ミノタロスみたいな中ボスを乗っ取った   作:暗全畑

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※性転換してる人物が出てきます。苦手な方は注意を。


第11話

『私は龍之介。ヨウスケと同じ世界から来ました。』

 地面に書いた文字を、人馬鞍から降りたヨウスケが翻訳してくれる。

 

「へぇー。じゃあ、あんたが焔の国の英雄なのか?

あれか、今の奴は影武者って奴なのか。」

 文字を見つめながら桜さんが首を振る。

「待て、我が国の英雄キョウスケは、ちゃんと召喚陣から召喚されたお方だ。しかとこの目で確かめたぞ。」

「でも、だいたいの地域が英雄の召喚に成功しているはずよ。どこの勢力が召喚したのかしら?」

 首を傾げるレイチェル。

 言いたいことが伝わる喜び。感動に木の棒を握りしめつつ、次の言葉を書いていく。

 

『最近になって森の中で目覚めました。前の世界の家で眠り、気がついたらこの体で目覚めました。』

 

「召喚される位置がズレるのはコタローと同じね・・・。

けど、そんな体で召喚された例なんて知らないわよ?術の影響?」

「だがコタローは今回は記憶を失ってるしな・・・召喚で事故を起こしたとかか?

召喚するとこちらの言葉が話せるようになったりするから、何かしら影響あるんじゃねぇのかな。」

「ぶもぅ・・・。」

 確かに、言葉が喋れないのは牛の口というだけでなく、何かしら失語症に近い影響を脳が受けている可能性はあるよな・・・。

 

「たろ坊が言うには、牛の頭は変わらなかったが、会う度に身体は変化していったと聞く。やはり妖を吸収していたのか?」

「モンスターを吸収って・・・!」

 シグルドが何か察したようである。

 

「おい、お前ってまさか、あの焔の国の化け物かよ!?

だから牛以外にも兎耳みたいなところとかあったりしたのか!?」

 俺は頷いた。隠す気はないしね。

 シグルドがこちらを見て青ざめる。ノベルでも、シグルドも要請を受けて『ぬえ』退治には参加して、次々と迫り来る眷属に恐怖しながらも氷漬けにしていた。

 ノベルの記述が正しければ、元人間がうねうねしながら迫って来るからな、直接見たらSAN値も吹き飛ぶだろうな。

 

『たろ坊に会った記憶はありません。前の身体の持ち主がやったことだと思います。』

 

「・・・?

たろ坊の面倒を見ていたのはお前ではない、ということか?

どういうことだ?」

 首を傾げる桜さん。といっても、こちらにもよくわからないのではあるが・・・。

 

『私にもわかりません。私が目覚めたのは和香様に会う直前です。

だから知らないうちに取り込まれ、私が乗っ取ったと予想しました。

私は生き物を吸収できません。治せるだけです。』

 

「お前を取り込んだ妖が人を好んだと・・・?

いったい、どうなっている?」

 目を閉じて考え込む桜さん。前世の憎き仇であるからか、俺を取り込んだ下手人の正体は気にかかるようだ。

 

「マジか、誰かに召喚された英雄で、よくわからんが取り込まれて、乗っ取ったってことか?

頼もしいけどよ、あんたが暴れて焔の国をボロボロにしねぇことを祈るぜ・・・。」

「なんだか、凄いことになってるのね、ポチさん・・・。」

 身震いするシグルド。あの時の恐怖を思い出しているらしい。ちょっとだけ不安はあるが、俺もノベルの通りにならないことを祈ってるよ・・・。

 

『私の世界ではある物語があり、この世界の前世のことが書かれていました。

皆様の前世のことも少しわかります。』

 文字を見て驚き、考え込むヨウスケ。地面の文字はもっと短いセンテンスだが、うまく広げてくれている。

 話をわかりやすくするため喋らずに、通訳に徹してくれるのは本当にありがたい。さすが我らが英雄。

 

「へぇー。今のヨアキムの英雄もできるって聞いたけど、あなたも『予言』できるんだ?」

「やはり、キョウスケ殿も物語として語られていたと話していたな・・・。」

『もしかしたら物語として、細部が脚色されている部分もあるかもしれませんが。』

 

「ッ・・・!じゃあ、あのビキニアーマーのこともか!?」

「話の腰を折るな馬鹿者!」

 拳を握りしめる桜さん。ここは真実を伝えねばならぬ!

