ミノタロスみたいな中ボスを乗っ取った   作:暗全畑

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第14話

 おおう。

 

 頭痛いし、だるいし、あががが、身体中が何か痛むわ、これは酷い。手術なんてしたことない健康体だけども、お腹を覗くだけでこんな死にそうな気分になるのか。

 二日酔いで死にかけた時を思い出す。イッキ絶対ダメ。

 

 白い布を布団としてかけてくれていたらしいが、馬車にそのまま放置されてたせいで背中がバッキバキである。馬車の幌を捲ると外は森のようで、夜はまだ明けていない。起き上がる時の傍らに何かちっこいのが・・・。

 

 って和香ちゃんですかい!?

 

「む、起きたか。身体もすっかり戻ったのぅ。んんー、少し、クラクラする。」

 和香が伸びをする。少し乱れた髪に無防備を感じさせ、甘い声にドキリとする。解剖される前もだったが、なぜか彼女との距離がかなり近い。

 

「お主も散々暴れたのぅ、建物は使えなくなったが、わしらのうちで誰も犠牲にならなかったのはお主のおかげじゃろうな。」

「ぶももも?」

 いや、なんのお話ですか?

 うう、頭が痛い、術を展開してみても治る気配がない。なんでも治るってわけじゃないんですな、これが。

 彼女からはいつもの甘い匂いに混じって、鉄臭い血の匂いがする。見たところ、出血しているというより、血を浴びた感じだろうか?

 解剖される前から嫌な感じはしていたが、いったい何があったんだ・・・?

 

「覚えとらんのか?」

 頭を抱えながら首を横に振る。

 何か、夢の中で、ピンボールの球になったような激しい夢を・・・。夢占いならなんと出るんだろうな?弾けたいということなのか。

 

「麻酔のせいで記憶が飛んでしまったのか?無理もないか。

お主・・・いや、お主の中におる化け物が、襲ってきた暗殺者どもを帰り討ちにしたのじゃ。」

 んん?それは俺が麻酔で倒れてからの話か・・・?

 身体がふらふらするのも、その襲撃の結果・・・?そして、やはり、まだ俺の中にいたのかマイボデーの前任者さん。

 

「お主の身体の中は酷い有り様だったよ。

確かに、お前の中に潜んでいる化け物は危険なものかもしれぬ。

しかし、それでも、お主の中の化け物はわしを守り、敵と味方をわかっておった。」

 俺の背中の毛皮を、柔らかく撫でる和香ちゃん。

「お主は、大丈夫じゃ。」

 

 まー、自分が乗っ取る前からたろ坊を面倒見ていたようだし、そこまで不安はなかったが、とりあえず前任者さんにグッジョブと言っておこう。

 身体の中が『酷い有り様』なのが気になるがね。酷いとはいったいどうなってたのか、心情的には重い病気でも告げられた気分ではある。

 

「幾度となく、わしには死が見えた。その度に、お主が助けてくれた。」

 そして、俺の身体に背を預け、寄りかかる和香ちゃん。

 俺の身体が大きすぎて、まるで幼い子供のように、小さく感じる背中。

 小さな、本当に小さな背中。

 

「今回の件で、ヨアキムの手勢、それも英雄の術を使う精鋭がわしを殺そうとしていることがわかった。

わしらは、今や時代の大きな流れに潰されそうになっておる。」

「ぶもも・・・。」

 何か一つ、気の利いたことでも言えれば良いのだけれども、あいにく口がきけない。ぶもも、これが精一杯の君に贈る言葉である。

 しかし、『予言』を授かった上で、和香など重要人物を抹消することに、ヨアキム国になんのメリットがあるのか。いずれ戦争なぞやってる場合じゃなくなると言うのに。

 

「不安で、たまらないのじゃ。」

 どうしたものかなぁ・・・彼女いない歴がそのまま年齢の俺にとって、こんな彼女をどう扱ってあげたらいいかわからない。実に格好がつかない。

 死の恐怖を感じて、信頼できる誰かに身を寄せたい気持ちはわかるよ。俺もゴリラと一緒になっ・・・この話は止めよう。

 

 とりあえず彼女の頭を撫でる。

 

「姉上もそうやっていつも頭を撫でる・・・。」

 不満気?女の子というのはわからない。

 

「いつも、こうやって姉上の話を聞いていたのじゃ。

姉上に従って、姉上が幸せならそれで良いと。

必死に励む姉上に従い支えれば、道は危うからず、とな。」

 桜さんが言っていた通り、俺の知る和香ではないのだろうな・・・ノベルの姉妹は反目しあっていた。勝てないと分かっていても、それでも姉に棘を残そうと挑みかかっていた。

 

