「コラァ! 待ちやがれ!!」
午前の太陽が爛々と輝く中で、両手一杯にパンを抱えて逃げる悪童が一匹。彼が何者なのかはその場にいる誰にでも分かった。痩せた子供でマトモな服も召してない……。この時代では珍しくも無い捨て子だろう。生き残るために盗みを働いたのだろう。だがそんなことはこの店の店主には関係ない。薄汚いコソ泥に大事な商品を盗られたとあっては生かして返す理由などない。
「捕まえたぞクソガキぃ、ぶっ殺してやる!」
子供と大人の体格差は簡単に覆せるものではない。遂に後ろ首を捕まえられてしまった。店主は少年を地面に叩きつける様に放り、足で何度も踏みつける蹴りつけるを繰り返した。
「このっ、コソ泥が!生きるっ、価値のねぇっ、ゴミが!死んでっ、詫びやがれ!」
うずくまって暴力を受ける少年は、「痛い」も「やめて」も言わず、ただ周囲の視線を感じ取っていた。
可哀想に。と憐れむ貴婦人がいた。
憐れむだけで、どーせ何もしない。
汚いガキだ。と蔑む商売人達。
テメェらの金勘定のが汚ねぇよ。ばーか。
見ないフリをする検非違使が通り過ぎた。
へっ、お勤めご苦労さん。
一通り暴力を振るった店主はうずくまる少年を尻目に、先程まで子供が抱えていたパンを拾おうとする。
「ったく、もう売れねぇじゃねーか。汚ねぇガキの触ったパンなんてガッ!!??」
目を離したのも束の間、先程までうずくまっていた少年が店主の股を後ろから蹴り上げた。店主が泡を吹いて崩れ落ちると同時にサッと落ちたパンを拾い上げて少年は逃げていった。
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「ふぅ、鈍間なそうな奴を選んだつもりだったんだけどな……」
傷だらけになった身体をさすりながら、街の路地裏に隠しておいた少年が大きな風呂敷包みに持ってきたパンをねじ込む。
少年の名は
「これだけあれば1週間は食い繋げるだろ。さてと、…帰るか。チビ共が待ってる事だしな。
少年は先程までの様子とはうってかわって明るい声を出して優しく微笑むと帰路についた。少年は捨て子達の長男だから、一緒に住む子供達を食やせてやる為に頑張らねばならないのだ。
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(桃晴視点)
〜村外れのあばら屋〜
「ただいまー」
街を出て翌日の早朝まで歩き通しでやっと帰宅した俺は、ギッシリ中身の詰まった風呂敷包みをドスンと床に置く。ふい〜もう超疲れた、いや、マジで。
「兄さん、お帰り。」
「桃晴お兄、お帰りなさい。」
「桃兄ちゃん、おかえりー」
「お帰りなさい!ももにー!」
「「お帰り、桃兄!」」
「兄ちゃん、おもちゃ買ってきたー?」
「オイラお菓子がいいー」
「オレもー」
「桃にー抱っこして!」
「ずるい!ワタシもワタシも!」
「…zzzz」
ハハハ、ただいま可愛い兄妹達よ。少し静かにな、輪太郎が起きちゃうから。オモチャもお菓子も買ってきたから落ち着けー。順番だぞ。
この子達は俺の家族で兄妹。皆捨て子で本当の血は繋がってないが、確かな絆で結ばれてる。上から紹介しよう。
次男の
長女のお春。今年で8つ。まだ8つにしては落ち着きがあり、笑顔が綺麗なウチの女衆の一番上。将来は別嬪さんになるだろうなぁ。
三男の
次女の
四男と三女のあおとあい。2人とも今年で6つになる双子。容姿だけじゃなくて動きも鏡合わせみたく同じ。どっちも人形みたく美形だ。将来は美男美女になるだろうよ。
五男の佐助、六男の茂吉、七男の新太。3人は今年で5つ。やんちゃな盛りの坊主共。いつも3人で日が暮れるまで冒険ごっこをしてる。沢山食って遊んで寝て大きくなれよ!