 

『しっかり、ばっちり書かれていました。』

 ポコーン!と頭を桜さんに殴られる。小手付きの全力なので、かなり痛い。

 

「そこは嘘でも書かれてないと言え!とんだ予言書だな!」

 放っておくと、たんこぶになりそうな牛さんベッドをさすりながら、顔を真っ赤にした桜さんの拳を回復術で治療する。いや、変に誤解すると大変でしょ?

 とても悪い顔してニヤけて頷いているシグルド。何故か真剣な顔をして文字を見つめているヨウスケ。

 

「うん、ポチ・・・じゃなかったリュウノスケさんも、出会った時からなんとなく察してたけど、そういう性格なのね。」

 レイチェルさんが呆れるような口調で言う。

 そういうって、どういう?

 でも、初めてお会いした時は片足が砕けて、悲鳴上げながらぴょんぴょんしてたかな。ファーストインプレッションって大事ね。

 

『龍之介は長いのでポチでいいですよ。』

 ヨウスケが書かれた文字を読むと、四人が目を合わせて頷く。

 

「間違いねぇ、そういう性格だな。」

「喋らずともわかっていたことだ。いまさら驚くことではない。」

「そういう性格で良かったのよ、きっと。」

「ぶもぅ・・・。」

 なんだか妙な雰囲気である。だから、どういう性格なんだって?なんか牛さん悔しい。

 

『和香様にもらった大切な名前ですから。』

 

「和香ちゃんというと、桜様の妹か。

首輪まで用意して、元人間にヒデェことするなお偉い様は・・・。」

 皮肉げに悪態をつくシグルド。この人は基本的に国とかそういうイデオロギーを信じていない、アナーキーなところが少しだけある。

 子供の頃から流浪の身だったため、特定の国への帰属意識がさほど無いのだ。

 

「ぶもぅ?」

 そうかな?という口調で鳴くと、同情の眼差しを向けるシグルド。他の二人も似た雰囲気である。

 桜さんもちょっと言い訳が苦しそうな顔をしている。人間としては扱って欲しいけど、名前自体は牛さんはそこまで気にしてないよ。かわいいよポチ。

 

「私も妹の名前の感性に思うところはあるが・・・あー、『ポチ』自身が望んでやったことでもあるからな。

しかしなぜ、そうまでして我々姉妹に友好的なのだ?

私達二人とも、何もしていないお前を殺そうとしたのだぞ?」

「でも、そうなるよな。俺もポチに森で会ったら問題無用で凍らせていたと思うぜ・・・。」

 姉妹が可愛かったから・・・というのは置いておいて。いや、かわい子ちゃんなのは重要なファクターなんだけど。

 

『一つは、物語であなた方の活躍を知っていたから。

二つは、物語の己の正体に、殺されても真っ当だと考えたから。』

 

 顔が恐いのが悪いよ、この牛顔が!ハムスター顔が良かった!

 いや、この巨体のハムスターもかなり不気味か、なんか速攻で燃やされてた気がする。

 

「殺されても真っ当って、理不尽とか思わなかったのかよ・・・。

心が広いんだが、なんなんだか。」

 ため息をつくシグルド。

 とはいえ、その理不尽を飲み込んでこそ開けた道だから、それは誇っていいはずである。自分の運命こそ呪ったが、復讐までは考えなかったね。

 

「まぁ、ポチさんらしいと言えば、らしいわね?」

 あんた方は、ポチさんをなんだと思ってるんだろうか?考えている通りかもしれないが。

 

『前世の和香様の最期も知っています。

私はその運命を変えたいと思っています。』

「お前は・・・だから和香を守ろうとしたのか?」

 俯いて、問いかけてくる桜さん。

 

「ぶもっ。」

 頷いて肯定を示す。

 もっとも、最初はかわい子ちゃんが汚らしい男に囲まれてたから、とりあえず助けただけだった気もする。

 