「だからこう、沈黙されると苦しいのぅ。」

「ぶもぅ?」

 こちらに振り返り、少しはにかんで笑う和香。

 

「わしから言うべきことを探さなければならないのじゃ。

外つ国との渉外で、当たり障りのない話題を探すのとはまた違う。

わしは思っていた以上に、自分の事を話したことがなかったようじゃな。」

「ぶもっ。」

 それすらできない俺にとっては、羨ましい限りではあるよ。

 和香ちゃんは人好きのしそうで、自分の思ったことを話すタイプだと思ったが、公の場ではそうでもないのかな。

 首輪をつけられた身としては、控え目とは遠い印象ではある。

 

「わしは一個の『歯車』で良いと考えていた。

わしの意思より、国のため、家族のため、全てが上手く回れば良い。

何も感じず、ただ目の前の問題を片付けていく。

今までは、それで上手く回っていたが・・・。」

「ぶもぅ・・・。」

 歯車ねぇ、俺もこの世界に来る前はブラック企業の歯車だったよ。それは誰かのためでも社会のためでもない。家族もいないから、己のため、ただ生きるために回り続けていたがな。

 何かのために歯車になれるあなたも、俺にとっては十分に素敵に感じられるんだけどね。

 

 いや、俺は、こうやって飼われている今ですら歯車になろうとしているのかもしれない。それがこの和香ちゃんのためであるだけ、俺もマシになったのかも。

 

「キョウスケが来て、それが軋み始めてきたのじゃ。

わしら火産霊の巫女も邪魔と思い解体しようとする。

そして、彼が懇ろとするヨアキムから刺客が来た。」

 うーむ、でも焔の国の巫女って、他国と比べても英雄無しでも善戦していたはず。あえて解体する必要があるのか。桜さんも疑問視していたが、もしかしてキョウスケと『予言』が異なるのか。

 

「わしは一個の歯車ではおられんのじゃ。

生き残るために、戦わなくてはならぬ。

そして、そのためにはお主の力が必要なのじゃ・・・。」

「ぶもっ!」

 彼女の肩をポンと叩く。

 高貴なる方に気安くボディタッチしていいのかわからなくなったが、今更である。

 

 例え政治家といっても、よほど酷い陰謀でもない限り、世の中が安定していれば暗殺とかないだろうからなぁ。そんな、心細い気持ちになるのもわかる。

 今は森の中から出られない身ではあるけども、無駄に死にそうにない頑丈な身体ゆえ、できる限り力になってあげましょう。

 

「お主は不思議な奴じゃな・・・いや、英雄である可能性がある以上、ぞんざいに扱うわけにはいかぬのは、わかっておるのじゃがなぁ。

まるで昔からの友だったかのように、わしらの無理難題を気軽に受け入れようとする。

出会った時は殺そうと思っていたのじゃぞ?」

「ぶもっ。」

 うんうんと頷く。

 ははは、だから今の貴女のお気持ちがわかるのですよ。誰かに殺されそうという心細さというものが。うんうん、皮肉だねぇ。

 

 そんな牛さんの様子をじっと見つめる和香ちゃん。

 

「・・・傍にいておくれ。」

 そして脇腹の毛皮にぐっとしがみつき、さらに身体を密着させてくる。お、おう?

「この国の英雄は全て塗り替ようとしてくる。

今回の件もキョウスケが関わっておるのかもしれぬ・・・!」

 ここまで女性に接近されたのは初めてである。胸が高鳴る。

 

「英雄は恐ろしい・・・。

どうか、どうかわしの傍に・・・。」

 それは、切実な声だった。彼女の手を取らなければ、そのまま本当に消えてしまうような、弱々しい助けを求める声である。

 

 高鳴る胸とは別に、未だに襲撃のせいか苦痛に揺れる牛さんの脳みそは、こんなどう見ても筋肉ダルマの人外にすがらなきゃならない彼女のおかれた状況に、憐れみと疑念が渦巻く。

 

 未来がわかるというのに、世界は単純でないにしろ、この世界で英雄達は何をしているのだろうか。イージーなはずの世界に、なぜかハードな彼女の状況。いったいどうなっているのか。

 そして、傍にいて欲しいと願われたが、自分が英雄かどうか、そもそも召喚されたのかどうかすら知らないが、森の中で引き篭もるしかない俺の手で彼女に何ができるのだろうか?