四女の秋葉と五女の冬香。2人とも今年で5つ。一番俺に懐いてるんじゃないかな。よく抱っこをせがまれるし、将来は俺のお嫁さんになるって言ってたしな。どっちも将来は確実に美人になるだろう。
最後に八男の輪太郎。まだ赤子だ。最近拾ってきた捨て子。あまり泣かない利口な子だが、赤ん坊は泣くのが仕事だぞ。
とまぁ、ついつい紹介が長くなったが、俺含めて今は13人の大所帯だ。食わせるのもやっとの状況だが皆で仲良く暮らしている。素朴な幸せってのはこーゆー事を言うんだろうな。
「兄ちゃん!ボーっとしてないでさ、早く座ってメシにしよ!久しぶりに皆揃って食べられるんだから!」
「おう!そうだな。まずはメシにしよう。家族揃ってのメシの方が美味いからな。」
そう言って俺は抱っこしていた秋葉と冬香を下ろし、
「秋葉、冬香。桃晴お兄は疲れてるから、…程々にね?」
「「はーい、春姉。」」
良いんだよ、お春。もう疲れは吹っ飛んだから。本当は甘えたい年頃だろうに、長女だからかしっかり者に育ったお前にも簪を買ってきてやったぞー、安物で悪いがな。
「…もう、無理しなくていいって言ってるのに。…でも嬉しい。ありがとう桃晴お兄。」
「無理なんかしてねぇよ。もっと我儘言っていいんだからな。兄ちゃんお前らの笑顔が見れるだけで嬉しいから。」
この子達は近くの村から出ない様に言い聞かせている。山一つ越えた先の街で盗みを働く俺と関わりがあると嗅ぎ付けられないためだ。
勿論別の街では出稼ぎもしているが、稼いだ金は半分ほど子供達への贈り物代に消える。
本当は食料まで全部自分の働いた分だけで食わせてやりたいけど、…ごめんな、こんな兄ちゃんで。
「よし、メシ食うぞ!メシ!兄ちゃん腹減った!」
「うん、そうしよう。」
「桃晴兄は何食べる?」
「メシだー」
「ごーはん!ごーはん!」
「「美味しそー」」
「オイラこのでっかい芋もーらい!」
「あ、ずりーぞ!オイラもー」
「オレも!」
「ケンカしちゃダメよ、ね?桃にー?」
「桃にーは何食べるー?」
「……ぁうー」
こうして桃晴一家の朝餉の時間が始まった。
また暫くは穏やかな日々を過ごすことになる。金もなく、家はボロボロで、備蓄もそこまでない、とても余裕がある生活とは言えないけれど、素朴な幸福が確かにあった。
幸せが崩れる時は、いつも血の匂いがする
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(桃晴視点)
それからしばらくして、食料の備蓄も尽きかけていたので、俺は山一つ越えた先の街へ出稼ぎに向かった。大晦日を控えるこの時期は書き入れ時だ。多くの人の財布の紐が緩み、正月に向けて備蓄を蓄えようとする。必然物価も上がるが、その分給料も上がる。俺がさっきまで働いていた店も同様。今回はいつもより多めに稼ぐ事が出来た。
「…盗みをしなくても済んだのはありがたいな。」
俺も人間だ。盗みに対して罪悪感はあるし、やらなくて良いならやらない。ただ兄妹を飢えさせる位なら泥を被る事に躊躇いが無いだけだ。
ダメだ、少ししんみりしてしまった。日が暮れてしまったからかな?いや、それよりも書き入れ時だからと出稼ぎの最終日にいつもより遅くまで働いていたからだ。疲れが溜まったのだろう。
「出先で芋を沢山貰ったから、皆喜ぶだろう。瓜助の好物の南京も手に入ったし、帰ったら煮付けを作ってやろう。少し遅くなったのも謝らなくちゃな。」
ウチはもう目の前だ。暗い考えはやめよう。兄妹達の前では明るく優しい兄ちゃんでいなければ彼らを不安にさせてしまう。
だから俺は気持ちを切り替えて、兄妹達に兄の帰宅を告げようとあばら屋を前にした。その時だった。
妙な違和感があった。
おかしい。
いつも家の外まで漏れている兄妹達の話声がしない。
おかしい。
変な匂いがする。この辺りではこんな匂いはしない。でも、何処か嗅ぎ慣れた匂いだ。これは確か、俺が街に居る時に、盗みをして捕まって、それで制裁で殴られたり蹴られたりした時の………。
………血の匂いだ。
俺は古くなって腐りかけている木の戸を強引に開けて兄妹達の無事を確認しようとした。
そして見てしてしまった。
そこら中に飛び散った血と光を失った目で此方を見つめる次男の柿二郎、…の頸。辺りを見渡せば、まだ幼い子供の腕や脚、そしてそれらを曲がれた胴体が
「……あ。……え?」
目が眩む。
なんだコレは。悪魔にしてはタチが悪いにも程がある。夢なら覚めてくれ。早く兄妹達と会いたい。全員抱きしめてあの子達の温もりを確かめたい。
鼻が曲がる程充満した血の匂いに吐きそうになるのを堪えてあの子達だったものに歩み寄る。途中でグチュグチュと不快な音をたてる湿った何かを踏んだ気がするが気にしない。
震える手で横たわる柿二郎の頸を抱きしめると岩でも抱いているのかと思う程冷たくなっていた。
「……そんな、……そんな、そんな事って……なん、…で……だっ、だって、…熊除けも、…猪除けも、この辺りは……全部…」
村から少し離れた場所だが害獣除けは完璧だったはずだ。なんだったら探さないと人に見つからない様な工夫だってしていたんだ。熊も猪も、ましてや辻斬りに遭う可能性だって考慮して場所を選んだのに。
「…あん?…おい、何だお前。同業か?」
俺が入ってきた入口に、誰かが立っていた。
よく聞き取れなかったが、振り向けば月の光で映る人影で大人の男だと分かった。
「ここは俺様が先に見つけた。その頸も置いてけよな。俺様の非常食だ。歳が食い過ぎてるし男だから食指は動かんが、腹の足しにはなる。」
何を言ってるのかわからない。
ひじょうしょく?しょくし?はらのたし?