『彼女は妖に攻められる最期まで、桜様が国を導くと信じ、桜様のことを思っていました。私は物語の結末を変えたいのです。』

「ふっ・・・。」

 俯いたまま、自嘲気味に笑う桜さん。少し肩が震えている気がする。

 

「今の彼女は、前世の和香とは違う和香だ。

意識が過去に戻ったとしても、私は、前世の妹を守れなかった。

今の彼女ですら、お前が和香を守ってくれなければ、私は・・・。」

「桜様、あんたは・・・。」

 シグルドも戦乱の中、師匠を失った。彼は彼で、どこか哀しげな顔をしている。

 

 過去に戻ったとしても、その世界が無かったことになったとしても、誰かを助けることができなかった後悔とは、残るものなのだろう。

 

「あいつはもっと刺々しい子だった。

あいつとはよく喧嘩していたよ、『姉上ばかりずるい』とな。

はは、今の和香は私が甘やかしすぎたせいか、ぽわぽわしている。それでも、誰よりも大切な妹なのだ。」

 確かに、ノベルの和香はもっとやさぐれていた気がする。といっても、それはそれで理由があり・・・。

 

『刺々しいのは、桜様に直接物申せる家臣がいなかったから、彼女が率先して進言していたためです。和香様は誰よりも桜様のことを案じていました。』

 ヨウスケが読み上げると、堪えきれなくなったのか、ぽろぽろと涙を零す桜さん。

 

「時間が戻ったと気づいた時から誓った。

誰が戻したかはわからないが、神なのか、別の何かなのか。そいつに感謝して誓った。

同じ過ちは繰り返さないと。和香をあんな目に合わせないと。」

 俺は支給された鞄の中から、桜さんに手拭いを差し出した。無言で受け取り、涙を拭く桜さん。

 

 和香の最期は、防衛する本陣に妖達のボスがなだれ込み、避難場所に被害が出ると悟った彼女は、部下と共に最大限の炎と火薬で自分達の命ごと本陣と妖達を吹き飛ばした。

 逃した和香の部下へ遺した遺言は、姉上に向けてのものだった。喧嘩したことの謝罪と、大好きな姉上への激励だった。

 

「俺もさ、桜様。

俺も時が戻った時、真っ先に師匠に会い行って言ってやったさ。

『絶対に死なせねえ、ベッドの中で安らかに死なせてやる。』ってな。

本人は冒険の中で死にたい、前世はそれで本望だったろう、とかほざいていやがったがな、ははは!」

「師匠らしいわね、捻くれものだもの。」

 上を向いて笑ってはいるが、シグルドの頬にも涙が伝う。レイチェルも涙ぐんでいる。

 

 彼らの師匠は名の知れた女冒険者だ。結構なお年を召されていて、元々は槍使いだったのだが、今は弓を愛用している。

 左目を既に失っていても、風術を合わせて平然と弓でベッドショットを乱射したりと、いろいろと規格外なお方である。

 彼女も、最終防衛戦を己の死地と悟り、槍を携え、多くのモンスターを屠りながら、主人公達の道を開けるために散っていった。

 

『あなたの師匠も物語で知っています。

最期には、可愛い馬鹿弟子が未来への道を切り開くことを信じていたと語られていました。』

 頷いてこちらを見るヨウスケ。それは感謝、という意味だろうか。

 

「ハッ、最期まで馬鹿弟子なんて予言書に残すんじゃねぇっての・・・。」

 上を向いたまま鼻をすするシグルド。

 

「そうだ、ポチ。

お前を見つけた時、前世の父上を操り、私に止めを刺させた『ぬえ』にもう一度報復できると、心の底から歓喜していた。

兵にするとか言う和香の証言が気がかりだったが、人を喰い殺したように見えた時、確信した。

あの邪悪な化け物を殺して、私は運命を変えられるのだとな。今の父上を、救うことができると。」

「ぶもぅ・・・。」

 

