

 

ここからが本題という様に。

 

 

「唯の戦死じゃない。彼女は鬼殺隊として大きな成果を挙げたよ、あまね。」

 

「ええ。上弦の鬼。出現したのは記録上では実に数百年ぶりでしょうか。それも上弦の零、奈落童子。」

 

 

 

「ああ、だがそれよりもだよ、あまね。彼女の最大の成果は、上弦が撤退する程の傷を残す隊士を、鬼殺隊(ここ)へ導いてくれた事だ。」

 

「…桃晴様、ですね。」

 

 

劔桃晴。

今年15になる新進気鋭の鬼殺隊隊士。

産屋敷耀哉無二の親友。

産屋敷に拾われてからというもの、一所懸命な努力と史上類を見ない呼吸の才で、基本となる五流派全ての呼吸法を僅か一年で修めた鬼才(この言葉はあまり使いたく無いが)。

山柱の元継子で、現役だった彼女直々に鍛え上げられた原石。

最近では新たな呼吸法を独自開発しているらしく、その完成形が待ち遠しい。

 

確実に鬼殺隊の新たな光となってくれる存在である。

 

 

「そうだっ!やはり彼は特別だ!全ての派生の呼吸を使いこなすという時点で普通では無いと気付いていたが、まさかここまでとはっ!ああ、ありがとう、よくやった桃晴!やはり君は鬼殺隊の希望となる剣士だ!…っ、ぐっうぅ…」

 

 

朝日に手を伸ばし、後ろ一歩を歩く自らの妻へ興奮気味に語る耀哉は、言い終わるとゲホゲホと血の混じる咳をする。

 

すぐに妻が駆け寄り、背中をさする。

 

 

鬼舞辻の呪いは依然変わりなく彼の身体を蝕み続けている。最近では遂に額に呪いの証が侵食し、その命散らす日が確実に近づいている事を如実に表すかの様だった。

 

 

「…あなた、お身体に障りますのでこれ以上は興奮なさらないで下さいまし。」

 

「…ハァハァ、ふふ、これが興奮せずにいられるものか。相手は上弦の零だった。最も鬼舞辻に近い鬼だ。つまり証明は出来た。私の子供達の刃はあの鬼舞辻に届くとね。」

 

 

約1000年。

これは予兆だ。

その時が遂に来たと、

興奮冷めやらぬ様子で耀哉は言う。

 

 

「…しかし桃晴様が上弦の零に付けた傷が再生していなかったと、岩柱様が直接伝えに来られたとか。…一体どういう事なのでしょうか。」

 

 

桃晴の付けた傷が回復しなかった、

という岩柱悲鳴嶼行冥の報告。

間違いなく事実なのだろうが、それはあの鬼の方に問題があったのか。

 

否、と耀哉は思い、あまねに自身の見解を伝える。

 

 

「…上弦の零、奈落童子が去る前に〈特に左の眼は潰さぬようしっかり治療しておけ〉と言い残したらしい。…これは桃晴の左眼に何かあると見ていいだろう。」

 

 

敵の言葉を真に受けるつもりではないけどね。

と付け加えておく。

 

 

「…彼の傷が癒え次第、呼び出して聞き出しましょうか?」

 

「…いや、まだだ。まだその時ではない気がする。…それに彼と私は親友だ。彼の大事な事は彼の口から直接聞きたい。私は桃晴を信じる。」

 

 

吐血した血を拭って答える耀哉。

自信と確信に満ちた回答で迷いは無いと言った感じだ。

 

 

「承知しました。この事は内密に致しましょう。」

 

「いつもありがとう、あまね。」

 

「いつでも頼って下さいね、あなた。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

時は遡り明治三十某年。

 

 

「岬さん!見てください。私の階級もう(つちのえ)まで上がったのよ!岬様のおかげね!」

 

(わたくし)のお陰ではありません。貴女が頑張っているからですよ、カナエ。」

 

「ウフフ、ありがとう岬さん。見て、しのぶも(かのと)になったの!しのぶもとっても頑張ったのよ!」

 

「…やめてください姉さん。姉さんと比べられたら私なんて…」

 

「あら、比べてなんてないわ。しのぶは他の隊士より非力だけと、それでも鬼を倒せる工夫をしているじゃない。それってしのぶがとっても努力した証よ?」

 

「そうですよ、しのぶ。最近になって突きをメインにした技で構成した独自の呼吸法を研究しているとか。貴女達の研鑽も成果も、柱やお館様の耳にキチンと入っています。(わたくし)にとっても鼻が高いです。」ナデナデ