「そいつ以外の肉は美味かったぜぇ。何せ全員七つを越えない女子供と来た。まさに俺様の好物ドンピシャ!特に女と赤ん坊!ギャハハ!」
「…なんで、…笑ってんだよ…」
「ああ?…んだよ良く見りゃ人間の餓鬼じゃねーか。そこら辺血塗れで匂いと人相じゃ気づかなかったぜ。ギャハハ!…んー、お前、不味そうだなぁ。チッ、非常食の方かよ。しかも男!ツイてねーなぁ。」
何だコイツは。
何がそんなにおかしいんだ。
何でコレを見て平気な顔してられるんだ。
「全員食ったって……赤ん坊も…ここに居た全員…食った?……は?」
俺が消え入りそうな声で呟くと、男はニヤリと、その鋭い歯を見せて興奮した様子で捲し立てた。
「ギャハハ!いいねェいいねェ!七歳を迎えると肉は不味くなるがァ、そォゆう顔が見れるのがオマエら人間のいい所だァ!聞かせてやろーかァ!?一番最初はオマエの持ってるソイツからぶっ殺したァ!理由は一番不味そうで一番気に入らない目ェしてやがったからだァ!そしたらよそしたらよォ!全員怯えた表情でよォ!歯をガタガタ震えわせながら腰ィ抜かしてやがったァ!中にはションベンちびってる奴もいたなァ!ギャハハ!そっからは傑作だァ!一番背の高ェ歳食ったメスの足をチョン切ってェ!そのメス残して一人ずつゥ!じっくりと足から一寸ずつ輪切りにして食ってやったのよォ!最後まで残されたメスの方はゲロ吐きながらワンワン泣いてよォ!生き絶える寸前まで「モモハルお兄!モモハルお兄!」って喚いてやがったァ!さいっっこうに愉しかったぜェ!!!!!!!!!」
「テ"メ"ェ"ェ"え"え"え"え"え"!!!!!」
殺してやる殺してやる殺してやる!!!!
桃晴は懐に隠したガラス片(街での盗みの際に、捕まって殺されそうになったとしても逃げ出せる様に忍ばせた物だ)を取り出して男に向かって飛び掛かった。相手はガタイの良い男だが関係ない。絶対に何があってもこのクソ野郎に報いを受けさせてやる。その思いで決死の突貫を試みた。が、
ドギャッ
「っ!?っがふ!!?ごぼっ、がばっ!」
何をされたのか理解するのに数秒掛かった。壁まで蹴り飛ばされたのだ。まだガキとはいえもう十三になる自分をいとも簡単に。
「(…内臓がいくつか潰れた。肋骨も。…背中が痛い。背骨もイッたか?…痛い、熱い。………立てない。)」
点滅した視界が回復し、思考が戻ってくると、自分が鼻と口から赤い吐瀉物を吐き散らしているのを確認した。
「…おいおい、やめてくれよ。死を覚悟して向かってくる奴が一っっっ番冷めるんだよ。そうゆうのじゃなくてさ、悲鳴か命乞いかどっちかにしてくれよ。殺さない様に手加減すんのは難しいんだぜ?」
キンキンと甲高い音が頭に鳴り響いて男が何を言ってるのか聞き取れない。右の目は血が入って開けない。残った左眼の視界もボヤけている。痛みで身体が痙攣する。立てない。痛い。ただ痛い。思考が霞む。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
「…こ"ろ"す"……お"ま"…た"け"…せ"…た"い"…」
「あーあ、手加減し損ねちまった。まあいいか、オスだし。
よし、メシ食うぞ!メシ!兄ちゃん腹減った!
うん、そうしよう。
桃晴お兄は何食べる?
メシだー
ごーはん!ごーはん!
美味しそー
オイラこのでっかい芋もーらい!
あ、ずりーぞ!オイラもー
オレも!
ケンカしちゃダメよ、ね?桃にー?
桃にーは何食べるー?
……ぁうー
プツンッと視界が弾けた。
やぁ皆、また会ったね!長話になるだろうから原作本編まではちょっとまってくれよな!桃晴君がどういう人物なのかを知ってからが、むしろそこを知るのがこの作品の趣旨でもあるからさ。主役なんだし。ね?
それで原作キャラはいつ出てくるの?
いきなりオリジナルキャラクターが沢山出てきてビックリしたかな?まぁ桃晴君以外全員死んだし良いよね別に。一応人格の設定とか実は別で使う予定だったキャラクターだったとかそんなのも色々設定だけは練ってるんだけど面倒だから今回はポイーの方向で!
それで原作キャラはいつ出てくるの?
次回もこの作品の主要キャラのオリジナルキャラクターが登場するよ。着いて来れる奴だけ着いて来い!ってね。
それで原作キャラはいつ出てくるの?
次回
「主人公関連はフラグ」