ポケットモンスター Re:インカネーション   作:天兎フウ

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apexをしてたら予約投稿を忘れていた作者がいるらしい。



カイナシティ

 

 カイナシティの港。客船から降りて春の暖かい陽気を肌身で感じながら、一度大きく伸びをした。

 

「あぁ……久しぶりの陸地。そして、初めましてホウエン地方」

 

 誰ともなしに呟いて、新たな冒険の始まりを実感する。

 やはりゲームとは違い街の規模も数十倍になっており、様々な店が並んでいた。

 

 今後の予定としては、カナズミシティに二日間滞在したあと一気にトウカシティまで向かうつもりなので、その間にしっかり休憩を取りながら色々と観光しておきたい。

 とりあえず予約しておいたホテルでチェックインをさっさと済ませ、自分の部屋でこれから二日間の予定を練る。

 

「今日はカイナ市場に行ってみよう思ってるけど、みんなはどうだ?」

 

 机の上に置いたボールに向かって尋ねると、全てがカタリと一回揺れた。それを肯定と受け取り、モンスターボールをホルダーに仕舞う。

 しかし、モンスターボールの中から声がかけられ手を止めた。

 

『なあマスター。一緒に出かけないか?』

 

「うん? 別にいいけど、急にどうしたんだ。月禍(げっか)?」

 

 ボールから月禍を出し、問いかける。一緒に出かけるということは、デートのお誘いだろうか?

 前から時々突然甘えてくることはあったが、デートに行こうと言われたのは初めてな気がする。

 まあ、デートとは言っても別に俺と月禍は恋人というわけではない。恋人以上に分かち難い存在なのは確かだが、残念ながら恋愛をするにもこの体は若すぎるし、そもそも種族的な問題がある。

 ……過去にはポケモンと結婚した人間もいるらしいが。

 

「最近、不知火(シラヌイ)に構ってばっかでつまらなかったんだよ」

「ああ、なるほど。それは悪かったよ」

 

 謝りながら、身体を預けてくる月禍に思わず苦笑する。身体を摺り寄せてクンクンと匂いを嗅ぐ姿は、まるで犬のように見える。……狼だから間違いではないかもしれないけれど。

 

 それにしても、相変わらず人型は不思議だ。よく見れば元のポケモンと似ている部分も見つけられるが、一目でそれを見抜くのは難しい。

 月禍も、黒と灰色という配色は元の姿を思い起こさせるが、一発でグラエナであると分かる人はほとんどいないだろう。

 これはバトルでも大きなアドバンテージになるため、人型を使うトレーナーは読みにくいと言われる所以となっている。

 

「それじゃあ行こうか、マスター」

「そうだな」

 

 腕を組んで身体を押し付けてくる月禍を、実に可愛らしいものだと微笑みながら受け止める。

 しかし悲しきかな、今の俺は十歳児。二十センチ近くある身長差に格好が付かないなと内心でこぼし、早く身長が伸びるようにと割と切実に願った。

 

 

 

 

 

 カイナ市場。ゲームでは街の端にあるちょっとしたショップの集まりで、ゲームガチ勢ではなかった俺は、最初にこううんのおこうを買って、後から貰ったおまもりこばんにガッカリした記憶しかないが、やりこんでいる人なら、がんばり屋にお世話になったことがある人も結構いるだろう。

 しかし、それ以外には特に印象に残るものはない小さな市場だったはずだ。だが、この世界においてこの場合はホウエン地方一の大規模市場だ。

 

「うわぁ……すご」

「随分人が多いな」

 

 市場の活気に思わず圧倒される俺の横で、月禍がお祭り状態のような人込みを見て呟く。

 別に人込みが嫌いなわけではないが、あの中に入るには少し勇気が必要そうだ。

 俺が躊躇ってもたもたしていると、突然腕が引っ張られ強制的に人込みの中に突入させられる。

 

「行こうマスター。はぐれないように、しっかり手を繋いでてくれよ」

「……それ、俺から言うべきセリフだと思うんだけどな」

 

