また予約投稿忘れたってマジィィ???
──大きく息をする。
「……ふぅ」
目の前にあるのは簡素な建物。その入り口に掲げられる、モンスターボールに三角を足したような形のシンボル。トウカジム。
原作では主人公の父親が待ち受ける5番目のジム。しかし、ゲームではないこの世界に、ジムを攻略する正規の順番など存在しない。
このジムを最初にしたのは、弱点を突かれる心配がないということと、後に回すと厄介なことになることが分かりきっているからだ。
──もう一度、深呼吸をする。
「……よし」
自分を鼓舞するように小さく呟く。負けるなんて微塵も思っていない。勝利は既に確信している。
だが、初めてのジム戦は妙に緊張した。多分、これから俺の本当のトレーナー人生が始まるように感じているからだろう。
原作はどのシリーズも、バッジを集めながら最終的にポケモンリーグへと挑むという形で始まる。最初のジム戦は、原作を知る俺にとって新たな冒険のスタートと同義なのだ。
──無意識のうちに、手がモンスターボールに触れた。
ふと、力が抜けた。腰についたホルダーの重み。それを認識しただけで、思考は普段通りのものに戻る。何も緊張する必要はなかった。俺は何時も通り、こいつらと世界を見て楽しみ尽くすだけだ。
自分の意志を再確認して、嗤う。もう一度ホルダーに手を当て、モンスターボールを軽く撫でた。
「それじゃあ、行こうか」
ジムの扉を開け放つ。
◆
ジムの内装はジムリーダーの自由にされている。トウカジムに入った第一印象は、学校にある武道場だった。
転生する前のことを思い出して少し懐かしく思っていると、フィールドの奥にいる男を見つける。赤いジャケットを着た短髪の男は、こちらの存在に気が付くと奥から下駄を鳴らして歩いてきた。
土足で板張りの床を歩くことに何となく罪悪感を感じながら、俺も男に近づきバトルフィールドの中央で向かい合う。
「トウカジムへようこそ。君はチャレンジャーでいいのかな?」
「はい、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
トウカシティ・ジムリーダーのセンリ。ゲームでは主人公の実の父親であり、初期に寄る町ながら6番目に挑むことになる、ノーマルタイプ使いのジムリーダー。性格は真面目で堅実。その性格に裏打ちされた隙のないバトルを得意とする。ノーマルタイプという汎用的なパーティー構成ながら、ホウエン最強のジムリーダーとも目されていて、俺が最も警戒しているジムリーダーだ。
「私がジムリーダーのセンリ。バトルを始める前に、君のバッジは幾つか確認していいかい?」
「一応、ジム戦は初めてですね」
含めた言葉の意味を悟ってくれたようで、センリは小さく笑ってから了解したと言った。
ジムはポケモンリーグへの出場権を得る為だけではなく、トレーナーの実力を試す場でもある。その為、ポケモンが強すぎても簡単には勝てないように、ポケモンレベルとバッジの数によってルールが調整されている。後半になればなるほどジムリーダーも全力を出してくる為、自分が有利になるような順番でジムを回るのもリーグ出場のテクニックとなる。
「じゃあルールは3VS3のシングルバトル。持ち物はいいが道具の使用はなしで、レベルは50フラットでいいかな?」
「はい、大丈夫です」
俺の返事を聞いたセンリは、少し待っていてくれと言ってジムの奥へと歩いて行った。
50フラットというのは、ポケモンのレベルが50を超えていても強制的にレベルを50にできるというルールだ。
この技術もポケモンリーグのものであり、詳細は分からない。ジムなどの大型バトル施設にしかない辺り、恐らく移動はできない巨大な装置なのだろう。
センリが戻ってきたところで、ポケモンマルチナビを開き手持ちのポケモンの状態を確認すると、全てのポケモンのレベルが50になっていた。
このマルチナビの機能はモンスターボールと連動して中のポケモンの状態を確認できるというもの。ポケモンリーグの科学力は本当にどうなっているのだろうか。
内心首を傾げながらトレーナーカードを審判に提示してからフィールドの端まで移動し、トレーナー用にひかれた四角の白線の中に入る。
「準備はいいかい!」
「いつでも行けます!」
反対側から声をかけてくるセンリに、頷きながら返す。
俺の返事を聞いたセンリは、フィールドの横にいる審判に視線を移し、小さく頷いた。
「これより、チャレンジャーリンネ対ジムリーダーセンリの、トウカジム、ジム戦を始めます!」
審判の言葉を聞いて、腰に手を回す。
先にボールを投げたのはセンリ。
「行け、ヤルキモノ!」