 だから子供とか関係なしに、あんな微笑みながら殺しにかかってきたわけね。お会いした時点で死ぬかと思った。

 逃げて追ってきた時の顔は、夢にでそうなくらいに狂気じみていてホラーだった。そりゃ、前世での被害を身をもって体験していれば、必死にもなるか。

 

「だが、私が預かり知らぬとこで、運命は既に変わっていたようだな。和香も知らぬうちに、お前という兵を手繰り寄せていた。

お前が賊も殺さぬ『そういう性格』で助かった。

ここの三人もこうして助かったのだ、ポチ。お前が運命を変えつつあるんだ。

本当に感謝している。本当に・・・。」

 四人の暖かい目線に、ちょっと恥ずかしくて頭を掻く。かく言う自分はクラゲのように運命の流れに身を任せてるだけだと思うが、そう言われると、なんというか、照れるね。

 

『人を殺さなかったのは、人を殺すことへの恐怖だけではなく、自分が獣でないことを証明するためです。』

 倫理観が違うことには気付いていたけどな・・・。

 

 山賊に関しては、自分が殺す必要がないほど、力量差に余裕があったというのもあるか。賊を助けたところで、あの檻の中で餓死か、捕まって死刑程度しか道は残っていなかったんだろうけども。

 うーむ、やはり急に強くなったせいで、自分でも知らないうちに調子に乗ってるな、気をつけないと。

 

「なるほどな。確かに賊とはいえ無茶苦茶に暴れていれば、お前に対する見方も変わっていたかもしれない。」

 

 子供もいたしなぁ・・・たとえ松太郎の傷を治したとはいえ、六助に凶暴な獣だと認識されていたら、本当に森に逃げられていたかもしれんね。

 

『できれば今すぐにでも、人間に戻りたいと思っています。

ですが、この身体はとても強いし便利です。

トカゲとの戦闘の場所もこの身体だからわかりました。

目先の問題、世界の終わりに対処する方が大事だと思っています。』

 一応、牛さんから人間に戻りたい意志は伝えておく。ほっとかれるとお前マッチョで幸せだろとか勘違いされそうだし・・・。

 術を発展させて、人間の身体と、この牛さんボデーを自由に変身できるようになれればいいんだが、そう簡単にうまくいくものかね?

 

「わかった、元に戻る手立てはさすがに今はわからないが・・・。」

 桜さんが涙を拭いて、しっかりとこちらを見据える。

 

「ポチ、改めて問う。

共に、私と来てくれないか?和香の兵として、世界の、そして和香の運命を変えてくれないか?」

 

 思えば、ノリで兵になるとか答えてしまった。だが、それがいつの間にか世界に関わる運命を変えつつあるようだ。

 ただの企業の代替え可能な歯車の一つだった俺には、世界全体の運命など考えられないような、不可思議な感覚ではある。

 

 だが、こうして幸運なのか不運なのか、いや不運で間違いないと思うが、手にした俺の力を必要とする人がいるのならば・・・。

 

『共に世界の運命を変えましょう。和香様のために。』

 

 俺も覚悟を決めよう。

 

「ありがとう、ポチ。お前が手を貸してくれるなら心強い。

その身体も、元に戻る手立てが見つかるよう、手を尽くそう。」

 少年達に見せた、慈愛を感じる微笑みを見せて、頷く桜さん。

 まっ、こんな美人さんに頼まれちゃったなら、頑張るしかないよね。

 

「ポチ、お前は・・・。」

 シグルドが何か言いたそうにこちらを見ている。

 

「ポチさん、ちょっといいかい?」

「ぶもっ?」

 翻訳に徹していたヨウスケが語りかけてくる。

 

「俺も、シグルドの話だと、国の平和のため剣を取り続けたと聞いています。でも、夢に見るのは多くの兵を消し去ったり、モンスターから逃げ惑う人々の悲鳴・・・。」

 ・・・俺も、そうなるのだろうか?

