私は剣盾のシーズン1,2くらいしかレート戦はやってないので、どちらかといえばニワカ寄りです。
──思い出す。
『どうやら良い子を見つけたみたいね』
『ええ、お陰様で』
街から外れた草むら近く。
不知火を抱いたまま言葉を返す。
『で、わざわざ追いかけてきて何か用ですか?』
『あら、お別れの挨拶じゃダメだったかしら』
『はい』
『ぶちのめすわよ』
『敗者が何ほざいてるんですか』
気の知れた相手だからこそのやり取り。お互いにガンを飛ばしあう。
そのまましばらく時間が経過し、飽きてきたところでため息を吐き不毛な争いに終止符を打つ。
僅かな静寂。
『──どうしてホウエン地方に行くのかしら』
呟くような小さな問いかけ。
ポツリと、雫が溢れたように返した。
『──倒したい相手がいる』
『……そう、誰なの?』
『秘密です。ただ、帰ってきた時はチャンピオンとして会いに来ますよ』
『なるほどね』
再びの静寂。
『いいんじゃない、いいんじゃないの! 君がチャンピオンになれるか、ここで試してあげる!』
手に持つのはモンスターボール。
合図はいらない。
『行くわよ、リンネ君!』
『負けませんよ、ビオラ先輩!』
同時に──投げた。
◆
「あー……暇だ」
船の上、波に揺られながら思わず呟く。
4月ということもあってデッキの潮風は冷たい為、船に乗ってからはずっと部屋に籠っていた。
事前に予約していたホウエン地方行きの船に乗って一時間。外の景色を眺めるのにも、そろそろ飽きてきていた。
『
「いや、どうせだから船内を探索してみるよ。
相変わらず舞姫は世話を焼くのが好きだと苦笑。
せっかくだからということで、それなりの値段のする船のチケットを買った為、船内の設備はかなり良いものになっていたはずだ。
あと一時間もすれば昼食にちょうどいい時間になるし、どうせだから色々見て回ろうかと考えながら腰元のボールに手を伸ばす。
ピンポン玉サイズのボールの中央にあるスイッチを押すと、ボールがこぶし大のサイズに変化した。
「出ておいで、
「フォウ!」
ボールを投げずに手先だけで開閉すると、白い光が溢れフォッコが現れる。相変わらずの謎技術に首をひねりつつ、不知火の体を持ち上げる。
フォッコの体重は約10kgと10歳の子供には結構な重さだが、身体を鍛えるのはトレーナーの基本中の基本であり、この程度の重さならば軽々持ち上げられる。目下、イシツブテ合戦を目指してトレーニング中だ。
「それじゃあ行こうか」
不知火を腕に抱えて部屋に鍵をかけ、モフモフを楽しみながら船内の探索に向かう。
もちろん不知火を外に出しているのには理由があって、あまり外に出たことがないこいつに色々見せてあげることと、ゲーム的に言えばなつき度を上げる為にボールから出しているのだ。あとは何といってもこのモフモフ。
不知火はホウエン地方についたらさっさと進化させてしまうつもりなので、今のうちに存分に楽しんでおきたい。
「不知火は何か気になるところはある?」
「フォウ、フォッコ!」
船内の案内図を見ながら胸元のモフモフに向かって問いかける。
豪華客船ということもあって、バーやカジノ、プールなど、遊ぶ場所には困らない。
そんな中、不知火が前足で指示したのは、この客船の中で一番広いスペースがとられている場所。6階のバトルフィールド。
「まあ確かに時間潰しには持ってこいだけど、何でこうも俺の手持ちは血の気が多いんだ」
エレベーターのボタンを押しながら思わず呟けば、腰に付けたモンスターボールが何かを訴えるようにカタカタと揺れる。不知火も抗議のつもりなのか、前足で俺の腕をポフポフと叩いた。可愛い。だが男だ。
しかし、俺がそうなるように選んだからだというのは分かっているが、こうも一斉に抗議されると何だか納得いかない。
この世界において、ポケモンを選ぶうえで重要なのは個体値などではなく、相性が重視されることが多い。いくらそのポケモンが強くても、トレーナーとの相性が悪ければバトルでは絶対に勝てないのだ。
故に俺が選んだポケモンが戦闘狂なのは必然なのだが、理屈と気持ちは別の問題だろう。
納得いかない気持ちを、不知火をモフモフすることで誤魔化していると、エレベーターの扉が開き、見慣れた光景が目に入ってきた。
中央に設置されたバトルフィールド。その端で二人のトレーナーが対峙しており、フィールド内には二体のポケモン。
片方はハリボーグ。レベルは見た感じで20前後といったところか。既にその身体はボロボロで、あと一撃でも食らえば戦闘不能になるだろうことが見て取れる。
対するはカエンジシ。こちらのレベルは20中盤辺りだろう。こちらには傷らしきものは見当たらず、ほぼダメージを受けていないだろうと簡単に予想できた。
「あれじゃあ既に勝負ありだな」