 

 

 こちらも和香の背中を優しく撫でる。それを何も言わず受け入れる和香。

 彼女は顔を毛皮に埋め、表情は伺い知ることはできない。

 

 とても静かな時間が流れる。

 毛皮ごしにかかる彼女の淡い呼吸。

 彼女の背中を撫でる手から、とくん、とくんと彼女の心臓の鼓動を感じる。

 

 お互い何も言わずに、ただ静かな時間だけが過ぎていく。

 ふと、彼女が顔をあげる。目と目が合う。

 俺は彼女の頬の涙を拭おうと、手を・・・。

 

 

「和香、無事かっ!」

「ぶもぅっ!?」

 突然、馬車の幌を開けられて、思わず戦闘態勢を取る。暗めの服を着た、がたいの良い農民の格好をした男が、手ぬぐいをほっかむりにして顔を隠している。

 しかし、その目の気迫は只者ではないと感じられる。そもそも、匂いも足音も、気配も一切しなかった。完全に不意をつかれるとは、牛さんセンサーの不覚である。

 

「父上!?」

 慌ててこちらから跳び退き、牛さんの動きのせいで後ろにコテッとひっくり返る和香ちゃん。

 

「無事のようだな和香!いやはや、暗殺者に狙われて怪我をしたと聞いて心配しておったのじゃ。

して、これが琴音殿が言っていた獣か、大きいのぅ!」

 ふーむ、父上とな!敵ではないらしい。

 男はほっかむりを外す。

 色黒で壮健な肌に、濃い髭を生やした壮年の男性である。太い眉はどこか和香ちゃんを感じさせる。

 

「父上、傷は既に処置しておりますが、どうしてここが?」

「なに配下の鎌鼬がたまたま近くを監視していてな。

わしらの足ならば、あっという間よ。」

 ニッと笑うその表情は、頼もしく、どこか愛嬌がある。

 

 確か名前は『天野飯綱』。婿入りして妻の苗字を名乗っているはずである。

 『鎌鼬』とは風の術を極めて煮詰めていった結果、諜報、奇襲や暗殺に長ける特殊部隊となった者たちである。

 

 彼らの国は焔の国よりも古い歴史を持ち、250年前の大陸の騒乱に同盟を組み、そのまま焔の国の一部となった経緯がある。

 国が飲み込まれた後も歴史の中で天野家と協力することもあれば、場合によっては反目しあい、時として血が流れることもあった。この『飯綱』の代となると、まさかの天野家に婿入りするという形で克服した。

 

「しかし、ポチか。上手く手懐けたものだ。あの暴れ様、稲子院の診療所は、建て直さんと使い物にならんじゃろう。

麻酔を服用しながら、ヨアキムの精鋭の暗殺部隊を瞬く間に殲滅しうる獰猛な獣。なるほど、我が家を守る番犬として相応しいのぅ。

よく見つけることができたな、和香よ。」

「ぶもっ?」

 あ、それ俺の中の誰かの仕業なんすよ。

 

「真莉が中に英雄が宿っておるとか、成穂が何かよくわからぬことを色々とぬかしておったが・・・とにかく、我が兵舎に連れていくのじゃ。歓迎しよう。」

 これは状況を理解できてないな?

 和香ちゃんのお父さんが悪いのか、話者の説明力が無いのがいけないのか・・・後者のような気がするな、お父さんは急いで駆けつけたのだろうし。

 手術前の様子から、琴音さんは詳しいことは知らなかったようではあるしなぁ。

 

「父上、それはできませぬ。

彼はキョウスケにこの国を滅ぼすと『予言』された獣なのです。そして、彼には英雄、リュウノスケが宿っております。」

 服装を正し、扇子で口元を隠して咳払いし、仕切り直す和香ちゃん。いつもよりも難しそうな表情をしている気がする。

 

 一言で表すとそうなんだが、絶対に伝わらないかなしさよ。

 

「む?それはどういうことじゃ?」

「和香、無事か!」

 上空から女性の声がする。む、この声は・・・?

 

「おお、桜か!」

「姉上!」

 馬車の外に、風を纏いながら桜さんがふわりと着地する。

 

「まったく、お主のその速さ。

火産霊なんより鎌鼬を継いで欲しいくらいじゃがのぅ!」

 桜さんは鎌鼬に風の術で勝てる実力の持ち主でもある。

 やはり権力的に火産霊が優勢なのが影響しているらしい。もっとも、鎌鼬の部隊の中でも火の術を使える者もいたり、両方に属したこともある女性もいたり、反目している一方で時代とともに徐々に混ざり始めているようだが。

 

「ポチと一緒にいるということは、和香は無事か。何事もなくて良かった。

ポチを狙うとは、しかもポチが麻酔で無力化した時とはな。ヨアキムも考えたものだ。」

「そうかのぅ?