 

「はっ、そうだろうよ。

あいつは元々はモンスターのために軍に参加したら、ヨアキム国が突然突っ込んで来て戦争に巻き込まれた。」

 シグルドが呆れたように首を横に振る。

 元々、ヨアキム国とゲルトマン王国は友好関係にあった国同士で、ヨアキムには焔の国という敵対的な国がありながら、いきなり攻め込まれたという経緯がある。

 

「ヨウスケ、あいつが冒険者だったらと何度思ったか。

だから実際、コタローにこんな登山とか、儲けにならないことを一緒にやらせてるわけだがな。」

 皮肉に笑うシグルド。ヨウスケ、いや今はコタローなのだろうか、彼も苦笑しつつも、嫌そうな顔はしていない。

 

「そして、ポチ、あんたにも、いつか・・・そう思うのかもしれねぇな。

あんたを止める気はねぇが、せいぜい気をつけるこった。

桜様も煮湯を飲まされてるわけだし、ヨウスケよりはマシなことを願うぜ。」

「わかってはいるが・・・。」

 元々、桜さんは前世では英雄なしに国を護ることには必死であった。

 ヨアキム国がまさかのヨウスケの登場にゲルトマン王国に降伏し、巨大化したゲルトマン王国に対しても、焔の国は頑なに協力を拒み続けた。

 結果的に、ヨウスケを暗殺紛いのことをしたが、その時に説得され、ヨウスケを夫にする方向に切り替えたらしい。

 

 いや、なんなんだろうか、その切り替えの速さは。

 

「ぶもっ。」

 覚悟を決めたということは、そういうことになる可能性も受け入れるということである。それでも俺は・・・。

 

「でも、俺はポチさんの気持ちがよくわかります。

結局、今の俺もシグルドのためにやっているようなものですし。」

「コタロー、お前・・・。」

 シグルドが突然の告白に少し心を動かされたようである。大胆な告白は主人公の特権。

 

「夢を見る限り、前のやり方ではダメだった。だから、別の形で、冒険者という形で世界の運命を変えたいと俺は思っています。

もっとも、今の儲けにならないコレが世界の運命を変えられるかすら、まだわかりませんけどね。」

 

 コタローが苦笑する。冒険者とはロマンに生きるものだから、言い換えるにそれはギャラブラーってことである。

 ゲートの近くに山があるからって、そこに登ることが世界を救うという発想がギャンブルこの上ない。

 

「まったく・・・資金援助してもらえるからいいけど。結局、私もコタローと似たようなものなのかしら。自分でも時々、馬鹿らしく感じるのよね。」

 頭を抱えるレイチェル。

 

「お前ら馬鹿にして、見てろよ、絶対にこの四角いコレが世界を救うんだからな!」

 思えば彼女はノベルとはだいぶ印象が異なる・・・。

 いや、物語の最初の頃、村でヨウスケと会った頃はこんな性格だったか。追い詰められたりすると、人は性格が変わるものらしい。

 

「ポチさんはモンスターを吸収できるとかは聞きましたが、『傷を治す』っていう優しい術です。

力が強くても、後方支援していれば俺の前世みたいに大勢を殺すということにはならないと思いますよ?」

 そうなんだよね、パワーは前衛向きだけど、他の術とかと比べれば当然、射程も範囲攻撃も貧弱。

 今の術の本質は後方支援。触手をうねうねさせて、人間を取り込むとかできるようになれば別かもしれんけど・・・。

 

「どうだろうな、戦争はそんな甘いものじゃねぇと思うが。

まぁ、そこは桜様がうまくやることだな。桜様が前世を知っていたのはラッキーだぜ、本当に。」

「否定する気はないな・・・。」

 確かに、英雄がいないから保守にならなければならなかっただけで、前世の桜さんのままならバリバリのタカ派になってそうだ。

 

 

 

 

 

 

 ゴゴゴゴゴ・・・。

「ぶもっ?」

 突然の巨大な振動音。まるで大地を砕きながら何かが這うような。かなりのスピードでこちらに近づいてくるようだ。

『何かが来ます、構えて。』

 全員が頷き、無言で武器を構え、桜さんはフルフェイスの兜を装着する。

 

「イヤーッホゥ!