ボールから溢れた光が形を取り、フィールドにヤルキモノが姿を現す。
ヤルキモノ、進化系統の中で唯一やる気を出した姿で、今までの反動かじっとしていることができないポケモンだ。それを証明するように、フィールドに出たヤルキモノはボクサーのようにステップを踏んでいた。
──これなら予定通りで大丈夫だな。
内心で呟いてボールを手に取る。これから始まるバトルの気配を感じ取ったのか、武者震いでもするようにボールが大きく震えた。
小さく笑って、ボールを投げる。
「楽しんで来い、不知火!」
『
ボールから零れる青い光。やがてそれは地に落ち、形を作る。
光が晴れ、中から現れたのは、赤一色のどこか魔法使いや呪術師を思わせる古風な姿をしたポケモン。長身の姿をより一層引き立てるのは、
「マフォクシーか……」
少し目を見開いたセンリは、すぐにその目を細めて不知火を観察している。カロス地方のポケモンはかなり珍しい為、センリが驚くのも無理はない。
一手目に言葉は必要なく、事前に決めたハンドサインで動きを示す。
不知火の周囲に浮かび上がった鬼火がヤルキモノに向かって殺到するが、どれも身軽は動きでかわされてしまう。
かなり素早さが高いようだが、アレなら不知火でも十分についていける。
「ヤルキモノ、グロウパンチ!」
「かわしてサイコショック!」
一気に距離を詰めてくるが、分析通り不知火は大した苦労もなく攻撃を避けて見せる。そのまま距離を取りながらサイコショックを展開した。
物理威力を持った光が射出され、ヤルキモノに直撃する。しかし、あまりダメージを与えたようには見えない。急所を狙ったつもりだったが、ジムリーダーはそこまで簡単には行かないらしい。
恐らく、進化の奇石を持たせた物理受け。物理ダメージを与えるサイコショックより、特殊技を使った方が賢明か。
「シャドークロー」
「回避しろ!」
表面上は淡々と指示しながらも、内心で思わず舌打ちする。
接近して振るわれる両手の攻撃を不知火は危なげなく回避するが、中々距離を取らせてもらえない。
ゴースト技は、エスパータイプを持つ不知火には効果抜群だ。ゴースト技を仕えたのは想定外だった。流石にヤルキモノの覚える技までは覚えていない。事前に調べておくべきだった。
「逃がすなヤルキモノ!」
「不知火、おにびを待機させて吹き飛ばせ!」
まとわりつくように距離を詰めるヤルキモノ。しかし、その動きが不知火の周囲に浮かぶ鬼火で阻害される。
そして一瞬ヤルキモノの体勢が崩れ動きが止まった瞬間、サイコキネシスの暴力的念波がヤルキモノを吹き飛ばした。
「マズい! 距離を離すな!」
「今だ!」
焦って一息で距離を縮めてこようとしたヤルキモノ。
予想通りの状況に待ってましたと指示を出す。
”くさむすび”
ヤルキモノの足下に現れた草が、そのまま足首に絡みつき、地面に強く倒れこむ。しかし、それだけでは終わらない。
”サイコキネシス”
草原のように大量に現れた草は、倒れこんだヤルキモノの身体を包み込むように縛り上げていく。
本来ゲームでは有り得ない攻撃方法。技と技の息継ぎをなくし、掛け合わせることで本来の技よりも更に性能を引き出す技術。
”コンビネーション”と呼ばれるその攻撃は、いとも簡単にヤルキモノの動きを封じて見せた。
「なにっ!?」
センリの声が耳に入り、思わずニヤリと笑う。
そして、最後の指示を叫ぶ。
「不知火、止めだ!」
”オーバーヒート”
限界まで抑え込まれた炎が、ヤルキモノに向かって解放される。
草によって縛り付けられたヤルキモノに回避する手段などなく、膨大な熱量を持った熱線が直撃した。
やがて轟々と燃える炎が勢いを失う。全ての草が焼き尽くされ床についた焦げ跡の中心で、ヤルキモノは力なく倒れ伏していた。
「ヤルキモノ、戦闘不能!」
「……お疲れ様」
審判の声を合図に、ヤルキモノがボールの中に戻っていく。
「不知火もお疲れ様」
「
「まあ一旦休んでくれ」
ノーダメージで切り抜けることはできたが、最後のオーバーヒートで”特攻”が下がっているので、念を入れてボールに戻ってもらう。
センリがボールを持ったのを確認して、自分も新たなポケモンを出すべくボールを手に取る。
「頼んだぞ、マッスグマ!」
暗黙の了解として、ジムリーダーが先にボールを投げた。現れたのはイタチのような、細長いシルエットのポケモン。
ジムらしく統一されたタイプのポケモンなので、対処を考えるのは比較的楽だ。マッスグマも事前に出てくると予想されていたポケモンなので、焦る必要もない。
冷静に手を考え、勝ち筋が見えていることを確認して、ボールを投げた。
「決めるぞ、舞姫」
「かしこまりました」