 釈然としないが、10歳の子供ではこの人込みで見失う可能性が高いのは分かっているので、抵抗することはない。月禍をモンスターボールに入れて歩けばその問題もなくなるかもしれないが、デートをしたいと言っているのにそれは野暮というものだろう。

 半ば月禍に引っ張られるような形で、様々なショップを見て回る。ショップとは言っても多くが露店形式の為、一つ一つの店に滞在する時間は短い。

 

 ゲームであったようなお香屋やがんばり屋、もちろんゲームにあったものだけでなく、木の実を売っている店や普通の野菜を売っている場所もある。

 港町ということで、魚市場などはかなり繁盛しているようだ。時々規格外品のように床に投げ出されているコイキングを見かけ、思わず合掌する。

 

 滞在時間が短いとはいえ、数が数。興味を惹かれるままに歩き回っていれば、時計の針はいつの間にか正午を大きく回っていた。

 

「マスター、腹減った」

「あ、もうこんな時間か。そうだな、どっか店に入るか?」

「んー」

 

 既に2時を過ぎていることに気が付き周囲を見渡しながら訊ねるが、月禍は返事をせず何かを考え込むように目をつむる。

 どうしたのだろうかと頭を捻り月禍の顔を見ていると、くんくんと、空気の匂いを嗅いでいることに気が付く。やっぱり犬だ。

 

「どうしたんだ?」

「アレがいい」

 

 月禍の顔を見ているのに飽きることはないが、途切れたままに動かない間に何となく焦れて訊ねる。疑問に答えることなく、スッと目を開いた月禍は人混みの奥を指さした。

 その先を視線で辿ると、人々の隙間から大きな肉の塊が回っている露店が目に入る。確かドルネケバブだったか。

 かなり目立つ店だが、先ほどは人混みのせいで見逃していたのだろう。見た目のインパクトも含め、かなり興味を惹かれはするが──

 

「アレだけじゃ足りないだろ」

「あー、そうだな」

 

 ボールの中にいるポケモンも含め、露店の食べ物だけでは満足とはいかないはずだ。

 だが、月禍の願いを却下するのは気が進まない。となれば、

 

「食べ歩きにしようか」

「偶にはそういうのもいいな」

 

 ここが妥協点といったところか。ポケモンバトルは言うなればスポーツのようなもので、当然トップレベルともなれば食事にも気をかけなければならないのだが、こういう日もあっていいだろう。

 

「ありがとな、マスター」

「いいって。それよりも早く食べよう」

「そうだな!」

 

 月禍の笑顔に、やっぱり食べ歩きにして良かったと満足する。

 人々を掻き分け間を縫い露店へと向かう。未だその手は繋がれたまま。

 

 

 

 技マシン屋では持っていない有用な技マシンを買いあさり、ボールショップでは念のため、手に入りにくいクイックボールなどの類を補充しておく。

 そうして市場のほぼ全ての店を周っていると時間はあっという間に経過し、気づいたころには日が傾き始めていた。

 

「そろそろいい時間だけど、どうする?」

 

 時計を確認し、隣で満足そうに笑う月禍に問いかける。

 日が傾きだすと共に、だんだんと人が少なくなりもう手を繋いでいる必要はなくなったのだが、月禍はまだ手を握ったままだ。まあ、それについては既に諦めているのでいいだろう。

 残りの場所で行っていないのは、アクセサリーなどの小物売り場。俺はそういうものには疎いし、月禍もあまり気にする方ではない。だから、もう帰るかと確認したのだが、

 

「どうせだから、最後まで見に行かないか?」

「──わかった、行こうか」

 

 少し名残惜しそうな顔でそんなことを言われては、断るという選択はなくなるというものだろう。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 カイナシティの外れ。草むらにほど近い広場で、まだ少し冷たい朝の空気を胸いっぱいに吸い込み大きく伸びをする。

 

「ふぅ……よし、やるか」

 

 息を吐いて気合を入れる。

 モンスターボールを二つ手に取り、投げる。

 光の奔流から姿を現す二つのシルエット。

 