光の英雄どこだー!?」

 地面が割れる轟音に森にこだまする、快活そうな女性の元気溢れる声。

 

「あいつか・・・面倒だな。」

「あいつって、誰の事だよ?」

 

「おっ、人はっけーん!」

 突如、茂みから岩の板をサーフボードのように乗った女性が、嬌声を上げながら飛び出してくる。

 服装は寝巻き・・・白いナイトガウンのようでロングの黒髪を靡かせながら、空中で一回バク転し、体操の選手かのように綺麗に着地した。

 

「ぶもっ!?」

 操縦者のいなくなったサーフボードは牛さんの横を掠めて飛んでいき、木に当たって粉々に砕け散った。危なっ!?

 

「おっと、失礼、まだ操縦に慣れてないんすよ。

ちーす!光の英雄とその従者の方っすか?」

「土の英雄、タケル・・・。」

「ぶもっ?」

 土の英雄?タケルじゃなくてカリナとかそんな名前じゃなかったっけ?

 ってか、この女性がタケルって、随分と雄々しい名前だよな。

 

「お、俺のことわかるんすね。いやー、探したっすよ!

そこの黒髪の貴方がヨウスケ・・・あっ、別人かもしれないっすね、お名前は?」

 胸は大きいとは言えないが、寝巻きのせいで谷間が強調され、はっきりとわかってしまう。流石に透けて見えたりはしないものの、寝巻きはスレンダーなモデルのような美しい体型を強調している。

 目は一重で細目で、口も小さく控えめな印象を受けるが、ナイトガウンが風に舞っても気にせず、にっこりと笑った表情は、控えめとは何なのか忘れそうな豪快さを感じさせる。

 

「え、あ、俺は・・・。」

 突然押しかけて来た寝巻きの女性に名前を聞かれて、武器を構えつつも困惑するコタロー。シグルドは英雄と聞き明らかに嫌悪を向けて、警戒を解いていない。

 

「ってか、何か見たことない生き物もおられるっすね?

俺はタケル、都市同盟で英雄やってるものっす!以後お見知り置きを!」

 右手を挙げて、気さくにコタローに挨拶をするタケル。

 ノベルではカリナはもっと大人しい女性だったはずだが・・・戦争であっさりと亡くなったし、描写も少なかったとはいえ、こんな奴では断じてない。

 

 何があったんだこの世界に・・・!

 

「・・・就任式以来ですね、焔の桜です。お久しぶりでございます。」

 桜さんが観念したのか、フルフェイスの兜を脱ぎ、綺麗に礼をする。ご主人が礼をして自分がしないのもどうかと思うので、後を追うように礼をする。

 

「えっ、あっ、どもども。お久しぶりです。礼儀正しい牛さんっすね。

ってことは、あちゃー。先越されちゃったってことっすか?」

 タケルがぺちっ、と悔しそうに額を叩く。

 

「先を越されたとは、何のことでしょう?岩蜥蜴の退治なら既に済みましたよ?」

 桜さんが何か余裕の微笑みをして丁寧に聞き返す。ま、意味はこちらも大体察せはするが。

 

「いやいや、確認しましたよ、見事なご健闘っぷりで。

それで、光の英雄さん、あとレイチェルさんですか?うちの都市同盟に来ませんかー・・・なんて。ははは。」

 ばつが悪そうに目を泳がせるタケル。

 槍を構えたままの剣呑な表情のシグルドがコタローに目をやる。コタローは相変わらず戸惑いつつも、頷くと構えを解いた。

 

「初めまして、その、タケルさん。

光の英雄のコタローです。」

 ちゃんと礼をするコタロー。レイチェルもそれに倣った。それでもシグルドは槍を構えて微動だにしない。

 

「おーっ、やはり!

で、その、もしかしたら焔の国で話が決まってたりしているかもしれませんが、お話だけでも聞いてもらえたらなー、と。」

 両手を合わせて祈るように頭を下げるタケル。

 

「タケルさん、申し訳ないのですが、俺は特定の勢力に属さず、フリーでいようと考えています。勧誘の話はちょっと・・・。」 

「へっ!だとよ、お引き取り願うぜ!」

 シグルドが鼻でタケルを笑う。なんかノベルではヤンデレ気味だったのはレイチェルだけど、シグルドがその枠になりつつないかい?