言ったそばからカエンジシの”かえんほうしゃ”が放たれ、ハリボーグが倒れる。同時に男性のトレーナーが悔し気に表情を歪ませ、女性のトレーナーが笑顔でカエンジシに声をかけた。
同時に沸き上がる歓声。それに応える女性トレーナー。
どうやらあの様子だと、何連戦かで勝ち続けているようだ。
「フォッコ、フォウフォッコ!」
「ん? 戦いたいのか? 結構レベル差があるから大変だと思うけど」
「フォッコ!!」
大丈夫だと胸を張って見せる不知火。現在の不知火のレベルは進化一歩手前辺り。レベル差が10近くある上に、相性もあまりよくないのだが、ここまでやる気を見せられたのなら、やるしかないだろう。
不知火が手持ちに加わって3日間。レベル上げよりも努力値稼ぎや技の習得に徹していた。ゲームでは勝つことはまず無理だろうが、この世界ならばいくらでも方法はある。
バトルフィールドに進み出て女性トレーナーに声をかける。
「次、俺とバトルしませんか?」
「いいわ、相手をしてあげる」
「ルールは1対1、道具の使用はなし。これでいいですね?」
「ええ。それじゃあ始めましょうか」
目と目が合ったら勝負の合図とまで言われる世界だけあって、簡単にバトルの許可が出る。
お互いにフィールドの端にあるトレーナー用の白線の中に入り、準備は完了。
腕の中にいる不知火を一度強く抱きしめてから、解放する。
「行ってこい、不知火!」
「出番よ、カエンジシ!」
フィールドの中央に書かれた線を挟んで向かい合う二匹のポケモン。
公式戦ではないバトル。開始の合図はお互いのトレーナーの指示だった。
「おにび!」
「カエンジシ、かえんほうしゃ!」
発する言葉は最低限に。伝える内容は最大限に。
不知火の周りにぽつぽつと浮かび上がった炎がカエンジシに向かって殺到するが、”かえんほうしゃ”によって相殺され、爆発を巻き起こす。ゲームでは有り得ない現象だが、この世界では当たり前。
故に判断を迷う必要はなく、三手先まで考えながら次の指示を伝える。
「サイコショック」
「かわしなさい!」
前後左右を囲むように展開したサイコショックが放たれるが、カエンジシはそれを跳躍することで回避する。だがそれは想定内。
「サイコキネシス!」
腕を振り下ろしながら指示すれば、不知火のサイコキネシスがカエンジシを捉える。
本来であればレベル差によりほんの一瞬しか捉えられないが、空中で拘束してしまえば力尽くで抜け出すのは難しくなる。それでもレベル差により長くは持たないが、少しでも時間があれば十分。
不知火によって拘束されたカエンジシは、そのまま地面に叩きつけられた。
「立ちなさいカエンジシ。ほのおのキバ!」
「サイコショックを張れ!」
猛スピードで距離を詰めてきたカエンジシの目の前に、サイコショックの弾幕を配置する。
目眩しを重視した為、ダメージはあまり期待できないが、隙を作るのには十分だ。
「サイコキネシス!」
先ほどとは違い念波のように放たれたサイコキネシスはカエンジシの急所を狙い撃ち、フィールドの端まで大きく吹き飛ばした。
ゲームではないからこそ可能な急所の狙い撃ち。こういった部分でトレーナーの実力が出てくると言ってもいい。
ゲームでは、相手のポケモンに対して相性などを考慮しながら次の一手を考えるだけだったが、この世界においてはそれだけでは十分とは言えないのだ。
立ち上がったカエンジシの状態から、体力の残りが半分を切ったと判断する。不知火のサイコキネシスが後二回急所に入れば確実に落とせるだろう。
対してこちらは、ほぼノーダメージ。だが、レベル差により一撃を耐えられるかも怪しい。それは向こうも理解しているはずだ。さて、どう動くか。
「カエンジシ、かえんほうしゃ!」
「避けろ!」
言葉に意志を乗せ、動きを誘導する。
指示に従って不知火が横に飛ぶと、直後に炎が先ほどまでいた場所を焼いた。
余波でジワリと体力が削れるが、行動に支障はない。
「サイコショック!」
先ほどと同じくカエンジシの四方を囲むように光が配置される。しかし、相手が二度も同じ手に乗るとは思えない。
だからこそ、俺は二度も同じ手を使うつもりはない。
「かえんほうしゃで薙ぎ払って」
「おにびから、ニトロチャージ!」
「うそ!?」
展開されたサイコショックは、かえんほうしゃで消し去られたが、それは目くらましとなる。
直後、カエンジシの目の前に現れた不知火が回避する間もなく”おにび”を当て、ついでとばかりにニトロチャージで鼻面を撃った。
まさか自分から近づいてくるとは予想していなかったのか、驚き指示が遅れる。
その間に不知火は下がっており、既に接近攻撃の間合いから外れていた。
「やってくれたわね……!」
「お褒めに預かり恐悦至極」
悔しそうに睨みつけてくる女性に、笑って皮肉。
こういった心理攻撃は案外大きな効果をもたらしたりするので、もはや息をするように嫌味を言えるようになった。