 

「…あ、頭を撫でないで下さい。恥ずかしいです。」

 

「ウフフ、しのぶは可愛いわねぇ。私も撫でちゃおー」ナデナデ

 

「も、もう姉さんまでっ!」

 

 

女三人集まれば姦しいとはよく言ったものだが、そこにある光景は男達にとって悩ましいまでに美しかった。

 

麗しの美人と可憐な美少女が二人。

 

 

 

「…桃晴も貴女達みたいに可愛げがあれば良いんですがね。どうしてああも捻くれてしまったのでしょう。」

 

「岬さんたらまたその人の話?いい加減仲直り出来ないの?というか、命令違反で継子を剥奪されたのは向こうの落ち度じゃない。岬さんがそこまで気にする事かしら?」

 

 

頭を振って岬は答える。

 

 

「いえ、(わたくし)は別に継子の件を気にしているとか怒っている訳では無いのです。…ただ、あの時言い過ぎてしまったのなら謝りたい、というか…」

 

 

「以前までの様な関係性に戻りたいのよね?岬さん。」

 

分かっているわ。とカナエが言う。

 

「…ええ。師弟だった頃の様に、私が(たしな)めて、あの子が口答えして、仲良く喧嘩して。…そういう関係に、戻りたいのです。…あの子が嫌なら、無理強いはしませんが。」

 

「岬さん…」

 

「ウフフ、きっと彼もそう思っているわ!会う事さえ出来れば必ず仲直り出来ると思うの。今は少しすれ違っているだけよ。」

 

カナエが胸に手を当ててそう言ってくれる。

 

しのぶも同じ考えの様で、私の腕に触れて慰めてくれる。

 

 

本当に良い子達だ。美人で気立ても良いなどと、もう少しあの子にも見習って欲しいくらいに。

 

 

ありがとうございます。と岬は二人に感謝を告げると、カナエは安心して話題を広げる。

 

 

「その内私達にも紹介して下さいね。桃晴君、岬さんのお弟子だったんだもの、きっと私達とも仲良くなれるわ。」

 

 

私達も岬さんの寺子屋の生徒だったのだし、兄妹弟子の関係になるのかしら。

 

なんて口にするのを、少し微妙な表情で岬は返す。

 

 

「あーはは、…ど、どうでしょうね。紹介する事はやぶさかではありませんが、仲良くなれるかは保証しかねます…」

 

 

カナエから目を逸らす岬に、今度はしのぶが疑問を投げ掛ける。

 

 

「?岬さんにしては歯切れが悪いですね。根はとても良い子で優しい子だといつも他の生徒にも自慢しているじゃないですか。」

 

「う、うーん、あの子少々皮肉屋な所がありまして。年下の子供達には良いお兄さんであろうとするのですが、逆に同年代と年上には本当に素直じゃないというか。今歳は15を迎えてしのぶには優しいでしょうが、カナエには生意気に映るかも…」

 

「それ唯の思春期では…?」

 

(わたくし)と出会った当初からそんな感じで…性根を矯正しようとしたのが逆に良くなかったのかも知れません。カナエ、本当は良い子なので仲良くしてあげて下さいね?」

 

「ウフフ、もちろん。任せてくださいな、岬さん。」

 

 




異聞大正こそこそ小噺

さて一方、この時期に錆兎くんが死んでしまう最終選別が行われていたよ。桃晴くんとは会うキッカケも無いしここはスルー。ファンの人達にはすまん。というか義勇的には錆兎が生き残ったら水柱になってたんだろうか。

閑話休題ならぬ間話休題という事で、ちょっと桃晴君とヒロインの初邂逅は次回へ持ち越し。すまん。

胡蝶姉妹は実は岬さんの寺子屋の生徒だったという話も盛り込んでおります。岬さんが寺子屋開いてたのも初出しなんですが。寺子屋開いてたというよりは、産屋敷家に頼んで孤児院の様なものを開いておりました。そこで元々教会で教養を学んでいたシスターだった経験を活かして教師をしていた、という設定です。柱なので忙しいですから、臨時講師的立場ですが。勿論生徒からは慕われていました。孤児院の子供達は成長すると藤の家紋のお店へ働きに出たり、鬼殺隊に入隊したり行先は様々です。この孤児院が後の蝶屋敷となるという裏設定もあったりします。


では今回はここまでということで。
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