 

「えっ!?いやいやいや、今の時代、そんな英雄が勢力に属してなかったら、それこそ危険っすよ!

例えば、南の方では死霊術師達がカルトになっちゃって、大変なことになってるっす!貴方が彼らに殺されたら彼らの手駒にされちゃうっすよ!?」

「ぶもっ・・・。」

 げっ、ゾンビ作れる英雄、今の時点でもまだ生き残ってるのか。

 

 まぁ、未来予知とか前知識があれば、オトラン帝国の速攻による滅亡を回避するために色々と手を打てたのかもしれないが、カルト化してるとは厄介な・・・。

 

「だがそう簡単に死なせねぇよ・・・!

俺はシグルドだ、あんたも英雄なら『予言』で聞き覚えがあるんじゃないか?」

「シグルド・・・あっ、冒険者の方ですね!

マクシミリアンから聞いていたっす、なるほど、なるほど・・・。」

「マクシミリアン、あいつか・・・。

マジで都市同盟に参加するとはな。」

 タケルが何か納得したのか、何度も頷いている。

 マクシミリアンと言うと、残虐かつ不死身で有名な傭兵だが、ノベルではオトラン帝国に雇われて暴れていた。シグルドの様子だと都市同盟に雇われたのだろう。

 

「ぶもっ?」

「どうしたポチ?」

 わかるかどうかわからないが、桜さんに音の聞こえた方角を指さす。

 遠くの方・・・これはトカゲと戦った方角から何かが暴れている音がする。どうも、あの足の短いトカゲが移動するのと似ている気がする。

 

「どうかしたんですか?」

 レイチェルも牛さんの指差した先の様子が気にかかるらしい。とはいえ、文字で書いたら向こうの英雄にバレる問題があるので書けない。もっとも、彼女にも既に書かれた地面の文字は目に入っているとは思うが。

 

 ゴゴゴ・・・。

 そうこうしているうちに、タケルがこちらに来たのと同じようだが、小さい振動音で何かがこちらに向かって来る音がする。

「おっ、この音は俺のさっきの岩っすね。」

 先程タケルが乗っていたサーフボードの岩が向かって来ているようだ。ってことは・・・。

「ぶもっ!?」

 相変わらず軌道はこちらなので、飛び跳ねたところを思わずキャッチする。相変わらず危ないな!牛さんの筋肉じゃなきゃ、もしかしたら死んでたぞ!?

 

「ぶもうっ!ぶもっ!」

 注意する意味を込めて、強めに鳴いて岩を渡す。

 

「申し訳ないっす、俺の土の軌道を辿った連絡用の板なので・・・げっ、あのトカゲがゾンビになって暴れてるらしいみたいです!

トカゲの死骸の所有権のために従者置いといたら、戦闘になったみたいっすね。応援に行くので突然ですがおさらばっす!」

「俺らの獲物を、さらっと横取りしてるじゃねぇか・・・。」

 シグルドの言葉など気にせず、そのまま、連絡用の板を地面に置いて足を乗せるタケル。

 

「とにかく、話がややこしくなるし、カルト達の狙いはコタローさんなのはほぼ間違いないはずっす!他の英雄も来てるので対処は余裕なんで、皆さんは逃げてください!

桜さんは後で別の場で話したいですし、コタローさん達も、冒険者ギルドの方から連絡入れて落ち着いて話す場所を用意するっす!どうかご無事で!」

 そのまま、岩をまたサーフボードのようにして、来た道を高速で戻って行った。

 

「嵐のようにやってきて、嵐のように去っていったわね・・・。」

 呆然とするレイチェル。

「けっ、都市同盟か・・・冒険者とパイプが太いだけあって厄介なヤツに目を付けられたぜ。」

 槍を背中に収めて吐き捨てるように呟くシグルド。

 

「さて、お言葉に甘えさせて逃げさせてもらおう。

奴は商人の英雄だけあって、交渉ごとには強いからな、面倒なのは変わらないが秘密は守るだろう。

ポチはコタローを背負って誘導を頼む。」

 桜さんが兜を被り直す。

「ぶもうっ!」

 やれやれ、牛さんも行きますか。

 

 

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