 片方はフォッコの進化形であるテールナー。

 そしてもう一人、出てきたのは人型。露出の多い和服のようなものを赤い帯で止め、ショートパンツを履いた女性。

 長い髪は金髪で、先端に行くにつれて赤のグラデーションがかかっている。手に持った、目の覚めるような蒼穹と心を落ち着かせるピンク色の入り混じった不思議な色の扇子は、不思議と女性に似合っていた。

 

「不知火、舞姫(まいひめ)。準備はいいか?」

「テーナ!」

「ええ、問題ありません」

 

 二人の返事に頷き返し、不知火の後ろについて舞姫と向かい合う。

 これから始めるのは、最近習慣になってきている不知火の朝練、レベル上げだ。

 考えてみれば当たり前なのだが、この世界ではゲームとは違い、一度のバトルでそう簡単にレベルは上がることはない。この世界における経験値とは言葉のまま文字通りの意味であり、学習装置で得られる経験値には限界があるのだ。低レベルのポケモンにいくら知識があろうとも、実際に身体を動かさなければ強くなることなどできない。

 しかし、ゲームより得られる経験値が少ないからと言って、ゲームよりレベルが上がりにくいのかと言えば()()()()()()()()()()()

 

「行くぞ不知火。おにび」

 

 出した指示に従い、無数に浮かぶ火球が舞姫へと迫る。しかし舞姫は事もなげにおにびを一瞥すると、ふわりと手元の扇子を煽ぐ。どうなっているのか、その扇子の軌道から現れた水の噴射が火球を跡形もなく消し去った。

 無言で不知火にサイコショックの指示を与え、舞姫の周りに幾つもの光が展開される。だがそれすらも、舞姫が薙ぎ払うように振った扇子により、あっけなく吹き飛ばされた。

 

 ──まあ、当然だろう

 

 不知火にサイコキネシスの指示を与えながら頭の片隅で考える。

 舞姫は、月禍に続く俺の二番目のポケモンだ。そのため、レベル100など相当前に到達している。未だに30手前の不知火では相手になるはずもないだろう。

 それを証明するように、不知火のサイコキネシスは全くダメージを与えられていない。

 

「サイコショック、続けてニトロチャージ」

 

 だが、だからこそ不知火のレベル上げには最適だった。

 ゲームの常識ならば、ポケモンは戦闘によって相手を倒すことで経験値が入り、レベルが上がるという仕組みだ。

 だがこの世界では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 故に、レベルがはるか上の舞姫との戦闘は、経験値が多く得られるのでレベル上げに最適なのだ。

 逆にレベル差がありすぎる舞姫には、ほとんど経験値が入ることはない。というか、それで経験値が入ってしまうとしたら、いくらなんでも理不尽過ぎるだろう。

 不知火のニトロチャージを折り畳んだ扇子で受け止める舞姫を見て、思わず内心で呟く。

 

 それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 例えば、レベルの低いポケモンに限界まで運動させるだけでも経験値は入る。だから、この世界のトレーナーは戦闘だけでなく、そのポケモンに合ったスタイルでレベルを上げる手腕も必要になってくるのだ。

 

 その例で言うなら、努力値も同じことが言える。

 これもゲームとは違い、相手を倒すことだけで得られるものではない。まあ、俺の言う努力値はゲームと同じものと言い難いので別物かもしれないが。

 

 例えば、同種・同レベルのポケモンが二匹いるとする。片方はボールの中で何もせずに過ごしていて、もう片方は毎日ボールから出て身体を動かし続けている。

 この場合、どちらの方が運動能力(能力値)が高いかは言うまでもないだろう。つまり、俺の言う努力値とは()()()()()()だ。

 当然かもしれないが、やはりゲームとは違う部分が沢山ある。

 

 ──それは、不知火がみがわりで舞姫の不意をついたことで証明できる。

 

 おにび・サイコショック・サイコキネシス・ニトロチャージ・みがわり。

 ゲームでは有り得ない、四つ以上の技の習得。だが、それがこの世界では可能なのだ。

 

 もちろん、決して簡単なことではない。この世界には、技の習熟度というものが存在する。ゲームでは、技は簡単に覚えることが可能だが、ここではそうはいかない。

 何故なら、ポケモンの技とは、あくまで技術なのだから。

 覚えるだけなら確かに簡単だろう。しかし、使いこなせるかどうかは別だ。

 