良いことか悪いことかは別として、効果的なことには間違いない。相手よりも優位に立っているように見せ、自分の心理的余裕にも繋がるのだ。
「くっ、カエンジシ。かえんほうしゃ!」
「かわせ」
何度も見ているだけに、既に俺の指示がなくともかえんほうしゃを回避できるようになっている。
不知火が軽々と炎を避けた。そこに迫るカエンジシの巨体。
「ほのおのキバ」
「回避だ!」
ニトロチャージで上がったすばやさの数値でも、レベルによる大きな差がある為、かなりギリギリの回避になる。
それを期と見たか、相手はこれで決めるという意気込みが入った声で指示を出した。
「やりなさい、だいもんじ!!」
回避後の不安定な姿勢。詰められた距離。
この状態では当然回避が間に合うはずもなく、不知火の身体を業火が焼いた。
──予想通り。
思わず口角が上がり、同時に不知火の身体がボフンという音と共に煙となる。
「みがわり!?」
「行け! サイコキネシス!」
いつの間にかカエンジシの正面にいた不知火が、急所に狙いを定めてサイコキネシスを放った。
ぐらり、とカエンジシの身体が傾く。そして──
「──耐えて、カエンジシ!」
倒れる直前相手の声が響き、カエンジシが渾身の力で踏ん張った。
「何っ!?」
完全に倒したと思っていた。予想外の出来事に驚愕の声が出る。まさか──と刹那に考えがよぎる。
思考にできた本当に僅かな一瞬の空白。しまったと思った時にはもう遅く、その空白は確実な反撃を許してしまった。
「だいもんじ!」
放たれた炎が大の字に広がり、瞬く間に不知火を飲み込んだ。10以上のレベル差は容赦なく不知火の
”とうそうほんのう”
豪ッ!
そんな音と共に、不知火が炎の中から飛び出した。その姿はボロボロでありながらも、瞳には強い闘志を宿している。
レベル差がある? そんなもの、負けていい理由になるわけがない。
退くのは良い。だが臆するな。倒れるのは仕方ない。しかし負けるのは認めない。
不知火と心が重なる。
「嘘でしょ!?」
今度は立場が逆になった。
当然その隙を逃す手はない。
「不知火!」
名を叫ぶ。
指示は必要なかった。
”もうか”
”オーバーヒート”
一瞬の静寂。そして、今度こそカエンジシの巨体が地に沈んだ。
小さく安堵の息を吐く。
「お疲れ様、不知火」
歓声が爆発した。まあ当然と言えるだろう。今まで無敗だったカエンジシが、明らかに格下の相手に対していいようにやられてしまったのだから。
こうして観客がいる中でのポケモンバトルは経験が少ないが、歓声を浴びるのは中々に気持ちいい。
レベルが技術によって覆る。技術が指示によって覆る。指示が戦術によって覆る。戦術がレベルによって覆る。これだから、ポケモンバトルは止められない。
最後のピンチは完全に俺が油断していた所為だったが、不知火のおかげで乗り越えられた。
「どうだ不知火? 楽しかったか?」
俺の元に帰ってきた不知火に声をかけてやれば、元気のいい返事が返される。
やはりコイツを仲間にしてよかったと再確認して、不知火を腕の中に閉じ込めた。
そこへ近づいてくる人影。
「完敗だわ。まさか格下のポケモンに、あそこまでしてやられるなんてね」
「ギリギリの勝利だったけど」
「それでも、負けは負けよ」
カエンジシをモンスターボールに戻した女性トレーナーは、そう言って小さく笑った。
こうして間近で見ると結構な美人だ。年齢は俺の2から3つ上くらいだろうか。黒いミニスカート制服に金髪と中々に特徴的な見た目だが、何より目を引くのは右耳についたピアス。
「次は本気で勝負したいですね」
「そうね。その時は君の本気も見せてね」
流石にトレーナーとしての能力とポケモンのレベルが合っていなかったからか、俺が単なる新人トレーナーでないということは分かっているらしい。
「じゃあこれ賞金ね」
そう言ってマルチナビを弄り、こちらへと向けてくる。俺もマルチナビを取り出して相手のマルチナビにかざせば、ピピッと機械音が鳴って賞金が渡された。
当然この技術もお金の管理も安心安全のポケモンリーグ。
うーむ、相変わらずの謎技術。
「そうそう、君の名前は?」
「俺はリンネ。貴女は?」
「私はアヤカ。楽しい勝負だったわ。また戦いましょう」
アヤカは身体を反転させ、軽く手を振ってから歩いていく。
次はどうしようかと時計を見ると、既に正午を回った時間。意識すれば急に空腹感が襲ってくる。
バトルで結構緊張していたのかもしれない。
「そろそろ、お昼ご飯にしようか」
俺が呟くように言うと、腰のボールが大きく震え、不知火が嬉しそうな鳴き声を上げる。
今日は不知火がよく頑張ってくれたし、手に入れた賞金で良いものでも食べようかと考えながら、フィールドを後にした。
ちなみに、一応戦闘は軽くダメージ計算を入れています。
殆ど意味ないけど。