ボールから出た舞姫は、凛とした佇まいで相手を見据える。
「人型だと……?」
唖然とした声を出しながらも、表情を引き締めるセンリ。希少性はもちろんだが、人型というのはジムリーダーが警戒するほどに厄介な存在なのだ。
もしこれで、俺の手持ち半数以上が人型だと知ったらどうなるだろうと、少しだけ悪戯心が沸いた。もちろん情報のアドバンテージは重要なので、本気ではないけれど。
とはいえ、人型の強みである元の種族を知られにくいという点は、センリにはあまり通用しないだろう。元の種族が知られないということは、タイプが分からないということにも繋がり相当有利なのだが、センリはノーマルタイプのポケモンを使うので、他よりアドバンテージがない。
「舞姫」
「かしこまりました」
名前を呼ぶだけで彼女は指示を理解した。舞姫が扇子を一振りすると、”ねっとう”が不意打ち気味に放たれる。
卑怯に思えるかもしれないが、これはゲームではない。審判の役目は戦闘の開始と、戦闘不能、勝者の判定だけであり、ポケモンがフィールドに出た時点でバトルは始まっているのだ。
当然ながら、ルールを人一倍理解しているジムリーダーが油断しているわけがない。
「回避して、はらだいこ!」
容易にねっとうを避けたマッスグマは、はらだいこを叩き始める。
はらだいこは使用時に体力を半分も削るが、同時に攻撃のランクを最大まで上げることができる、リスキーながらも破格の性能を持つ技だ。ランクが最大まで上がった場合、攻撃の威力が4倍にもなると言えば脅威が分かるだろう。
ゲームでも、マリルリが”はらだいこ”を使った後に、先制がとれるアクアジェットを使う戦法は有名だ。
だからこそ、それへの対策は取ってある。
「弾き飛ばせ」
「それでは、さようなら」
指示を出すと同時に舞姫が距離を詰め、はらだいこを叩き終えた隙だらけのマッスグマに扇子で強烈な一撃を食らわせた。
次の瞬間、マッスグマの身体が光へと変化し、逆再生を見ているかのようにボールの中に戻された。そして、センリの残った1つのボールから強制的にポケモンが引きずり出される。
センリの最後のポケモンは、伝説並みの種族値を持つことで有名なケッキング。
「なっ!? ──ドラゴンテールかッ!!」
動揺したのは一瞬。すぐに立て直したセンリは状況を把握し、一発で舞姫の使った技を当てて見せた。
流石としか言いようがないが、少しの間は取り戻せない。
「凍らせろ」
”なみのり”
”れいとうビーム”
扇子を煽ぐ動きに連動するように舞姫の前に巨大な氷の波が出現し、混乱するケッキングを問答無用で飲み込み凍結させた。
圧倒的な攻撃力と体力が持ち味のケッキングだが、こおりの状態異常になってしまっては持ち前の力を発揮することはできない。
つまり、これで詰みだ。
「ふぅ……私の負けだな」
「では、勝者はハクダンシティのリンネ!」
少し苦々しい表情をしたセンリは、ため息を吐きながら負けを宣言し、審判が勝敗を判定したのを確認するとケッキングをボールに戻した。
「よし、よくやった舞姫」
「ありがとうございます、
舞姫がボールの中に戻ったところで、ほっと安堵の息を漏らす。案外あっさりと終わったが、それでも無意識のうちに力が入っていたらしい。
肩から力を抜いたのを見計らったように、センリが歩いてくる。
「素晴らしいバトルだった。私の完敗だよ」
「ありがとうございます」
「バランスバッジだ。受け取ってくれ」
センリが渡してきたジムバッジを丁寧に受け取る。
「……バランスバッジ、ゲットだぜ」
小さく呟いて、バッジをしまう。
まだお互いに戦えるポケモンは残っていたが、あれ以上やっても結果は決まり切っている、所謂”詰み”の状態になった為、予想以上にあっさりとバトルが終わった。
だが、センリの最後の表情を見る限り、あの状況をどうにかする手段があったのだろう。それをしなかったのは、俺がバッジを1個しか持っていないからか。
ジムリーダーは勝つために戦うわけではなく、相手の実力を測ることが仕事の為、チャレンジャーと本気のバトルをすることを許されていない。
しかし、できることならば────
「──次は本気で戦いたいですね」
俺の言葉にセンリはキョトンとした表情を浮かべ、次第にそれが笑みに変わった。
「──そうだな。楽しみにしているよ」
そう、本気で戦う方法はある。チャレンジャーに本気を出せないのならば、チャレンジャーではなく挑まれる側になればいい。
8月から開催されるポケモンリーグ。
目標はチャンピオンだ。
いやだって投稿する前に一応目は通すじゃん?
だから22時くらいに確認すればいいやって思うじゃん?
ゲームするじゃん?
しかたないね!!