我が国の英雄殿の婚約者を狙えば、キョウスケ殿をヨアキムの貴族どもと正妻として結婚できると踏んで、和香を狙ったとわしは見ておるが・・・。」

「ぶもっ?」

 

 ふーむ、三者三様に暗殺理由の予想が異なるらしい。

 

 ヨアキム国として和香ちゃんを殺してまで牛さんを狙うとなると、話が変わってくる。

 そうなると狙うのは予言に対する正義心からか。桜さんの言っていた眷属化されていることを恐れての強行策かもしれない。

 だが、そもそも、牛さんの存在を知っているのか不明ではある。森の中でもまず人とは出会っていない。牛さんの中に人がいるかまで知っているとは、さらに考えにくい。

 

 けど、英雄の術を使う部隊だったというのも絡めると、しっくり来る理由ではあるかな。ただ、郊外とはいえ他国の街中で堂々と討伐しにくるとはね。

 森の中でひっそりと牛さんだけ殺す方向性に持っていかなかったのは、強引なのは間違いない。果たして、牛さんが麻酔で無力化される予定まで把握しているものなのか。

 

 そしてあくまでヨアキム国が単独で和香ちゃんを暗殺したいと狙ったと考えるのが、お二人のお父さんの意見か。外交状況は俺にはわからんから何とも言い難いのだけども。

 焔の国の英雄が、ヨアキムにだいぶ近い位置にいる予想なのは和香ちゃんと同じで気にはなる。

 250年の因縁がある国同士ではあるけど、召喚された英雄達はそんな感情とは無縁なわけであり、今後のことを考え同盟を結ぼうと距離を詰めるのは合理的ではある。

 かといって、それで和香ちゃんの暗殺に動くのは強引すぎる・・・。

 

「で、和香、桜よ。この獣はいったい何者なんじゃ?」

「ぶもっ。」

 つまりは、牛さんは牛さんなのですよ。ええ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「作戦は失敗だ。」

 焦燥しきった顔でクリスタが話す。こんな顔をした彼女は初めて見る。

 

「仕方ないさ、本国に連絡し、本国の下した判断なのだから。

亡くなった彼らには申し訳ないとは思うけど、僕らにとても重要な情報を残してくれた。

問題は・・・。」

「『アレ』がまだ生きていた。

麻酔で無力化していたと判断したのは迂闊だった、完全に罠だったとは・・・。」

 僕も人のこと言えたことじゃない。最近は夜遅くまで仕事していて、思考も鈍りつつあるのに、なおさらこの一件は苦しいどころじゃない。

 研究者を暗殺するために様子を伺っていた部隊が、和香、そして『アレ』を発見。そして『アレ』が麻酔薬を服用して、腹を切開されているという討伐のチャンス。

 

 僕自身は撤退を支持したけど、クリスタが本国と電信で連絡をとって和香すら排除するという、あのお方の許可と、王国の命令を取り付けてしまった以上、選択肢はなかったんだけれども・・・。

 

 麻酔で無力化した『アレ』を仕留める、千載一遇の機会と見せかけた甘い罠だった。おまけに、あのお方の術も使って暗殺計画が露呈してしまった以上、ヨアキムと接近していた僕らも立場が苦しくなる。

 反感は抑え込める範囲ではあるが、巫女がもはや我々の手に落ちない以上、穏便に済まそうなんて甘い考えは捨てなきゃならないね。

 

「『誘惑せし者』。予言ではやがて数多の女性を手駒とし、己の領域を密かに作り上げ、存在が明るみに出れば人に牙を剥く。」

「正直、かなりマズいよ。

まさか山を焼いてまで、偽装工作をする知性があるとはねぇ。いや、桜のあの術を生き残ったのかも。

どちらにせよ、もはや、桜であって桜でない存在なのかもしれないけどね。」

 

 アレが生きていたということ自体が、完全にこちらの失態である。スカウト隊に止めを刺した現場を確かめられるようにしなかったのが敗因か・・・。

 だが後悔などしても無意味である。次の手を打たなければ。

 

「『アレ』が生きていて、和香や例の研究者といった人物が協力しているという事態。もはや、洗脳する力をもって勢力は拡がり始めていると見た方がいい。」

「あのお方もあの時点では、敗北しない限り洗脳する力のない、多少強いモンスター程度だと予想していたわけだけど、想定以上に成長が早いねぇ。

そうか、あの村そのものを汚染している可能性が抜けていたのか。」

 完全に見落としていた、山賊から村の防衛を手伝ったのも、自分の拠点を襲撃されるのを嫌ったためであった可能性もある・・・。

 