 ”はかいこうせん”という技が存在する。ノーマルタイプの特殊技で、威力150という驚異的な破壊力を持つが、その威力が故に使用後の反動がある技だ。

 ゲームならば、この反動というのは1ターンの間行動できなくなるというものだったが、この世界では本当に物理的反動があるのだ。だから、習熟度がゼロの状態ではかいこうせんを使うと、まともに当てることができないどころか、自分がダメージを負うこともある。

 当然、習熟度を上げるにはそれなりの鍛錬が必要であり、バトルで使いこなせる技は4つに絞るのが基本だ。

 

 この習熟度というシステムは実に奥が深い。

 ゲームでは覚えた技をカタログスペック通りに使用することしかできなかったが、ここではそれ以上のことができる。

 

 例を幾つか挙げてみよう。

 先ほどの”はかいこうせん”は反動がある為に難易度が高い技だが、極めることができれば()()()()()()()()()()()()

 マッハパンチを毎日一万回使い続けていれば、いずれ技名通り音を置き去りにすることだってできるだろう。

 

 ──例えば

 

 みがわりで不意を突かれ背後を取られたとき、全方位になみのりを使いながら同時にれいとうビームを使って相手を氷の海に閉じ込めることだって可能なのだ。

 

「とりあえずここまでだな」

 

 そう声に出して朝練の終了を告げる。吸い込む空気は、先ほどよりも冷たくなっていた。

 その発生源、二メートル近くある氷の波を一足で飛び越え、中央にぽっかりと空いた穴の中に着地した。外側から見る氷も綺麗だったが、内側から見るとまた違った芸術性が見えてくる。

 何より、氷の海の中央で悠然と立つ舞姫はとても美しかった。

 世界一美しいポケモンというのが誇張でないことが良く分かる。

 

「お疲れ様。相変わらず舞姫の技は綺麗だね」

「ありがとうございます、主様(マスター)

 

 口元に扇子を当て優美に微笑む舞姫。しかし、その行為が照れ隠しするときの癖だと知っている俺からすれば、実に可愛らしく見える。

 どことなく微笑ましい視線に気が付いたのか、少し拗ねたように顔をそっぽに向ける。だが、気づかれないようにチラリと視線だけをこちらに向けているのが何ともいじらしい。そんな気持ちが伝わったのか、照れ隠しも兼ねてさらに顔を背けてしまう。

 無限ループになりそうな状況に苦笑して、モンスターボールに手を伸ばす。

 

「悪いけど、この後トウカシティに向かうから、それまでゆっくり休んでいてくれ」

「かしこまりました。主様の仰せのままに」

 

 流麗に頭を下げる舞姫に、お疲れ様と呟いてからボールを向けた。舞姫のボールを腰に仕舞い、何気なく周囲の氷を見回す。

 ……不知火が氷漬けになってから約1分。

 

「──そろそろかな」

 

 その言葉と同時に、氷の海が内側から砕け散った。降り注ぐ結晶が朝日を受けて輝く中、氷の中から炎を周囲に従えた不知火が現れる。

 本来なら舞姫にでも頼めばもっと早くに氷を砕くことはできたが、こうして自力で脱出させることも技の習熟度や努力値振りに繋がるのだ。

 

「よく頑張ったな、不知火」

「テーナ!」

 

 元気に返事をする不知火からは、ほとんど体力(HP)が減っていないのが見て取れる。

 やはりこういった部分で調整ができる舞姫は流石だ。他の手持ちは手加減が苦手な奴らばかりなので、本当に助かる。

 

「お疲れ様」

 

 一声かけてから、不知火をボールの中に入れる。今日はこの後のことを考えて朝練も短いものにしておいた。

 あと1時間もしたら、カイナシティとはしばらくお別れだ。

 

 目指すはトウカシティ。そこで初めての公式戦──ジム戦に挑むのだ。

 

 

 




 
Switch版にも手を出してみようと思ってるけど、ジャイロ機能を使ったことがないので慣れるのに時間かかりそう。
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