「村を焼くべきか?」

 頭を抱えつつ首を横に振る。それは魔女狩りと一緒である。

 

「やってもいいけど、大元を断たない限り不毛な戦いになるよ。

僕らが息をかけた山賊達がまだ残っていれば、まだ楽だったかもしれないけれどもね。下手にこちらの手札を動かすと、手札がいつの間にか相手の物になる可能性もある。

それに最初は操る人数も限度があるはずなんだ。拠点を移されるよりは村を密かに監視し、マークしている方が討伐するチャンスに辿り着けるかもしれないよ。

けど、討伐に相性の良かった光の英雄は行方不明、桜はもはや僕らの敵なんだよねぇ。どうやって倒したものか。」

 

 あれだけの精鋭達を返り討ちにできる以上、小出しで暗殺者を差し向けるようなやり方では駄目なのはわかりきっている。

 

「・・・汚染が拡大しきる前に、奴の居場所をつきとめ、ご主人様と従者達をぶつけるしかあるまい。

手が足りぬというならば浮蜘蛛の精鋭も加え、確実に仕留める。

反乱を起こし、本国と合流して国を乗っ取ることが今の段階でも可能かもしれないが、被害も凄まじいことになるだろう。それでは意味がないのだ。

本国がゲルトマン王国と合流せぬ限りは動くつもりはないだろうからな。」

 

 その通り、これは前哨戦に過ぎない。ここで全力を出して、本来の戦いに戦力が足りないんじゃ意味がないんだよねぇ。

 圧勝。これは戦力を増やすための戦いであり、辛勝して兵力を減らしてもいけない。

 

 やはりあのお方に出てきてもらわなきゃ、どうしようもない事態になっちゃったか。

 

「逆に言えば、頭さえ潰せば、予言の通りなら汚染された巫女連中が死滅するのはチャンスなんだよねぇ。

そうすればこの国は僕らの天下。穏健に本国に合流するのも思いのまま・・・。」

 顎を撫でる。

 彼女らを取り入ろうとか、難しいことを考える必要も無くなったということか。じゃあ、これからは遠慮なくいくとしよう。

 おや?そう思うと、意外とそこまで絶望的な状況というわけでもないね。

 

 ふむふむ、火産霊が崩壊しても僕らの軍があるというのが、ここで効いてくるということなる。

 

「いかにして『アレ』を孤立させ、ご主人様に仕留めさせる場を設けるかだ。

村を含めた徹底的な偵察をし、巫女連中を封じ込める。

あの風貌ならば、そう目立つところには潜伏できない筈だ、やはり森の中か・・・。

そして、可能な限り投入できる戦力で、奴を討つ!」

 先程まで鈍っていたクリスタの瞳にも、再び闘志の光が宿りだす。

 

「いいねぇ。

15人の精鋭を失い、和香ちゃんや桜様を失ったのは痛いけど、逆に言えば少ない犠牲でこの国が手に入るチャンスだ。

僕の方でも、巫女と繋がりが深くて、汚染されてなさそうな連中から上手く聞いてみるよ。

僕らの悪巧みが、真っ当な大義を得るなんて、世の中どう転ぶかわからない。」

 よしよし、失態に震えていた身体もだいぶ勇気づいてきた。どうなることかと思ったけど、方向性はよりシンプルになっている。

 

「全てはご主人様のためだ。

お手を煩わせてしまうのは心苦しいが、それだけご主人様の理想に近づくことができる。

そしてお前の演技力と判断力が必要だ。頼りにしているぞ。」

「そう、全てはあのお方のために。

しかし君が僕を褒めるとは珍しいねぇ、ご期待に添えるよう頑張るよ。」

「ふん・・・。」

 ニヤリと笑う。

 ツンと鼻であしらうクリスタ。そうそう、そういう余裕がなくては、ね?

 

「では、私もいったん休ませてもらう。」

「うん。身体には気をつけて、お互い無理してるのは間違いないしね。」

「ああ、お前もな・・・。」

 こちらを一瞥すると、音もなく部屋を出るクリスタ。

 

 先程のスケッチを取り出して、再び眺めて見る。

 なるほど、全てあのお方の思惑通りとはいかないが、この都市を失わずに手に入れることができるかもしれない・・・。

 

 沈んだ月に灯の消えた都は、ひっそりと闇に佇む。僕は偽物かもしれないが、それでも英雄として国を護るのか。ははっ、ガラじゃないねぇ。

 

 さて、明日から大変だ。僕も仮眠を取ることにしよう。

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